2009年8月27日木曜日

『傷は絶対消毒するな』 この非常識的常識

 この『傷は絶対消毒するな』という表題の本は、形成外科医である夏井睦(まこと)が、これまでの医学的常識に科学的根拠に基づいて挑戦した書であると言える。副題は「生態系としての皮膚の科学」とあり、この部分はある程度基礎知識がないと理解できないことも多いが、何ともショッキングな表題であって、少なくとも擦り傷、切り傷、軽い火傷については、これまで消毒第一だった常識が実は間違いであると断言している。そこでこのタイトルには書名の主題の後に、従来は常識だったパラダイムがそうではないということで、私は「この非常識的常識」をくっつけた。
 本書はまえ・あとがきと11章からなっているが、ここでは本書の主題に直接関係する章の内容について、これを読めば素人でも確実に治せるという手当てを紹介する。そして更にその傍証となる科学的根拠を知りたくなったら、光文社新書の本書を参照されたい。

1.はじめに
 冒頭、「普段何気なくしていることの中には、よく考えると、何故それをしているのか分からないものが結構ある」と、そしてその例として、「蕎麦に七味唐辛子」を挙げた。「大概のそば屋には七味が置いてあるが、どう考えても、蕎麦の繊細な風味は七味で殺される」と、また「七味をかけることで、蕎麦の味がよくなることも風味が増すこともない」と仰る。次に「ワサビを醤油に溶かして食べるのもおかしい。山葵の辛味成分は揮発性のため、溶かすとすぐに辛味も香りも飛んでしまうからで、辛みと香りが命のワサビなのに、なぜわざわざ不味くして食べるのか、ちょっと不思議である」とも。著者は、これは「皆がしているからしている常識」のパラダイムの類いだとしている。
 さて、傷の手当てだが、著者は素人にも浸透している[傷は消毒してガーゼを当てて乾かして治す]という治療法が、科学的根拠に基づいていないと指摘する。「傷が治るメカニズムが解明されているのに、なぜかその知識は研究者の間では知られているものの、実際に傷の治療が行われている医療現場には全く伝えられていない」という。そこで著者は傷が治るメカニズムに沿った治療を始めたという。その結果、『傷の湿潤治療』に行き着いたという。それは[傷を消毒しない][傷を乾かさない]という二つの原則を守るだけで、傷は驚くほど早く、しかも痛みもなく治ってしまうという、患者はもちろん、当の医師も驚いたという。

2.なぜ「消毒せず、乾かさない」と傷が治るのか
 この「外傷の湿潤治療(うるおい治療)」は、創傷治癒過程(傷が治る過程)の徹底的な研究成果に基づいて作り上げられた治療で、擦りむき傷と熱傷とでは原因は異なるが、治る過程は同じであり、要はその治る過程の邪魔をせず、助けてやりすればよいのだと。傷の治り方をみると、傷が浅くて毛穴が残っている場合には、毛穴(及び汗管)から皮膚が再生してくるし、毛穴が残っていない傷が深い場合には、先ず肉芽が傷を覆い、その表面に周囲から皮膚が入り込んで再生する。そして、この修復に 重要な働きをする新生された皮膚細胞や真皮や肉芽は乾燥状態ではすぐに死滅してしまうので、乾燥しないようにする必要があると。なんのことはない、人体を構成する細胞はすべて乾燥は大敵であって、しかも一旦死んでしまった細胞は絶対に蘇らず死骸となる。傷あとのカサブタはその残骸なのだそうである。ということは、傷を乾かさないようにすれば、傷の表面は新たに増えた皮膚細胞で覆われ、確実に皮膚が再生されるということになる。
 具体的には、[水を通さないもの、空気を通さないもの]で傷口を覆ってやればよいという。なぜなら傷口からは傷を治すための細胞成長因子という生理活性物質が出ていて、これが傷を治す働きをする。「膝小僧を擦りむいた時、傷口がジュクジュクしてくるが、これがその成分、つまり、人間の体は自前で傷を治すメカニズムを持っていて、この傷のジュクジュクはいわば人体細胞にとっては最適の培養液なのである」と。それで、[水を通さないもの、空気を通さないもの]で覆ってやると、「傷の表面は常に滲出液で潤った状態になって乾燥しなくなり、傷表面の様々な細胞は活発に分裂し、傷はどんどん治ってしまう」ことに。
 では、傷の上を覆うものは何がいいか。「実は何だって浴よく、人体に有害な成分が含まれてさえいなければ、(1)傷にくっつかない。(2)滲出液(=細胞成長因子)を外へ逃さない。この二つの条件を満たせば十分だが、さらに、(3)ある程度水分(滲出液)吸収能力がある。という条件が満たされればベストである」。(3)が必要なのは、皮膚は排泄器官でもあるので、皮膚を密閉すると、その機能が働かず、結果として汗疹(あせも)などができる。この三つの条件を満たした治療材料を「創傷被覆材」といい、病院での傷や床擦れの治療に使われ始めている。その一つがハイドロコロイドという素材で、現在「キズパワーパッド」という商品名で販売されている。また「プラスモイスト」という治療材料もこの三つの条件を満たしており、水分吸収能力という点では後者が優れていて、素人にも安心して使える。そしてこれらが入手できない場合には、ラップ(サランラップなど)を用いてもよい。ただラップは吸水力が全くないので、汗をかく時期には一日に数回ラップを剥がし、傷周囲の皮膚をよく洗って貼りかえる方がよいという。
 「湿潤治療」の特徴をまとめると、次のようになる。(1)傷の治りが早い。(2)湿りで痛みがなくなる。(3)擦りむいた傷も深い傷も熱傷も同じ方法で治療できる。(4)消毒薬も軟膏も不要。(5)最低限、水とラップと絆創膏があれば治療できる。(6)治療方法が簡単、簡便。

