2011年7月21日木曜日

台風6号強風下の白山

 かねて念願だった美濃禅定道(南縦走路)を辿るべく、梅雨明けを待って実行することにした。ところで74歳ともなると、平生は負荷をかけたトレーニングをしていないこともあって、南竜山荘から石徹白までの24 kmの走破を単独で行なうのにはいささか不安があり、前田さんに相談していたところ、同窓の宮川さんを推薦してくれた。彼は十数年前には、私とも何回か山行を共にしたことがあるが、山好きが高じて、深田百名山までも踏破してしまった人である。昨年百名山を完登した祝賀コンパの席上、無理をお願いしたところ、随伴OKの快諾を得、更に石徹白は交通の便が極めて悪く、車がないと入るにも出るにも難儀な場所であり、この足は前田さんに協力して頂けることになり、こうして実行できることになった。
 私がこのコースにこだわる一番の理由は、白山の全登山路のうち、通っていないのはこの南縦走路の別山~石徹白のみだからである。無雪期に限れば、北縦走路のゴマ平~妙法山も未だ歩いてはいない。ところで加齢とも相まって、体力の低下は顕著で、特に下半身の衰えは年々加速していることが自覚でき、それに伴うバランス感覚の衰えもあって不測のアクシデントが起きる可能性も増してくる。このような事態にあって、宮川さんのような強力な助っ人に協力して貰えれば百人力、大船に乗った感がする。
 善は急げ、今夏の梅雨明けに挙行することにした。白山の夏山開きは7月1日、大概梅雨明けは7月中旬頃だから、それ以降にする。6月末の南竜山荘の宿泊予約を見ると、16,17日は既に満員なこともあって、出発は18日の月曜日(海の日)とした。でも今からすると、この年、石川県での梅雨は、例年より遅く入ったものの早く上がったこともあって、入山は15日(金)とすべきだった。何故かというと、梅雨明けの10日から17日はずっと晴だったからである。しかも南海上には台風6号が発生、しかも超大型に発達、その影響もかなり心配になった。でも天気予報では、北陸への影響は20日過ぎということだったので、下山してしまえば影響が出てもかなりと思っていた。
 18日は午前4時に宮川さんと共に家内運転の車で出発、市ノ瀬へ向かう。昨日までは快晴だったが今朝は曇り空、歩くには絶好と気を休める。1時間ばかりで市ノ瀬へ、折りよく別当出合へ行くバスに乗り込む。別当出合に着くと、バスが初発だったにも拘らず既に登山者が大勢、訊けばバスをチャーターした団体だとか。全員が女性である。今や山では女性が老いも若きも主流を占めている感がある。以前なら女性団体のパーティーがいると、その前に出発せねばと焦ったものだが、今ではその元気がないのは寂しいがそれが現実である。いつか女性団体に遅れをとってしまってショックを受けて以来というもの、無駄な抵抗はしないことにしている。宮川さんも薄々それを承知しているのか、私のペースでどうぞと言ってくれた。
 登りのコースは砂防新道、新しくできた甚之助小屋を見たかったせいもある。昨年暮れに出かけた時は、若干雪があったが突貫工事で仕事をしていた。私の住む野々市町の清水建築が工事を請け負っていたので、よく知っている。新しい小屋は浄化槽も完備されていて、中々コンパクトな感じ、中には毛布も置いてあり、20人は優に泊まれ、実に快適な空間、旧小屋とは雲泥の差である。小屋の前は明るい小広場、別山の全容を眺めることができる。暫時休憩後出かける。ここまで2時間弱、室堂までは4時間はかかろう。3時間を切った昔が偲ばれる。径には黄色のミヤマキンポウゲヤミヤマダイコンソウが目立つ。一ノ越、二ノ越、三ノ越を過ぎて十二曲りへ、ここでは赤系統の花も多くなる。ヨツバシオガマ、コイワカガミ、テガタチドリなど。延命水で喉を潤し、黒ボコ岩へ、更に弥陀ヶ原を横切り、五葉坂を登れば室堂、この頃から風が荒くなる。まだ視界は利くものの、時折ガスが往き来する。標高が高いと台風の影響を受けやすいようだ。
 食事後は大汝峰へ、目的はコマクサの観察である。室堂平ではクロユリが群生していて満開である。斜上する千蛇ヶ池への径にはハクサンコザクラやアオノツガザクラも、砂礫地帯にはイワツメクサやイワギキョウ、程なく千蛇ヶ池へ、しかし池は厚い雪渓の下、ここからの大汝峰はガスに見え隠れ、風も強くなって来た。所々雪田が残っている。この辺りはチングルマの群落が多い場所、アオノツガザクラとコイワカガミの群落もある
 大汝峰の基部からは、標識に従って登る。一段と風が強くなって来た。中間部では岩の部分を登る。稜線に出ると、一層風は強く当たり、時々風をやり過ごすためしゃがむことも。ガスで視界が利かなくなって来た。頂に出て、大汝神社にお参りする。そしてこれからコマクサを観に行こうとしたら、石川県自然解説員の腕章をつけた年配の女性が上がって来た。これじゃコマクサのある場所へ入り込むことは出来ない。しばらくブラついてやり過ごすが、すぐには帰らずに徘徊している。いつか径を外れていたら大声で注意されたことを思い出した。漸く彼女が去り、コマクサを観に行く。6箇所あるのだが、あまり増えていない。実生は確認できるものの、元の株も大きくなっておらず、かえって縮こまったような印象を受ける。場所は適地だと思うのに、思ったほど繁殖していないのはどうしてか。
