2014年9月26日金曜日

そば工房「権兵衛」

 8月にあった探蕎会の世話人会で、9月期の探蕎は、山中温泉奥の石川県民の森近くにある「そば工房・権兵衛」に決まった。私も一度は行きたいと思っていたそば店である。この店は土・日と祝日のみの営業とかで、後日事務局では探蕎の日を9月 21日の日曜日に設定した。参加者は 12名だった。
 当日は天気も良く、10時に2台の車に分乗して出かける。国道8号線を加賀市の松山交差点で左折し、県道 39号線を南下する。塔尾町で山中温泉へ行く道をやり過ごして、県民の森への表示に従い直進する。道は山間に入り、動橋川に沿い荒谷 (あらたに) 町、今立 (いまだち) 町を過ぎると山道になる。さらに大土 (おおづち) 町への分岐を過ぎると更に高度が上がり、やがて分水嶺を越えて大聖寺川の上流に入る。そして県民の森、ここはこれから行くそば工房・権兵衛の杉水 (すぎのみず) 町と同じ地内にある。そしてこれらの4町は「加賀東谷」(山中温泉ひがしたに地区) として、国の重要伝統的建造物保存地区に指定されている。このような地区は全国で 98 地区あるという。
 県民の森から更に下がると、やがて左手にそばの幟が見え、杉ノ水川の橋を渡り、そば工房「権兵衛」に着いた。ここまで出発してから1時間半、左手に本屋、向かいの高みに2棟、右手に即売の掛け小屋、母屋の前に車を停める。この地区はかつては炭焼きで栄えたという。でも今は過疎が進み、自然そのものの静かな山村、でも豊かな自然が一杯の郷である。このような集落を「超限界集落」というのだそうだ。
 築 60 年という古民家の店へ入る。私たち 12 人には、2区画3卓が用意されていた。床の間には軸が掛かり、山野草が活けられている。初めにそば茶、欅の木彫りの茶飲みに入っている。そして置かれている箸も山中塗り、聞けば販売もしているという。それで今回は個々に注文することに。私は「おろしそば」と「天ぷら」、それに酒のつまみに菜山葵の小鉢、お酒は地酒 (獅子の里) を頼んだ。かなり混んでいて暫し待たされる。初めに付出し (野沢菜?) と燗酒、暫しこれで喉を潤す。ややあっておろしそばが届く。先ずは寺田会長にお見せする。今回はカメラマン役を任じられていて、箸をつける前に写真を撮らせてほしいとの要望に応えたものだ。二八のやや細打ちのそばは、欅の生地に漆をかけた山中塗の鉢に盛られ、上に辛味大根のおろし、削り鰹、刻み葱が乗っかっている。汁は澄んでいてやや甘め、典型的なおろしそばだ。噛み応えもあり、かつ喉越しもよく、あっという間に胃の腑に納まった。その間にも次々とそばが運ばれてくる。そしてそれが終わって漸く天ぷらの出番になった。天ぷらは山菜オンリー、縁が赤く塗られた浅めの桶、これも山中塗なのだろうか、それに天ぷら敷紙を敷き、それに盛られている。この期に及んで天ぷらをむしゃむしゃ食べるわけにもゆかず、もう1本所望する。しかし前の1本ではお燗に時間がかかったこともあって、冷やで頂戴した。山菜は次のようであった。
 ドクダミ (じゅうやく) の葉、ユキノシタの葉、ミョウガの花序、みずぶきの茎、ヤマノイモの多肉根の紫蘇卷きと海苔巻き、まいたけ、ヨモギの葉 の七種。
 終わって外へ出る。主人の霜下照夫さんも出ておいでて、いろいろ説明を聞いた。その折に、百笑 (ひゃくしょう) の郷 (さと) のパンフレットを頂く。一般社団法人 (非営利法人) で会員も募集しているとか。パンフを開くと、そば打ち体験もできる「そば工房 権兵衛」、1日1組限定1棟丸ごと貸切りの「蔵やど 与平」「古民家の宿 忠平」、純地産地消の食を提供する「山カフェ でくのぼう」の紹介が、また杉水 (すぎのみず) 町と市谷 (いちのたに) 町の見どころの紹介もされている。この辺りの家は赤瓦や煙出しが特徴で、下屋の下り棟には、恵比寿様と大黒様が付いているという。そう言われて見上げると、大屋根の切り妻屋根の下屋の屋根の際に、向かって右に大黒様、左に恵比寿様が安置されていた。その後ご主人にも入ってもらって皆で写真を撮った。
 帰りは山中温泉へ下ることに。我谷ダムの上流に新たに九谷ダムが建設され、その流域の集落は一部立ち退きを余儀なくされたようだ。でも道路はきれいになった。枯淵町を過ぎて、我谷ダムの堰堤で国道 364 号線と合流する。山中温泉から四十九院トンネルを抜けて、塔尾町で往きに通った道に出て、出発点の「和泉」に戻った。お疲れさまでした。
 この日「和泉」の向かいにあるギャラリー「ノア」で、会員の大滝由希生さんの水彩画の個展が開かれていて、皆で鑑賞した。水彩画といっても不透明な絵具を用いたもので、油彩の感覚もある絵になっている。奥さんもおいでだった。でも号6万円はするとあって、そう簡単に手軽に買うわけには行かない。個展は 23日までとかだった。