3.傷の正しい治し方
 治療に当たって必要なものは、先ず創部を洗浄する水で、飲用できる水や糖分が入っていないペットボトルのお茶でもよい。次に、創部をきれいにするため、血液や汚れを拭うためのタオルやティッシュペーパー、ガーゼなどが要る。それと創部を覆うもの(プラスモイスト、市販のハイドロコロイド被覆材、食品包装用ラップ、白色ワセリンなど)と絆創膏や包帯などである。
 [一般的な傷の治療] (1)出血があれば、先ず出血を止める。これには創部にタオルなどを当てて、その上から軽く圧迫すれば数分で止まる。(2)傷の周りの皮膚の汚れを拭き取る。もし傷の中に砂などが入っていたら、水道かシャワーで洗い落とす。(3)ハイドロコロイドの場合は、直接傷の上に貼る。絆創膏は不要。(4)プラスモイストの場合は、傷よりやや大きめのサイズに切って、薄く白色ワセリンを塗って傷を覆い、絆創膏で固定する。(5)ラップの場合は、ラップの上にタオルかガーゼを当て(漏れ出てくる滲出液を吸収するため)、その上から包帯を巻く。(6)ハイドロコロイドとプラスモイストは1日1回は貼りかえる。ラップの場合は、寒い時期なら1日1回、暑い時期なら1日2~3回交換する。いずれも交換の際は、傷周囲の皮膚をよく洗って、汗や滲出液を十分に洗い落とす。この操作は大事である。(7)傷の部分がツルツルした皮膚で覆われ、滲出液が出なくなったら、治療終了。(8)顔など露出部の場合は、再生された皮膚は紫外線に当たると色素沈着を起こしやすいので、市販のUVカットのクリームなどを塗り遮光する。期間は3ヵ月程度。
 [ヤケドの治療] (1)水疱はできていないが、赤くてヒリヒリするヤケドの場合、面積が小さい場合はハイドロコロイドを貼付、面積が広ければプラスモイストやラップに白色ワセリンを塗布して貼れば、ヒリヒリした痛みはすぐに治まる。半日程して剥がし、赤みがなくなってヒリヒリ感がなくなれば治療終了。日焼けの場合も同様である。(2)小さい水疱ができている場合には、そのまま白色ワセリンを塗ったプラスモイストやラップで覆い、交換を続けて水疱が平らになったら治療終了。(3)水疱が2~3cm以上だったら、水疱を破って膜を除去する。そして白色ワセリンを塗ったプラスモイストやラップで創面を覆う。交換する際に新たな水疱ができていたら必ず除去し、同様の処置をする。水疱の部分が乾燥してツルツルした皮膚で覆われたら治療終了。
 [病院を受診した方がよい外傷] 次のような場合は、必ず病院を受診してほしい。 (1)刃物を深く刺した。(2)異物(木片、金属、魚骨など)を刺し、中に破片が残っている。(3)古い釘を踏んだ。(4)動物に咬まれて血が出ている。(5)動物に咬まれて腫れている。(6)深い切り傷とか大きな切り傷。(7)皮膚がなくなっている。(8)切り傷で出血が止まらない。(9)指や手足が動かない。(10)指などが痺れている。(11)大きな水疱ができているヤケド。(12)面積が広いヤケド。(13)貼るタイプのアンカ、湯たんぽ、電気カーペットなどによる低温熱傷。(14)砂や泥が入り込んでいる切り傷や擦りむき傷。(15)赤く腫れて痛みがある傷。

4.消毒薬とは何か
 消毒薬は家庭常備薬の王で、細菌も殺すが、人間の細胞膜タンパクも破壊し、細胞を死滅させる。消毒薬は傷口の破壊薬なので、消毒薬で傷口は破壊され、痛むことに。すなわち、消毒薬による傷の消毒というのは、言ってみれば「傷の熱湯消毒」と変わりない。というわけで、一生懸命に傷を消毒すればするほど、傷の治療は遅れ、場合によっては傷が深くなり、その結果として傷が化膿する危険性も高くなる。でも消毒薬は現代医療になくてはならないもの、消毒は医療活動とは切っても切れない関係になっている。正に消毒文化というべきか、喫煙文化と似ている。かくしてこのように根拠もないのに、その時代の誰もが盲信していることを「パラダイム」という。

