2010年1月29日金曜日

いわゆる抗がんサプリメント (5) 栄養補充・体調改善ほか

 新陳代謝促進、免疫力増進、食欲改善などの様々な作用で自然治癒力を向上させ、がん細胞の増殖を防ぐ。

1.朝鮮人参・高麗人参 (オタネニンジン Panax ginseng) oriental ginseng
 ウコギ科トチバニンジン属の植物で、中国では強壮薬として名の知れた生薬で、薬用部分は根である。中国名は「人参」で、調整法により「白参」と「紅参」(高麗人参の上級品)に大別される。俗に「疲労回復効果がある」「強心作用がある」と言われ、風邪の予防、Ⅱ型糖尿病の改善、認識能力の向上などに対して、一部にヒトでの有効性が示唆されている。安全性については、種々の副作用、医薬品との相互作用の報告があり、特定の使用制限があるハーブとされている。成分は11種類のジンセノシドと呼ばれるホルモン様サポニンを有し、これが重要な有効成分で、ほかに精油、ステロール、でんぷん、ペクチン、ビタミンB群を含む。がんの予防に対して、経口摂取で有効性が示唆されている。疫学的調査によると、オタネニンジン(特に新鮮なニンジンエキス)を摂取すると、がん全般、とりわけ胃、肺、肝臓、卵巣、皮膚のがんの発生率が低下するらしいと報告されている。
2.三七人参 (サンシチニンジン Panax notoginseng) pseudoginseng
 ウコギ科の薬用植物。中国南部の原産、植えてから収穫されるまでに3年~7年かかることから、この名が付けられた。雲南省や広西省チワン自治区の海抜1200-1900mの地域で栽培される。紡錘形の根を薬用とする。中国名は「田七人参」で、広西省の田陽や田東で産することから「田」の字が冠される。オタネニンジンとは成分や性質が多少異なる。古くから止血に利用されてきたが、その薬理作用は多彩であり、利用方法や生体の状況に応じて止血あるいは抗凝血という双方向の作用を示すと言われている。俗に「心臓病に対する作用が期待できる」と言われ、他のハーブと組み合わせた前立腺がんへの臨床研究も報告されているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータは見当たらない。安全性については、口渇、吐き気、嘔吐などが報告されている。主成分はジンセノシドで、ほかに精油成分を含む。
3.西洋人参・広東人参 (アメリカニンジン Panax quiquefolius)
 ウコギ科の薬用植物。アメリカ南部の森林地帯に自生するものが最上質品で、北米先住民は根と葉を薬草として用いた。滋養強壮、体液の補充を促す作用がある。
4.竹節人参 (トチバニンジン Panax japonicus)
 日本では山地の林内に自生する。数種のジンセノシドを含むサポニンを含有するほか、特有のチクセツサポニンを含む。解熱、去痰、健胃薬として利用される。

付.キチン Chitin
 キチンはカニやエビなどの甲殻類の外殻にあるムコ多糖体で、不溶性の食物繊維として知られている。キチンが部分的に脱アセチル化するとキトサンになる。一般に食品添加物(増粘剤、安定剤)として使用が認められている。俗に「免疫力を助ける」「血圧を下げる」「血中コレステロールを下げる」などと言われているが、ヒトでの有効性・安全性については信頼できるデータは見当たらない。成分は β-1,4-poly-N-acetylglucosamine、白色無定型の粉末もしくは繊維状で、酸・アルカリ及び各種溶媒に不溶である。
付.キトサン Chitosan
 キチンを加工したものだが、キトサンの中にはキチンが16%含まれていることから、実際にはキチン・キトサンとして取り扱われる。俗に「便秘を解消する」「有害成分を排出する」などと言われている。ヒトでの有効性については、キトサンを関与成分とした特定保健用品が許可されている。安全性については、経口摂取や外用で安全性が示唆されている。成分は β-1,4-poly-glucosamine で、キチンの脱アセチル化物、水に不溶であるが、希酸に可溶である。
付.クルクミン Curcumin
 ターメリック(ウコン)に含まれる黄色の色素で、俗に「抗酸化作用がある」「肝臓によい」「発がんを抑制する」などと言われているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータは見当たらない。
 ウコン Turmeric はショウガ科ウコン属の植物で、平安中期に中国から渡来した。インド、中国、インドネシア及び他の熱帯諸国で広く栽培されている。一般にウコンと名が付くものには、ハルウコン、アキウコン、ムラサキウコン、ジャワウコンがあるが、正式な和名のウコンはアキウコンである。俗に「肝機能を高める」と言われ、消化不良に対しては一部にヒトでの有効性が示唆されているが、信頼できるデータは十分ではない。安全性については、通常食事中に含まれる量の摂取であれば恐らく安全であると思われるが、過剰もしくは長期摂取では消化管障害を起こすことがある。黄色色素のクルクミンが3-6%、ターメロンやセスキテルペン類の精油が3-5%含まれる。
付.セレン Selenium (Se)
 原子番号34の元素でS(硫黄)と同族。Seはヒトにとって必須の微量元素で、酸化障害に対する生体防御に重要なグルタチオン・ペルオキシダーゼ類の活性中心であり、抗酸化反応において重要な役割を担っている。俗に「老化やがんを防ぐ」「生活習慣病を予防する」などと言われ、前立腺がんの発生率低下、全がん死亡率の減少など、一部にヒトでの有効性が示唆されている.安全性については、許容摂取量の範囲内で適切に摂取すれば安全と思われる。催奇形性や流産の恐れがあるので、妊娠中は避けるべきである。Seを多く含む食品としては、ネギ、ワカサギ、イワシなどがある。
付.AHCC (Active Hexose Correlated Compound) 活性化糖類関連化合物
 シイタケ属に属する担子菌類の菌糸体の培養液から抽出された αグルカンに富んだ植物性多糖体の混合物で、がん化学療法の補助療法として用いる。

