承前( 20 分間の休憩)
3.ストラヴィンスキー 弦楽のための協奏曲 ニ調 (1946)
初めて聴く曲だった。作曲家のストラヴィンスキーは、ロシア・バレエ団のために書いた「火の鳥」「ペトルーシュカ」「春の祭典」の一連の前衛的なバレエ曲を発表して、一大センセーションを巻き起こしたのだが、その後に革命を逃れてアメリカに移住してからは、バロックに回帰した作風に変わってしまったという。そんな折に、バーゼル室内管弦楽団の創立 20 周年を記念して、主宰者のパウル・ザッハーから委嘱を受けて作曲したのがこの曲であるという。古典的な骨格と雰囲気を持った、3楽章の聴きやすい十数分であった。協奏曲とあるが、弦4部のみの弦楽合奏曲である。
4.ベートーヴェン 交響曲 第8番 ヘ長調 op.93
交響曲 第7番が作曲されたと同じ年に、比較的短期間で作曲された第8番は、演奏時間が 30 分未満と短く、短さの点では初めて作られた交響曲 第1番と似ている。交響曲の中で、何が一番好きかと問われると、私が挙げたいのは、このベートーヴェンの第8番とモーツアルトの第 40 番である。前者はヘ長調の曲、後者はト短調の曲で、曲想は全く異なるが、何となく愛着があっていとおしい感じがする。
第1楽章 Allegro vivace e con brio 明るい主題と「タタタ・タン」が何度も出るソナタ形式。
第2楽章 Allegretto scherzando メトロノームを思わせる音の刻みが快い洒落た楽章。
第3楽章 Tempo di Menuetto 3拍子の舞曲風旋律の中で奏でられるラッパの音が実に印象的。
第4楽章 Allegro vivace 快速のロンドとティンパニーの鮮烈な効果が心地よい。
この曲が作曲されている最中、ベートーヴェンは恋をしていたとある。そしてその感情がこの曲を一気に書き上げてしまう原動力になったとか、とにかく明るくて、洒落ていて微笑ましく、そして彼の心の内を音符に綴ったような曲である。あのトランペットが奏でるラッパの音は、恋しい人の許へ手紙を届ける郵便馬車の模倣だという。他の交響曲には見られない随筆のような書きぶりの交響曲である。
演奏が終わって、瞬時の静寂の後、あちこちから上がるブラボーの声と万雷の拍手、立っている人もかなり見受けられた。私も何度か演奏会でこの曲を耳にしたが、この曲でこれほどの熱狂は経験したことがない。この演奏は皆さんに計り知れない感動を与えたからだろう。とにかく素晴らしい指揮とそれに応えた素晴らしい演奏、名前を全く知らなかった若い指揮者だったが、これ程に聴衆を熱狂させるオファーを持ち合わせていたとは驚きだった。
どよめきの聴衆に応えて演奏された曲は、シューベルト作曲の劇音楽「キプロスの女王ロザムンデ」op.26. D.797 から間奏曲 第3番 変ロ長調。よく知られている緩やかに流れる愁いを含んだ旋律は心を和ませてくれ 、心に染みた。最後まで席を立つ人もなく、惜しみない拍手が続くなか、演奏者も順々に去って、演奏会は終わった.当初はそれ程期待していなかっただけに、その感激は一入だった。
2015年11月27日金曜日
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