金沢駅前にある蕎麦「やまぎし」は、開店当初は水曜日が定休日だったが、しばらくしてからは日曜日になった。客の入りの関係でそうしたのだと思う。営業時間は午前11時から午後3時までだが、近頃では大概2時頃には打ったそばがなくなって、店を閉めてしまう。そうだからまだ勤務に出ている小生にとっては、もし「やまぎし」へそばを食べに行こうとすると、土曜日しかないことになる。駐車料まで払って食べに行くのもしゃくなので、県立音楽堂で演奏会があるときには、昼過ぎに出かけて寄ることにしている。9月4日の土曜日は、オーケストラ・アンサンブル金沢の第286回定期演奏会、午後3時の開演なので、「やまぎし」には午後1時頃に出かけた。詰めて9人しか入れない店には、もう5人がいた。ここのそばは「粗挽き」「黒」「白」の三種の「並もり」と「大もり」のみで、すべて十割、量は並が180gで750円、大が230gで900円、食べおきがある。開店当初は、客は当主の友人ばかりだったが、近頃はわざわざ食べに来る人も増えたとか。私が7月3日の土曜日に寄ったときは、2日発行のあの太野棋郎さんの著書「蕎麦手帳」が置いてあり、それを見ると、「やまぎし」の名が明記されていた。ただし店名のみだった。しかし9月4日に寄ったときには、その本を持って訪れたと思われる人がいた。
7月に寄ったときに、鹿児島の芋焼酎「財宝」が置いてあるので聞くと、希望があったので置くことにしたと。値段は100cc200円とのこと、どうしてこの銘柄を選んだのかは聞いていない。ただ当主は断酒したので今は全く飲んでいない。でも私は今回は初にこれを飲みながら、注文の「白の大もり」が来るのを待つことにする。いつも蕎麦茶にそば棒の揚げたのが付きだしに出るので、これで焼酎を楽しむ。
先客二人は「黒の大もり」、一人は地元だったが、もう一人は一見の客、手には一眼レフのカメラを持っての入店、蕎麦手帳を見て来たとのこと、「黒の大もり」が来た。私の隣の地元の人は、そば汁を全部蕎麦猪口に入れ、沢山の辛味大根の下ろし、程よい量の生山葵、薄切りの葱の薬味全部をそば汁に入れ、その後そばを手繰ってそば汁にどっぷり浸けてのお上がり、豪快な様だが、一寸野暮な感じがする。いつか塚野さんが、そばを食べるときは、先ずはそのまま食し、次はそば汁の塩梅の加減を見て、その次にそばを手繰り少しそば汁に浸けて食し、もし大根下ろしがあればそば汁に少し加え、その汁にそばを浸けて食べる。そば汁には匂いの強い葱や山葵は入れないで、入れるのはそばが終わって蕎麦湯で割るときに入れると聞いたことがある。
さて、カメラマン氏は、まずカメラで接写し、次にそばを少し摘んでそのまま口に運び、次いでそば汁を少し猪口に注いで、そば汁の味見、その後三種の薬味(辛味大根の下ろし、薄切りの葱、生山葵の下ろし)の先ず大根下ろしをそばの上に置いて、やおら箸で摘んで一寸そば汁に浸けて口元へ運ぶ。次いで葱、次いで山葵、という風に、それぞれの薬味でそばを味わう趣向だ。これを終えてから、次に大根下ろしに葱の組み合わせ、山葵に葱の組み合わせで同様に頂く。ただ大根と山葵の取り合わせはないようだった。ほかには大根などの漬物が付いてくる。そばがなくなった頃合を見計らって蕎麦湯と蕎麦餅が出てくる。、彼氏のそば汁はたっぷり残っているので、蕎麦湯をお代わりしていた。こんな食べ方をしているのを見たのは初めてだった。こうすればそば汁は全く濁らなくて、出されたときと同じ状態、これが正規かどうかは別として、合理的なような気がして、私も真似てみた。
このように薬味を汁に溶かずに主体に載せたり付けたりして食べるやり方は、刺身を食するときに目にしたり行ったりすることはあるが、そばでは初めてお目にかかった。どうせ胃に入るのだからこだわることはないのかも知れないが、そばの食べ方としては上品で、理にかない、堂に入っているように感じたが、どうであろうか。でも、食べ方とすれば面白い趣向である。
私が店に入ったときは粗挽きは品切れですと言っていたが、後で入ってきたカップルは予約してあったのだろう、粗挽きを注文した。粗挽きの十割だと、どうしても太くならざるを得ず、湯がくと短く切れてしまうことになる。これは予め当主が断っていることでもある。そこで思うに、こう短くてごついと、先ほどのようにそばの上に薬味を載せて頂く手法を採ろうとしても、一寸技巧上難しいような気がする。そうならば、そばを食べるのに特にあの方法にこだわって食べることはないか。
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