2009年4月11日土曜日

手取川支流の大日川の山奥にそば店2軒を訪ねる(4.1)

 3月最後の土曜日、この日は私が所属している協会の総会が午後2時半から能美市で開催されることになっていることもあって、それではと、かねてから訪れたいと思っていた大日川の山奥にある「登龍門才次郎」へ行こうと思い立った。そして帰りには目指す店と同じ谷筋にある「相滝」にも寄ってみた。

「登龍門才次郎」
 白山麓(旧鶴来町以南の1町5村)にはやがて25軒近くの蕎麦屋があり、8割以上の店が「白山麓そばの会」に入っている。会長は「草庵」の主人である。ところで行こうとしている「登龍門才次郎」は、出来てもう15年も経つが、この会には参加しておらず、したがってこの店を知ったのは一昨年の春で、えらく辺鄙なところにと思ったのが初の印象である。その後昨年8月、「男の隠れ家」という雑誌の9月号に、「一度は行ってみたいそばの店」として紹介され、その片鱗を知ることになり、機会があれば一度行ってみたいと思うようになったが、どうしても今すぐにという心境にはなれなかった。ところが今春、越前・三国の「小六庵」へ出かけてその魅力にとりつかれ3回も足を運ぶと、同じ雑誌に紹介されている「登龍門才次郎」のことが気懸かりになり、これはどうしても一度は行かねばと思うようになった。
 3月28日の土曜日、開店は11時というので、野々市の家を10時過ぎに出た。鶴来山手バイパスから白山町南交差点で国道157号線を横切り県道44号線へ入り一路南へ向かう。道なりに進むと別宮北交差点に達する。ここは国道360号線との交差点で、右折すれば小松市へ、左折すれば釜清水を経て下吉野交差点で国道157号線に出る。したがって国道157号線からは下吉野交差点を右折するとこの交差点に出る。この交差点には今は営業していない鳥越大日スキー場への大きな看板がまだかかっている。矢印に従ってスキー場方向へ県道44号線を500mばかり進むとY字路があり、ここに右「五十谷の大杉」の道標があり、県道を外れ右の道に入る。真っ直ぐ南下すると、相滝町の外れに鳥越そば「相滝」がある。更に進むと柳原町、数軒の農家があり、柳原自然農場となっている。Y字路の分岐から凡そ5kmばかり、右手に五十谷八幡神社の鳥居と大杉が現れる。五十谷町は町名は残っているが、部落はない。更に100mばかり進むと、左手に「つなぎなしそば粉100%手打ちそば」と書かれた手作りの看板が見えてくる。右手を見ると軽トラックと乗用車が止めてあり、奥の杉林に納屋と土蔵が見える。その手前には「春夏秋冬」と染め抜かれた臙脂色の暖簾が、濡れてよれよれになって掛かっている。ここが目指す「登龍門才次郎」なのだろう。辺りには雪が積もっている。