 風は南西から吹きつけている。時々の突風には往生する。ほうぼうの体で大汝峰から下りた。下る途中で小母さんと会う。基部にはあの自然解説員がいて、今会った人は朋輩だと、彼女らは7月15日から8月15日までの間、室堂と南竜に2名ずつ、2泊3日間詰めるとのこと、勿論ボランティアである。話の中で室堂から南竜山荘へトンビ岩コースを辿りたいと話すと、残雪があり分かり辛いので展望歩道経由を勧めているとのことだった。当初は御前峰を経由して室堂へと思ったが、この風を考慮して往きの径を引き返すことに。
 室堂でもトンビ岩コースには残雪があると言われる。しかし視界は良好なので行くことにする。もしホワイトアウトになると、先ず万歳谷の雪渓の横断で苦労するだろうし、御前坂の雪渓でも手こずることだろう。両方とも横断して対岸の夏径に入らなければならないので、それが大変だ。トンビ岩手前にはハクサンシャクナゲの群落があって丁度花盛り、いつもは花期が過ぎているのに僥倖だった。御前坂の急な雪渓を注意深く下る。そして夏径が見つかり一安心、下りの径にはベニバナイチゴやハクサンコザクラ、ハクサンコザクラは他処より花の色が濃厚だった。南竜山荘横の沢にも雪渓が残っていた。
 宿泊手続きをして山荘に入る。団体が2組、今晩は70人の宿泊とか、寛いで例のごとくアサヒスーパードライ500mlを飲む。宮川さんは飲まずに即席うどん、売店横に見慣れぬ生ビールのタンクがあり、訊くとキリン生とか、料金はアサヒの缶と同じ700円、これも試す。夕食は5時、3時半には配膳のため、食堂を出る。この頃から視界も不良となり、風も着いた頃よりは強くなったようだ。休憩舎にある吹流しが音を立てる程の強さ、台風はまだ四国沖だそうだが、ここ2100mではもう影響が出ているようだ。明日はもし雨風ならば石徹白への下山は無理だろう。宿の民宿「おしたに」にもその旨連絡する。でも石徹白ではまだ影響が出ていないようだった。夕食時、夕方着のツアーの一組と会話、明日は御前峰へ登頂後お池巡り、明後日は別山経由で市ノ瀬へとか。でも天候が心配だ。昨日の予報では、明日までは曇りとかだったが、暗くなって雨も降り出した。風は荒い。
 翌朝、予定では5時の出立だったが、外は濃霧、雨は小降りだが、風は強く、時折ゴーゴーと吹く。別山ルートは尾根筋通し、強風をまともに受けての下山、5時になって別当出合へ下ることにして、石徹白にもその旨伝え、6時に南竜山荘を後にする。もう大部分の宿泊客は下山した模様だ。私の下りの遅さもあって、ほとんど下りの人に会わない。ところがこの天候のなか、十数人の人が登って来る。中飯場で漸く1組の団体さんと会う。別当出合まで2時間10分も要した。金沢へのバスは、11:30,13:30、15:30 の3本のみ、最初の便でも最低3時間待ち。ところがシャトルで下から上がってくるバスがあって、そのバスが 9:30 に市ノ瀬に下るとか、待つことにする。しかしこの強風で倒木が道路を塞ぎ、通行止めに、当初は1時間位で復旧とかだったが、作業に掛かれたのが10時近く、しかも倒木で電線も電話線も切れたものだから、連絡が悪く、状況が一向に伝わらない。じゃ 11:30 の金沢駅行きに乗ろうかと思案していたが、下山者も増え、1台で捌けるかどうかも心配になる。通行止めになる寸前、金沢駅発のバスが上がってきたが、このバスは 13:30 発とか、でも通行止めが解除にならないと動けない。時に11時を過ぎてから、復旧の目処が立たないので、皆さん市ノ瀬まで歩いて下さいと。それまでも大勢の人達が風雨のなか徒歩で下っていったが、ここにきて私達も歩くことに決心する。市ノ瀬まで6km。しかし工事関係車両は上がっても来るし、下っても行く。別ルートがあるのだろうか。この頃になると漸く雨も小降りに、雨具は上のみで歩き出す。するとS字カーブを過ぎた辺りで大型バス2台が上がって来るのと出会う。乗せて貰えますかと聞くと、下る際に乗せてあげますとのこと、期待してともかく歩く。倒木の現場を歩いたが、もうきれいに整理されていた。一抱えものブナの大木が倒れたとのことだった。湯谷林道を過ぎ、4kmばかり歩いた地点でバスが下りて来て乗り込む。大部分の人は市ノ瀬に駐車している人達、私達も一旦は降りたが、このバスはそのまま金沢へ回送するとのことで乗せてもらい、漸く帰還できた。

 再度の挑戦は旧盆前にセットしたものの、石徹白には大型バス7台もの体験ツアーが入り、全民宿とも8月3~9日と前後1日は宿泊できないとのこと、また7月下旬は南竜山荘が満員、とするとリベンジは旧盆後、今のところ8月20日~22日を予定している。

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