2011年9月22日木曜日

『ドンキホーテの後悔』を読んで

 『随想 ドンキホーテの後悔』  永坂鉃夫著  前田書店  1,500円  (2003)

 この本を手にしたときの感想には、先生のタフさに感心し、一方で何と好奇心旺盛な物好きな方なのだろうと、また寝ずに書いたわけでもないだろうに、よくぞそんな暇がおありになったものだと、またボリュームも半端じゃありませんし、これはとても常人ではできる業ではないと記しました。頂いた当日は、家内は会議で遅れるという連絡があり、そこで『ドンキホーテの後悔』を格好のツマにして、チビリチビリと酒を飲みながら、読み出した次第です。読み出すと、実に愉快で、気分爽快。とはいっても、1/4を占める「体温十二講」は一寸アカデミック過ぎて、消化できない部分もあったようです。また1/5を割いたワインの話、これは薀蓄のある1章でした。読んで、この随想は、お酒に例えれば大吟醸、しかも清涼味のある美味しい淡麗辛口の逸品でした。以下は雑感です。
 とまあ、これが当時の印象なのですが、今一度読み返して、当時の雑感に加えるべきは加えて、読後感としたいと思います。初の書き起こしは平成15年(2003)5月22日です。
1.さらなる羊歯への思い
 小生も羊歯に興味があった一時期があったこと前に書きましたが、先生は羊歯の分類に維管束を取り上げられたとは、やはり半端じゃありません。段が違います。それにしてもブルターニュには人の背丈もあるワラビが生い茂っているとのこと、日本にはありますかね。蕨餅、ひょっとして食べたことがあるかも知れませんが、本当の蕨由来かどうかは疑問です。こちらのワラビは根茎が貧弱ですから、本気でやるなら、フランスからそのお化けワラビの根茎を輸入するのも一つの手ですね。蕨粉や葛粉は当田舎で作っているのを見たことはありません。石川では唯一「宝達葛」が復活しているのみです。
2.世界の蕎麦その後
 今でこそ日本国はソバブームで作付け面積も増え、それでも足りず、中国、カナダ、オーストラリアからの輸入量も莫大ですが、これもブームだからで、もしブームが去れば、もっと実入りの良いよい作物の方に移行するでしょう。とは言っても、いくら味の良いそばでも、三度々々食べるには抵抗があるのではないでしょうか。それにしても、仏蘭西で蕎麦のあの白い花の波に遭遇されたあの記述、先生のクシャクシャ顔とダブって、小生まで感激してしまいました。食べ方もいろいろですが、やはり大和魂が宿っているせいか、日本国でのそばの食し方が最高と言わざるを得ません。オー・スザンナはニアミスでしたね。
3.凡人の名前
 先生の名前は「鉃夫」であって「鉄夫」でないのは当然です。断じて「鉄夫」であってはならないのです。現在の戸籍簿を見ると、現在は全く許容されていない字体でも、彼等が持っているアンチョコにはチャンと網羅されています。したがって、先生の名前が「鉄夫」となっていたら、間違いなので訂正させるべきです。今となっては親御さんの意図は不明ですが、とにかく戸籍での名は重大な不都合がなければ大事にすべきです。もし「鉃」の字が勝手に作られた字とすると、戸籍に登録されません。一方読み方はどう読もうと勝手であって、「テツ」と読もうが「マル」と読もうが、戸籍簿にはカナは振りません。ですから、もしテツオだったら鉄が妥当という御仁がいたら、下司の勘繰りもいいとこです。
 話は跳びますが、私の恩師の波田野先生、金沢へ来られてからもずっと「波多野」の姓を名乗っておいででした。永平寺を訪れた折に、永平寺の執事が先生の先祖とかで、その名は代々「波田野」とか、そして先生の戸籍も「波田野」とか、何が悲しくて「波多野」とされているのですかと。その後、先生は事の重大さに気付かれてか、以降は「波田野」の鞘に戻られた経緯があります。
4.WINE OF THE PEOPLE, BY THE PEOPLE, FOR THE PEOPLE
 先生のワインに対する思い入れには凄い年季が入っているのにはびっくりしました。これは大関と褌担ぎ位の差に相当します。完全に参りました。御説ごもっとも、そうなんですか、そうだったんですか、一言半句口出しできません。この章だけでも、ワインの手引きとなる小冊子になります。項目を挙げておこう。項目の後の( )書きは、私の注書きである。・ワイン小史.・ブドウと酵母(ブドウの種類とワインの熟成期間).・ワインの醸造(ブレンドとブレンディング).・エチケットを読む(ラベル).・コルクと伝統.・お楽しみのはじまり(開栓).・お楽しみの最中(ワイングラス).・色香と味.・次のお楽しみのために(飲み残しの保存、グラスの管理).・ワインのマナー.の以上10項。これを読んだだけでマスターできるわけではありませんが、でも疑問だった一部の謎が解明でき、清々しい感じでした。感謝々々。
 ところで小生も高松のブドウでブドウ酒なるものを、研究室でも自宅ででもよく造りました。とくに叔父貴のいた生薬学教室が場内の旅団司令部跡に引っ越していた頃は、よく大量に仕込んで、望楼でよく月見としゃれこんだものです。醗酵は試薬アルコールで止めてましたが、度数はかなりで、口当たりは良いのですが、余計飲むと必ず悪酔いしました。女性軍には格好でした。コツはブドウの野生酵母を落とさないように水洗いのみ、砂糖は10%以内に添加し、醗酵が進んで糖分が足りなくなれば足す、もうテンパイであれば純アルを加え、暫らく寝かす。これで出来上がりです。養命酒も造りましたが、極めて濃厚、薄めても薄めても濃いという代物、あれは儲かりますなぁ。
5.体温十二講
