表記標題の初出は「探蕎」会報第21号(平成15年5月17日発行)で、そば処「敬蔵」へ訪れたのは平成15年(2003)4月26日と27日である。 「晋亮の呟き」に転載する。
4月26日の湯涌みどりの里での「手打ちそば賞味の会」に助っ人参加の源野君(小生とは野々市小・中学校の同窓生の仲)の車の中で、彼が言うには、近所にそば屋が開店し、その当日の22日に寄ったと。そして小生に名刺大二つ折りの案内をくれた。開店の案内は一切なかったが、彼は住居の本町一丁目の縄張りの内とて、家屋が解体された後、何ができるのかと思ったらそば屋だったので、開店当日に出かけたとのことだった。主人の志鷹敬三さんは「宮川」で1年ばかり修行して後の開店とか。彼からはそばの話はなかったが、テーブルが炬燵風に足を下ろせるのが良かったという。
みどりの里での会には、何故か療養中の「山英」の親爺、山村英昭さんがお目見えで、お開きの時に、源野君がくれた例の「敬蔵」の案内を、皆さんに「わしの孫弟子」とのふれこみで配っておいでた。こうならば、どうしても行かずばなるまい。
案内には、営業時間は昼(午前11時30分~午後2時30分)と夕方(午後5時30分~8時)で、なくなればそれまで。ならばと5時30分に寄った。ところが未だ暖簾が出ていない。10分待ち40分過ぎに入れた。一人だったのでカウンターに座る。ところが見目麗しい優男の主人と思しき人が、「少々待って頂けますか」と、この時間、客は小生一人のみ、選挙前日とて気は急いたが、落ち着いたふりで「一向に差し支えありません」と言ってしまった。その間主人はそばを延している様子、細打ちの分とか。訊けば、初の土曜日なので、そばの量の見当がつかず、この日の昼の部は1時半にはなくなってしまった由。
注文は、細打ちの「もり」と太打ちの「おろし」にした。勝手場には女性二人、妙齢の細い人と若い大柄な人、入口の開店祝いに、家内の従兄弟の名前があるのが気になり、それとなく尋ねる。すると大柄な若い人が「私の父です」と、「何故ここに」、「主人と一緒です」。妙齢の方は叔母さんとか、「私、木村です」、「あゝ、孝ちゃんの旦那さん」、大体様子が分かってきた。家内に話すれば、きっとびっくりするだろう。
店のトレードマークは『石臼荒挽手打蕎麦』、表の看板には『自家製粉の蕎麦粉と水だけで打ったそば、そばの実本来の味と香りを届けます』とある。玄蕎麦は福井産を主に、季節によって、栃木、会津、北海道産の使用を予定しているとか。そして太打ちは蕎麦の実を殻ごと、細打ちは殻を剥いだ後に、石臼挽きした由。また冷と温とでは別々に茹でるとあり、また茹で加減もお好みに応ずるとも、御丁寧至極である。
待つこと暫し、やゝあって初めに所望の細打ちの「もり」が運ばれてきた。細打ちにしては若干太め、中打ちというべきか、でも手びねりの陶製の皿に程よく盛られている。薬味の葱・おろし・山葵は細長の皿に、つゆは片口に、それにそば猪口が角盆に、いずれも既製のものではない。この趣向は「山英」「宮川」と受け継がれたものに相違ない。見た目には上等の上である。そばは甘皮の風合いを残していて、仄かな香りと色合い、でもホシは小さい。早速そばを手繰る。ムムッ、ぬめりがキチッと取れていない感じ。荒挽きと言えば、あの「多門」の透明感のある清冽なそばには及びもつかないが、みどりの里での源野君の荒挽きにもひけをとっている。大甘で総合して「中の上」か、精進を期待しよう。次いで、挽きぐるみの田舎そばの太打ち。おろし、つゆは別で感じが良い。太打ちとは言え、越前そばのような豪快さはなく、どちらかと言えば中太でなよっとした感じ、そして荒挽きの風情のホシは曇って見えず、でも、かたさ、のどごしはまずまずの出来、総合で「上の下」か。済んだ後で、とろみのあるそば湯が、そば湯製造機からそば猪口に注がれ、カウンター越しに「どうぞ」と。