5.「化膿する」とはどういうことか
 傷の化膿とは、医学的には「細菌感染によって傷が炎症を起こしている状態」とされるが、素人的には「膿が貯まっているか、膿が出ていて、傷の周りが赤く腫れていて痛い」ということになろうか。突き詰めると、「痛い」か「痛くない」かが重要である。だから、傷口に細菌がいても化膿しているとは言わないし、細菌が入っても化膿するわけではない。例えば、切れ痔の傷は大便の無数の細菌に曝されるが、化膿することはないし、口の中の傷もいつも口内細菌に曝されているが、化膿することなく治る。しかし、「傷から細菌が入ると化膿する」と小さい時から教えられてきた。でも犬や猫は傷口を舌で舐めて治してしまう。この一見矛盾する事実の説明は、傷の化膿にとって細菌の存在は必要条件だが、十分条件ではないということだ。細菌だけで化膿するのではなく、もう一つの条件の「細菌が増殖できる場」が必要で、細菌といえども増殖できる場がなければ、傷を化膿させることはできない。
 細菌といえども生物であり、水と栄養分がなければ生きて行けない。「細菌は乾燥状態では増殖できない」のは事実だが、これが傷の治療を誤った方向に導いてしまった。では細菌が傷口から入ったとして、どこで増殖するのだろうか。傷の場合で多いのは血腫(創内に出血した血液が吸収されずに残っている血の塊)で、元は自分の血液であるが、血腫内部には免疫細胞は移動できないし、抗生物質も届かない。つまり、細菌にとって血腫は栄養満点の格好の増殖環境となる。要は「溜まって澱んでいる」場所で細菌は増殖する。だから血液でなくリンパ液が溜まっても、また傷口から出た滲出液も澱めば感染源になる。ラップやプラスモイストを1日1回交換し、創傷部分を清拭するのもこのためである。

6.あとがき
 私は主にこの本の前半の「傷の治療」の部分を紹介した。この本を通じて著者が言いたいことは、「医学はどこまで科学に迫れるか」という命題であり、これは「科学的思考で医学の諸問題をどこまで解決できるか」という挑戦でもある。しかし一方で「医学は芸術である」と高吟された高名な医師もおいでる。これは医学における事象が、物理実験や化学実験のように再現性がほとんどないことに起因していて、結果としてそう言わしめている可能性はある。近年EBM(根拠に基づいた医療)が医学に導入され、一見科学的根拠が取り入れられたような感があるが、正しいと判断する基準が曖昧で貧弱である以上、科学的とは言うものの、実は科学とは程遠い。著者が行っているケガやヤケドの治療は極めてクリアカットで、生物学や化学の基礎的事実に合致した現象しか起きていない。少なくともケガやヤケドの治療に関する限り、診断も治療も科学だと言える。しかしこのような論理性は、ケガやヤケドの治療にしか現れない特殊な現象であって、他の医学分野にはないと考えるのはおかしいと言わざるを得ない。今、著者は人間の体を一つの生態系として捉え、全く新たな視点から人間の病気、感染症の関係について再構築できるのではないかという可能性を探っているが、今後の進展を期待し、医学界に革命的な新風を吹き込まれんことを望む。
 この書は、表題もさることながら、実に優れた医学の啓蒙の書となっている。

2009年8月24日月曜日

東北の秘湯:乳頭温泉郷(2)