まとめ: 作用の仕方で分けた『抗がんサプリメント』 (福田一典医師による)

① 免疫増強作用: 免疫細胞の働きを高めて、がん細胞を排除する
    アガリクス、メシマコブ、レイシ、冬虫夏草、キチン・キトサン、アラビノキシラン
② 抗酸化作用: がん悪化の原因となる活性酸素の除去
    カロテノイド、VC、VE、カテキン、フラボノイド、セレン
③ 血管新生阻害作用: がんを養う血管の新生を抑えて成長を止める
    サメ軟骨、サメ脂質、スクワラミン、クルクミン、大豆イソフラボン
④ アポトーシス誘導作用: がん細胞が自ら死滅する作用を促進する
    フコイダン、紅豆杉、タヒボ、アミグダリン、プロポリス、ω3不飽和脂肪酸
⑤ 栄養補充・体調改善: 不足する栄養素の補充や体の機能の活性化
    マルチ・ビタミン、ミネラル、高麗人参、乳酸菌製剤

2010年1月28日木曜日

いわゆる抗がんサプリメント (4) アポトーシス誘導物質

 以下に挙げたいわゆる抗がんサプリメントは、アポトーシスを誘導したり促進して、がん細胞が自ら死ぬように誘導したりするとされているものである。ここでいうアポトーシス apoptosis というのは、病的な細胞死とは異なり、細胞内部器官の構造は保たれながら核内のDNAが断片化して死に至るもので、いわば管理・調節された細胞の自殺、すなわちプログラムされた細胞死 programmed cell death と言える。このような現象は自然界ではよくあることで、卑近な例としては、オタマジャクシから蛙になる際にオタマジャクシの尾が成体になるときに自然になくなる、これがプログラミングされたアポトーシスである。しかし人体でがん細胞や組織が、このようなアポトーシス誘導・促進作用によって消滅したという事実は検証されておらず、もしがん細胞が自ら死滅するほどの濃度のサプリを用いれば、抗がん剤と同じような副作用が出る可能性があり、健康食品の素材情報DBを見るかぎりアポトーシス誘導・促進作用があるとの記載は一切ない。

