2012年6月6日水曜日

ラ・フォル・ジュルネ金沢 2012 サクル・リュス

ラ・フォル・ジュルネ(LFJ)は1995年にフランスの港町ナントで誕生したという。ナント市は金沢市とは姉妹都市でもある。このLFJを創出した仕掛け人は、この地で生まれたルネ・マルタンで、初めはナント市だけでのイベントだったが、それがフランス国内に広がり、さらに国外にも広がっていった。日本には東京に2005年に上陸、そして金沢では2008年に初めて開催された。以後、5月3日~5日のゴールデンウィークに開かれるLFJ金沢には、多くのアーティストが集まり、世界の一流の演奏家たちの演奏を、1公演約45-50分で、しかも低料金で聴くことができる。これまではモーツアルト、ベートーベン、シューベルト、ショパンといった作曲家をメインテーマにしたものだったが、今年のテーマはフランス語でサクル・リュス、日本語では「ロシアの祭典」と銘打っている。この日本語訳はストラヴィンスキーのバレー音楽の名作「春の祭典」のフランス語題名に因んでいる。これまでのテーマとの違いは、作曲家個人ではなくロシア音楽としたことで、ロシア音楽の歴史の様々な切り口を知ることが出来ることである。公式パンフレットには、先頭にラフマニノフ、右手にチャイコフスキーとリムスキー・コルサコフ、左手にストラヴィンスキー、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチが揃い踏みしている。LFJ金沢には上記6人のほかにも、ロシア音楽の父とも言われるグリンカ、ロシア五人組のバラキレフ、ボロディン、ムソルグスキー、ほかにも、グラズノフ、スクリャービン、カバレフスキー、シュニトケ、リャードフなど、普段なかなか聴けない作曲家の曲も演奏される。
 オーケストラ・アンサンブル金沢の定期会員の場合、5月3日ー5日の公演については、一般会員よりも早くに予約が可能で、私はコンサートホールの5公演を予約した。1公演あたりの料金は1,500~3,000円である。印象としては、年々聴衆の数が増えているようで、県外からもバスをチャーターして来る人たちや、金沢駅に近いこともあって電車で来る人も目立った。終了後に発表された観客動員数は延べ12万人とか、年々増えていて、このイベントが金沢に定着した印象を受ける。以下に私が聴いた公演の印象を述べる。
 5月3日(木・憲法記念日)石川県立音楽堂コンサートホール
・公演112(12:00-12:45)ウラル・フィルハーモニー管弦楽団.ドミトリー・リス指揮.庄司紗矢香(Vl). ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 op.77.
 このオーケストラは現監督が就任してからというもの、田舎の楽団から脱皮して大きく飛躍したと言われる。毎年訪れているが、今年は庄司紗矢香との協演、しかも来日直前にこの曲をリリースしたと聞いていたので、ぜひ聴いてみたかった。曲は1948年に作曲され、ダヴィド・オイストラフに献呈されたが、前衛的な内容から作曲家批判が起き、初演は1955年になったという曰く付きの曲である。庄司紗矢香は1999年に16歳の若さでパガニーニ国際コンクールに優勝していて、今や世界で活躍する日本を代表するヴァイオリニストの一人である。ウラル・フィルは四管編成の大オーケストラ、特に今年はテーマ国の楽団でもあり、存在感が大きかった。この曲は難曲なうえに、オケとの間合いの取り方が難しいのに、弾ききったのには感激した。特に第3楽章の終わりのソロのカデンツァは特に技巧が必要で、その弾きぶりに皆が釘付けになった。だから終わった後、一瞬の静寂、そして万雷の拍手、拍手が鳴り止まず、感動で席を立つ人はなく、次の公演がありますのでとまでとまで言わせてしまった。ウラル・フィルはこの日、井上道義の指揮で「交響曲第12番」も演奏した。
・公演113(14:00-14:45)台北市立交響楽団.西本智実指揮. チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調 op.74「悲愴」.
 ロシアを中心に活躍してきた人気女性指揮者の彼女が、台湾を代表するオーケストラを指揮した。演奏する曲は彼女の得意とする人気の曲、でも先のウラル・フィルと規模は同じなものの、聴き比べると劣っているように思えた。私の興味は初めて聴く台北市立交響楽団の実力と西本智実のその後を見たかったのだが、この日は指揮棒なしでの指揮だったが、いつも左右対称の腕の振りと不自然なスコアのめくりが気になった。指揮棒を持っての方が良いのではと感じた。