 新玉川温泉に逗留した1日、朝4時半に起き、玉川温泉まで朝の冷気を浴びながら、山道を20分歩いて岩盤浴に出かける。この時間にはもう8割方、場所は埋まっている。目指す場所がある人は、辛抱強くそこが空くのを待っている。岩盤浴は大体1時間位温まるのが目安で、それ以上居る人はまずいない。この日は日中は乳頭温泉郷の先達川に沿った温泉の湯巡りをすることにする。新玉川温泉から田沢湖駅へ行くバスの一番は9時30分、羽後交通の路線バスである。バスは標高800mの高原から玉川沿いに南下し、玉川ダム(宝仙湖)の縁を巡り、田沢湖へと下る。湖畔でジャンボタクシー(10人乗り)をチャーターし、先ずは乳頭温泉郷へ向かう。
 田沢湖からは乳頭温泉行きのバスは出ているが、行き先の「乳頭温泉」は「乳頭温泉郷」といった方が正確かも知れない。乳頭温泉というと鶴の湯温泉と思いがちだが、鶴の湯へは路線バスなら「鶴の湯温泉旧道口」で、黒湯温泉なら「国民休暇村」で下車して、どちらも30分位歩かねばならない。路線バスで直接に行けるのは、終点の「乳頭温泉」下車の大釜温泉と、一つ手前の「妙乃湯温泉」の妙乃湯温泉のみである。
 タクシーの運転手は実に親切で、いろんな話をしてくれる。それで温泉巡りの話をすると、黒湯温泉から反時計回りに、孫六温泉、大釜温泉、蟹場温泉、妙乃湯温泉と巡って、妙乃湯温泉からバスで田沢湖へ戻った方がよいと教えてくれた。タクシーは秋田駒ケ岳(1637m)の山裾を巡り、さらに山奥へ、前方に乳頭山(1477m)が見えてくる。一見して女性の乳房そっくりの山体、しかも頂上が乳首のように尖っている。別名は烏帽子岳である。乳頭スキー場を過ぎると休暇村田沢湖高原に着く。ここにも温泉が出ている。ここから県道のバス路線を外れて林道に入る。車の交差をする待避所が所々にあって、番号が付されている。湖畔から30分ほどで駐車場に着いた。車なら30台は止められる位の広さ、黒湯温泉や孫六温泉へ車で来る人はここで車を止めることになる。乗合タクシーの料金は7千円、一人千円とは安い。
3.黒湯温泉 (秋田県仙北市田沢湖生保内黒湯2-1
 駐車場から急な山道を下ると、すぐに茅葺きの屋根が下に見えてくる。黒湯はこの温泉郷では最奥に位置している。開湯は鶴の湯に次いで古いと言われ、一時は鶴の湯を凌ぐ賑わいだったとかで、「鶴の湯」に対して「亀の湯」と呼ばれた時期もあったようだ。でも開業したのは大正になってからという。宿は数棟あり、湯治客のための自炊棟もある。入湯料はこの温泉郷では妙乃湯を除いてすべて500円である。
 早速混浴露天風呂がある「上の湯」へ行く。白濁した温泉水と温度調節のための先達川の渓流が樋を伝って流れ込む仕掛けになっていて、一方は熱め、もう一方は温め加減になっている。木で組んだ湯船には10人は入れようか、かなり広い。お湯はやや青みを帯びた白濁した湯だが、サラッとしているのは川の水を導いているせいだろうか。もちろん内風呂もある。ほかに、打たせ湯や内湯、女性専用の露天風呂もあって、こちらは「下の湯」と言われていて、お湯はやや重いとされている。泊り客は、朝は「上の湯」、晩の寝る前には「下の湯」という入り方をするそうだ。鄙びた素朴な開放感のあるお湯に浸っていると、正に極楽である。従業員の方の応対もよく、実に清々しい。
 次に行く孫六温泉への道を聞くと、一旦元の駐車場へ戻ってから行くよりは、山道を辿れば5分位で行けますと言われる。
4.孫六温泉 (秋田県仙北市田沢湖田沢先達沢国有林)
 温泉脇の人一人通れる位の細い径を下ると、程なく駐車場からの広い道に出た。なおも下っていくと、先達川の向こう岸に孫六温泉が見えてきた。川に架かる木橋を渡るとそこが孫六温泉である。受付に男の人が一人、ここの親父さんなのだろうか。次に行く大釜温泉への道を聞いても、茅葺きの小屋の脇に道があるとだけ、えらくつっけんどんだ。黒湯温泉が賑々しく親切だっただけに、粗野な感じがする。内風呂は勿論、露天風呂がどこにあるかも分からない。うろうろしていると、標柱に案内があった。ここには4つの源泉があるとかで、それぞれに湯小屋があり、点在している。始めに「石の湯」に入る。
小屋の中に、石切り場の石を切り出した後の穴蔵のような雰囲気の湯船、冷たい暗い感じがする。早々に出て、外の石で囲った混浴露天風呂に移る。底も石で固めてある。お湯は無色透明、無味無臭である。ほかに内風呂が3つ、露天風呂が3つあるそうだが、2つ入ってここを出ることにする。茅葺きの小屋まで行くと、道があり、ここまで軽自動車が入ってきている。下流に向かって20分ばかり歩くと建物が見えてきた。
5.大釜温泉 (秋田県仙北市田沢湖田沢先達沢国有林50)
 建物は学校の校舎そのもので、入口には「乳頭温泉小学校分校」の標識、二宮金次郎の石の像もある。何でも温泉宿は火災で全焼し、その年廃校になった分校の校舎を移築して営業を再開したとか。建物の正面には大きな丸い大時計もある。時間は丁度お昼、食事をしたいと言ったが、昼食は出していないという。もう一つ下のバス停にある妙乃湯さんだったら出すかも知れませんとかで、此処はパスすることにした。聞くと強酸性の熱泉が源泉とか。外には足湯もある。この温泉の前が、終点「乳頭温泉」のバス停である。
6.妙乃湯温泉 (秋田県仙北市田沢湖生保駒ケ岳2ー1 
 バス道路の県道を3分ばかり歩いて橋を渡ると、左手に妙乃湯が見えてきた。見た目には旅館という雰囲気で、ここでは湯治と言う雰囲気は全く感じられない。聞くと、今時予約が難しい温泉宿の一つだという。昼食はと聞くと、出せますとのことで、上がることにする。ここの入湯料は、他より200円高い。混浴露天風呂には「金の湯」と「銀の湯」があり、金の方は鉄分を含むのか黄土色の濁った湯、一方銀の方は無色透明、どちらも遠泉水と湧き水とを混ぜて湯温の調節をしている。渓流の豪快な流れを眺めながらの入浴、なんとも気分は最高である。金と銀とに交互に入る。また建物の2階に内風呂「喫茶去」というのがあると案内があったので、何かと興味津々、行くと木で組まれた大きな湯船の底に、黒い中位の玉石が敷き詰められた風呂で、立って入ると足裏のツボが刺激される仕掛けになっていて、気持ちが良い。珍しい趣向である。
 私は内風呂を終いにして、食事をする妙見の間に戻ったが、約何人かは混浴露天風呂に残っていた。するとそこへ赤ん坊を連れた外国人の夫婦が入って来られたとかで、相棒達が部屋へ戻ってくるのは随分と遅かった。私達が食事をしていると、件の外国人夫婦も上がってこられたが、中々綺麗な方だった。帰りのバスはこの宿の玄関の真ん前に止まるという。破格の待遇である。今の繁盛になったのは、今の女将が建築会社で仕事をしていて、建物も調度もセンスの高いものにしたからとかで、特に女性に人気が高いということだった。
 この後、県道の最奥にある蟹場温泉へ行く予定だったが、新玉川温泉までバスで帰るとすると、15時のバスを逃すと帰られなくなるので、割愛することにし、またの機会とする。
7.蟹場温泉 (秋田県仙北市田沢湖田沢先達沢国有林50)
 行けなかったが、簡単な紹介をしたい。開湯も開業も江戸末期という古い温泉場だが、現在は建物は近代的な旅館に建て替えられている。この温泉の先代は村長をしていて、氏の尽力で乳頭温泉郷までの山道が県道に整備されたという。蟹場温泉は、その県道の最奥に建っている。この温泉の自慢は露天風呂の「唐子の湯」で、本館から雑木林の中の一本道を歩いて行くと、渓流沿いに広々とした露天風呂が現れるという。夜には湯屋には灯りが入り、幻想的な雰囲気が現出され、写真にはこの灯りが入った情景の写真が多い。
8.休暇村・田沢湖高原 (秋田県仙北市田沢湖生保駒ケ岳2-1)
 乳頭スキー場の先、乳頭温泉郷の入り口にあり、近代的な設備が整っている。