〔そば工房 権兵衛の資料〕
 住所: 〒 922-0136 石川県加賀市山中温泉杉水町ハ33
 電話: 権兵衛 0761-78-1853      自宅 0761-77-1371 (開業してない時の申込み)
 営業: 土・日・祝祭日のみ営業  但し5名以上で予約すれば平日でも可。
 開業: 4月上旬から 11 月末まで (平成7年9月に開業)
 蕎麦; 地元での収穫量は極めて少ないので、他産地のものを用いている。

2014年9月24日水曜日

八方尾根とそば処「常念」(その2)

3.そば処「常念」
 朝起きると、高曇りながら山の稜線がくっきりと見渡せ、白馬三山や五竜岳が間近に見えている。朝風呂に入った後、近くを散歩する。小鳥が樅の木の梢のてっぺんに止まって囀っている。何という鳥だろう。宿へ戻って7時半に朝食をとる。このホテル、昨晩の夕食にしても、今朝の朝食にしても、なかなかセンスが良い。十分に満足できた。
 山の稜線が綺麗なので、松川を渡り、国道へ出て、村外れの山々が見渡せる場所へ移動する。ここからは小蓮華岳、白馬岳、杓子岳、白馬鑓ヶ岳、不帰ノ嶮、唐松岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳を見渡すことができる。手前には岩岳、八方尾根、遠見尾根、バックが青空ならば最高なのだが、それでも満喫できた。ここでナビを入れ、安曇野にあるそば処「常念」へ。
 国道 148 号線を南下する。青木湖、中綱湖、木崎湖を過ぎ、木崎湖入口交差点を右折し、県道 306 有明大町線に入る。この道は安曇野アートラインの山麓線で、沿線には沢山の美術館や博物館がある。その後安曇野広域農道に入り、田中西交差点を東進すると、目指す「常念」に着けた。大きな駐車場が3カ所、車は 40 台、バスも5台駐車可能という。着いたのは 10時半少し前、開店は 11時だと思っていたが、案内ではもう開店の看板が上がっている。草原に車を停め、表示に従って庭へ入る。ここは裏になるようだ。丁度庭師が入り庭木の剪定がされている。表の方に回る。庭は千坪はあろうか。広大である。表に店の方がおいでて、どうか中で休んで下さいとのこと、この前の「みさと」とは雲泥の差である。礼を言って付属する美術館へ、入場は無料とのこと、早速中へ入る。
 ここは飯沼美術館といい、この店が所有する個人の美術館らしい。土蔵の2階がそうであって、誰でもフリーに入れ、しかも収蔵品は手で触れることもでき、盗難の心配はないのだろうか。入口左側には、真田六文銭の紋が付いた長持ち、刀剣入れ箱、御膳、小物入れ、長持ち、陣笠等が置かれている。同じ並びには、薩摩島津藩の丸に十の字の紋が入った簞笥と小簞笥、目を見張る。他には絵画や軸、多くの陶磁器や鉄瓶、地元画家の征矢野久の水彩画、中に与謝野晶子の真筆もあった。すべて個人の収蔵品のようだ。
 11時少し前、表から店に入る。店は江戸時代からの典型的な安曇野の農家の造りだとか、部屋の仕切りの戸は大方外されていて、中からは表と裏の庭を見渡すことが出来る。洋間もある。この時間になり客が次々集まるが、広いので苦にならない。部屋にも書画、骨董、扁額、屏風、掛け軸等々、これらを見てるだけでも楽しい。注文は天ざる、おろしそば、とろろそば、飲み物は、私はノンアルコールビール、彼女らはグラスビール、つまみに砂肝と馬もつ煮をもらう。そばは二八、蕎麦は自家栽培の地元産とか、この店は安曇野でも草分けだと聞いたことがある。それにしても客のあしらいが良いのが何よりだ。そばの方は中の上程度。それにしてもメニューが豊富、一品料理には、天ぷら、岩魚の塩焼き、刺身、たたき、蜂の子、かじか唐揚げ、馬刺し、茸、そばがき等々。松茸料理には、土瓶蒸し、吸い物、茶碗蒸し、焼き松茸等。飲み物も地酒、ビール、ワイン、ジュースのほかに、かじかや岩魚の骨酒も、とにかくバラエティーに富んでいる。また来たい店だ。

