2014年9月10日水曜日

四度目の中の湯温泉(その3)

5.中の湯温泉旅館
 この旅館は、以前は梓川の「中ノ湯」の畔に建っていた山間の湯だったが、安房トンネルの工事に際して閉鎖を余儀なくされ、平成10年に現在の地で開業したという。安房峠までは急な斜面が続いている中、唯一この地一帯のみ比較的傾斜が緩やかな部分が存在していたというわけである。温泉水は旧館の源泉をポンプアップしているそうだ。この宿は日本秘湯を守る会の会員になっていて、初めて訪れたのは、その関係からだった。
 着くと駐車場には車が約30台ばかり駐車していて、ウイークデイなのに今晩は満員なのではと訝る。時刻は3時半、すると宿の横の小径から、何組もの登山者が下りて来るのに出会った。焼岳からの帰りだという。後で主人に訊くと、ここの駐車場に車を停めて焼岳へ登山するのだという。車のナンバーを見ると、北は山形から、関東、中京、関西、西は鳥取まで、実に多彩だ。ここから焼岳までは、上り3時間、下り2時間だそうである。
 旅館へ入りチェックインする。主人は今朝は穂高が見えていたのに、今は見えないとのことだったが、明朝に期待しよう。ここのロビーは山の宿にしては実にモダンで素晴らしく、天気が良ければ、一枚ガラスを隔てて見られる奥穂・前穂・明神は実に圧巻である。また早春や晩秋には、給餌台に訪れる沢山の小鳥を見ることができる。部屋に案内される。部屋の造りはシンプル、高級山小屋といった感じだ。ドアはオートロック、外から開ける時はかなりの技術を要する代物、だから温泉に入る時は、家内とは交互に入った。
 ここの温泉の泉質は単純硫黄温泉、源泉温度は55℃、毎分122ℓの源泉かけ流しである。男女それぞれに内湯2槽と露天1槽からなる。昨今は午後と翌朝とで男女交互に浴場を換えているが、元男性専用だった露天風呂は環境が実に良く、穂高を見ながらの湯浴みは最高だった。旧の女性専用の露天風呂は竹簾で囲われていて、全く視界が利かず、趣きがない。お湯は温度管理されていて、実に快適だ。
 露天風呂にいた時に、初老の紳士がご入来、話を聞いていると、明日は家族で山へ行くのだと。焼岳ですかと言ったら、夫婦と娘3人で西穂へ行くのだと。上高地から西穂山荘へ上り一泊、翌日は独標まで行き下山する予定とか。私は家族での山行は全くなかっただけに、実に羨ましかった。もっとも今の体力では叶わないと思うが。
 部屋へ戻って、持参の神の河で喉を潤す。窓からは母屋越しに、雲がかかっている穂高が望める。岩燕が群舞している。山鳥が独活の実をついばんでいる。素朴で落ち着ける環境である。夕食は6時半、食堂へ行く。既に料理はテーブルにセットしてあった。この日長月二日の御品書は次のようだった。
 一「先付」こごみ胡桃和え。 二「焚合せ」南瓜葛豆腐、海老酒蒸し、里芋、いんげん、胡麻スープ。 三「温物」飛騨牛すき焼き鍋。 四「刺身」サーモン、大根サラダ。 五「焼き物」岩魚塩焼き、なつめ、茗荷。 六「しのぎ」ぶっかけ蕎麦。 七「香物」野沢菜、赤蕪、胡瓜。 八「汁物」浜吸。 九「蒸し物」生湯葉かに豆乳蒸し。 十「水物」ゼリーチーズ、キュウイ。
 この中で何といっても特に圧巻だったのは「飛騨牛のすき焼き鍋」で、他のお客さんは全員固形メタ火力の「卜伝鍋」だったが、私たちにはガスコンロが用意されていた。この私たちのメニューはテーブルにある特別料理メニューにも名が出ておらず、正に感謝プランにセットされた賜物だったようだ。肉の質も良く、しかも量も一人あて6枚ばかり、これだけでも満腹になりそうだった。いつかやはり感謝プランで来たことがあるが、その時は「しゃぶしゃぶ」だった。その時も十分に堪能したのを覚えている。でもほかの2回は特別なセットではなく、皆さんと同じメニューだった。飲み物は地元ワイナリーの赤のフルボトルを所望、ゆっくり時間をかけ、十分に堪能した。家内も、もしまた感謝プランの案内が来たら,ぜひまた来たいねと言った。

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