1.パウ・ダルコ(紫イペ) Pau d‘arco, Ipe-roxo(イペーロショ)
 南米アマゾン川流域に自生するノウゼンカズラ科タベブイア属の高木(樹高30-50m,幹径1-2m)で、滑らかなグレーの樹皮と黒褐色の木部をもつ広葉樹で、白、黄、紫の花をつける。このうち紫の花をつけるのが「紫イペ」で、これは T.heptaphylla、T.inpetiginosa、T.avellanedae の3樹種の総称で、このうち T.avellanedae のみを区別して「タヒボ」と称している。ちなみに黄色イペはブラジルの国花となっている。インカのインディオたちはこれらの樹木の外皮と木質部に挟まれた僅か7mmほどの内部樹皮を煮出し、茶として愛飲してきた。
1´ タヒボ Taheabo. Tabebuia avellanedae
 日本ではこの名の健康茶が出回っている。俗に「免疫機能を高める」「関節炎や痛みを和らげる」と言われているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータが見当たらない。安全性については、過剰摂取では吐き気、嘔吐、目まい、下痢を起こし、場合によっては重篤な悪影響を起こすことが報告されている。主な成分としては、抗酵母化合物であるラパコール及びβラパコーン、キシロイジンが含まれる。
2.フコイダン Fucoidan
 コンブ、ワカメ、モズク、メカブなどの褐藻類の特に「ぬめり」の部分に含まれる酸性多糖類で、L-フコースを主要構成糖とし、他の多糖類と違って硫酸化多糖類(硫酸化フカン)が多く含有されるのが特徴である。フコイダンは海藻が潮の流れや衝撃で起きた傷の修復や周囲の生物に食べられないように自分自身を守るためのガードの役割を果たしているとされる。俗に「血圧の上昇を抑える」「抗ウイルス・抗菌作用がある」「肝機能をよくする」「コレステロールを下げる」「がんによい」などと言われているが、ヒトにおける安全性・有効性については調べた文献の中には信頼できる情報が見当たらない。ただ in vivo で担がんマウスに投与したところ生存期間が延長したとか、正常マウスに投与するとNK活性やT細胞のIFN-γの産生が高まったという報告がある。
3.アラビノキシラン Arabinoxylan
 健康食品の素材情報DBには記載がない。イネ科植物(イネ、トウモロコシなど)の植物の細胞壁を構成しているヘミセルロースのうち、温水で抽出された水溶性食物繊維のヘミセルロースBを酵素の働きにより低分子化したものがアラビノキシランで、キシロース3分子にアラビノース1分子が側鎖についたキシロースの直鎖重合体からなる。市販のものは米糠アラビノキシランと称されている。
4.環状重合乳酸 CPL(cyclic-poly-lactate)
 いくつかの乳酸分子が環状に連なった重合体で、普通の乳酸とは全く異なった働きをする。がん細胞の培養液から見つかったがん細胞の増殖抑制因子が低分子の乳酸重合体であるという報告により注目され、現在では合成されている。俗に「がんの痛みを和らげる」「免疫機能を向上する」などと言われているが、ヒトでの有効性・安全性についての信頼できるデータは見当たらない。 
5.プロポリス Propolis
 ミツバチが樹木の特定部位(新芽、蕾、樹皮など)から採取した樹液や色素などに、ミツバチ自身の分泌液を混ぜて出来た巣材である。ハチの巣から分離するため純物質を得ることは難しく、巣の副産物が含まれることが多い。また産地や抽出方法によってその構成成分が異なっている。プロポリスは紀元前350年から利用されていて、ギリシャ人は膿瘍に、アッシリア人は傷や腫瘍の治療に用いたと言われている。俗に「抗菌作用がある」「炎症を抑える」などと言われ、一部でヒトでの有効性が示唆されているが、参考となる十分なデータは見当たらない。安全性については、ハチやハチの生産物にアレルギーのある人(特に喘息患者)は使用禁忌であり、外用に用いた場合(化粧品を含む)に接触性皮膚湿疹を起こすことがある。主な成分はフラボノイドのピノセンブリン、ガランギン、ピノパンクシンなどである。またブラジル産プロポリスに含まれる化合物の多くは、Baccharis draculifolia という植物の新芽にしか含まれないものであったという報告がある。
6.紅豆杉(ホングドウサン) Hongudoushan
 中国雲南省の高山、主に3300mから4100mの山地に自生しているイチイ科の植物で、世界の樹木の中では最も高い場所に自生している。別名を赤柏松、紫杉、紫金杉と言い、2億年前の中生代から生き延びてきた仙樹で、「太古の生きる化石」と呼ばれている。材の部分を粉砕したものを紅豆杉茶として飲用する。抗がん剤として使われているタキソール系の植物アルカロイドが含まれているので、抗がん活性がある程度期待できると言われる。
7.アミグダリン Amygdalin (レートリル Laetrile)
 アミグダリンは青酸配糖体で、アンズ、ウメ、モモ、スモモ、アーモンド、ビワなどのバラ科サクラ属の未熟な種子にある仁に多く、未熟な果肉や葉、樹皮にも微量含まれる。俗に「がんに効く」「痛みを和らげる」などと言われているが、ヒトにおける安全性・有効性については、米国がん研究所(NCI)での臨床試験では、がんの治療・改善及び安定化、関連症状の改善や延命に対し、いずれも効果がないとされた。この物質は酵素分解されるとシアン化水素 HCNを発生する。
8.ω3不飽和脂肪酸 (DHA、EPA) (前出)
 体内酵素で炎症細胞やがん細胞に多く存在するものにCOX-2(シクロオキシナーゼー2)があり、炎症反応や血管新生、発がんなどに関与しているとされ、この酵素が過剰に発現しているがんとして、大腸がん、乳がん、胃がん、食道がん、肺がんなどが報告されている。ω3不飽和脂肪酸(代謝順はαリノレン酸→エイコサペンタエン酸→ドコサヘキサエン酸)にはこのCOX-2に対する阻害作用があるが、ω6不飽和脂肪酸(代謝順はリノール酸→リノレン酸→アラキドン酸)は逆に促進する作用がある。ところでヒトを含む動物は、多くの不飽和脂肪酸の中で、αリノレン酸とリノール酸を合成できず、この2種の不飽和脂肪酸は動物にとって絶対不可欠で、これらは食物から摂取しなければならない必須脂肪酸である。プロスタグランジンE2(PGE2)という生理活性物質は、増え過ぎるとがん化しやすくし、進行も速めることが分かっている。PGE2は細胞の増殖や運動を活発にしたり、細胞死を起こりにくくする生理作用があるため、がん細胞の増殖や転移を促進する働きがある。そして一般的にはω6系脂肪酸はがんの発育を促進し、ω3系脂肪酸はがんの発育を抑制するので、摂取するω3系とω6系の脂肪酸の比ががんの発育に影響を及ぼすことになる。ω3不飽和脂肪酸は「魚」に多く含まれていて、PGE2の産生を抑制し、がん細胞の増殖・転移や腫瘍血管の新生を抑制し、がん細胞のアポトーシスを促進し、結果としてがんの増殖を抑制する。一方、「肉」に多く含まれるω6不飽和脂肪酸は、逆にPGE2の産生を促進し、がん細胞の増殖・転移や腫瘍血管の新生を促進し、がん細胞のアポトーシスを抑制し、結果としてがんの増殖を促進することになる。

2010年1月21日木曜日

いわゆる抗ガンサプリメント (3) 血管新生阻害物質

 がん細胞が新生されるには、この新生細胞に酸素や栄養を送り込む血管の新生が必須で、この血管の新生を阻止すれば、新たながん細胞の増殖を止めることができる。しかし抗血管新生特性のある物質の投与は、冠動脈疾患や末梢血管疾患のある人には慎重を要し、時に病状が悪化する可能性がある。また手術前後の人や外傷の人では、傷の治りが悪くなる可能性もある。