 以上8つが乳頭温泉郷8湯で、外来入浴できる7湯というのは、鶴の湯別館を除く温泉を指し、乳頭温泉巡りという場合にはこの7湯巡りを指す。因みに7湯の代表的な泉質と適応症を挙げる。
1.鶴の湯温泉 [泉質]含硫黄・ナトリウム・カルシウム・塩化物・炭酸水素泉。ほか3種。 [適応症]高血圧症、動脈硬化症、リウマチ、皮膚病、糖尿病ほか。
3.黒湯温泉 [泉質]単純硫化水素泉。 [適応症]高血圧症、動脈硬化症、抹消循環障害、糖尿病ほか。
4.孫六温泉 [泉質]ラジウム鉱泉。ほか3種。 [適応症]胃腸病、皮膚病(蕁麻疹)、創傷ほか。
5.大釜温泉 [泉質]酸性含砒素ナトリウム塩化物硫酸塩泉。 [適応症]真菌症(水虫)、慢性膿皮症、リウマチ性疾患ほか。
6.妙乃湯温泉 [泉質]カルシウム・マグネシウム硫酸塩・単純泉。 [適応症]動脈硬化症、皮膚病、消化器病など。
7.蟹場温泉 [泉質]重曹炭酸水素泉。 [適応症]糖尿病、皮膚病ほか。
8.休暇村・乳頭温泉郷 [泉質]単純硫黄泉・ナトリウム炭酸水素泉。 [適応症]高血圧症、動脈硬化症など。

2009年8月18日火曜日

東北の秘湯:乳頭温泉郷(1)

