2011年8月1日月曜日

山形探蕎行つれづれ・ささの巻

 表記標題の初出は「探蕎」会報第27号(平成16年10月6日発行)で、行事があったのは平成16年(2004)9月18~20日である。  「晋亮の呟き」に転載する。

 山形への探蕎行の朝、会長御下賜のささ、預かり受けし事務局の長より披露あり、ささは若狭の産の大吟醸酒、名は「長瀬浦」、聞くは初めてなれど、会長先生の頂きものとあれば、さぞや美味ならん。昨夏の山形探蕎行の会長差し入れのささの純米大吟醸酒「梵」を想う。想うに、昨夏の山形行きの乗合い車の中にて、「毒味を」との御下言に甘え、試飲せしが、余りもの美味に、この世にかくなるささがあるものかと驚嘆せしことを。この日、ほかに差し入れのささは、松任坊丸の「天狗舞」山廃吟醸のみ。いとさびし。
 車そぞろ進みて、越中に入る頃、まだ冷え足りぬとは想うものの、喉の渇きを抑うることあたわず、まず一本を所望。昨年に懲りて、会長御下賜のささは、ご参加の皆々様と共に頂くこととし、今一本のささを開く。はたと困りしこと有り。喇叭飲みも憚られ困りしところ、同行の茶匠の友なるご夫妻、数個の丸き紙製容器を持参されしとのこと、お借りすることとする。何と用意周到な、感謝々々。所望されし面々に、嵩の多寡あれどお注ぎ申す。味は先ずまずか、別段苦情なし。残りのささは、その後、車後部座席に陣取りし約三、四名の呑み助の胃の腑に納まりし由。いとうまし。
 車は、館長の名運転にて越後中条に至り、高速道路を下路する。よく走りし車にも油を補給、また事務局の長の計らいにて、同乗の人様にも給油をと、とある銘酒販店に立ち寄りて、ささを求む。何と心温まる所作ならん。ささの名は「〆張鶴」吟醸酒、名に聞こえし越後村上の銘酒。これもまた美味。いとうれし。
 初日に目指す蕎麦店は、白鷹の「千利庵」、蕎麦前は天童の「出羽桜」吟醸酒。くせなく、美味しいお水というところか。いとすがすがし。
 この日は、蕎麦の後、鮎の簗場へ向かう予定なりしが、天候下り坂の由、一気に蔵王刈田岳に向かい、蔵王のお釜を拝む。昨年秋はここより強風濃霧の中、熊野岳に至り、蔵王温泉に下りしことを想う。車に戻りし頃、雲霧去来し、視界閉ざされ、運良きを喜ぶ。いとつきよし。
 今宵の蔵王温泉の宿は、深山荘高見屋。淡い乳白色の湯に浸りし後、夕食の宴。飲み物は麦酒とささ。ささには地酒五品を所望、それぞれ二合を飲み比ぶ。ところで面々の評価は極めて不評、わずかに「出羽桜」一品のみまずまずとの評価。いとまずし。
 後で会長御下賜のささに大いなる期待を託し、早々に席を立ち、部屋へ。いよよ御期待の御開封、固唾を呑む。冷酒を硝子容器に少々入れ、試飲。前回御下賜の「梵」は、飲み後に、心地よい吟醸香と、えもいわれぬ旨さを感じたが、冷えが過ぎたせいもあるのか、含み香も少なく、旨さでないクセが口中に残る。諸侯も早々にもう結構と宣う。このささは玄人好みか。少なくとも凡人向きに非ず。半升よりは減らず。誰言うともなく、これからの御下賜は「梵」に限ると。会長へはどう御伝言すべきか。いとつらし。
 翌朝は、有志にて残る御下賜のささを頂く。昨日より冷えが緩く、味はやや円やか。それでもまだ残りあり。未だ三合を残す。朝食時の飲み物は麦酒のみ。今日の探蕎は原点の蕎麦店「あらき」の予定。途次の車中、ご婦人方に御下賜のささを賞味頂く。中にお一方が美味と仰る。この一言は会長にぜひ御報告せねばなるまい。佳き知らせ。肩の荷が下りる感じ。「あらき」には一刻に滑り込み。正に満員の盛況。ささなしで、次の鮎の簗場に期待。利き酒は男より女の方が適任とも。いとすごし。
 白鷹の簗場は鮎祭りの中日とて凄い人出、焼き鮎を食うにも長蛇の列、諦める。尺弱の大きさ、梁には落ち鮎の姿はなく、果たして天然かと。早々に立ち去る。いとがやがやし。
 この日の宿は、昨夏もお世話になった、白布温泉の中屋別館不動閣。今宵のささには、地元東根限定販売の新聞包み一升瓶「六歌仙」を壽屋で求める。夕の宴は孔雀の間、麦酒とささ、ささは地元米沢の地酒「富久鶴」、料理の多いこともあって一人一合が二合に、程よく可もなく不可もなき本醸造の燗酒。部屋へ戻り、「六歌仙」を飲む。飲むほどに、昨夏にこの部屋で談論風発した「ソクシンブツ」の話が、今回は止めとする協定せしが、再燃する。本来は「即身(成)佛」なるが、小生「即神仏(位)」として話を進める。昨夏は初代から三代、今回は酒席討論に参加の御仁から、相応しい四代と五代を名誉ある即神仏に推挙することに。また蒙古行きも、駒ヶ根行きも、大いに談ずる。いとたのし。
 三日目の朝、御下賜の三合のほかは全て胃の腑へ収め、清々しく宿を発つ。昨夏は雨で断念した白布大滝も滝下迄至る。小径に近く、金漆(コシアブラ)の喬木多し。因みに、笹野一刀彫の鷹ポッポはこの木の由、材は白く柔らかい。今年も帰りに不動閣限定の、昨夏も頂いた「富久鶴」の一合瓶を頂く。商標紙に、米沢の方言の「おしょうしな」はともかく、仏語、英語、独語で、「メルシ」「サンキュー」「ダンケシェーン」と、横文字と片仮名で。発案は酒蔵と中屋の社長の合作とか。いとおもしろし。
 笹野観音、上杉家御廟所を経て、米沢の蕎麦処「蕎酔庵」に至る。十一、十割、共に逸品、山形探蕎行の〆に相応しい。付録は名店「吉亭」での葡萄酒付き牛肉焼き。かくして探蕎酒行は終幕を迎える。今回は師匠の参加なかりし。いとさびし。
 閑話休題
 帰宅して、会長に、御下賜の「長瀬浦」の復命をする。女性一名からのお褒めと小生は玄人受けするお酒と評した。会長曰く、このお酒は漁師の間で愛飲される酒だと。道理でクセについて行けなかったのだと納得した。そこで、肝入りの鮟鱇鍋で「長瀬浦」を飲み直した。あのクセが正に鮟鱇にしっくりと合い、至福の時を過ごせたのは、望外だった。

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