1.サメ軟骨 shark cartilage (別名サメノフカヒレ)
 サメはがんを発症しないという説が登場して以来、俗に「サメの軟骨」はヒトでもがんを防ぐのではないかと言われてきた。しかしその後の研究で、サメにも腎臓がん、リンパ腫、軟骨腫があることが確認された。でも未だに「サメ軟骨」にはある程度の抗がん作用があると信じられているが、それを裏付ける科学的なデータは見当たらない。サメ軟骨の成分は、40%がタンパク質、5-20%がグルコサミノグリカン(コンドロイチン6硫酸及びコンドロイチン4硫酸)で、ほかに Ca塩を含む。アブラツノザメの胃や肝臓から発見されたスクワラミンは、いわゆるサメ軟骨の成分とは別のものである。
 副作用としては、吐き気、嘔吐、消化不良などを起こすことが知られているほか、急性肝炎の症状である微熱、黄疸、眼球黄変などが起きるという報告もある。サメ軟骨製剤には Caを多く(25%程度)含んでいるものもあり、摂取により時に高カルシウム血症を起こす可能性がある。したがって高カルシウム血症患者には使用が禁忌とされている。また血管新生障害が起きる可能性があるため、小児に対する使用は控える。
 がん治療に対しては経口摂取で効果がないことが示唆されていて、乳がん、大腸がん、肺がん、前立腺がん等の進行がんあるいは治療中のがんについては効果がなかった。ただ経口摂取により進行している腎細胞がん患者に対しての延命効果が示唆された報告がある。
2.スクワ(ア)ラミン squalamine
 健康食品の素材情報には記載がない。1993年に深海サメ(アイザメ)の臓器から発見された自然物質で、抗腫瘍活性、殺菌能力があり、新生血管阻害作用があるとされる。
3.スクワ(ア)レン squalene
 この物質はトリテルペンの1つで、ステロール生合成の中間体として重要である。サメ類の肝油に多く含まれていて、中でも水深1000mの深海に棲むアイザメの肝油は特に良質とされ、その成分であるスクワレンを「深海ザメエキス」と呼ぶことがある。俗に「肝機能を高める」「免疫力を高める」と言われているが、ヒトでの有効性・安全性に関しては信頼できる充分なデータは見当たらない。

付.DHA ドコサヘキサエン酸 docosahexaenoic acid
 炭素数が22、不飽和結合が6の n-3系の直鎖多価不飽和脂肪酸でEPAと同様、主に魚に含まれる必須脂肪酸の1つである。生体内では脳や神経組織、精子などに多く存在し、俗に「動脈硬化や高脂血症の予防や改善によい」「脳の発達によい」「がんの発生や転移に効果がある」などと言われている。ヒトでの有効性については、冠状動脈疾患に対しての有効性が示唆されている。また魚油を含む魚の摂取量が高いと、前立腺がんのリスクが低下するとの報告がある。多く含まれる食品としては、マグロ、カツオ、ブリ、サバ、イワシなどがある。
付.EPA エイコサペンタエン酸 eicosapentaenoic acid
 炭素数が20、不飽和結合が5の n-3系の直鎖多価不飽和脂肪酸で、青背魚に多く含まれる必須脂肪酸の1つである。魚やアザラシを常食とするイヌイットでは、脂肪摂取量が多いにもかかわらず、血栓症や心疾患が非常に少ないことから注目された栄養素である。俗に「動脈硬化や高脂血症などの予防や改善によい」と言われている。有効性については、冠状動脈疾患に対しての有効性が示唆されているほか、中性脂肪を低下させる機能、抗凝血機能がある。多く含まれる食品としては、サバ、イワシ、マグロなどがある。

2010年1月20日水曜日

いわゆる抗がんサプリメント (2) 抗酸化物質

 ここでいう抗酸化物質とは、抗酸化性のビタミン及びビタミン前駆物質、ビタミン様物質並びにカロテノイド及びポリフェノールを指す。これらの物質は二重結合を多く含んでいるので抗酸化作用が大きく、生体内でフリーラジカルを除去し、一重項酸素を消去し、がんの発生や悪化の原因となる活性酸素を除去する。
 しかし一方で抗がん剤や放射線治療中に過剰に摂取すると、これらの治療法は活性酸素の力を利用してがん細胞を死滅させるため、抗酸化サプリを過剰に摂取すると、活性酸素を消去して治療効果を弱める可能性がある。また βカロテンは、喫煙者が過剰に摂取すると、肺がんの発生・増殖を促進する可能性があるとされている。