 私が住んでいる石川県石川郡野々市町本町二丁目西地区(旧町名は新町)では、還暦を過ぎた男衆を中心に壮年部を結成し、毎年3月初めには温泉の1泊旅行、また湯治と称して、有志が4泊5日で秋田の玉川温泉もしくは新玉川温泉へ毎年出かけている。私も都合がつけば出来るだけ参加することにしている。玉川温泉というのは、西洋医学治療で見放された病人でも、何故か此処で湯治していて本当に治ったという例もあって、人気の湯治場である。この温泉の特徴は、一つは強酸性(pH1.2)の熱泉ともう一つは北投石に代表される低レベル放射線で、これが様々に相互影響しあって良い効果をもたらすようである。この効果を科学的に解明するために、「玉川温泉研究会」なる組織が昭和18年(1943)に東北大学をコアにして設立され、今日に至っている。岩盤浴で放射能を浴び、強酸性のお湯に浸かって湯治をするのだが、どちらも長く浴びたり浸かったりすると、かえって副作用が出て、湯中りがひどい。したがって、その間は休まねばならないが、そこでこの昼間の空き時間を利用して、近郷の温泉巡りをすることにしている。先ずは2年にわたって巡った乳頭温泉郷について書いてみたい。
1.鶴の湯温泉 (秋田県仙北市田沢湖田沢先達沢国有林50)
 傷ついた鶴が湯浴みをしているのを勘助というマタギが見付けたことから、「鶴の湯」と名付けられたといわれている。開湯は江戸時代初期といわれ、元禄時代には湯守がいて、農家の人達の湯治場として賑わったとある。ここへは秋田新幹線の田沢湖駅へ向かうバスで田沢湖畔もしくは田沢湖駅で降り、タクシーに乗り継いで行くことになる。バスで行く場合は、乳頭温泉行きのバスに乗車し、鶴の湯温泉旧道口で下車し、山道を30分ばかり歩かねばならない。バスの本数は少なく、バスも数社乗り入れのため、乗り継ぎはスムースではない。
 鶴の湯温泉と他の乳頭温泉郷の温泉とは若干離れていて、鶴の湯以外の温泉相互間の距離は徒歩で5~20分程度だが、鶴の湯へは約1時間はかかる。したがって、鶴の湯も含めて全湯を一巡するには、日帰りは到底無理で、二つは別に企画するか、もしくはどこかに1泊する必要がある。林道は鶴の湯までついているが、自家用車で入ることは出来ないようで、その場合は別館の「山の宿」まで車で入り、奥の鶴の湯温泉へはブナ林の遊歩道を30分位さらに歩く必要がある。
 鶴の湯温泉は、この温泉郷の中では最も人気があるお湯で、現在では春夏秋冬利用できる。以前は冬は閉鎖されていたが、今は冬でも営業している。ただ昨年には裏山で雪崩が発生して、露天風呂で入浴していた女性が亡くなったことがあった。車を降りて砂利道を進むと、江戸の町の木戸を思わせる門があって、本陣「鶴の湯」と大きく墨書してある。江戸時代を思わせる本陣と呼ばれる宿舎と湯治棟の間を通って行くと、奥に男女別の木造の湯小屋が3棟あり、なおも進むと、その先に白濁した少し青みを帯びた乳白色の大きな混浴露天風呂とその奥に女性専用の露天風呂が見えてくる。湯小屋や露天風呂は一見無造作な配置、しかも湯小屋の屋根はすべて杉皮で葺かれていて、実に風情がある。
 私達が訪れたのは初夏の一日、駐車場にはマイクロバスが1台いたきりで、混んではいなかった。入湯料を払って混浴の露天風呂を目指す。乳白色のお湯が庭一杯に広がっていて、溢れている。周りは深い森、今は一面緑だが、秋の紅葉も、冬の雪景色も、また夜の満天の星も素晴らしいだろう。私達が入っていたら、奥の女性専用の露天風呂から、妙齢の女性が「お邪魔しても宜しいですか」と言って入って来られた。簾で囲った風呂よりこちらの方が開放的で素晴らしいと仰る。旦那さんも交えて暫し談笑する。ツアーでの参加で、泊まりは此処ではないとか。お湯は他にも内湯の黒湯、白湯、中の湯があるが、露天風呂とは離れていて、泊り客ならば浴衣姿で回れるが、日帰り客だと回り辛い。件のご婦人では、この湯が最高、四方板で囲われた湯小屋は、湯治の方ならともかく、日帰り観光でおいでたのなら、ここで十分ですとのご託宣、ここで終いにする。此処は人は多いというものの、正に秘湯である。聞けば鶴の湯は「日本秘湯を守る会」の会員であるとか。因みに石川県にも4湯あるという。
2.鶴の湯別館 (秋田県仙北市田沢湖田沢先達沢湯の岱1-1)
 鶴の湯の下流2kmのところに、鶴の湯本館のお湯を引いて営業する鶴の湯別館「山の宿」がある。でもこの湯は泊り客しか利用できず、乳頭温泉郷で唯一日帰り入浴ができない宿となっている。まだ開館して10年たったばかりという。

2009年8月13日木曜日

小林よしのり編「日本を貶めた10人の売国政治家」を読んで

 この本の発刊は7月10日で、25日に第三刷が発行されている。前田書店のブログ「めくれない日めくり日記」に、主の秀典氏が8月2日と3日にこの本の紹介をしている。興味をもって読んだが、偶然か当の秀典氏からの勧めでこの本を読むことになった。表題の本は幻冬舎新書である。「売国」とは大げさなとは思ったが、読むにつれて正にそれに該当する御仁がいて、しかも今ものうのうと、秀典氏の言を借りれば、売国奴呼ばわりされた位では蛙の面にナントカで、屁とも思わず平然としているのを見ていると、この程度ではまだまだ手ぬるいのではと思ったりもする。この本では、20人の学者・言論人に登場してもらって、断罪すべき政治家5人を理由を付して挙げてもらい、1位に5点、2位に4点と順に点を振って集計している。持ち点は一人15点になるから、総点数は300点になる。さて、「売国」とは何か、本では広辞苑ほかを引用しているが、自国に不利益、敵国に利益は分かるが、その中に「私利のため」とか「私利をはかる」とあるが、この部分はどうもしっくりしない。