4.安曇野アートライン
 「常念」を出て「安曇野の里」へと向かう。ここには家内が前回行きそびれた「あづみ野ガラス工房」や「田淵行男記念館」がある。プラザ安曇野の駐車場に車を停める。かなり広く、敷地には名水が自噴していて、それでそばも打たれている。ところで家内が本当に行きたかったのはこのガラス工房ではなく、実は「安曇野アートヒルズミュージアム」というガラス製品を陳列・販売している場所だということが後で判明した。工房を出て、隣接する田淵行男記念館へ。この建物、周囲はワサビ田に囲まれた山小屋風の佇まいで、流れの所々で清らかな水が自噴している。この日は山岳写真家・高山蝶の生態研究家としての氏の作品や愛用の品々の展示のほか、この時期「燕岳と安曇野 四季の心象」というテーマでの赤沼淳夫の写真展が開かれていた。氏は燕山荘の2代目オーナーで現相談役の人、氏が描かれた油彩の「新雪の燕岳」は中々秀逸だった。帰りにここで信州の雪形なろマップを求めた。満山荘のオーナーも奥山田温泉から一望できる奥穂高岳から白馬岳の北に位置する小蓮華岳までの東面の雪形を観察しておいでだったが、氏が観察した新雪形も収載されているのだろうか。古から際立って有名なのは、白馬岳の「代掻き馬」や五竜岳の「武田菱」、爺ヶ岳の「種蒔き爺さん」等である。ニューフェイスも多い。
 ここを出て、再び東進し、山麓にある「安曇野アートヒルズミュージアム」へと取って返す。場所は安曇野アートライン山麓線の延長上にある。広大な敷地に大きな建物。そう言えば何かの折に来たことがあるのを思い出した。中へ入ると、フロアにはガラス作品やガラス製品が所狭しと並べられている。あのエミール・ガレの作品も陳列されている。どうしてガラスであのような作品ができるのか不思議だ。魔術師だ。いつか家内がここで求めてくれたワイングラスを洗っている時に割ってしまったが、家内の勧めでイタリアングラスの少し厚めのワイングラスを求めた。こうして満足して帰途についた。

2014年9月23日火曜日

八方尾根とそば処「常念」(その1)


1.はじめに
 家内が懇意にしている女の薬剤師の方とは、時々1泊2日の小旅行をする。そんな折には決まって奥さんの妹さんですかとかお子さんですかとか言われる。そんな彼女から9月の連休に何処かへ行こうと催促があった。9月2日と3日に中の湯温泉へ行ってきたばかりなのでどうしようかと思案していたが、彼女の情熱に負けてしまって出かけることに。でも日が迫っていて思案に余ったが、幸い天候は良いとのことで、私が提案したsのは、初日の9月14日は、八方尾根へ行き白馬村の何処かで泊まり、2日目の15日は安曇野のそば処「常念」に寄り、次にこの間は行きそびれた「あづみのガラス工房」へ寄ることにした。