1.抗酸化性ビタミン
1.1 ビタミンC (アスコルビン酸) L-ascorbic acid
 抗酸化作用をもつ水溶性ビタミンで、体内ではコラーゲンの生成並びに重要な抗酸化物質として作用する。食品で100mg/100g以上含まれるのは、芽キャベツ(160)、赤・黄ピーマン(160)、ブロッコリー(120)、菜の花(110)、レモン(100)である。VCはほとんどの動物では生体内で生合成できるが、ヒトとモルモットでは合成酵素の欠損から生合成することができない。 VCは生体内ではストレスや喫煙によって消費されることが知られている。一般に「コラーゲンの合成を促進する」「抗酸化作用がある」「FeやCuの吸収を妨げる」「メラニン色素の生成を抑制する」「免疫力を高める」などと言われている。食事からのVC摂取では、がんのリスクや死亡率を低減させる効果があるとされるが、サプリメントではそのような効果はないという。 
1.2 ビタミンA (レチノール) retinol
 動物性食品に含まれている脂溶性ビタミンの一つで、1mg/100g以上含まれる食品としては、ニワトリ肝臓(14)、ブタ肝臓(13)、ウシ肝臓(1)、ヤツメウナギ(8)、ウナギ(2)、ギンダラ(1)がある。植物性食品に含まれるカロテンは、生体内ではVAに変換される。VAは上皮、器官、臓器の分化に関与することから、妊婦や授乳婦にとっては特に必要なビタミンである。一般に「眼や結膜を正常に保つ」「夜盲症を防ぐ」「がんのリスクを軽減する」などと言われている。しかしがん患者の2次がん再発リスクの減少に対しては恐らく効果がないのではと言われている。ただ経口摂取による乳がんの予防に対しては有効性が示唆されている。脂溶性であるので、過剰摂取には注意が必要である。
1.3 ビタミンE (トコフェロール) dl-α-tocopherol
 脂質の酸化を抑制し、結果として細胞膜やタンパク質、核酸の損傷を防ぐ作用を有する脂溶性ビタミンの一つである。VEが不足すると神経障害を引き起こす。食品では植物油(コーン油、大豆油、サフラワー油)や小麦胚芽、アーモンド、落花生などに多く含まれる。一般に「活性酸素を消去する」「心疾患、脳卒中、がんを予防する」「老化を防止する」などと言われている。VE単独では効果はないが、 βカロテンとSe、VAとVCを組み合わせると、がんの発生率や死亡率の抑制に効果があることが示唆されている。
2.ビタミン前駆物質
2.1 カロテン carotene
 カロテノイドに属する色素で、生体内でVAに変換される物質で、プロビタミンA である。その代表が βカロテンで、最も効率よくレチノールに変換され、VA作用を介して上皮、器官、臓器の成長や分化に関与している。 βカロテンが1mg/100g以上含まれる食品としては、ニンジン(9)、ホウレンソウ(5)、シュンギク(5)、コマツナ(3)などがある。俗に「活性酸素を消去する」「がんを予防する」「LDL-コレステロールを低下させる」などと言われている。前立腺がん、胃がんの予防に役立ち、がんの発生率や死亡率の抑制効果が示唆されるという報告がある。
3.ビタミン様物質
3.1 コエンザイムQ10(CoQ10) coenzyme Q10
 肉類や魚介類などの食品に含まれている脂溶性の物質で、ヒトの体内でも合成されていることから、ビタミン様物質といわれる。ビタミンQともいわれ、生物界には広く分布している。キノン構造を有することから、ユビキノン ubiquinone と呼ばれることもある。コエンザイムQ10の「10」という数字は、構造中のイソプレンという化学構造の繰り返し数を表している。1957年、電気伝導系に関与する補酵素としてウシ心臓ミトコンドリアから分離された。コエンザイムとしてATPの産生に関与、また抗酸化物質として注目される。この物質は脂溶性のため、脂肪の多い食事と共に摂取すると吸収率が高まる。体内では、呼吸活性の高い心臓、肝臓、肺臓、腎臓、副腎などに多く含まれる。細胞では、ミトコンドリア内膜、血液中では LDLなどのリポタンパク質に結合して存在する。ヒトでは脳と肺以外では、還元体(ユビキノール)の形態をとる。血漿中のCoQ10の40%は食事由来、60%は体内で合成されたものである。俗に「活性酸素の増加を抑制する」「免疫増強作用がある」と言われる。 in vitro や in vivo で脂質の抗酸化作用や免疫細胞や白血球の作用を高め、免疫増強作用があることが確認されている。純品には毒性はなく、経口投与では高用量でも副作用がない。医薬品や健康食品に配合されるのは、テンサイやサトウキビを原料とし、酵母等の微生物による醗酵や化学合成により製造される。
4.カロテ(チ)ノイド carotenoid
4.1 カロテン類 carotenes (CとHで構成)
4.1.1 α,β,γ,δ カロテン α-,β-,γ-,δ-carotene (前出)
