平成24年2月19日の日曜日に探蕎会総会が開かれ、席上永坂鉃夫先生の講演があった。演題は総会パンフレットには「趣味の効用~疼痛・苦痛緩和剤~」とあり、私は後半がメインだと思い、息子がガンの痛みに苦しんだこともあり、疼痛の緩和に関するお話だろうと思っていた。ところが講演に先立って立派な資料が配布され、その表題を見ると、私の思っていたイメージとは異なるものだった。それには『趣味と健康』、副題は「趣味は心身の痛みの緩和剤」というものであった。資料はA5判、水色の表紙で、本文28ページ、カラー刷りの立派な冊子である。これには唸った。豊富に図や絵や挿絵が挿入されていて、理解を深めるのに大変役立っている。ところが先生はこの講演を30分と設定されてしまったために、当初私がメインではないかと想像していた痛みの伝達の経路とかその生理学とか鎮痛の機作とかは、説明はあったものの短時間だったのと、受入れ側に理解できる素地がなかったために、理解できるに至らなかった。だがしかし、表題にあったように、趣味に生きがいが感じられれば、心身に良好な快感効果をもたらし、ひいては自然治癒力を増し、またNK(ナチュラルキラー)細胞の活性を上昇させ、健康の維持に役立つのだということは理解でき、それが副題の「趣味は心身の痛みの緩和剤」ということだった。
以下に先生の講演内容の一部を挿話的に話そう。
(1)演者の趣味
① 巷に溢れる横文字の誤字・アラ探し
先ずは兼六園の無料案内を知らせる案内板の英単語の誤りで、内容は単純な単語のスペルミスであるが、しかしこれはいただけない所業である。天下の名園の案内にこのミス、看板にある9単語のうち3単語でミス、日本人にとっては実害はないかも知れないが、外国からのお客さんには失礼であるし、なんと無知なと取られよう。ミスは、Preiod / Informatin / Admisson で、先生は兼六園事務所に指摘されたようだが、県庁の担当課をたらい回しされた挙句、振り出しに戻り、訂正はされたが、4枚の案内板のうちの1枚のみの訂正だったとか。思うに案内板を出すとか英語を付記するとかというのは本庁(緑地公園課)で決めるが、執行は事務所でやっているはずで、原稿が悪いのか、看板屋のミスだがそれをチェックできなかったのかは知らないが、失態であることには間違いない。この場合、もっと上位の人、知事でなくても、その取り巻きとか、部長あたりに、これは県や市の恥ですと言えば、スムースに解決されたのではなかろうか。とかく役人は面倒なことは避けて、他人に任せたらい回しにする種族であるからして、こちらもそれを念頭において対処する必要がある。唯一の弱みは上に弱いことである。
また長崎の原爆爆心地でも、記念碑にqをgとしたために、銘板が疫病になったという話も。
極めつけは金沢市が作ったフランス語の案内書で、立派な表紙には Francais とあり、本来はフランス語という意味であろうが、とすればcに鬚のようなセディーユという記号がついていなければならず、表記の単語はフランス語にはない。また裏表紙には市役所の表記で市が vill となっていて、これも ville とすべきで、やはりこれもフランス語にはない。それよりもその案内書の内容がフランス人には全く意味が通じない噴飯ものであったとのこと、市役所へかけあったところ、フランス語を教えている偉い先生に依頼したもので、誤りがあるはずがないとか。フランスに長く滞在されてネイティブに近い方ならいざ知らず、直訳では無理だ。この不良案内書はまだ2千部もあるとか、なくなってから改めるとしても、まだ当分受難が続く。
② 手作り本の製作(世界に一冊しかない本)
先生の著書には写真がよく挿入されているが、その著書の「ドンキホーテの誤解」には、手作り本の表紙の写真が4つ掲載されている。この本の別章に手作り本というのがあり、作られた経緯が記されているが、これは作り方を読んだからといって出来るものではない。会場に出品されていたのはA6判の手製本、いつか実物を見たいと思っていたが、とうとうご対面できた。まことに手がこんだ豪華本で、見ていて惚れ惚れとした。これには凡人には真似できない緻密さを感じる。表紙の外装にも特段の気を遣われ、正に貴重な私家本となっている。実に素晴らしい。
③ ワインの賞味・関連したものの収集・解説
先生のワインに関する薀蓄は並みではなく、特にボルドーに関してはお詳しい。いつか何処かで解説して頂いたが、愛でることを知らない小生にとっては耳に痛いことである。ところが先生の著書「ドンキホーテの後悔」には、 WINE OF THE PEOPLE, BY THE PEOPLE, FOR THE PEOPLE という章があり、10項、34ページにわたって、歴史、醸造、ラベル(エチケット)の読み方、栓の開け方、注ぎ方、味わい方、グラスの洗い方、ワインのマナー等が記載されていて、さながら気の利いた手引書となっている。この本は前田書店から発行されている。