 車を降りると茶色の犬がいる。柴との雑種か、物静かである。坂を進むと、右手からやはり茶色の同型の犬が吠えながら近づいて来る。でも噛み付きそうではない。すると、納屋の障子戸が開いて、奥さんらしき人から「どうぞ」と言われる。あの犬の吠えた声は、お客が来たという知らせだったのかと納得する。後で知ったのだが、2匹の犬は「龍」と「秀丸」という名前だそうだ。靴を脱いで中へ、右手が勝手場、土間である。左手に板戸、躊躇していると戸を開けて中へと、中にもう一つ土蔵の戸があり、それを開けて蔵に入る。前に車があったので先客があると思っていたが、誰もいない。「どうぞお好きな処に、で、お一人ですか」と言われる。土蔵の中はダルマストーブと石油ストーブとで暖かい。右奥に囲炉裏が切ってあり、炭火が赤々と熾っている。左手奥には丸テーブル、右手には座机が2脚、座布団を数えると17枚ある。閉じられた何とも不思議な空間である。見回すと、昔山作業に使ったと思われる道具や、スッポン鍋に使ったスッポンの甲羅、色紙、写真、絵が所狭しと並んでいる。お茶が運ばれる。当てには、蕗のとう味噌、野菜の煮物、茗荷の味噌漬けが。これは酒の肴に相応しいのにと思う。「品書きは奥に書いてあります」と。見ると、かけそば、おろしそば、とろろそば、山菜そば、めし、むぎとろ、ほうばみそ、酒、麦酒とある。そして別の短冊には、青森産馬刺しと岩魚塩焼。「おろしそば」をお願いする。ここで酒を飲まない手はないのだが、奥さんではこの山道で時々飲酒チェックがあるとのこと、「乗ルナラ飲ムナ」である。そばが来るまで少々間がある。これも後で分かったことだが、お客の顔を見てからそばを打つとか。待つ間、記帳されたものを見る。するとほとんどが常連かその連れ、一度来ると魅せられ、リピートしてしまうようだ。
 おろしそばが届く。そばは綺麗な灰緑色の細打ち、片口の付いた大きめの浅い鉢に、削り鰹と刻み葱が載っている。量は多いほうだ。おろし汁は中位の丸い鉢に、底に「龍」の字が書かれている。そばを手繰るとコシが立っていて、噛むと蕎麦の香りが口中に広がる。机に醤油注ぎが置いてあり、「なんでしたら、これで味を調えて下さい」と。でもおろし汁にそばを潜らせて食べるだけで、十分堪能できる。途中で女性の3人連れがご入来、2人はしょっちゅう、1人は初めてとか、金沢の方、ざると岩魚を所望された。馴れた仕草、岩魚の塩焼は囲炉裏でじっくり遠火で焼くので、小一時間はかかるから、それを知っていないと慌てることになる。残念だが時間の制約とお酒を飲めないこともあり、今日はおろしのみにし、再来することに。代金は800円だった。帰り際、外でご主人に会った。戦闘帽のような帽子を被っておいでたから、風貌も容姿もジャングルから帰還された小野田さんと印象が重なった。今様仙人である。彼女らからの注文の岩魚を太い串に刺して持っておいでたが、すごく立派な形だった。これはどうしても食べずばなるまい。またぜひ来ますと言って辞した。この店の営業は午前11時から午後4時頃まで、定休日は水曜日とある。

「五十谷の大杉」
 出て五十谷八幡神社にお参りし、とくと老大杉を眺めた。樹齢1200年という。石川県指定の天然記念物で昭和56年指定とある。樹高38.5m、胸高周囲7.27m、地上1mばかりの幹から力枝が大蛇のように何本もくねくねと出ており、何とも異様だ。枝張りは27.5平米に及ぶという。伝えでは1200年前、弘法大師がこの地に来て、杉の枝を挿したのがこの杉だという。検証では、この姿は実生としてブナ帯に野生したものが生き残ったものと解されている。ここ堂川筋出合の五十谷の地は南北に真っ直ぐに開けていて、谷沿いに太陽が昇り、谷沿いに沈むので、深い山中にありながら、日照時間が長く、不思議な土地だという。そしてこの地には獣を追っていた人々が落着き、巨大な大杉を神木と崇め定住したという。

「とりごえ蕎麦・相滝」
 総会開始にはまだ時間の余裕があるので、帰り道にある「相滝」へ寄った。車が3台止まっている。店は民家を利用したもの、重厚な感じがするが、そんなに古くはない。玄関を入ると広い土間、上がると吹き抜けの広い板の間、囲炉裏が切ってある。座机が4脚、客が2組4人いた。メニューを見ると、温も冷もあり、品数は実に豊富、なんでも有りだ。「おろしざるそば」を注文する。程なく出てくる。丸い洋皿に簾を敷きこんもりと、薬味は山葵と刻み青葱が少々と緑色の辛味大根のおろしが一掴みとそば汁、みな別々になっている。そばは二八か、喉越しはよいが、コシがなく少々物足りない。おろしを汁に入れ、そばを浸して食する。汁は辛くなく、大根の辛味も薄い。途中で主人が来て、ぜひそば茶プリンを賞味してほしいと言われる。チラシを持参され、此処で蕎麦打ち体験もできますし、出張蕎麦打ちや出張蕎麦打ち体験もできますと、中々精力的で手広い。そばの代金は900円、十割相当だ。営業は午前11時半から午後4時まで、定休日は火曜日。

 今日は大日川の支流の堂川沿いにある「登龍門才次郎」と「相滝」を訪ねたが、今日の両店を比較すると、雰囲気は好みはあろうが、そばの味は十割細打ちの味がはるかに優っていた。「相滝」はとりごえ蕎麦と銘打っているから、多分地元の玄蕎麦を使っていようし、「登龍門才次郎」は丸岡の玄蕎麦を使っているという。玄蕎麦自体、鳥越産のは丸岡産より劣るような気がする。とにかく「登龍門才次郎」はまた訪れたい気持ちが起きる店だ。

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