4.1.2 リコペ(ピ)ン lycopene
 トマトなどの野菜やスイカ、ピンクグレープフルーツ、アンズ、グアバ等の果物に含まれる赤い色素で、カロテノイドの一種である。VA作用はないが、一般のカロテノイドの中では抗酸化作用が強く、俗に「美白効果がある」「ダイエットに効く」「血糖値を下げる」「動脈硬化を防ぐ」「がんを予防する」「喘息によい」と言われている。食事に由来するリコペンとがん予防効果等の関連については、ヒトでの科学的知見が増えてはいるものの、サプリメントとしての有効性については調べた文献では十分なデータはない。
4.2 キサントフィル類 xanthophylls (CとHとOとで構成)
4.2.1 ルテイン lutein
 植物の緑葉、黄色花の花弁や果実、卵黄など、自然界に広く分布するカロテノイドである。生体内ではVAに変換されない。俗に「目によい」「抗酸化作用がある」などと言われている。トウモロコシ、ホウレンソウなどの緑黄色野菜に多く含まれる。ヒトの生体内では合成されない。食事から多く摂取した人において、結腸がんの発生リスクを減少させたことが示唆される疫学調査がある。但しサプリメントとして摂取した場合の効果は不明である。
4.2.2 アスタキサンチン astaxanthin
 サケ、イクラ、タイ、エビ、カニの赤色色素で、抗酸化作用をもち、血中のコレステロールの酸化を抑える作用が強く、また血管壁を守る働きがある。
5.ポリフェノール polyphenol
 ほとんどの植物に含有され、その数は5000種以上に及ぶ。光合成によってできる植物の色素の苦味成分で、植物細胞の生成、分裂、活性化などを助ける働きをもつ。1992年ボルドー大学のセルジュ・レヌーが、肉類や乳脂肪を摂取しても、赤ワインを日常的に飲用していると、心臓病による死亡率が低いという説を出し、その後含有するポリフェノールに動脈硬化を防ぐ抗酸化作用や内分泌促進作用、抗変異原性があることが判明した。
5.1 フラボノイド類 flabonoids
5.1.1 カテキン catechin
 緑茶や紅茶の渋み成分で、俗に「抗酸化作用がある」「コレステロールを低下させる」「抗菌作用がある」などと言われている。緑茶を飲用すると、各種がんのリスクの低減に対して有効性があることが示唆されている。
5.1.2 アントシアニン anthocyanin
 植物の花や果皮に広く分布するアントシアン色素のうち、アントシアニジンの配糖体をアントシアニンという。糖鎖の構成により多くの種類があり、ブルーベリーやブドウに多く含まれる。俗に「視力回復によい」「動脈硬化や老化を防ぐ」「炎症を抑える」などと言われている。
5.1.3 ルチン rutin
 ルチンはビタミン様物質であるビタミンPの一種で、ケルセチンと二糖類のルチノースからなるフラボノイドである。ソバ、イチジクに多く含まれていて、俗に「高血圧を予防する」「毛細血管を強化する」などと言われている。
5.1.4 イソフラボン isoflavone
 イソフラボンは大豆、レッドクローバー、クズなどのマメ科の植物に多く含まれているフラボノイドの一種で、通常イソフラボンは配糖体として存在しているが、摂取されると腸内細菌等の作用により糖部分が分離したアグリコン型になって消化管から吸収される。イソフラボンは大豆とその他の由来のものとは組成が異なり、得られる効果にも違いがある。女性ホルモン様働きがあるのは大豆イソフラボンで、後述する。
5.2 その他のポリフェノール類
 フェノール酸類 :コーヒーに多いクロロゲン酸など
 エラグ酸類 :イチゴに多い
 リグナン類 :ゴマに多いセサミンもこの一種
 クルクミン類 :ウコン、ショウガに多い
 クマリン類 :サクラの葉、パセリに多い
6.大豆イソフラボン soybean isoflavone
 大豆イソフラボンは他のイソフラボンとは異なり、性ホルモンのエストロゲンに似た働きをすることから、植物性エストロゲン phytoestrogen と呼ばれている。大豆胚芽に特に多く含まれ、今のところダイゼイン、ゲニステインを代表とする15種類の大豆イソフラボンがj確認されている。俗に「女性ホルモン様の作用をする」「骨そしょう症の予防や更年期障害を軽減する」「脂質代謝の改善などに有効である」などと言われている。大豆イソフラボンの有効性や安全性を解釈する場合には、少なくとも豆腐などの通常の食材の形態で摂取するのと、サプリメントのような濃縮物で摂取するのとでは、異なった考え方で対応する必要がある。大豆イソフラボンは経口摂取で、乳がんや子宮体がん、前立腺がんの予防に有効性が示唆されている。しかし一旦乳がんや子宮体がんなどが発生すると、エストロゲン様作用により、逆にがん細胞の増殖を促進する可能性がある。また、がんの治療に抗エストロゲン剤の治療を受けている場合は、効果を阻害する可能性がある。




