2011年8月12日金曜日

奈良探蕎 : 玄(奈良市) と 稜(葛城市)

 表記表題の初出は「探蕎」会報第41号(平成20年7月5日発行)で、訪れたのは平成20年(2008)の6月14日に「玄」、6月15日に「稜」である。  「晋亮の呟き」に再録する。

 本年前半の行事のうち、探蕎小旅行は奈良・京都方面ということだったが、参加予定者が10名と少なかった上、いつも企画・立案・案内される久保さんが不参加ということで、旅行の実施自体が危ぶまれた。事務局の前田さんでは、会の行事として決めたので、団体でなくても個人でいいから探蕎してきてほしいとのこと、全く自信がなかった。5月25日に湯涌みどりの里で会員そば打ちがあり、会員多数が参加し、6月の旅行に参加を予定している人も8名出席だった。それで当初は団体での旅行の中止を伝えようと臨んだのだが、和泉さんご夫妻から8名だったら私の方で車を用意しましょうとの申し出があり、そこで方向転換、実施することで話を進めることになった。久保さんからは奈良市のそば屋を4店紹介して頂いた。しかし宿はコースが未定なこともあり、参加の皆さんにはアウトラインが決まってからお知らせすることにして、取り合えず帰りに前田書店へ相談に寄った。私はいつもなら蕎麦前を頂くのだが、前日に大腸ポリープを切除して禁酒 を命じられていたこともあって、車の運転は可能だった。
 宿は前田さんでは「奈良ホテル」を推奨、電話ではツイン4室ありとのことだったが、仮押さえせずにネット申込みしたものだから、いざ申込みの時点では「空室なし」になっていた。帰宅してネットでいろいろ調べるが、当たったホテルはすべて満室、ただ当初の奈良ホテルに空きがあるようなサインが出たので、今一度前田さんにお願いした。結果として奈良ホテルはノーだったが、程近い「さるさわ池よしだや」をゲットして頂けた。一方、旅行スケジュールについては一切を寺田先生にお願いすることにした。そば屋は初日は奈良では最も古い「玄(げん)」に、2日目は當麻寺門前の仁王門「稜(そば)」とし、そば屋の交渉以外は一切先生に一任ということで旅行はゴーとなった。そば屋2店には、翌日に「石川県の金沢から食べにお伺いするので、何とか便宜を図ってもらえませんか」とお願いしたところ、「玄」では「せいろ」と「田舎」8人分を余分にお打ちしましょうと言って下さったし、「稜」でも確保して置きましょうと言って頂けた。寺田先生のコース取りも決まり、5月31日に事務局の前田さんから参加者全員に「奈良方面旅行のご案内」としてメールが発信された。こうして、和泉さん、寺田先生、前田さんのご尽力で、どうやら旅行が成立することになった。