 素晴らしい講義でした。一度も先生の御講義に接したことはないのですが、直接お聴きしているような錯覚で読ませて頂きました。私たちが遭遇する様々な現象に、何の不思議も感じないで過ごしているのが我々凡人ですが、実はその裏にはこんなことが起きているのだと、全部を咀嚼して消化することは全く無理ですが、あの学術的解説には、目から鱗でした。金玉のくだりなど、下世話もいいとこでした。話は替わって竹林のM、それかあらぬか良くなってきたように思います。
 以下にこの章の項目を挙げる。:以下は私のメモである。
(1)体温:熱中症とは、暑熱障害のうち、高体温、発汗停止、意識障害から死に至ることの多い重篤なものをいう。(2)体温計:近代の体温計の原理はガリレオの体温計に基づいているが、ダビンチの体温計の豆球なるものが物質の特性(温度の変化で色が変わる等)を利用したものであったとすれば、初の考案者はダビンチということになる。(3)体温調節ー行動性と自立性ー:理解できました。メダカの実験は以外でした。でも悪寒はこの範疇外なのでしょうね。(4)頭部の汗:これは、これから脳が働かなくてはならないだろう場面を先取りして、機能を発動させるという合目的的な反応なのでは。(5)変わった汗ー半側発汗ー:片側の皮膚部位の圧迫により、反射的に同側の発汗の抑制が起きる。(6)動物の体温:測定方法の吟味が必要だ。(7)選択的脳冷却:体温と脳温に乖離ができるのは、体温が高くても脳温だけを低く保つメカニズムが働くからである。(8)対向流熱交換:流れの方向は反対だが並行して走る動静脈の間でおきる熱交換で、四肢や鰭ばかりでなく、ヒトや多くの哺乳動物の睾丸などにもその機能がある。(9)発熱と高体温:発熱は発熱物質が脳内の温度感受性ニューロンに働いてその特性を変え、体温のセットポイントが上昇したために起きる(調節された)高体温である。一方高温多湿の環境で熱放散が著しく阻害されたりしておきる体温の高い状態を高体温(鬱熱)といい、このうち最も重篤なのが熱中症で、高温のため脳機能が破壊され死に至る。解熱剤は全く無効である。(10)低体温と冬眠:低体温には、単に熱の産生と放散のバランスが崩れておきる受動的な低体温と、発熱の逆で何か低体温を惹き起こす物質などが中枢のセットポイントを変えておきる調節された低体温(アナパイレキシア)の2種類がある。冬眠は季節の気候変動や栄養状態の変化に対する種としての適応だといわれるが、その実態はいまだ明確ではない。(11)温泉と風呂:まだ日本では足湯なるものが普及していないときに、先生がデモまがいのことをされたのには驚きましたが、外国ではむしろこちらの方が普及していたのですね。近頃は日本でもそこここに普及していますが、確かに宣伝用でしょうね。先生のぬる湯好きはお聞きしていましたが、私は42℃にセットして入ります。この間テレビで40℃以上は身体によくないとのことで、家内がうるさく言います。(12)温度感覚:正常体温のとき、最も快適に感ずる皮膚温は33℃だそうですが、気温33℃では不快感の人が多いと思いますが、この点はどうなんでしょうか。
6.私の夢十夜
 初めて先生の夢十夜を読んで寝た翌朝、カラーの夢を見ました。野々市の東田圃に健診車が停まっている。とそこへ、例えは悪いが、ピノキオに総太大根の上半分を双胸にくっつけたような超々ボインのおねぇちゃんが、素っ裸で小宅の庭を横切って健診車に向かって歩いて行く。ははん、近頃の若い娘はこうも大胆なのかと変に感心しているうちに目が覚めた。あんな夢、初めてだった。しかし夢なるもの、現実とどこかで接点があるのだろうか。吉の夢、凶の夢等々、学問的には全く検討に値しないものなのでしょうか。
 臨死体験:小生も一度だけ体験しました。大出血して死にそびれたときです。これには空間遊泳と花園歩きがあるようですが、私のは後者で、途中で回れ右させられました。亡くなられた松原敏さんは二度体験され、両方体験されたとのことでした。
7.早飯・早〇、早仕度
 先生の早飯の特技、生来のものなのでしょうか、それとも後天的に努力して獲得されたものなのでしょうか。いずれにしても、宴会の司会進行は先生にお任せしておけば、何の憂いもないことが明白になりました。凡人では可愛そうです。これは常人が努力して出来る技ではなく、先生は重要文化財保持者(探蕎会宝人)として登録されるべきです。
 万力とビーカー、直しの万年筆の逸話は、正に真正なお笑いでした。
 早糞は冬山では鉄則です。特に吹雪の時が大変で、生死に関わります。これにはとっておきの実体験があるのですが、今回は割愛します。
8.またまたドンキホーテの八つ当たり
 2点以外は、全くその通り、小生身体全体が共鳴し、同感々々と震えました。
 2点の内の1点は、「目線を合わせる」です。もうワープロでもすんなり出ますが、昨今、私の目とある女の子の目と合ったのは、正に目線が合ったとしか言いようがなく、とても視線が合ったでは収まりがつかないものでした。
 もうい1点は英会話です。高校から大学教養まで英会話の授業はあったのですが、引っ込み思案で逃げ回っていました。今からすれば勿体なかったのですが、後の祭りです。日本人の英語ならまだしも、外人のは耳慣れしてないので、全くもって聞き取れません。筆談クラスです。実を言うと、新制中学では戦後間もなくで、英語の先生はいなくて専ら自習。ですから泉丘高校の入試では、特例で職業の農業を選択、英語の試験は免除でした。しかし2年後には中学校にも英語に堪能な先生が沢山復員して来られ、こんな制度はなくなりました。だから高校では大変でした。コンプレックスもいいとこです。
 さて、すごく共鳴したのは、「じゃーないですか?」と「あげる」の乱発のくだりです。若い女の子が「じゃないですか」ならまだ可愛げもありますが、大の野郎がのたもうと反吐がでます。犬にあげる、植木にあげるなど、もってのほかです。お犬様にあげる、お植木様にあげるというならまだしも。よくぞ書かれました。
 もう1点は某新聞社の乗っ取り暴君社長、糞喰らえ!です。全く同感。謝々謝々、謝々謝々。