 

2010年1月15日金曜日

いわゆる抗がんサプリメント (1) キノコ類と酵母

 現在市場に出回っているいわゆる「抗がんサプリメント」と称するものについて、主に国立健康・栄養研究所のホームページにある「素材情報データベース」から、主としてその有効性と安全性について紹介する。一部現在薬剤として使用されているものについては、「治療薬マニュアル」を参照した。紹介順は50音別によった。
 キノコ類の俗に「抗がん効果がある」とか「免疫力を高める」といった効果は、キノコ類に共通して含まれる多糖体のβ-(1→3)D-グルカンやβ-(1→6)D-グルカンが主作用成分であるとされるが、これら高分子グルカンはキノコの種類、菌株、産地、生育条件、採取時期等によって、β-D-グルカンの構造特性や成分含量には大きな違いがあり、その構造と活性との関連については、これまで一定の見解がないのが現状である。

1.アガリクス Agaricus  → ヒメマツタケ
2.カワラタケ  瓦茸  (タコウキン科、カワラタケ属)
 素材情報DBに記載はないが、菌糸体から得られた β-D-グルカンの「かわらたけ多糖体製剤末(krestin=PSK)」(製品名クレスチン)は、in vitroで白血病細胞、ヒト肝細胞に対して細胞増殖抑制を示し、また in vivoでも種々のがんに対して抗腫瘍効果がある。この製剤は現在「非特異的抗悪性腫瘍剤」として、消化器がん手術後の患者における化学療法との併用による生存期間の延長や、小細胞肺がんに対する化学療法併用での奏功期間の延長の目的のために経口投与され使用されている。
3.カワリハラタケ  → ヒメマツタケ
4.シイタケ  椎茸 (キシメジ科、シイタケ属)
 食用キノコで、東アジア、ニュー-ジーランドに分布する。日本では春・秋の2季に、シイ、クヌギ、コナラなどの広葉樹、稀に針葉樹の倒木や切り株にも発生する。現在はホダ木による人工栽培が行われている。健康食品として俗に「免疫賦活作用がある」「抗ステロール作用がある」と言われているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータは見当たらない。食事で摂取する量ならば安全であるが、アレルギー体質の場合には、腹部不快感や皮膚病や光過敏症を起こすことがある。成分はレンチナン(β-D-グルカンを主体とした多糖類)、エルゴステロール(VD前駆体)、オレイン酸、リノール酸、VB群で、レンチナンに関しては、胃・大腸・肺・卵巣・乳・膵臓・肝臓・食道がんの付加的治療への使用について有効性を示唆する予備的な報告がある。特に胃・大腸・肺がんに対しては有効性が示唆されている。微粒子分散したレンチナン含有食品には、抗がん剤の副作用の発現抑制効果がある。
 また「非特異的抗悪性腫瘍剤」として収載されている「レンチナン注」は、シイタケの子実体より抽出して得た抗腫瘍性多糖類を精製したもので、β-(1→3)結合を主鎖とする高分子グルカンである。適応は手術不能または再発胃がん患者における代謝拮抗剤テガフール経口投与との併用による生存期間の延長で、週1-2回静注する。
5.スエヒロタケ 末広茸 (スエヒロタケ科、スエヒロタケ属)
 素材情報DBに記載はないが、菌糸体の培養ろ液から得られる抗腫瘍性多糖体(β-(1→3)D-グルカン)のシゾフィラン(sizofiran=SPG)は、免疫機能を活発にすることで腫瘍増強抑制・転移抑制・延命の効果がある。製品名は「ソニフィラン注」で、適応は子宮頚がんの放射線治療の直接効果の増強で、腫瘍の発育を抑える「非特異的抗悪性腫瘍剤」として収載されている。
6.トウチュウカソウ 冬虫夏草 (バッカクキン科、トウチュウカソウ属)
 キノコの胞子が昆虫の幼虫に寄生して、その体内に菌糸の塊りである菌核を充満させ、時期がくると昆虫の頭部や関節部から棒状の子実体を伸ばしたものの総称で、中でもコウモリガの幼虫に寄生するチベット産のもの(ブレゼイ冬虫夏草)が有名であるが、ほかにも多くの種類がある。中国では古くから漢方の素材として滋養強壮作用があり、慢性疲労や病後の回復によいとされ、また滋養強壮の薬膳料理として幅広く使用されてきた。現在化学療法後のがん患者の生活の質(QOL)と細胞性免疫の向上及びB型肝炎患者の肝機能の向上に対して、一部の人では有効性が示唆されている。安全性については、経口で適切に使用する場合には問題はない。成分としてのβグルカンの含量は通常のキノコの約170倍と多く、アミノ酸、ミネラル、ビタミンも豊富である。またATP分子を増やす効果があり、肝臓に蓄えられるATPを30%増やすとされる。
7.ハナビラタケ 花びら茸 (ハナビラタケ科、ハナビラタケ属)
 亜高山帯の針葉樹の根元や切り株に発生する食用キノコで、俗に「抗がん作用がある」とされ、一部栽培もされている。素材情報DBに記載はないが、β-(1→3)Dグルカンの含量は通常のキノコの40倍と多い。
8.ヒメマツタケ Agaricus  姫松茸 (ハラタケ科、ハラタケ属)
 属名が英名になっていて、食用のハラタケとは同属である。学名を Agaricus blazei、別名をカワリハラタケという。1965年にブラジルから移入され、人工栽培されている。俗に「抗がん効果がある」「免疫賦活作用がある」「血糖降下作用がある」などと言われ、「アガリクス」という名の付く健康食品が数多く出回っているが、これまで公式にヒトに対する有効性と安全性については、信頼され参考になる十分なデータは見当たらない。成分としては、他のキノコに比し粗タンパク質が43%と多いほか、多糖類、アミノ酸、VB群、エルゴステロール(VD前駆体)、Mg、Kなどを含むとの報告があるが、通常のキノコより10倍は多く含まれるというβーD-グルカンも含め、その含量は製品により大きなバラツキがあるとされる。アガリチンの含有量は乾燥重量の500-5000mg/kgである。有効性については、ヒトへの投与でNK活性が増加したという報告があるが、対象人数が少ないうえ期間も7日と短く、更なる検証が必要である。in vivoでは、①熱水抽出物をマウスに経口投与すると脾臓の免疫細胞が有意に増加した、②酸処理画分(ATF)を担がんマウスに注射するとNK細胞の浸潤があり、がん細胞のアポトーシスを誘導し腫瘍細胞の増殖を抑制した、③冷水抽出物を担がんマウスに経口投与したところ腫瘍増殖の抑制があったとの報告がある。