2.八方尾根
 朝7時半に家を出た。天候は薄曇り、途中で彼女を乗せ、北陸自動車道を糸魚川 IC で下り、国道148号線を南下する。この道路かなり交通量が多い。山間を抜けて白馬村に出るが、肝心の白馬三山は雲に隠れて見えていない。八方尾根のゴンドラ乗り場に向かうが、乗り場近くの駐車場は満タンとかで、係員の指示で村の外れの草地に誘導された。冬のスキーシーズンでもこんな混み様を経験したことがない。その草地でさえ一杯なのだからすごい車の量だ。
 そこから歩いてかれこれ10分ばかり、ゴンドラの八方駅へ向かう。確かに駅近くのどの駐車場も皆満車である。乗り場で最上段の八方アルペンラインのリフト終点までの切符を買う。見ているとスキーシーズンと同じ間隔でゴンドラリフトがフル運転している。でも駅舎ではあの車の混み様なのに乗客は少なく、6人乗りゴンドラには私たち3人のみ、先ずは八方駅 (770m) から兎平駅 (1400m) へ。所要時間は8分、眼下には白馬村を一望に俯瞰できる。牛が放牧されている。こんな光景を見たのは初めてだ。駅で下りて少し歩いてアルペンクワッドリフトの乗り場へ。リフトは4人乗り、乗車時間は7分、このリフトからは、白馬三山や不帰ノ嶮が見えるのに、今日は見えていない。着いた所は標高 1680m の黒菱平、ここから鎌池の畔を歩いて、最終のグラートクワッドリフトの乗り場に向かう。5分の乗車で終点の八方山荘、標高 1830m に着いた。
 ここから上を見ると、沢山の人達が更に上へと歩いているのが見える。正に数珠つなぎの状態だ。この上の第2ケルン (2005m) まで行くのか、更に上がって八方池まで行くのか、八方池の標高は 2060m 、一般の人はここまでで、これから上へは唐松岳への登山路になる。八方池は天気が良いと白馬三山を眺望するには絶好のスポットなのだが、生憎今日は雲に隠れて山々は見えていない。ここまでは八方山荘から約1時間半ばかり、路は整備されているので、ハイキングシューズで十分だ。それにしても凄い数の人だ。
 私たちは上へは行かずに約 10m 下にある第1ケルンへ行く。ガイドによると、ここからは澄んだ空気の日には富士山が望めるとあるが、これまで何度もきているのに全く知らなかった。今この辺りはコウメバチソウの白い花が満開だ。こちらの方は人が少ない。スキーだと山荘前からゴンドラ乗り場まで一気に 1000m を下ることになるのだが、昔を思い出す。曇っているが下への視界は良い。展望台を経由して八方山荘前のリフト乗り場へ。するとここは下山者で大混雑、時刻は昼近く、一緒に並んだ登山装備をした若い女の子に、今日は何方までと聞いたら、唐松山荘からとか、昨日は視界が良好で素晴らしかったけれど、今日はガスっていたとか。私も学生の頃には唐松岳 (2696m) へは、後立山縦走で2回、またこの八方尾根からも一度登っている。若い頃のことだ。
 リフトを2つ乗り継いで、うさぎ平テラスへ、スキーシーズンだと全館開放されているのだが、今はテラスのあるフロアのみ。売店に付随した食堂で昼食をとる。この辺りではパラグライダーが離着陸している。熱気球もいる。そして放牧されている牛も。今まで知らなかった八方尾根の姿を垣間見た。
 車まで戻って、時間があるので白馬スキージャンプ台へ向かう。観覧料金を払って先ずはリフトに、スタートタワーで下り、タワー内のエレベーターで4階へ、更に下が見透かせる鉄組の階段を上り、ラージヒル・スタート地点上部にある観覧ステージへ、標高差は 138m とか、ここからスタートして着地までは8秒だそうだ。その後ノーマルヒルの観覧ステージへも寄った。ここから飛ぶ人が見えた。タワー内にはギャラリーもあり、メダルをはじめ、数々の資料が展示されている。下へ下りて、着地点近くにいると、ラージヒルから3人が飛んだ。凄い迫力。飛び終わった人と暫し談笑した。終わって宿へ。
 今宵の宿は白馬八方温泉の白馬アルパインホテル、経営者はあの北アルプスでの最大の山小屋である白馬山荘と同じ系列だという。当初はこれまで二度宿泊したことのある五龍館にと思ったのだが、生憎空きがなく、ここは白馬村観光局から紹介してもらった。通称オリンピック道路沿いにあり、本館と新館があり、私たちは新館に泊まった。冬は高級スキー宿になるのだろう。本館は旧民家を移築したような様相、食事はこちらで頂いた。和洋折衷の夕食は、赤ワインにも十分応えてくれた。部屋も簡素ながら快適だった。

2014年9月12日金曜日

四度目の中の湯温泉(その4)

