2013年4月9日火曜日

三度目の満山荘(二日目)

 朝5時に目が覚めた。シャッターを上げると、空には下弦前の月が輝いている。冷え込んだ翌日は晴れるとか、本当だった。80km彼方に、前穂高岳から小蓮華岳に至る、これまた80kmにわたる白い雪を頂いた北アルプス連峰の全貌がシルエットとなって見えている。今日は快晴、三度目の訪問で初めてその勇姿に接することができた。あの峰々を昔縦走したのだと思うと、正に感無量である。暫く待っていると白い峰々が朝日を浴びて薄桃色になってくる。何とも贅沢な一瞬である。朝食は午前8時、6時になって、男女交替になった檜風呂へ行く。露天風呂からもゆっくり大パノラマを堪能できた。
 8時になって風土へ、卓には沢山の朝食が並べられている。大きな白い角皿に十品ばかり、ほかにも蒸し物や和え物、それにデザート、合六椀にご飯と汁物、見ただけで食べられるのかと訝る。私、朝は小食なのにこの量、でも残すのは失礼と懸命に食べた。食事をしてると館主の堀江文四郎さんが見えた。83歳とか、125歳まで生きようと思っていると仰る。その秘訣のうちの二つは、腹八分目と寝るとき寝室の窓を少し開けて寝ること、夏は10cm、冬は5cm、寝ている時に自分の吐いた空気をまた吸うのは良くなく、常に新鮮な空気を部屋に取り入れるのだと言う。ただ今朝はあまりに寒くて目が覚めたという。驚いた。私が三度目の訪問で初めて山を見ることができましたと言うと、今日は80%の出来だと、そして今日だと11時頃が最もコントラストが良くなると教えてもらった。ベランダに500倍の望遠鏡が置いてあるというので覗くと、眼下には長野市の町並みがくっきりと、山に目をやると、五龍岳の武田菱も、唐松岳から延びる八方尾根も、そして正面の鹿島槍ヶ岳に焦点を会わすと右肩に劔岳が、さすがに倍率500倍の威力である。これは昔軍艦に搭載されていたものとかs、これほど解像力のある望遠鏡は他の観光地でもないとか。これまでは天候も悪くお目にかかったことはなかったが、これは実に凄い。話しながらのゆっくりとした朝食、時間をかけ、どうやら平らげた。
 満腹になって、部屋で寛ぐ。陽が高くなってくると空の青さが濃くなり、山の稜線がくっきりとしてきた。飽かずに眺める。チェックアウトは11時、30分前にフロントに下り、土産を買う。玄関には沢山の下足が、温泉組合の寄り合いがあるとかだった。昼食は小布施のおお西流十割蕎麦の手打百藝「おぶせ」で昼食をと予定していたが、とても入る状態ではなく、たまたまフロントに置いてあったパンフレットを頼りに、近くの中野市にある中山晋平記念館と高野辰之記念館を訪ねることにする。
● 「中山晋平記念館」 中野市新野
 山を下りて小布施の郊外でナビを入れる。指示に従って20分ばかり、長野電鉄の電車をやり過ごして山手へ向かうと記念館があった。丁度正午で、正面ゲートに吊り下げられたカリヨンがメロディーを奏でている。丁度の時刻に皆がよく知っているメロディーが流れる仕組み。入ると20分間ビデオで晋平の生涯を教えてくれる。父の死後学業もままならないが、漸く母親の許しを得て上京、島村抱月の書生をしながら東京音楽学校に入学する。その後抱月は芸術座を旗揚げ、依頼されて作曲した劇中歌の「カチューシャの唄」や「ゴンドラの唄」が大ヒットした。さらに「船頭小唄」や「波浮の港」などの歌謡曲や「證城寺の狸囃子」「シャボン玉」「背くらべ」などの童謡、「東京音頭」など全国各地の新民謡など、作曲した曲の数は三千曲とも。日本のフォスターとも言われている。日本著作権協会会長にも就任、昭和27年に65歳でなくなった。館内にあるリスリングコーナーで家内と晋平作曲の唄を10曲ばかり歌った。出たのは丁度2時、この時は「シャボン玉」が奏でられていた。
● 「高野辰之記念館」 中野市永江
 ここへもナビで案内してもらった。この記念館は高野辰之が学び、また教鞭をとった永田小学校の跡地に建っている。よく敷衍している「故郷」の作詞者が高野辰之であることは知っていたが、どんな人物なのかは全く知らず、それが入館して見せてもらったビデオを見て驚いた。青天の霹靂だった。東京音楽大学の教授で「日本歌謡史」を講義し、これを纏めた論文で大正14年に東京帝国大学から文学博士の学位を、また昭和3年には帝国学士院賞を授与され、天皇・皇后両陛下にご進講されている。田舎の先生かと思っていたのに、とても驚いた。昭和18年に現野沢温泉村の別荘「対雲山荘」に隠棲し、昭和22年に71歳で亡くなった。高野辰之は尋常小学唱歌(全六冊)の作成に岡野貞一と携わり、第一学年用「日の丸の旗」、第二学年用「紅葉」、第三学年用「春が来た」、第四学年用「春の小川」、第六学年用「故郷」「朧月夜」を作詞している。これらの歌は、文化庁実施の「親子で歌いつごう日本の歌百選」に5曲が選ばれ、人々に愛され続けられている。 

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