 でははじめに、その集計結果(順位・点数)と『売国政治家名』、その〔検証者〕と標榜するタイトル、それと文章の小節の頭の見出しを書き出して紹介する。これを見れば罪状の凡その見当はつくというものだ。その後で私の選んだ不届きな輩を書き出してみようと思う。
 第1位:単なる談話で日本を「性犯罪国家」に貶めた『河野洋平』52点.〔八木秀次〕:(1)証拠もないのに慰安婦問題を内外に謝罪した河野談話.(2)「河野談話」に先立つ「加藤談話」.(3)天皇訪中という宮澤内閣の大罪.(4)そもそもフィクションから生まれた慰安婦強制連行説.(5)一貫して軸足が日本にない政治家.(6)巨悪にすらなれない最悪の売国奴。
 第2位:万死に値する「国民見殺し」「自国冒涜」の罪『村山富市』45点.〔高森明勅〕:(1)大震災でも緊急災害対策本部を設置せず.(2)政治信条のために国民を見殺し.(3)「国民見殺し」の背景にあった歴史認識.(4)理性があれば出せない「村山談話」.(5)万死に値する売国奴政治家。
 第3位:「改革」で日本の富と生命を米国に差し出した『小泉純一郎』36点.〔関岡英之〕:(1)政治家小泉純一郎の本質.(2)大蔵族としての小泉純一郎.(3)保険族としての小泉純一郎.(4)どうしても総括されなければならない前回選挙の本質.(5)そして日本の医療が崩壊した.(6)小泉構造改革の本質は「朝日新聞」が喝采する日本崩壊。
 第4位:「ねじれ現象」を生んだ無節操な国賊『小沢一郎』29点.〔西尾幹二〕:(1)何も変わっていない民主党,三つのグループの正体.(2)小沢が権力維持のために手離さない人事とカネ.(3)ねじれ現象をつくった張本人.(4)もはや国連中心主義にリアリティはない.(5)外国人の地方参政権を認める愚。
 第5位:靖国問題をこじらせた元凶『中曽根康弘』22点.〔大原康男〕:(1)「公式参拝」を復活させるも方式に重大な問題.(2)中国に抗議され安易に中止する.(3)純然たる国内問題を外交の犠牲に供した不見識さ.(4)A級戦犯の合祀取下げを密かに画策.(5)国立戦没者追悼施設のルーツも中曽根.(6)戦犯の処遇は講和条約とは何の関係もない.(7)国家の威信を損ね,国内にも不思議な亀裂。
 第6位:自虐外交の嚆矢となった「不戦決議」『野中広務』16点.〔潮 匡人〕:(1)根拠をベールに隠して攻撃する.(2)中国・朝鮮への歪んだ歴史認識.(3)最悪の「村山談話」を生んだ野中の「不戦決議」.(4)引退後もメディア露出を続けるダーティーな輩。
 第7位:日本国を構造破壊し共和制に導く経済マフィア『竹中平蔵』12点.〔木村三浩〕:(1)カジノ資本主義の推進者.(2)国富,国益,社会を「献米」する代理人.(3)共和主義者として構造破壊に奔走する仕掛け人。
 第8位:無為,無内容,無感情『福田康男』11点.〔潮 匡人〕:(1)総理になりたくなかった男の空虚な中身.(2)真面目ですらなかった黙殺と放棄の男.(3)軽薄な偽善と売国の所業の数々。
 第9位:保守を絶滅に追い込んだ背後霊『森 喜朗』10点.〔勝谷誠彦〕:(1)国柄を貶めた売国奴ウイルス.(2)「横入り」の男が上りつめた首相の座.(3)密室での談合で決定した後継首相.(4)事欠かない「サメ並の頭脳」の証拠。
 第10位:戦後レジームの滑稽なゾンビ『加藤紘一』10点.〔西村幸祐〕:(1)はずかしき「自民党リベラル」.(2)戦後レジームのゾンビ.(3)二つの大罪ーご訪中と加藤談話.(3)北朝鮮を利する発言を繰り返す。
 なお、次点は『土井たか子』の9点だった。そのほかに19人(5点~1点)がいる。

 次に、点数でなく、20人が選んだ人を多い順に羅列してみた。すると、1位は15人が選んだ『河野洋平』、2位は12人が選んだ『村山富市』、3位は9人の『小沢一郎』、4位は8人の『小泉純一郎』、5位は6人の『中曽根康弘』『加藤紘一』『野中広務』、8位は5人の『福田康夫』と『土井たか子』、10位は3人が選んだ『森 喜朗』と『竹中平蔵』だった。そのほか、2票が3人、1票が16人いた。

