2010年8月6日金曜日

信州の二湯(1)早太郎温泉「二人静」

 三男誠孝の四十九日満中陰が済んだら、ブラッとどこかの温泉にでも出かけようかというのは、私と家内の暗黙の了解だった。とは言っても、いざ何処にするかとなると星の数ほどあって決めかねてしまう。一計はよく旅行もする姪に相談したらという逃れだった。すると二の返事で「岩の湯」にしたらと、姪によると一押しの名湯とかである。聞けば長野県の温泉だという。だったらもう一湯は、随分前に行ったことのある「二人静」にしようかと、ここは以前は中々予約が取れないことで有名な宿、でも一応チャレンジしてみることに。出かける日は7月4日(日)から年休2日とっての3日間、車で行こうということになった。HPで調べると、「仙仁温泉・岩の湯」は、申込みは直接来館か電話のみの申込みということで、電話で申込みすると、4日の空きはなく、5日はありますとのこと、ただし35,000円の室しか空いていませんとの返事、家内に相談すると、折角の推薦の宿、お願いしましょうということで、2日目の宿は決まった。次に初日の「早太郎温泉・二人静」の方はインターネットでの申し込み、こちらの方は空きがあって、最も安い離れ「花心庵」が13,000円で空いているとのことで、そのまま申し込んだ。この両方の宿では22,000円もの開きがあり、どうしてこんなに差があるのか訝っていた。後日心配になって電話で問い合わせたところ、本邸まで80m位離れていて、それがハンディらしく、食事も入浴も本邸まで出向かねばならないという。雨の日は大変ですというから、本邸に空きはないかと聞くと、洋室ならありますとのこと、和室はと聞くと洋室折衷のが別邸「一花一葉」に1室あるとのことで、そこに変更してもらった。料金は22,000円という。
 7月4日日曜日は小雨がぱらつく生憎の空模様、本来なら8時頃に出かけようと思っていたのだが、この日は町内一斉の清掃の日、出られないと連絡はしてあるものの、堂々と出かけるのも憚り、6時出発とする。山側環状道路経由で森本ICから北陸自動車道へ、有磯海SAで朝食、長野自動車道の梓川SAで早めの昼食、このまま中央自動車道の駒ヶ根ICまで行くと、チェックインは午後3時なので時間を持て余すので、塩尻北ICで下りて、一般道を南下することに。それでも駒ヶ根市に着いたのは午後2時前、それで宿近くにある駒ヶ根高原美術館を見学してから初日の宿に入った。広い駐車場に車を止めると、女将が直々にようこそいらっしゃいましたと挨拶されたのには驚いた。部屋への挨拶ではなく、宿へ着いたときに挨拶されるのも、新しい合理的な方法と思ったものだ。また荷物を運ばれる方も一緒、西洋では当たり前の光景だが、これはいい意味での和洋折衷と思った次第。

