2011年8月9日火曜日

瓢箪から駒:福井のそば屋「一の谷」で出た竹田の厚揚げ

 表記表題の初出は「探蕎」会報第34号(平成18年7月20日発行)で、丸岡町上竹田へ寄ったのは、平成18年(2006)4月15日、23日、30日である。  「晋亮の呟き」に再録する。

● 4月15日は坂井市長・市議の選挙事務所開き
 福井県坂井郡丸岡町も平成の大合併で、同じ郡の三国町、坂井町、春江町と合併し、3月20日に坂井市となり、御多分に漏れず、新しい市長と市議会議員の選挙が4月23日に行なわれる段取りとなった。この日は実は探蕎会で丸岡蕎麦道場へお邪魔することになっていたが、選挙当日とあれば勿論論外で、1週ずらしての30日にしたものの、その日は道場主の海道さん宅では田植え時の大変忙しい最中、1日位空けますと言っては頂けたものの、本当に申し訳ない。さて、いつもお世話になる丸岡蕎麦愛好会の世話役の1人である旧丸岡町議の小見山さんが、新市会議員に立候補されることになり、その選挙事務所開きが15日にあるという。その必勝祈願に波田野会長と前田事務局長が出掛けられることになり、2人では余りにも数不足とかで、永坂、寺田の2長老も同行することに、更に無理やり小生も割り込んだ。
 前田局長運転の車で金沢を午前10時に発った。昼食は当初は加賀尾口の「山猫」の予定だったらしいが、会長の希望で越前朝倉の「利休庵」にしたとか。車は加賀産業道路を経て国道8号線を丸岡へと向かう。もう11時に近い。事務所開きは午後1時、後3時間ばかり、逆算して朝倉への往復は無理と判断、国道沿線で済ますことにする。さて、何処にするか。会長推薦のそば屋があるらしいがそこは予約制とかで断念。とすると、8号線を福井へ向かう時にいつも左に見える平屋建てのそば屋しかないか。時々前を通るが、一度だって入りたいと思ったためしがない店である。外見もさることながら、隣に赤錆が出たトタン葺きの建物があり、そば屋にしては環境が良くないこと甚だしい。
 熊坂川を渡って程なく、その店に着く。「そば」と青地に白抜きした旗竿が濡れて立っている。意を決して、小雨の中、「一の谷」へ入る。ところが、中は思ったよりスッキリしてたのには驚く。外見や周りの環境に左右される予見は禁物か。濁り池に咲く清楚な睡蓮や蓮の花とまではゆかなくても、何かそれに近い印象を受けた。入り口に近く4人掛けの机1脚、左手通路を挟んで左右の小上がりに4人掛け座机4卓。右手の小上がりに上がる。
 品書きはと見ると、「冷」は、おろし、とろろ、とろろおろし、ざる、山菜、「温」は、鴨鍋、かけ、牛すじ、とろろ、山菜。会長は「とろろおろし」、他の4人は「おろし」を頼む。待つこと暫し、おろしは出汁と一緒に大きな鉢に入っている。そばは二八、幾分細め。越前そばと言うと、ごつごつした田舎そばを思い浮かべるが、ここのそばはそれとは異なる印象だ。そばにおろしの入った出汁をかけ、あっという間に胃の腑に納まった。まずまずの食感だ。でも、可もなく不可もなしか。時間はというと、まだ1時間半もある。
 少しアルコールを入れたらとの局長の言に甘え、富久駒1合と通しに「竹田の厚揚げ」を所望する。酒は真ん丸で透明な硝子の銚子に入っており、それに対のグラス、清々しい感じだ。厚揚げは厚さ一寸近くあり、半分の片面を焼き上げて、六つ切りにしたのを横長の皿に盛り付け、それに葱と大根下ろしと専用の醤油だれが付いている。切り口はと見ると、内は詰まってなく、パンに似たようなスカスカした風情、初めての出会いだ。なかなか旨い。一時は福井の人だった会長に尋ねると、名前は聞いていたが、食するのは初めてと仰る。永坂、寺田の両長老も所望される。これは掘り出し物だ。これがあれば酒がすすむことは必定。こうなると、他のつまも美味しそうに見えてくるから不思議だ。曰く、鴨塩焼き、牛すじ、山菜、冷や奴、等々。この厚揚げは何処かで買えるのかと尋ねると、スーパーでもと。でもややあって、20分程待って頂ければ取り寄せますとも。でも20分は待てないとお断りする。会長はこの「竹田の厚揚げ」の幟を竹田の村で見たことがあると仰る。もし時間が許せば、手に入るかも知れないと淡い期待を抱く。
