仙仁温泉/滝のある大洞窟風呂の宿/花仙庵「岩の湯」 (長野県須坂市仁礼3159)
この宿では、できるだけお客様に寛いでもらおうということで、チェックアウトは正午、チェックインは午後2時と、他の宿と比べて逗留時間が長くなっている。梓川SAで昼食を済ませて、上信越自動車道の須坂長野東ICを下りたのが午後2時少し前、昨日は時間潰しをしたが、この日は途中で給油したのみで、ナビを頼りに大笹街道の国道406号線を菅平高原に向かって走る。須坂市を出た頃に1台のBMWが後にぴったりくっつく。やがて山へ入り込もうという所でナビの音声案内は終了した。左手に駐車場があるが、宿らしき建物は見えない。道で止まると、件の外車はその左手の砂利敷きの駐車場へ入っていった。私達も勝手が分からないまま後について入り込むと、ようこそと言われてイケメンのお兄さんが、車を枠内に停めて下さいと。家内が訝って、ここは岩の湯ですかと聞くと、そうだと言う。ここでも荷物を全部もってくれて、砂利を踏んで東屋風の門をくぐり、滔々と流れる仙仁川を渡って、庵にも似た玄関に着いた。きれいに植え込まれた木々は清々しく、深い山間にいるような錯覚を覚える。
ここは古くは山伏の里、近世では清和源氏の流れをくむ仙仁氏の居城があった場所とも言われる。この湯は草津白根山修験道の山伏、湯本行者によって平安末期頃に発見されたという。客室数は19室、収容は100名、離れ仙山亭4室、旧本館仙郷亭9室、仙寿亭6室で、料金は2名だと税抜きで順に、42000円、35000円、30000円となっていて、6名だと28、24、22千円となる由。また休前日と特別期間は2000円高となる。田舎の温泉にしてはかなり高い部類だと思うが、何故か評判がよくて中々予約が難しく、帰り際に来年の予約をする客も多いというから、1年先でも予約できない日もあるとか。確かに玄関へ入っての雰囲気は他所にはない心を和ませる気が漂っていて中々よい。この宿は「日本秘湯を守る会」の宿でもあるという。
宿のフロントでチェックインした後、暫く待って下さいと言われる。庵だからロビーとは言わないのだろうけれど、まだ3組20人以上の人達が待っている。まだ案内までに時間がありそうなので、付近をブラつく。待ち屋風の涼み処にはハンモックやロッキングチェアが置いてある。林間からは仙仁川の流れが見える。右手に延びる突き当りの庵は喫茶所なのだろうか。池に鯉がいるが、この池にはかけ流しの湯が入り込んでいるという。前の組の人達が案内され、玄関が静かになるのを見計らって、先のテーブルに戻ると、抹茶の接待があり、涼しげな茶菓子付き、家内では大変美味しい一品だと言っていた。初老のお姐さんから宿の説明を受ける。
ここの名物は何といっても洞窟風呂である。宿の一番奥まったところに男女の大浴場があって、ここが洞窟風呂の入り口でもあるとのこと。どうして出来たのか、目的は何だったのかの説明はなかったものの、要は洞窟風呂は混浴なので、洞窟入り口で所定の湯浴み着を着用してから入って下さいと。男の場合、パンツをはき、その上に布製の腰蓑をつけてお入り下さいと。これら着衣は水を吸いにくい特殊な素材らしい。洞窟内にはお湯(34.2℃)の滝があり、また深みもありますので御注意をと。どうやらこれが売りの「岩の湯」の由来らしい。今日も満室ですが、部屋は分散しているので、やたら他人と鉢合わせするようなことはありませんとも。何とも贅沢な宿だ。
風呂の説明の後は、旧本館仙郷亭の「竹の間」に案内される。途中別亭の喫茶所、あちこちにある休み処、テラス、蔵書4千冊の図書室(仙人文庫)、書斎、談話室等の説明を頂くが、どの部屋も隠し部屋のような風情、貸切りの露天風呂も3ヵ所あるという。あちこちに階段があるのは、ここの各部屋は山の段丘を上手に利用しているからで、それぞれの棟が離れのようになっている。どうやら「竹」に着いた。入ると10畳の和室に山荘風の談話室、その先にバルコニー、クローゼット、洗面所、シャワールーム、ミニキッチンが付いている。BGM用のCDとプレーヤーも。ここでも説明がある。キーは2個、引き出しには男物、女物のフルサイズの浴衣が2着ずつ、裁縫道具や置き薬も常備してある。床の間には「山」の一字の書の軸と生け花、最後にエアコンを調節してくれて案内の人は去った。この案内の方と顔を会わせたのはこの時のみだった。