6.安曇野三郷村の「みさと」なるそば屋
 9月3日の朝、上高地へ行く積もりで、7時に朝食、8時のバスで出発を予定していたが、宿への戻りは昼頃になるので、それなら宿でそばを食べようかと算段した。すると安曇野でのそばはパスしなければならないことに。家内に相談すると、今回は上高地を割愛して安曇野でのそばを優先しましょうということで、そうすることにした。するとそば屋の開店は11時だから、宿は9時半にチェックアウトすればよく、それで朝はゆっくりでき、ここで土産も仕込み、宿の主人に送られて宿を後にした。
 目指すそば屋は安曇野三郷にある庭園そば処「みさと」、電話番号を入力すると、すんなり場所を特定できた。地図を見ると複雑で迷いそうだったが、これで一安心。この店は雑誌「男の隠れ家」に推奨掲載されていたので選んだのだが、なんと築百年の旧家で営むそば屋とか。縁側の向こうには1200坪の日本庭園が広がり、その庭園を愛でながら、地元三郷産の透明感のある香りあるそばを食べられるという。また出汁にも工夫がなされているという。家族5人で切り盛りしているとも。この記事からはすごく家庭的で落ち着いた雰囲気、しかも存分に信州三郷の味を満喫できるように思えた。
 向かう途中に「サラダ街道」なる標識がよく目立つ。でもこの道路沿いにあると言われても、忠実に辿るのはかなり困難だ。とは言え、ナビのお陰で、無事到着できた。開店は11時、15分前に着けた。門があり、竹の移動できる車止めが置いてあるが、車が通れるスペースが開いていて、既に邸内には車が2台駐車していた。それでその隣に車を停めようとしたところ、妙齢の奥さんが出てきて、「まだ開店前なので入らないで下さい。外で待っていて下さい」と。すると先に停めていた方が、「じゃ、私たちも」と言うと、「あなた方は結構です」と。何故か知らないが、とにかく出された。すると車止めが真ん中に移動された。11時になったので車を門の前に移動する。でも車止めが外されたのは2分後だった。
 家内が先に母屋に入った。少し遅れて私も入り、部屋へ入ろうとすると、玄関で待てとのこと。先の1組2人は応接室にいる。家内はというと部屋へ入り縁側から庭を眺めている。「家内はもう中へ入っているのですが」と言うと、しぶしぶ入れてくれた。何とも高飛車だ。座敷には4人は座れる平机が4つ、その一つに座る。ややあってお品書きが届く。お勧めはと訊くと、「御膳そば」という2200円のそば、家内は「天ぷらそば」1580円。先に出された林檎ジュースを飲みながら待つ。やがて黒塗りのお盆に、黒塗りのせいろに盛ったそば。小さい笊には、茗荷、大葉、獅子唐、玉蜀黍、それに紅葉の天ぷら、それに塩。中位の鉢には、冷たい天つゆ、真ん中に茄子,胡瓜、刻み揚げ、白髪葱が入っている。そして胡瓜の漬物が六角の小鉢に。家内のはと見ると、天ぷらがないほかは私と同じ。薬味はないのかと訊くと、天つゆに細工がしてあり、薬味は要らないとの御託宣。他の2組は生山葵とおろし金が配られていて、これは見慣れた天ざるそばだ。家内のは天ぷらそばなのだろうか。何とも解せない。肝心のそばは二八の平打ち、ビチャッとしていて、家内は半分しか食べず、残りを私に、何とも締まりのないそばだった。「ふじおか」のそばが上の上なら、このそばは中の下だ。帰ろうとしたら、応接セットのある間で、御膳そばには抹茶が付いているので、飲んでいって下さいと出される。家内には本来付かないのだが、貴方もどうぞと半量で出された。それにしても実に何とも後味の悪い蕎麦探訪だった。

7.大町山岳博物館
 安曇野から大町へ向かう。時間はまだ午後0時台。大町市制60周年を期にリニューアルされたという大町山岳博物館を見たいと思った。私はこれまで旧館を数回、家内も1回訪れたことがある。ここへもナビの世話になる。建物は少し小高い所ににあり、場所は前と同じだが、規模は倍位、しかも3階建て、外観は煉瓦色、重厚な感じがする。受付では、先に3階へ上がってから順次下の階へ下りながら観て下さいとのこと。入ると左手に武井清による「春の穂高連峰」という100号の油彩、緻密さと大きさに圧倒される。エレベーターで上へ。3階は展望ラウンジ、生憎北アルプスは曇っていて見えないが、晴れていれば素晴らしいパノラマ景観だ。大型画面での「北アルプスの自然と人」の紹介もある。また足下には北信濃の航空写真があり、その自然の素晴らしさを満喫できる。2階の「山の成り立ち」のコーナーでは、素晴らしい大きな化石や岩石が陳列されていて、ぜひ手で触ってその感触を味わって、北アルプスの成り立ちに思いを馳せて下さいとも。また「山と生きもの」のコーナーでは、大町市の市街地から高山にいたるまでの多様な生物を展示してある。こちらの方は触らないで下さいとある。雷鳥の世界にいる仲間の紹介もユニークだった。フロア面積も旧の倍近い。1階は「山と人」のコーナー、先史時代から今日までの山麓での人の暮らしが伺える。また日本の近代登山の幕開けから、ヒマラヤまでの道のりを通史的に捉えてあるコーナーも。そして特別展示室では「山と美術」のコーナー、この日は日本山岳画協会の24人による「日本の山・世界の山」をテーマに、48点の絵画が展示されていた。またユニークなショップもあった。十分堪能して帰路についた。

2014年9月10日水曜日

四度目の中の湯温泉(その3)