 丸岡の町はこの日から3日間は桜まつり。丸岡城を経由して小見山さんの選挙事務所へ向かうが、祭りで道路封鎖もあり、ナビどおりには行かなかったが、やっと目的地に着けた。事務所は何と真宗のお寺さんの本堂、これには驚いた。初の体験だ。聞けば初回からとか。町中には立候補者用の掲示板が目立つ。市長には4人、市議会議員には48人のスペースが。市長は事実上2人の一騎打ち、議員は42人から30人とか、中々厳しい選挙だ。当の小見山さん、それに市長候補の林田さんも見えた。林田さんは会長とも親しく、丸岡を蕎麦生産量福井一にした人だ。祈必勝の檄が所狭しと並ぶ。会長持参の有名書家筆の檄も並ぶ。堂内には支援者の方々が詰めかけられ、雰囲気はいやが上にも盛り上がっている。御両名が挨拶。心から必勝あらんことを願う。投票権がないのが玉に傷。晴れて当選されんことを祈念して辞す。帰りに若月さんの案内で、林田さんの事務所にも寄った。ここの檄はもう張る所がなく、天井にも重ね張り、激戦が伺われる。暫し歓談。公示は明日だが、選挙はもう終盤だと仰る。
 事務所を辞したのが2時少し前、局長用事の6時にはまだ4時間ばかり、竹田・大内経由で帰ることに衆議一決、会長の通い慣れた人間ナビの誘導で、一路竹田へと向かう。丸岡から南下し、通称永平寺道路から山に入る。この新道の開通で、永平寺と山中温泉が緊密になったとか、観光も広域的になってきている。会長の言では、天気が好ければ、高架橋からの越前平野の眺めはは大変素晴らしいとか、でも生憎の曇り空で霞んでいる。近庄峠を貫く新道のトンネルを2つ抜けると竹田は近い。ここは竹田渓谷の上流、丸岡町上竹田、千古の家や龍ヶ鼻ダムもある景勝の地、程なく会長の言う「竹田のあげ」の幟が見えた。
 人々は名物の油揚げを求めて、ここ谷口屋に来るのだろうか、狭くもない駐車場は満車の状態。早速店に入る。店内もほぼ満席。かろうじて空いていた一画に陣取る。個々に湯豆腐ほかを頼み、自前で熱くしてその熱々を食する。丸大豆特有な旨味のある「絹ごし」、中々美味い。土産に「竹田のあげ」2枚と「竹田のとうふ」2丁を求める。締めて960円也。当然、皆さんも買い物。見てると、豆腐や揚げのみ求めに来ている人もいる。効能書きには、白山禅定の清水を使用して、昔ながらの製法に拘って作っているとも。そして竹田の揚げには、「北陸の名物」と銘打ってあった。帰って早速厚揚げと湯豆腐をつまにして一献、至福の時を過ごす。カミさんが居れば、2枚2丁は消えたものを、独りとて、翌晩もまた同じパターン。その晩遅く帰ってきたカミさんに、竹田の厚揚げと豆腐は大変美味だったと吹聴すると、今度の日曜の23日に連れて行けとの御託宣、聴いてやらねばなるまい。23日は坂井市の市長と市議の投票日でもある。
● 9月23日は坂井市長・市議の投票日、カミさんと丸岡へ
 午前10時少し前に家を出て、先ずは「一の谷」へ向かう。辿るコースは先週の土曜日と全く同じ。店には既に先客が2組、蕎麦前でかなりの出来上がり、地元の人とお見受けした。程なくまた2組、これで満席となる。親しげな語り口は、同じ村の出の感じ。そう言えば、この店昔は村で食堂をしていたとか、故あってこの8号線沿いに店を構えた由、地の人が多い訳だ。小生はこの前と同じく冷酒、それと通しに「鴨の塩焼き」を所望。カミさんは「厚揚げ」と「とろろおろし」。やヽあって、山菜の天ぷらが出来上がったので如何ですかと、揚げたてを一盛り頂く。コシアブラ、タラの芽、コゴミ、センナなど、この時期の山菜だ。酒が更にすすむ。もう一盛り頂く。大変美味い。しかし鴨の塩焼きは、幾分厚めに切った肉の塩焼きだが、焼き過ぎで硬い上に香りもなく、感心した出来ではなかった。やはり蕎麦前の鴨は鴨ロースに限るようだ。締めに「おろしそば」を頂き、次の竹田へ向かう。
 選挙はどんな具合だろうか。「一の谷」はあわら市なので、隣の市のことは分からないと。竹田へは丸岡を通らないと行けないらしい。丸岡へ寄ったので丸岡城へ案内する。遅咲きの桜が満開で見頃である。城の資料館にも寄り、ここで竹田への道を聞く。竹田渓谷沿いの道が近くてよいとのこと、親切に教えて頂いたとおりに進むと、山竹田に着いた。道を南下して上竹田に至る。幟がはためく谷口家は、日曜ともあって駐車場は満タン、道端に車を停めて店に入るが、席を取るのに長い行列。買い物をしようと思ってもこれまた列。やっとの思いで厚揚げ2枚と絹ごし大2丁にがんも2つを買い、早々に退散した。この山の中でよくぞこの混雑、良い道と車がなければ、こんな地で商売が成り立つ訳がない。