 副作用については、アガリチンによるとみられる肝機能障害があったとの報告がある。また含有されるβ-(1→6)Dグルカンには、リンパ性白血病や悪性リンパ腫など、リンパ球ががん化する病気に用いると、発がん作用を促進・助長する発がんプロモーター効果があるものがあり、これらについては回収と販売の停止がなされた。また免疫力の増強により、免疫細胞から分泌される物質によって、がんに伴う炎症が悪化したり、体力の消耗があったとされる例も報告されている。安全性については、副作用の肝障害は使用中止により回復、呼吸困難、紅斑、皮疹も使用中止により改善されたとの報告がある。
9.マイタケ 舞茸 (タコウキン科、マイタケ属)
 ブナ科の樹木の根元に出るキノコで、栽培品も多く、食用として馴染みが深い。マイタケの中国名は「灰樹花」、英名は Gray-maitakeで、その抽出物は「中性脂肪を下げる」「がんを予防する」と言われているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータはこれまで見当たらない。安全性については適切に摂取すれば問題はない。サプリメントとして摂取する場合には、妊娠中・授乳中の場合にはデータがないので、避けた方がよい。成分としてはβ-(1→6)Dグルカンを含み、マイタケ多糖体にはⅡ型糖尿病患者で血糖値を下げる可能性が示唆されていて、ハーブやそのサプリメントと併用すると相乗的に血糖値低下を来たすとされる。
10.マンネンタケ → レイシ
11.メシマコブ 女島瘤 (タバコウロコダケ科、キコブタケ属)
 日本、中国などに分布する桑に寄生する多年生のキノコで、昔から漢方として使われていて、健胃、利尿、止汗、止痢作用があるとされている。メシマコブの由来は、長崎県男女諸島の女島産の「猿の腰掛」を意味し、和漢薬で薬用に供される「猿の腰掛」はこのキノコである。このキノコは八丈島の桑にも発生していることが分かり、江戸時代にはこの両島産のものが良品とされた。中国名は「桑黄」。俗に「免疫力を向上させる」「がんを予防する」などと言われているが、ヒトでの有効性についてはデータが見当たらない。安全性については、大量に摂取すると下痢や嘔吐を起こす可能性がある。成分としては、子実体に汗腺の分泌を抑えるアガリシン酸やアガリチンのほか、β-(1→3)(1→6)Dグルカンを含み、水溶性エキスには抗腫瘍性があるという研究報告がある。一方で間質性肺炎を発症した例がある。
12.ヤマブシタケ 山伏茸 (サンゴハリタケ科、ヤマブシタケ属
 傘を分化せず、全面から長さ1-5cmの柔らかい針を垂らし、全体は倒卵形~卵形の塊をしており、広葉樹の立ち木や枯れ木に下向きに垂れ下がる。その形が山伏の衣装についた飾りに似ていることから、この名が付いた。中国でも日本でも食用とされる。別名はシシガシラ、ハリセンボン、上戸茸。成分としてヘリセノンが子実体から、エリナシンが菌糸体から分離されているほか、β-D-グルカンが通常のキノコの30倍程度含まれる。俗に「中年の物忘れを改善する」「免疫力を高める」と言われているが、ヒトに対する有効性については信頼できる充分なデータは見当たらない。安全性については、ヤマブシタケ摂取によると考えられる急性呼吸不全、接触性皮膚炎の報告がある。
13.レイシ 霊芝 (マンネンタケ科、マンネンタケ属)
 北半球の温帯広葉樹林にみられるキノコで、中国では紀元前200年から記述がある歴史の古い漢方素材である。一般に食用とはしない。古来より6種の霊芝が記され用いられてきたが、現在では赤霊芝と紫霊芝の2種類のみが使用される。一般的にはサルノコシカケの一種であるマンネンタケのことを「霊芝」と呼んでいる。近年霊芝の多糖類が注目され、俗に「抗腫瘍活性がある」と言われているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータが見当たらない。ただ in vivoで、熱水抽出物にNK細胞を活性化する、水溶性多糖類に抗腫瘍効果がある、in vitroで子実体の多糖類には白血病細胞株の増殖抑制作用があるとの報告がある。安全性については、血小板減少症の人では出血傾向、血圧低下作用のある医薬品との併用により低血圧を起こす可能性がある。主な成分は、トリテルペノイド60種以上(ガンデリン酸ほか)、フコフルクトグリカン、ペプチドグリカン、アラビノキシルグリカン、β-D-グルカン(通常のキノコの数倍量)などの多糖類のほか、エルゴステロール(VD前駆体)、マンニトール、種々の脂肪酸などが含まれるが、品質は同一産地、同一品種であっても、栽培条件や収穫時期により異なる。
付. パン酵母・ビール酵母 (サッカロミセス属)
 酵母(イースト)は糖を分解してアルコールと炭酸ガスを生成し、醗酵食品には欠かせない微生物で、菌体には醗酵に必要なビタミン、ミネラル類をはじめ、タンパク質、グリコーゲン、セルロース、脂肪などを多く含む。酵母はビタミン剤の製造原料となるほか、乾燥酵母としても用いられる。ビール酵母の細胞壁を構成するセルロース由来の食物繊維を関与成分とした特定保健用食品が許可されている。これまで俗に「肝機能を向上させる」「老化防止や美容に効果がある」などと言われているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータは十分ではない。酵母製品においては、ビタミン、ミネラルのほか、機能成分として、キノコ類に広く含まれる多糖類の β-D-グルカンが多く含まれていることから、近年その働きが注目されている。