 さて、私ならどうしようか。先ず挙げたいのは、小泉ー竹中ラインによる小泉改革路線の推進に功のあった『小泉純一郎』(第1位)と『竹中平蔵』(第5位)である。先ず「郵政民営化」であるが、これは小泉がまだ一匹狼の頃からの20年来の念願だった。大蔵族でもあった小泉は、日本の金融界と大蔵省の悲願でもあった郵政民営化を遂に実現した。郵便貯金と簡易保険は目の上のタンコブだったわけだ。しかし、一見国内問題にみえる民営化の根底には、米国保険業界の強力な要望と後押しがあったことは表に出てはいない。郵政民営化選挙では、民営化だけが先走りして、民営化イエスかノーかで、国民の代表として暫し塾考をと待ったをかけた良心的な議員に「抵抗勢力」「守旧派」「族議員」のレッテルを貼り、選挙では落下傘で刺客を送り、多くの有能な人材が議席を奪われた。マスメディアは小泉劇場と囃し立て、ニセ改革の旗手小泉へ忠誠をつくす小泉チルドレンに代表される操り馬鹿人形ばかりが当選した。国民は「改革」という迷い言に乗せられ、完全に騙されたわけである。衆議院で3分の2を確保し、小泉の人気最後の1年は、参議院でも過半数を占めている状態が続き、何でも好き放題にできた。こうして郵政民営化は小泉ー竹中の二人三脚で押し通された。刺客に敗れた城内実氏は郵政民営化をこう説明している。「魚を三枚に下ろして、骨の部分(郵便事業)は捨ててしまい、美味しい切り身の部分、つまり郵貯と簡保を米国金融業界に『どうぞ』と差し出す。これが小泉ー竹中のやり方だ。」と。この二人は我が国を巧妙に支配する二つの見えざる権力、すなわち米国と旧大蔵省の『忠実なポチ』にしか過ぎないと。
 もう一つの大罪は後期高齢者医療制度の導入である。衆議院でも参議院でも過半数を占めた時期に、米国保険業界の強い外圧で、米国追随の医療制度改革を行った。高齢者の財政負担を重くし、国の負担を軽くし、病気は自己負担で解決しなさいと迫り、不安なら米国資本の民間保険会社の医療保険に入りなさい、出来ない人は早く死んでしまいなさいという内容だ。今の野党三党は郵政民営化の見直しと後期高齢者医療制度の廃止を訴えて選挙を戦っている。正しい国民の審判が下ることを臨む。
 第2位には「村山富市」を挙げよう。社会党委員長で、本来なら万年野党で到底与党にはなれないのに、自民党のお御輿に乗せられ、総理大臣に祭り上げられてしまった。当然のことながら、党是の自衛隊違憲、日米安保反対は後退してしまい、この無節制は社会党の凋落につながることになる。そして国賊として逃れられない罪の一つは、あの阪神・淡路大震災での対応の馬鹿さ加減である。首相というのは、国民の生命・財産を守るべき最高責任者なのに、おかしな潜在意識から、自衛隊の出動要請をせず、また米軍の援助も断わり、あたら時間を浪費し、結果として多くの人命・財産が失われ、多くの国民を見殺しにした。災害対策基本法では甚大な被害が見込まれるときは、災害緊急事態を布告し、総力を挙げてこれに対応することになっていて、それには警察・自衛隊の出動も含まれる。でも意識下にはこれが戦前の戒厳令的なものと認識していたと。第一義的には当時の貝原兵庫県知事の信じがたい無為無策であるが、村山首相が官邸に入ったのは地震発生後1時間半後、自衛隊出動要請は4時間後、それも数の制限をしたという。5時間半後には非常災害対策本部ができたものの、これは国務大臣がトップで、首相がトップの緊急災害対策本部とは権限もスケールも違う。初の緊急閣議が開かれたのは28時間後、緊急災害対策本部はとうとう設置されなかった。私もテレビの画面を見ていたが、はじめは神戸市の2箇所でのみ火災が起きていただけだったのに、みるみるうちに火は広がっていった。病気でも早期発見、火事では初期消火が肝心なのに、なんとしたことか。それで3日後には緊急対策本部が設置されたが、「災害」が抜けた本部は何をしたのだろうか。この大震災の死者は6千5百人、負傷者は4万4千人、被害総額は9兆6千億円、発生後1時間以内に対応しておれば、この数字はずっと小さなものになっていたろう。村山首相の釈明では、「ナニブン初メテノ経験デスシ、早朝ノ出来事デシタカラ」と信じられない能天気、恐るべき危機管理意識欠如である。この大震災の犠牲の大部分は天災ではなく、村山首相本人の確信犯的な救助放棄による人災だったと言える。
 今一つは売国奴的な「村山談話」である。閣議決定されたというこの総理談話は、後々の今日でも生きていて、誤字があるのも問題だが、それより日本にとっては大きな足かせ、中国、韓国、北朝鮮にとっては格好の大歓迎談話である。正に売国奴面目躍如というべきか。妙な文章の一部を引用する。「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を進んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべきもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここに改めて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明します」。
 第3位は「河野洋平」、第4位は加藤紘一」である。河野は衆議院議長を憲政史上最長の在任期間務めあげた。売国罪状の最たるものは、、宮澤喜一改造内閣での官房長官として発表した「慰安婦関係調査結果に関する河野官房長官談話」で、証拠もないのに日本が性犯罪国家であることを印象付けた、いわゆる「河野談話」である。この伏線となったのが、前任の官房長官である加藤紘一の「加藤談話」である。ここで加藤は、「従軍慰安婦の募集や慰安所の経営等に旧日本軍が何らかの形で関与していたことは否定できず、衷心よりお詫びと反省の気持ちを申し上げたい」とした。そして韓国の小説「修羅道」の中で、当時の『赤紙』と『女子挺身隊』、それに日本兵の『慰安婦』をゴッチャにして、あたかも慰安婦の強制連行があったかのごときストーリーを真に受け、「河野談話」がでっち上げされた。少なくとも政府が調べた資料の中には強制連行を示す記録は全くなく、歴史的事実はないとしているのにである。談話では、「官憲等が慰安婦の強制連行に直接加担したことを歴史の事実として認め、全面謝罪したばかりか、歴史教育を通じて永久に国民の記憶にとどめる」とした。この両談話は今日もなお外務省のHPに掲げられている。
 河野はこんな思想の持ち主であるから、靖国神社への参拝には一貫して反対している。それどころか、歴代の総理大臣には電話であるいは公邸に呼んで、参拝自重をお願いしているというが、これは越権行為だろう。そして毎年の全国戦没者追悼式では、「河野談話」と同じ感覚で、日本軍の加害について述べ、謝罪とお見舞いを言っているが、戦没者の霊に向かって言うのは礼を失しているのではないか。「河野洋平」は「江(沢民)の傭兵」とも言われる所以である。
 私見では、この本での10人のうち私が挙げた5人は正に売国奴と言える。そのほかには「中曽根康弘」と「野中広務」も臭い。でも、「小沢一郎」、「森 喜朗」、「福田康夫」は国賊とは言えても売国奴ではないと思う。