④ ワインボトルのコルク栓やキャップシールを使った自称芸術作品の製作
先に紹介した先生の著書の表紙・裏表紙とカバーには、先生が飲まれた夥しい数のワインのキャップがビッシリと並んだ絵?が載っているが、その基の作品が展示してあった。何とも圧巻である。またピンにキャップを被せた作品も展示されていて、並々ならぬ先生のワインへの情熱が伝わってくる。しかもキャップを読むと、安い千円ワインは入っていない。
(2)「健康」と「生きがい」の演者による定義
演者である永坂先生によると、「健康」とは、信念と活気に満ち、人生に生きがいを感じておられる状態であり、また「生きがい」とは、趣味、奉仕、仕事なんでもよいが、それに没頭でき、やって良かったという満足感であると定義されている。こういう満足感があると、人間が生まれながらにして持っている自然治癒力を亢進させ、脳にオピオイド(モルヒネ様物質)を産生させ、NK細胞の活性を上昇させる原動力となる。
(3)自然治癒力
私が学生の時、薬物学の講義にあたって、薬は補助的なものであって、病気が治るのは生体が持つ自然治癒力・ナトゥールヴィッセンシャフトによると故三浦教授が言われたことを思い出す。永坂先生のお話でも、現代医学がいかに発達しようとも限界があり、その限界を超えて治癒されるのは、生体が持つ自然治癒力によると。これは人間が生まれながらにして持っている病に打ち勝つ能力のことで、体の機能のバランスや秩序を保つ恒常性の維持であり、病原体などの進入や変質した自己細胞を殺傷して自己を守る自己防衛・生体防禦であり、傷ついたり古くなった細胞を修復したり新しいものに変換する自己再生・修復であったりする。また生体の免疫機能には、自然免疫に関係するNK細胞、体液性免疫に関係するB細胞、細胞性免疫に関係するT細胞がある。
(4)オピオイド(モルヒネ様物質)の産生
美術、音楽、ジョギング、その他なんでもよいが、とにかくそういう趣味に没頭すると、頭が休まり、爽快な気分になる。何故か? ランニング等で長時間走り続けると、走行中に気分が高揚してくるが、これはランニング・ハイとかランナーズ・ハイとか云われている。これは脳内に産生されるオピオイド(オピエート様物質=モルヒネ様物質=βエンドルフィンやエンケファリン)によるもので、鎮痛作用のほか快感をもたらしてくれたりする。この働きは鍼の効用でもある。人体には植物由来のアヘンアルカロイドのモルヒネが有効なことから、先ず1973年にオピエート(モルヒネ・アヘンアルカロイド)受容体が発見され、次いで1975年には、ブタ脳からエンケファリンが、仔ウシ脳からエンドルフィンが見つかった。これらはモルヒネ様作用を有し、鎮痛・鎮静作用のほか多幸感をもたらす。その後1976年にはオピオイド受容体の存在も確認された。ランニング・ハイや鍼では、内在性オピオイドが脳下垂体や視床下部から分泌される。エンケファリンは5個のアミノ酸が連なったペプタイド、βエンドルフィンは31個のアミノ酸が連なったペプタイドであるが、βエンドルフィンのN末端の5残基はメチオニンエンケファリンと同じである。
(5)ナチュラルキラー(NK)細胞
自然免疫の主要因子として働く細胞障害性リンパ球の一種で、特にウイルス感染細胞やガン細胞を殺す働きがあり、これはこの細胞の生まれつきの性質で、T細胞と異なり事前に抗原を感作させておく必要はない。また異常細胞のみ攻撃して正常な自己細胞を攻撃しないのは、細胞表面にある主要組織適合遺伝子複合体を認識しているからである。この細胞はインターフェロンにより活性化される。また趣味に没頭したり、運動したりした後の満足感や爽快感や楽しい笑いは前頭葉を興奮させ、すると間脳が活発に働き、産生された善玉ペプタイドがNK細胞の表面にくっつき、NK細胞を活性化させる。
(6)趣味は遊び
遊ぶことのなかに発見があり、創造 creation がある。そこで人間らしさがうまれる
これは原則として動物にはない
笑いも人間にしかない動き 趣味がうまくいった時、思わず笑みがこぼれる
ひそかな満足感、爽快感がある
脳内でのオピオイドの増量とともに
NK細胞の活性上昇 すなわち心身の苦痛の軽減と免疫力の上昇がある
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