勘定を済ませて出たのは6時半過ぎ、出るときに若夫婦に、お世辞でなく、「素晴らしい器ですね」と言った。7時を過ぎてのこのこと選挙事務所へ行くのも憚り、明夜の当選時に寄ることにし、帰宅とする。帰って家内にかくかくしかじか、明日投票の足で昼の部に寄ることにしたが、家内は「まさか」と呆れ顔。でも自宅が旧宅の近くにあることは知っていて、隣にあるサークルKも経営しているとも。変なご縁となった。
次の日、開店10分前に着いた。入口右手にガラス張りの延し場、やゝ進むと右手に電動石臼、暖簾はまだ出ていない。と、二人連れがさっさっと店に入っていく。「いらっしゃいませ」。何と不可解な。我々も入る。次いで劇的シーン、「孝ちゃん」「明ちゃん」、抱擁はなかったが、大変な騒ぎ、そこへまた生みの親のご登場、てんやわんやになった。昨日に懲りて、総動員でお手伝いとか、客が次々と入って来る。宣伝なしでこの始末、でも全員親戚とかお友達の様子、初めの二人連れは喫煙可の炬燵式テーブルに。このテーブルは、四人掛けが1つ、二人掛けが2つある。奥には炬燵式囲炉裏(10人ばかり掛けられる)があり、ここと座敷(20人ばかり入れる)は禁煙である。私達は囲炉裏を希望したが全席予約済み、座敷でと言われたが、家内の希望で喫煙席へと移った。
蕎麦前は、家内ビール、小生黒帯熱燗、つまみはそば豆腐とにしん煮、熱燗が片口で登場した。徳利でないのが新鮮だ。そばは、とろろ(細打)と鴨汁(細打)を所望する。ところで勝手場には6人もいて、船頭多くしての感じ、慣れないせいもあって段取りがよくない。それに挨拶がこれまた長い。我々もその類なのだが。蕎麦前がなくなる頃、注文のそばが届いた。器は上出来、で細打ちはというと、今日のは正に細打ち、ホシも昨日より大きい。ところがそばが切れ切れ、何が問題なのか。これでしっかりつながっていれば申し分ないのだが、一難去ってまた一難。願わくは、むらのない、常に高いレベルのそばを提供できるよう精進してほしいものだ。贔屓目でなく、これぞ「敬蔵そば」、さすが「敬蔵そば」と言われるようになることを祈るばかりだ。取り巻き連が去った後どうなるのか、その時初めて真価が問われることになろう。諸兄姉はどう感じとられたであろうか。
品書きは次のようである。[冷]もり(細・太),おろし(太) 各800円、とろろ(細) 1,100円、鴨汁(細) 1,300円、そばづくし(鴨ロース,にしん煮,旬菜盛合せ,そばがゆ,そば豆腐,もり・おろし,氷菓) 1,800円。[温] かけ(太),おろし(太) 各800円、とろろ(太) 1,100円、にしん(細) 1,200円、鴨南(細) 1,300円。
[つまみ] そば豆腐 300円、にしん煮 500円、鴨ロース 600円。他に飲み物、ノンアルコールもある。
そば処「敬蔵」 住所:野々市町本町一丁目8番28号 電話 076-294-1486
[後記]上記の記述は開業当時の状況を記したものである。現在8年を経過しているが、その間の進歩は目覚しく、その進化には目を見張るものがある。ずっと十割生粉打ちのそばを信条として提供しているが、そのレベルは最高クラスであり、どの店にも引けをとらない。まだ訪れていない方があれば、ぜひ一度足を運ばれることをお勧めする。
2011年7月26日火曜日
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