2011年7月15日金曜日

「そば」には淡麗辛口の酒が合うーそんな酒を日本酒度と酸度から知るー

 表記標題の初出は「探蕎」会報第18号(平成14年9月25日発行)である。  「晋亮の呟き」に転載する。

 私は少なくとも「そば」の友としてのお酒には、これまでの経験から濃醇な甘口のお酒は向かないのではと思っている。でも真に「そば」に相応しいお酒に開眼したのは、あのつとに有名な黒姫山麓の「ふじおか」での一件があったからだと言える。あの日、「そば」に先立って所望した大吟醸酒の「鄙願」は、吟醸香がほとんどない、水にも似た飲みやすいお酒、もっと旨くて美味しい吟醸香の強い酒が他にも数多あるのにと思いながら口にした次第。ところが青天の霹靂、「ふじおか」の主人曰く、蕎麦の香りを損ねない美味い吟醸酒を求めて全国を行脚し、辿りついたのがこの酒なのですと。これを聞いたときには二の句が告げないほど大変なショックを受けました。爾来、少なくとも「そば」に相応しい蕎麦前としてのお酒は、かくあるべしと肝に銘ずるに至った次第です。
 もっとも各人各様、強要するつもりは毛頭ありません。蕎麦前といったって、熱燗もよし、焼酎もよし、好き勝手にやればよいのですが、しかし蕎麦という素材に相応しいお酒が、私なりにあってもよいのではと思っています。ではそのお酒はどんな、またそんなお酒を飲まずに見分けることが出来ないかというのが、この稿を起こした動機です。
 私は持論として、「そば」には「淡麗でやや辛口」の吟醸酒が必要な条件であるような気がしています。ところで、お酒の味の表現でで根底となるのは、「甘辛」と「濃淡」で、これはアルコール度を別にすれば、お酒に含まれる糖の分量と酸度によって決まるとされています。即ち、糖分が多く酸度が低いお酒は「甘口」であり、逆に糖分が少なく酸度が高ければ「辛口」となる。また糖分と酸度が共に高ければ「濃醇」であり、逆に共に低ければ「淡麗」ということになる。 
 お酒の味は極めて複雑で、同じ蔵でも仕込みによって味が異なるという微妙な差はあるものの、基本的には7~8割のお酒は、糖分と酸度によって、甘辛度と濃淡度によって表現できるということを、国税庁醸造試験所の佐藤・川島両氏が豊富な経験から、数式で示したとされている。しかし私はその数式にお目にかかったことはない。ただこの数式を基にして作成したと思われる図は何度か目にしたことはある。
 その概略は次のようです。
 図に示したように、横軸(X)に糖度を、縦軸(Y)に酸度をとると、1本は右上がりの線で甘辛の境界線で、線の左側が辛口、右側が甘口、もう1本は右下がりの線で濃淡の境界線で、線の上側が濃醇、下側が淡麗と表現されます。そうすると、この2本の斜線によってできる4ブロックのお酒を、右下から反時計回りに、「濃醇甘口」、「濃醇辛口」、「淡麗辛口」、「淡麗甘口」の4タイプに分けることができる。
 そこで私は2本の斜線の交点が(3.5,1.6)であることと斜度から、この2本の線の近似式を求めた。
 すると右上がりの線は     Y=0.75X-1・・・・・(1)
右下がりの線は     Y=ー0.25X+2.5 ・・・(2)
 となった。 ここで Yは酸度、Xは糖度を示す。
 ところで、お酒は糖度ではなく日本酒度で表示されている。これはお酒の比重を示す数字で、温度15℃での密度1の水の比重を(±0)とし、同温でのお酒の比重がこれより軽いものを(+)、重いものを(-)で示し、測定にはボーメ計の目盛りを10倍に拡大した比重計(日本酒度計)を用いる。即ち、糖分が増えれば比重は高くなり、糖分がアルコールに変われば比重は低くなる。つまり、日本酒度の(-)の値が大きいほど甘く、(+)の値が大きいほど辛いということになる。
 私が推測した糖度(X)と日本酒度(Z)の関係は次のようになった。
                Z=ー8.75X+28.75
 これを近似させて       Z=-8.8X+28.8・・・・(3)
 ここで得た(1)~(3)の式を基に、お酒に表示してある日本酒度と酸度から、そのお酒の甘辛と濃淡の度合いを知るチャートを作成した。このチャートは4本の目盛りの縦線から構成されていて、左から順に、日本酒度、糖度、甘辛度を示す酸度、濃淡度を示す酸度から構成される。ここでは、糖度は参考として挙げてある。このチャートを使うと、極めて簡単に、そのお酒がどういう甘辛濃淡の酒であるかを知ることが出来る。
 このチャートの使い方を例を挙げて説明する。
(1)日本酒度が6、酸度が1.2の吟醸酒の場合:日本酒度+6の位置にバーを置く。+6の位置に該当する酸度(甘辛度)は+1弱、酸度(濃淡度)は1.85弱と読み取れる。このお酒の酸度の1.2の値は、甘辛度では該当の値の上方に位置するので、甘辛度は「辛口」、濃淡度は同じように読んで「淡麗」となる。そして甘辛度はその差が0.8ごとに、「やや」「かなり」「非常に」と表現する。また濃淡度は0.5ごとの刻みとし、同様に表現する。そうすると、酸度(甘辛度)の差は 1.2-1=0.2 で、0.8未満なので「やや辛口」、また酸度の差は 1.85-1.2=0.65 で、0.5<0.65<1.0 から「かなり淡麗」となる。従ってこのお酒は「やや辛口でかなり淡麗」な「淡麗辛口」と表現できる。
(2)日本酒度0、酸度1.3の純米大吟醸酒の場合:同じように±0に該当する酸度を見ると、甘辛度は1.5弱、濃淡度は1.7弱となる。これとこのお酒の酸度1.3と比較すると、甘辛度は0.2弱下方なので「やや甘口」、濃淡度は0.4弱上方なので「やや淡麗」で、このお酒は「やや甘口でやや淡麗」な「淡麗甘口」と表現できる。
 このチャートでは、日本酒度は +28~-24(糖度 0~6%)、酸度(甘辛度)は -1~3.5、酸度(濃淡度)は
1.0~2.5 の範囲のお酒で活用することができる。
 参考書  日本の名酒事典/講談社(1990)、秋山裕一:日本酒(岩波新書)岩波書店(1994)

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