5.中の湯温泉旅館
 この旅館は、以前は梓川の「中ノ湯」の畔に建っていた山間の湯だったが、安房トンネルの工事に際して閉鎖を余儀なくされ、平成10年に現在の地で開業したという。安房峠までは急な斜面が続いている中、唯一この地一帯のみ比較的傾斜が緩やかな部分が存在していたというわけである。温泉水は旧館の源泉をポンプアップしているそうだ。この宿は日本秘湯を守る会の会員になっていて、初めて訪れたのは、その関係からだった。
 着くと駐車場には車が約30台ばかり駐車していて、ウイークデイなのに今晩は満員なのではと訝る。時刻は3時半、すると宿の横の小径から、何組もの登山者が下りて来るのに出会った。焼岳からの帰りだという。後で主人に訊くと、ここの駐車場に車を停めて焼岳へ登山するのだという。車のナンバーを見ると、北は山形から、関東、中京、関西、西は鳥取まで、実に多彩だ。ここから焼岳までは、上り3時間、下り2時間だそうである。
 旅館へ入りチェックインする。主人は今朝は穂高が見えていたのに、今は見えないとのことだったが、明朝に期待しよう。ここのロビーは山の宿にしては実にモダンで素晴らしく、天気が良ければ、一枚ガラスを隔てて見られる奥穂・前穂・明神は実に圧巻である。また早春や晩秋には、給餌台に訪れる沢山の小鳥を見ることができる。部屋に案内される。部屋の造りはシンプル、高級山小屋といった感じだ。ドアはオートロック、外から開ける時はかなりの技術を要する代物、だから温泉に入る時は、家内とは交互に入った。
 ここの温泉の泉質は単純硫黄温泉、源泉温度は55℃、毎分122ℓの源泉かけ流しである。男女それぞれに内湯2槽と露天1槽からなる。昨今は午後と翌朝とで男女交互に浴場を換えているが、元男性専用だった露天風呂は環境が実に良く、穂高を見ながらの湯浴みは最高だった。旧の女性専用の露天風呂は竹簾で囲われていて、全く視界が利かず、趣きがない。お湯は温度管理されていて、実に快適だ。
 露天風呂にいた時に、初老の紳士がご入来、話を聞いていると、明日は家族で山へ行くのだと。焼岳ですかと言ったら、夫婦と娘3人で西穂へ行くのだと。上高地から西穂山荘へ上り一泊、翌日は独標まで行き下山する予定とか。私は家族での山行は全くなかっただけに、実に羨ましかった。もっとも今の体力では叶わないと思うが。
 部屋へ戻って、持参の神の河で喉を潤す。窓からは母屋越しに、雲がかかっている穂高が望める。岩燕が群舞している。山鳥が独活の実をついばんでいる。素朴で落ち着ける環境である。夕食は6時半、食堂へ行く。既に料理はテーブルにセットしてあった。この日長月二日の御品書は次のようだった。
 一「先付」こごみ胡桃和え。 二「焚合せ」南瓜葛豆腐、海老酒蒸し、里芋、いんげん、胡麻スープ。 三「温物」飛騨牛すき焼き鍋。 四「刺身」サーモン、大根サラダ。 五「焼き物」岩魚塩焼き、なつめ、茗荷。 六「しのぎ」ぶっかけ蕎麦。 七「香物」野沢菜、赤蕪、胡瓜。 八「汁物」浜吸。 九「蒸し物」生湯葉かに豆乳蒸し。 十「水物」ゼリーチーズ、キュウイ。
 この中で何といっても特に圧巻だったのは「飛騨牛のすき焼き鍋」で、他のお客さんは全員固形メタ火力の「卜伝鍋」だったが、私たちにはガスコンロが用意されていた。この私たちのメニューはテーブルにある特別料理メニューにも名が出ておらず、正に感謝プランにセットされた賜物だったようだ。肉の質も良く、しかも量も一人あて6枚ばかり、これだけでも満腹になりそうだった。いつかやはり感謝プランで来たことがあるが、その時は「しゃぶしゃぶ」だった。その時も十分に堪能したのを覚えている。でもほかの2回は特別なセットではなく、皆さんと同じメニューだった。飲み物は地元ワイナリーの赤のフルボトルを所望、ゆっくり時間をかけ、十分に堪能した。家内も、もしまた感謝プランの案内が来たら,ぜひまた来たいねと言った。

2014年9月9日火曜日

四度目の中の湯温泉(その2)