 谷口屋では何も口にすることは出来なかったので、山竹田の新道脇にある「ふるさと渓流」に寄った。店の前には立派な本石楠花が今を盛りの満開。店は広いが、客はほかに1組のみ。山の幸なら、四つ足よし魚よし山菜よしの何でもござれの品書き。そばは地元丸岡の玄蕎麦を使用とあるが、どうも期待できそうにない。しかし、福井県の地元蕎麦を使用する認定店とある。そう言えばそれを証明する幟も立っている。野菜の煮物の付き出し、山菜鍋と冷や酒を頼む。ここにはチャンとノンアルコールビールが置いてあり、カミさんはそれを飲む。仕上げに「おろしそば」を。中太の二八そばは推奨できかねる品。それかあらぬか、客は少ない。日曜の昼というのに、谷口屋とは全く対照的だ。
● 4月30日には探蕎会で丸岡蕎麦道場へ、坂井市長選・市議選は惜敗
 翌週の30日の日曜日、待望の丸岡蕎麦道場行き、参加者もこれまでになく多い。総勢28名にもなり、マイクロバス1台では納まらず、自家用車2台が追加される。天気は上々、国道8号線経由で海道さん宅の蕎麦道場に着く。既にいつもより多い愛好会の方々が満を持して待っておいでた。海道さんの娘御さんもおいでる。動員されたのだろうか。若月さんも、そして小見山さんも、小見山さんは33位で惜敗だったとか、やはり広域選挙となると中々厳しいらしい。それにしても、1年に春秋2回もの訪れ、押しかけ女房のようで、本当に申し訳なく思う。予定より1週の遅れで、待望のコシアブラは無理だろうと話し合っていたのに、着いたら真先に素晴らしい逸品を見せて頂き、只々感謝であった。その天ぷらの美味なこと、加えて美味しい手打ちの「おろしそば」を存分に頂き、お酒は持参した3升4合では足りず、焼酎そば湯割りまで頂く始末、全く申し訳ない。小見山さんお手製のおにぎりも、あっと言う間に無くなった。良い鯖が手に入らず、バッテラは出来なかった由だが、それにしても頭が下がる。終いに近く、海道さんが模範手打ち、全く隙のない流れ、切り揃えたそばは、お持ち帰りにと。おんぶにだっこだった1日だった。只々感謝々々。
 帰路は局長の発案で竹田経由となる。それならば、ぜひ大杉商店の「へしこ」を求めなさいと、小見山さんのお勧め。皆さん賛同され、早速小見山さんが電話される。何しろ樽仕込みなので、それから出して包装するのに時間を要するので、予め連絡するとのこと。薄塩仕込で殊の外美味しいと言われ、20人ばかりが予約。山竹田の三叉路を真っ直ぐ直進すれば右手ですと教わる。今回は道路標識に従って素直に辿ったところ、先週私達が通った竹田渓谷沿いの道となった。三叉路を右と思っていたが、道なりからすれば真っ直ぐが正解と言える。南下する旧道沿いに大杉商店はあった。1パックに二枚下ろしの1尾、凄く立派で大きい。見ればノルウェー産とある。一目見て、小見山さん手製の立派なバッテラを想い浮かべた。店主は帰り際、くれぐれも生でなく焼いて食べて下さいと念を入れられた。加賀の糠漬けなら生でも食べられるのにと思ったが、塩の案配の違いなのだろうか。でもここは郷に入ればの譬えで従わねばなるまい。
 次にお目当ての谷口屋、今日も相変わらずの押すな押すなの盛況、買い物の列は店の外まではみ出している始末、現物を抱え込んで並ぶ方も。いやはや。でも我々のグループには、我関せずと森林浴よろしく外で談笑される御仁もおいでた。一時の熱に浮かされないのは偉い。小生はといえば、へしこ(大杉の薄塩鯖糠漬)1パック、竹田の厚揚げ2パック、同絹ごし大2丁のゲット。今宵はこれがあれば、カミさん共々これで十分な肴。何しろ直仕込なのが良い。充実した1日だった。

[閑話休題]
 後日、カミさんが、とある大型スーパーで「竹田の厚揚げ」を見かけ、買ってきた。賞味期限が3日後ということは2日前の製造ということになるが、運が良ければ、当日製造の揚げに出会えるかも知れない。カミさん、丁寧にも店員に、これは大変有名で美味しい豆腐だと吹聴してきたとか。でも、これもイヤハヤの類である。「絹ごし」は置いてなかったそうだ。これでどうしてもという時があっても、竹田まで行かなくてもよくなった。カミさんもあちこち歩けば、竹田の厚揚げに当たる。

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