● 玄(げん) (6月14日)
 予約は開店時間の11時30分、白山市番匠を午前6時少し前に出発、寺田先生の水先案内よろしく、奈良には4時間で着いてしまった。開店にはたっぷりの時間があり、先に国立奈良博物館を訪れた。「玄」からは、近くへ来たら電話下さいとのことで、博物館から出るときに電話をした。「県庁の駐車場からだったら、天理街道を南下して、奈良ホテルが見えたら、次の大きな交差点の次の福智院町の交差点を右に折れ、少し進むと右に駐車場がありますから、そこの島崎と書いてある5~7番に車を停めて下さい」とのこと、了解して駐車場を出た。ところが右折禁止で銚子が狂って方角を間違え、天理街道へ戻ってからも交差点を見落として1km以上もオーバーラン、通行人に訊き漸く件の交差点に着いた。でも今度は駐車場の場所が不明、また電話したら、極々近くだった。興善寺の門前の通路には参詣者用の駐車場はあるものの、ここは駄目らしい。寺の門前を左に折れ、狭い路地を直進すると、突き当たりにお目当ての「玄」の暖簾が見えた。予定の10分遅れで着けた。由緒有りげな門と建物と思ったら、隣にある重要文化財「今西家書院」の離れだという。小さな庭は手入れが行き届いている。
 上がると3列に座机、既に2組が陣取っていた。玄は久保さんのメモでは、春鹿酒造の後とあり、裏で続いていて隣のようなもの、当然玄でのお酒は「春鹿」のみ、純米吟醸生酒の「しぼりたて」を2合お願いした。実は春鹿酒造という醸造元はなく、正確には「今西清兵衛商店」という老舗の酒銘が「春鹿」、春は春日大社から、鹿は神の使いから、今も春日大社の御神酒を醸造しているという。お酒はギヤマン風の角瓶に入ってきた。値はしっかりと高いが、実に馥郁としていて美味しいお酒だ。
 ややあって「せいろ」、2枚ずつ運ばれる。正方形の木枠に竹簾が敷かれ、鶯色のそばが薄盛りにされている。つなぎなしの十割の極細、初めての対面、毎日必要分だけを石臼挽きにするのだという。そばの量は多くない。これだけ細いと、茹で時間は瞬時だろう。これでコシもあり、喉越しも良いのだから、もしそばの香りを最も大事にするのだったら、つゆは水のみでもよいのではと思う。
 次いで「田舎」、薄手のくすんだ陶製の浅い皿鉢の真ん中にこんもり鎮座した感じで出てきた。粗挽きで、色はそんなに黒くはない。これは石臼の加減だろう。「せいろ」より心持ち太いようだ。でも細い。ホシは細かい。そして香りはこちらの方がやや濃い感じだ。
 最後に「そば団子」、これは前日にもう一度念のため電話した折に勧められたもので、4人前申し込んでおいた。これは予約分のみ当日の朝作るとか、木の盆に2個、練り上げた蕎麦粉の皮の上には黄粉がかかり、中には漉し餡が入っているとか。私は食するのをパスしたが、味の方は如何だったろうか。
 これで此処での食は滞りなく終了した。帰りに店主のお見送りを受ける。門から出て狭い路地を歩いていると、やっと見つけたとガイドブックを手にした若いカップルに出会った。「玄」は奈良では最も古い店、とは言っても平成3年の創業、まだ17年、でも店主の島崎さんは関西そば界では、草分け的存在である。

・お品書(税別、単位百円):せいろ・いなか(10),山かけ・おろし・そばがき(12),そば団子(4),酒(春鹿)(15~25).
・住 所:奈良市福智院町 23-2,  電話:0742-27-6868.
・営業時間:(昼)11時半~1時半(入店1時迄),(夜)18時~21時(入店19時迄 蕎麦遊膳のみ).
・定休日:土(夜)と日・月曜日、乳幼児入店お断り.

● 稜(そば)(6月15日)
 2日目のコース取りは寺田先生ならではのユニークなもの、宿を出て先ず信貴山朝護孫子寺へ、そして當痲寺と門前の仁王門「稜」へ。車にナビは付いてはいないものの、寺田先生の人間ナビの案内で「稜」へも開店前に到着できた。そして昨日と同じく、先に當痲寺を拝観した。その後開店の11時45分に「稜」へ入った。入ると、左手の小上がりに4人座れる座卓が3脚、右手には檜の自然木の大きなテーブル、店主の片岡さんからはお好きな場所へと言われ、全員一箇所にとテーブルに陣取ることに。我々が最初だった。ここでも蕎麦前を少々頂くことにして、奈良吉野の地酒「花巴」純米吟醸を2合、よく冷えたのが片口に入れられて出てきた。中々癖のない淡麗な酒だ。
 程なくして、「せいろ」が伊万里の中皿の真ん中に置かれた円い曲げ物の中に入って出てきた。中細で端正なそばという感じ。手繰って食すると、コシも喉越しもそこそこだが、今少し物足りない。つなぎなしではない印象を受ける。つゆは濃い方だ。そばの量は若干多め。次いで「田舎」、四角な中皿に長方形の枡形が置かれ、そこにこれが田舎そばだという黒いそば切り、粗挽きを思わせる黒いホシが見えている。「せいろ」よりやや太め、やはりそばは綺麗に揃っていて中々端正だ。これは店主の人柄を表している。しかしこちらも強烈なインパクトが感じられない。ということは、自家製粉ではないのではと思ったりする。
 量が多いからと、一人「田舎」を召し上がらない方が出た。予め頼み込んであった手前、どうしたものかと店主の片岡さんに相談すると、構いませんと言われた。それより金沢からわざわざお出でて、もしやまずかったのではと、そんな心配をして下さったのには、かえって恐縮した。開店して11年目ですと言われる。中々感じの好い店だった。

・お品書(税込.単位百円):せいろ・田舎・そばがき(10).山かけ・辛味大根(12),酒:花巴(10~20),越の鶴(10),稜特選(15).
・住 所:奈良県葛城市當痲 1256-2.  電話:0745-48-6810.
・営業時間:(昼)11:45~売り切れ迄,(夜)創作料理.
・定休日:火曜日.

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