3.久しぶりの乗鞍岳
 ほおのき平駐車場から乗鞍岳へのバス便は1時間に1本、次は12時50分、その間食堂で高山ラーメンを食する。畳平の気温は4℃とか、上着を持つ。料金は往復2200円、でも私は身障者割引で半額、そして予期しないことに、障害1級だったせいか、家内は介護者とかでやはり半額、子供料金で乗ることが出来た。天候は曇り、時々薄日が射す。定時に発車、乗客は30人ばかり、ここは1300m、ここから畳平まで1400mを上がる。国道を外れ、旧道の県道を先ずは平湯峠へ、更に高度を上げ、森林限界を過ぎ高山帯へ、この道路、バス、タクシー、自転車のみ乗り入れ可とか、自転車で上がっている人がいた。そしてやがて終点の畳平へ。このターミナルには、神社や案内所、郵便局、宿泊施設、売店などの建物が沢山建ち並んでいる。そしてここの標高は2702mとか、丁度白山の標高と同じだ。下りを14時40分のバスにし、約1時間滞在することに。高山帯に来たのは2年ぶり、折角だから近くにある魔王岳2763mに行ってみることにする。
 魔王岳へは段差の大きな石の階段が続いている。天候は曇り、しょっちゅうガスが去来する。したがって視界は良くない。この階段一歩では上がれず、二歩を要する。20段も上がると息が切れ、10秒は息継ぎをしなければならず、家内に待ってもらわねばならない始末に、我ながら情けなくなる。頂までの標高差は61m、何度立ち止まったことか。途中には平らな園地があり、何人かが休んでいる。階段はここまでで、少し先に標識があるピークが見え、ここからはゴロゴロした径となる。そして魔王岳のピークに着いた。視界が良ければ、北に槍穂、それに続く北アルプスが見える屈指の展望台なのだが、あいにく残念ながらそれは叶わない。南に目を転ずると、東大宇宙線観測所が見えているが、それから上はガスで見えていない。でも沢山の人が頂上の剣ヶ峰3026mを目指し行き来しているのが見える。眼下には畳平と鶴ヶ池が広がっている。この頂は狭く、二人しか立てない。暫く居て、下から上がって来る人が見えて、ピークを辞することにする。ゴロゴロした岩場の下り、家内から次の足を置く場所を指定される始末、有り難いことだが、老いては妻に従えか、我ながら落ちぶれたものだ。正に恐れ入谷の鬼子母神である。参った参った。
 下りて乗鞍本宮にお参りし、御朱印を頂く。下りは午後の第3便、登山スタイルの人も多く見かける。まだ9月初旬ということもあって、辺りはまだ緑一色、もう半月もすれば紅葉シーズン、また賑わうだろう。下り便には乗客の長い列、早々に列につく。補助席も使わねばならないほどの満席。下りのバスからは山腹を縫うスカイラインを俯瞰でき、上りには味わえなかった山岳道路ならではの高揚感がある。そしてやがて樹林帯に入り、平湯峠を経て、ほおのき平駐車場に戻った。

4.一路中の湯温泉へ
 もう後は今宵の宿の中の湯温泉旅館へ行くのみ、ここからは私が運転して、安直に安房トンネルを通るのではなく、国道158号線の安房峠越えで行くことにした。トンネル口を過ぎ、平湯温泉手前から峠越えに向かう。トンネル開通前は、高山と松本の往来は、この峠道しかなく、数多くある急なカーブを1回で曲がり切れない大型トラックもここを通っていた。でも今はここを通るのは余程の物好きな御仁のみ、現に対向した車は10台に満たなかった。久しぶりの峠道、のんびり走る。ずっと上りが続き、そしてやがて安房峠へ。標高は1812m、以前は峠に建物があったように思ったが、今は何もない。下車しても仕様がないので、そのまま通過する。これからはずっと下り、家内に聞くと、温泉旅館は7号カーブがある場所とか、急な斜面に作られた道路、長野県側から、カーブ毎に1号かSら順に番号が付けられていて、7号はその7番目のカーブである。峠から順に番号が若くなり、そしてやがて7号カーブ、中の湯温泉旅館が見えた。標高は1500mとかである。

2014年9月8日月曜日

四度目の中の湯温泉(その1)

1. はじめに
 旧盆には、いつも子供たちの3家族、とは言っても全員で11人なのだが、今年は4人が参加できないという。しかも皆が寄れるのは13日のみという。何とも慌ただしい。しかし家内が休暇をとれるのは14日と15日のみという。寄る人数が少ないとはいえ、やはり相応のもてなしはかかせず、結構やりくりが大変だった。その後家内の旧盆休暇が短かったこともあってか、病院から9月の2日 (火) と3日 (水) に休暇がもらえるとのこと、家内から何処かへ出かけようと提案があった。それを聞いて私が出したプランは中の湯温泉行きだった。というのも、丁度中の湯温泉旅館から感謝プランの案内が来ていたからで、それを見せると家内から即 OK の返事があった。善は急げ、早速申し込みをした。さてそれはそうと、観光は何処にしようか、家内は私は忙しいのであんたが考えて下さいとのご託宣、ない知恵を絞らねばならない羽目になった。往き還りのルートはどうするか、ただ高山と松本の街をブラつくのは、何度も行っているので割愛しようと思った。それで思いついたのは、もし天気が良いようならば、乗鞍スカイラインのシャトルバスで乗鞍岳へ、そして翌日は午前中に上高地を散策し、午後は安曇野のどこかで蕎麦でも食べ、そして帰宅しようということにした。