 5月3日(土・みどりの日)石川県立音楽堂コンサートホ-ル<br /> ・公演212(12:00-12:45)オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK).山田和樹指揮.アンリ・ドマルケット(Vc). グリンカ:「カマリンスカヤ」ロシアの踊り歌の主題によるスケルツォ. リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲 op.34. チャイコフスキー:ロココ風の主題による変奏曲イ長調 op.33.
 山田和樹は2009年の第51回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し、日本やヨーロッパで活躍している。現在OEKのミュージックパートナーである。また今秋には、スイス・ロマンド管弦楽団客演指揮者、日本フィルハーモニー管弦楽団正指揮者に就任の予定である。チェリストのアンリ・ドマルケットは初めて聞く名前の人である。私がこの公演を聴いた目的はヤマカズで、その指揮ぶりに興味をもった。3曲ともよく演奏されるポピュラーな曲で、ヤマカズはもう何度もOEKを振っていて、よく息が合っていた。端正で若々しい指揮ぶりには好感が持てる。スコアはめくるものの、コバケンの指導よろしく、指揮に専念する様子が伺えて頼もしい。まだ33歳、これからの飛躍が期待される。また第3曲目のチャロとの協演もチェリストを慮っての指揮、見事だった。昨日は二つの大編成のオーケストラを聴き、今日はその半分にも満たない編成のOEKとを聴き比べて、音の響きの違いを実感した。演奏者の技量もさることながら、楽器にも一因があるような印象を受けた。第2曲目のヴァイオリン・ソロなどは特に光った。
 5月4日(土・こどもの日)石川県立音楽堂コンサートホール
・公演314(14:45-15:30)オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK).井上道義指揮.ロマン・ルルー(Trp)小曽根真(Pf). チャイコフスキー:弦楽セレナードハ長調 op.48. ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番ハ長調 op.35.
 OEKは1988年に岩城宏之を音楽監督として創設された日本初のプロ室内オーケストラであって、国内ばかりでなく海外でも活躍している。岩城宏之他界の後、2007年からは井上道義が音楽監督を務め、彼はこのLFJ金沢ではアーティスティック・プロデューサーとして音楽祭を牽引している。また小曽根真(おぞね・まこと)は世界で活躍する我が国を代表するミュージシャンである。テレビのインタビューでは、近頃は即興とは縁遠いクラシックにも1年に1本の割りで本格的に取り組むとしており、CDもリリースしている。演奏は熱狂的で、凄い迫力がある。ロマン・ルルーは初に聞く名前、フランス生まれの29歳、2009年にはフランス最大の音楽賞「ヴィクトワール」の新人賞を受賞しているという。
 第1曲の弦楽セレナードはOEKが初めてCDの録音をした際、県内に適した録音場所がなく、中でもましだった野々市町文化会館の「フォルテ」を利用したのでよく覚えている。この時はモーツアルトの交響曲第40番も録音された。利用されたのはこれ1回のみだ。この曲はモーツアルトへの愛情から作曲されたとされる。特に第2楽章のワルツが有名である。井上道義の指揮は指揮棒なしで、ジェスチュアが大げさであるが、的確で好感が持てる。第2曲のショスタコーヴィチのピアノ協奏曲はトランペットも入る変則的な曲だが、勿論メインはピアノ、小曽根のピアノは実に大胆な弾きぶり、聴衆を圧倒した。演奏が終わるや正に熱狂的な拍手の嵐、久々に興奮した。彼はクラシックを弾くと、ジャズでは使わない筋肉を使うと言い、それがまたジャズに新鮮味をもたらすとと言う。終了後のサイン会には長蛇の列、サインの後には一人一人と握手、彼の人柄が滲み出ていた。
・公演315(16:45-17:30)京都市交響楽団,井上道義指揮. グリンカ:歌劇「リュスランとリュドミラ」序曲. ムソルグスキー(ラヴェル編曲)組曲「展覧会の絵」.
 このオーケストラは1956年に日本で唯一の自治体直営の楽団として設立された。したがって団員は京都市の職員で、その地位は安定している。現在OEKの音楽監督をしている井上道義は、前任は京都市響の音楽監督であり、古巣のオーケストラを振ったことになる。京都市響も四管編成の大オーケストラで、2曲とも大編成に相応しい演奏を披露してくれた。ただ若い女性が多く、専属で専念できる環境でありながら、プロ意識が足りない印象を受けた。井上道義が古顔が少ないと言っていたが、そのことが気になった。
 こうして今年のラ・フォル・ジュルネ金沢「熱狂の日」音楽祭 2012 は終わった。今年は昨年に懲りてクロージング・コンサートは敬遠したが、来年のテーマはフランスだとか。

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