 本当に楽しい思いをさせていただきました。心身ともに爽快感漲る、実に素晴らしい近来稀な通読本です。今回こそは先生の偉大さが身にしみて実感できました。今までの横着さを正さなければと痛感しました。すべてに脱帽です。今時気付くとは癲癇持ちもいいとこですが、でも気が付かないよりはましと慰めています。こんな経験はこの歳になるまで初めてです。せめて20年若ければ弟子入りしたでしょうに。我が家では次のお迎えは小生です。今からどんどん若返られれば話は別ですが、でも、断念しましょう。ともあれ、今後ともどうか宜しく、ご指導。ご鞭撻下さい。
 勝手にいろいろ書きましたが、これが手書きだと全く判読できない代物になる恐れがありますので、ワープロにしました。小生の家にはまだパソコンが鎮座していません。協会にはあるのですが、完全に消せないとなると勝手なメールでの送信は憚られます。
 先生にはどうかご自愛専一になされて下さい。これからも末永いご交誼を賜ることを願って止みません。
[この項は、平成15年(2003)5月22日の記述です]

追記:本当に、このボリュームで誤字脱字がないのは、余程校閲がしっかりしているからでしょう。頼子嬢に負うところすこぶる大なのじゃないですか。ただ2箇所、ミスと思われる箇所がありました。
 p 126 ⅴ の冒頭の NKH ⇒ NHK
 p 138 ⅳ の5行目 対戦国の国家 ⇒ 対戦国の国歌 

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