2. 先ずは朴の木平へ
 家を8時半に出る。山側環状道路で森本 IC へ、北陸道から東海北陸道へ入り、飛騨河合 IC でトイレ休憩。初めは私の運転だったが、家内から「ずっと運転をしてると疲れるだろうから、半分は私が運転します」との提案が。家内は私よりずっと運転歴も長く、きっとこの車を運転したいのだろうと思い、飛騨河合 PA から先は家内に運転を譲ることにした。私の予定では、飛騨清見 JCT から中部自動車縦貫道路に入り、高山 IC で下り、以後国道41号線から国道158号線に入り、高山市内を抜けて朴の木平スキー場駐車場へ行くことに、途中で高山ラーメンでも食べて行こうという算段だった。それで家内に運転を託するにあたって、念のために、高山市丹生川町岩井谷にある乗鞍総合案内所の電話番号をナビに入力した。でもこれが曲者であったのは後になってやっと気付いた。
 家内は高速道路でのトンネルは得手でないと言う。とは言え、郡上八幡での私のトラブルに際しては、家まで一人で運転をしてくれた実績がある。飛騨河合 PA から飛騨清見 IC
の間にもかなりのトンネルがあるが、難なく通過、無事中部縦貫自動車道の高山 IC に着いた。その後国道41号線から国道158号線に入る予定のところ、ここでついうっかり手前の富山方向への車線に入ってしまった。これだと高山市内を大きく迂回する道路を通ることになる。それでも市街地を外れたところで再び国道158号線に合流した。あとは一本道、快適に車は走る。途中でめん処へ寄るつもりだったが、通りから入り込んでいたこともあって、見過ごしてしまった。飛騨大鍾乳洞の入り口も過ぎ、ならばスキー場へ直接行こうと、途中バス乗り場の標識があり曲がるが、ナビはそのまま進めとの指示なので、ナビに従った。しかし周囲の様子からは朴の木平はとっくに過ぎてしまっている。そして車は平湯トンネルを抜け、下って安房トンネルの入口へ、ナビは平湯のバスターミナルへ案内したいようだった。トンネル入口にある事務所で乗鞍へ行く手だてを訊くと、乗鞍へ行くのならここ平湯からでも行けるが、駐車場は駐車料が有料だし、しかも混んでいるので、時間があるのなら朴の木平まで戻った方が、駐車場も広く (1500台) 駐車料も無料、その上便数も多いとか、それではと朴の木平まで戻ることにする。平湯側からは案内の道路標識もしっかりしていて、分かりやすい。標識に従い、来る時に曲がった道路に入り、どうやら「ほおのき平駐車場」に着けた。

2014年9月1日月曜日

シンリョウのツブヤキ(9) 8月の花

8月に庭 (露地) で咲いた木々と草花
 植物名を五十音順に、種名・別名(科名 属名)を記した。
 種名の後に(4〜)とあるのは、数字の月に初出したもので、科名属名は省略した。
 植物名の後の〔外〕は、外国原産で安土桃山時代以降に日本に渡来した帰化植物。
 また〔栽〕は、外国原産で明治以降に観賞用などでに日本に移入された園芸栽培種。

1.木 本
 アジサイ(6〜) ガクアジサイ(6〜) マメヅタ(6〜) ヤマフジ(4〜)

 以上 4種(3科 3属)

2.草 本
 イトススキ(イネ科 ススキ属) イノコズチ・ヒカゲノイノコズチ(ヒユ科 イノコズチ属)
 ウシノケグサ(5〜) ウリクサ(ゴマノハグサ科 ウリクサ属) エノコログサ(6〜)
 オオバギボウシ(7〜) オニタビラコ(4〜) オヒシバ(7〜) カタバミ(4〜)
 カワラナデシコ・ナデシコ(6〜) ゲンノショウコ・ミコシグサ(フウロソウ科 フウロソウ属)
 コナスビ(5〜) コヌカグサ〔外〕(5〜) コメヒシバ(7〜)
 チチコグサ(キク科 ハハコグサ属) ツユクサ(6〜) トウバナ(5〜)
 ナツズイセン(ヒガンバナ科 ヒガンバナ属) ニシノホンモンジスゲ(カヤツリグサ科 スゲ属)
 ヒメツルソバ・カンイタドリ〔外〕(4〜) ヒメヒオウギズイセン〔外・栽〕(7〜)
 ヒメムカシヨモギ(キク科 ムカシヨモギ属) ヘクソカズラ(7〜) ミズヒキ(6〜)
 ミョウガ(7〜) メヒシバ(7〜) ヤブガラシ(7〜) ヤブミョウガ(7〜) 
 ヤブラン(ユリ科 ヤブラン属) ヨウシュヤマゴボウ〔外〕(6〜)

 以上 30種(10科 28属)