取り敢えずは風呂へ、家内とは大浴場へ入ってから、洞窟風呂で会いましょうということで出かける。タオルもバスタオルもそれぞれの浴場に十分用意してあるとのこと、内湯は大きな檜風呂、加温かけ流しである。総ガラス張りなので、露天風呂に入っているような印象、山の樹々が美しい。身体を洗ってから、やおら湯浴み着を着けて洞窟へと進む。少し進むと左手に岩で囲った湯船があり、ここは熱い。洞窟内ではこの湯だけが加温されているとかだった。堰を乗り越えて少し進むと、右手からお湯(34.2℃)が滝となって流れ落ちているが、その量は半端ではない。その奥にも小さな滝がある。ここで洞窟は二手に分かれる。先ず左へ、下は粗めの砂利が敷き詰められていて歩きにくい。やがて広い空間に、ここでは十数人がゆっくり座れるほどの広さ、洞窟はここで右に緩く曲がっているが、ここが最奥である。元へ戻って右の洞窟へ、こちらはやや水深が深く、腰辺りまでの深さ、どんどん進むと堰があり、乗り越えて進むと更に高い堰が現れ、それを越えると深い湯壷に達する。湯壷を更に奥へ進むと、左手からお湯の急流が迸って出ている。でもその先は真っ暗で行けるかどうかは分からない。私がこうした探検をしている間には誰とも出会わなかった。一通り探検をして女性の入り口で待っていると、やっと家内が武装して現れた。さっき通ったルートをもう一度辿った。奥行きは20mばかりだろうか、所々に灯りがあるが、真っ暗では遭難しかねない。分かれて出る頃、新参の人が見えた。お湯は単純泉とかである。
湯上りに冷たい山の水を一口、部屋には柿の葉茶が冷えている。神の河で割り、喉を潤す。やがて希望した夕食の時間になり、食事処深仙庵へ向かう。食事は山里懐石料理、地元の旬の食材だけを使っての料理とか、家内は獣肉や川魚ばかりだったらどうしようと案じていた。深仙庵はすべて個室になっている。ローソクの明かりもあって幻想的である。外には真竹の林が見える。飲み物は生ビールと冷酒、お品書きにしたがって料理が運ばれてくる。ざっと二時間ばかり、適度な間を置いて、ここでもその出しようは絶妙というべきか、こちらで催促する必要は全くなかった。昨晩もそうだったが、その辺りは客の意を予め酌んでいるような完璧ともいえる接待、恐れ入った。至れり尽くせりとはこのことかと思う。
昨晩のお品書きには、材料がこと細かく記されていたが、今宵のは材料は色々沢山入っているのだが、何かとなると分からない。ここでは品書きに書いてあった言葉を「 」を付けて記した。(頭書)「山里料理・七月五日」、(先附)「蕨琥珀寄せ」、(前菜)「風待月のおもてなし」五品、(中鉢)「松代蒸し」、(造り)「山里のお造り」鮎と鯉、(焼肴)「鮎の塩焼き」笹に稚鮎二尾と根曲がり竹三本一皿、大きな鮎の串刺し一皿、(椀物)「北信濃根曲がり竹汁」、(強肴)「石焼ステーキ」陶板に信州牛のミディアムは家内が、私は「杉の香焼き」陶板に鯛?の切り身の焼き、(箸休め)「梅酒ゼリー」、(温物)「新じゃが蒸し」片葉を添えて、「御食事」御飯、止椀、香の物、「デザート」五品、「飲み物」珈琲と紅茶、優に四杯分くらいあり、飲みつくせなかった。
程よく酔って部屋に戻る。床が部屋の真ん中に敷いてあるが、6人も入れる部屋に2人だから、贅沢なかぎりだ。テーブルには夜食の寿司が置いてある。テレビを見ながら、駄弁りながら、柿の葉茶を飲みながら、神の河も空になった。後は白川夜船、朝までぐっすりだった。
朝5時に覚醒する。家内を誘って露天風呂へ出かける。この時間だともう明るい。この貸切風呂のうち最も古いのが「風姿の湯」で一見洋風、外湯1、内湯1の構成。この露天風呂の湯は120mのボーリング掘削で自噴しているもので、泉質や泉温は大浴場や洞窟風呂とほぼ同じらしい。次に出来たのが「野守の湯」で、ここは雰囲気が和風で、湯船は外湯1、内湯1の構成である。最も新しいのは2007年に出来た「無想の湯」、和洋折衷で面積も最も広く、外湯2、内湯1の構成で、最も高い処にある。私たちはこんな知識は全く持たずに、順に覗きながら一番高みの露天風呂へ行ったのだが、幸いすべて空いていたものの、最も高みの湯が最も新しくすばらしい露天風呂だったことになる。環境も最高、申し分のない露天風呂で、このような経験はこれまでにない。途中で来訪者があったが、当然使用中、それにしても空いていればいつでも利用できるというのがよい。後で家内が姪に良かったと電話したら、夜中に入ると満天の星でなお最高とのこと、聞いておけばよかった。またリピートすることもあろうから、その時は挑戦しよう。
戻ってから朝食を頂く。昨晩と同じ個室で食事をする。この日の朝も豪華な食事、蕎麦粥が嬉しかった。ゆっくりと頂く。午後には小布施をブラつくことに、蕎麦屋も数件推薦してもらえた。宿には正午近くまで居た。帰るまで床は敷かれたまま、誰も来ず、寛げた。
チェックアウトし、男の方と女の方に送っていただいた。仙仁川の橋の上でと、東屋風の入り口とで、家内とのツーショットを撮ってあげますと言ってくれたが、こんな気配りも嬉しかった。機会があればまた訪れたい宿だ。
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