信州駒ヶ根高原/早太郎温泉/山野草の宿「二人静」 (長野県駒ヶ根市赤穂4-161)
 宿は本邸の「二人静」、別邸の「一花一葉」、離れ「花心庵」、教会の「トラムス」からなっていて、本邸は1995年のオープン、別邸は2005年のオープンとかで、前回に訪れたのは2002年だったので宿は5階建ての本邸のみ、教会が出来立てだったような気がする。チェックイン後、別邸へ案内される。本邸から別邸へは専用カードキー(通行札)がないと 入られない仕組みになっていて、私と家内に1枚ずつカードが渡された。別邸の3Fには大露天風呂付き特別室が6室、4Fには擬似洋風和洋室(擬洋室)が10室あり、話題の旅館デザイナー、和創匠の松葉啓氏のプロデュースになるものだという。私達が入ったのは4Fで、畳に高床式ふとん(ベッドスタイル)が設えてある新感覚の部屋であった。部屋とウッドデッキとの間には猫足バスが置いてあるが、これは湯浴みするにはチョッとチャチだ。バルコニーに出ると、下には太田切川がうるさい位の高い瀬音を立てて流れている。川には対岸へ赤い駒ヶ根橋が架かっている。東に目を向けると、中央アルプスの宝剣岳(2932m)が遠く尖って見えている。天気が良ければ西に、南アルプスの仙丈ヶ岳(3033m)、左手に甲斐駒ヶ岳(2966m)、右手に北岳(3192m)が望めるはずだが、雲に隠れていて見えない。ここは標高860mの駒ヶ根高原の一角、取り敢えずは冷えたビールと持参の神の河で喉を潤す。山野草の宿というだけあって、あちこちに山野草を主とした花が生けられている。
 小憩の後、本邸の大浴場へ、そこからはさらに開放感のある大きな露天風呂へと続いている。温泉は単純アルカリ泉、さらりとした好い湯だ。露天風呂は程よい湯加減、周りは緑の樹々に覆われていて、深山幽谷の趣、いつまで入っていても飽きがこない。ゆっくりと十分に手と足を伸ばす。
 夕食は2Fの金宝珠という食事処、三箇所ある中の一つ、ペアでゆっくり8組が入れる大きさの部屋、落着ける雰囲気と細やかな気配りが伝わってくる。料理は懐石料理、一品一品がゆっくり間を置いて出てくる。別邸は本邸とは棟が別なこともあって、料理は恐らく別と思われる。料理長渡辺徹のこの日のお品書きは、食前酒(山葡萄と山桃のカクテル)、先附(若筍豆腐、蔓菜、キャヴィア)、前菜(千代久‐自家製塩辛、自家製牛肉燻製、姫大根、蛤貝焼、丸十レモン煮)、椀物(手毬海老真薯、花びら麩、口‐木の芽)、造里(平目、サーモン、牡丹海老、妻一式)、焼肴(鮎塩焼、昆布有馬煮、白アスパラ梅肉和え)、温物(炊き合わせ、飛龍頭、蓮根、筍、コーン)、揚物(こしあぶらと桜海老のかき揚げ、穴子)、強肴(国産牛ロース肉の笹蒸し)、食事(鯛釜飯)、留椀(信州味噌袱紗仕立て)、香物(野沢菜、はんなり漬、山牛蒡)、水菓子(駒ヶ根産胡麻のプリン)の13品、十分堪能した。多過ぎず、少なくもなく、程よい分量、しかも素材が本来もっている甘味や旨みを引き出す素朴な料理、私も心掛ける目標でもある。奇を衒った小細工は無用だ。その点此処での料理は満足すべきものだった。飲み物は白ワインと生ビール、よく料理と合った。ゆっくり時間をかけての夕食、本当に至福の時を過ごした。スタッフの細やかな気配りが嬉しかった。
 翌朝見上げると、宝剣岳は雲に隠れている。昨晩のフロントへの問い合わせでは、もし山の天候が悪くなくて、ロープウェイが運行する場合には、朝一番にここへも連絡が入りますとのことだったので問い合わせると、運行するとのこと、山は見えないが出かけることにする。ロープウェイ駅への連絡バスは30分おきとのこと、豪華な朝食を昨晩と同じ場所で済まし、チェックアウトする。車は川上の黒川平駐車場にもって行かないでここに置いて出かけたほうがよいとのことで、駐車したまま向かいの橋の袂の駒ヶ根橋バス停に向かう。バスには数人の登山姿の人が乗っている。ロープウェイ駅のあるしらび平は標高1661.5mで、ここよりさらに800m高みにある。細い道をバスは喘いで上る。所々に交差可能な場所はあるものの、今はまだ朝早くで下りの車はないが、日中は大変な混雑だろう。40分くらいで終点のしらび平に着いた。途中は山の中とて、バス停はあるものの、客の乗り降りはなかった。
 いよいよ待望のロープウェイである。驚いたことに搬器の定員は61人、案内嬢が一人付くので客は60人乗れる勘定、通常は20分毎の発車である。バスに乗っていた客がそっくり乗り込む。料金は往復2200円。終点の千畳敷(2611.5m)へは950mの上り、この高低差も終点駅の高度も日本最高だそうである。完成は昭和42年、平成10年にリニューアルしている。秒速7m、所要時間は7分30秒とかである。山は厚い雲で閉ざされていて見えない。ところが上昇するにつれ、下では曇りだったのに、搬器が雲の上に飛び出ると、そこは快晴の世界、あの宝剣岳が真っ正面にくっきり見えている。やがて千畳敷駅、初めて来た中央アルプス、この遊び格好で山へ登るわけにはゆかないが、バスにいた乗客は木曽駒ケ岳まで行って来ますと言って登山道を登って行った。まだ雪渓が沢山残っていて、初夏の感じ、径の傍らにはキバナコマノツメ、クロユリ、コイワカガミなどが咲いている。ここから木曽駒ケ岳(2956m)までは上り2時間、下り1時間40分の行程である。行きたいが行けないもどかしさ、途中の雪渓まで下りてみた。
 小一時間ばかりいたろうか、帰ることに。駅へ戻ると沢山の観光客が上がってきている。下るのは私達二人のみ、下りは臨時便だった。厚い雲は2200m辺り、さらに下がると再び曇りの世界になった。しらび平のターミナルには大型観光バスが10台くらい停まっていた。聞くと、どんどん臨時便を出して上へ上げるという。正にラッシュである。私たちは定期バスで下に下りるが、この時間帯に下りる人は誰もいない。ただバスの交差は大丈夫なのかとそれが心配になる。途中で数台の上りのバスに遭遇したが、チャンとうまく交差している。実に魔術師のようなテクニックに感心する。一度は行きたいと思っていた千畳敷カールだが、取り敢えずは足を運べた。この次には山にも登りたいものだ。このカールには72人泊まれるホテルもあり、通年営業している。ここも良さそうだ。
 バスを駒ヶ根橋で下り、「二人静」に戻り、再び車に乗る。駒ヶ根ICから中央自動車道、長野自動車道、上信越自動車道と継いで、須坂長野東ICで下りる。ナビに今晩の宿を入力し、宿に向かう。

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