2013年4月15日月曜日

久しぶりの金聖響を聴いて

 4月10日に、金聖響の指揮によるオーケストラアンサンブル金沢(OEK)の第336回定期公演が石川県立音楽堂コンサートホールであったs。この日の演奏曲目は、ワーグナー作曲の楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」から第1幕への前奏曲、ラフマニノフ作曲のピアノ協奏曲第2番ハ単調 op,18、ブラームス作曲の交響曲第1番ハ短調 op,68 の3曲である。ピアノ独奏は外山啓介という若手のピアニストで、失礼だが名前を聞くのは初めての人だった。OEKは現在正規の団員は、外国人の第1コンサートマスターを入れても32人で、通常の定期公演では、客演の奏者を入れて、ほぼ40人規模での室内オーケストラとして演奏している。でもこの日は演目の関係もあって、大阪フィルハーモニー交響楽団34人の協力を得て、総勢75人での大編成での演奏となった。
 大阪フィルは現在百名を擁する大編成のオーケストラで、朝比奈隆が中心となって1947年に設立された関西交響楽団が母体であり、1960年に現在の名称になった名門オーケストラである。この度大阪市に竣工した大阪・フェスチバルホールで5年ぶりに開催されることになっている、第51回大阪国際フェスチバルの杮落とし公演にも出場が決まっている。
 指揮者の金聖響は大阪生まれの中堅指揮者、2009年4月からは神奈川フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任していて、以前からOEKとは浅からぬ縁もあって、2009年12月からはOEKのアーティスティック・パートナーに就任している。これまでブラームスやベートーベンの交響曲をOEKを指揮してリリースしている。そんあこともあって、今回のブラームスの第1番は非常に期待が持てた。
 ピアニストの外山啓介は東京芸術大学大学院を出た若手、私には初めての方、この日の演奏曲目は、ラフマニノフの3曲のピアノ協奏曲の中では最も演奏される回数が多いとされる第2番、しかし難曲なだけに期待と不安が過った。

● ワーグナー 楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
 この曲は単独で演奏されることが多いが、やはり大編成であってこそ、その真価が発揮されるように思う。演奏は実に荘厳で重厚、しかも晴れやかさも持ち合わせていて、実に壮麗な演奏であった。この曲は楽劇上演のときには、前奏曲と次の開幕場面が楽譜上では連続しているので、単独で演奏されるときには、最後のエンディングが問題となる。この日は、ティンパニは最初からロール打ち(長音連打)、ただし4打目の和音を聴いてからロール停止、5打目はオケと一緒にロール打ちして、見事に終曲した。実に感動した。
● ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番ハ短調 op.18
 24歳の自信家ラフマニノフが世に問うた自信作の交響曲第1番は散々の酷評で、この不成功によりこの曲は彼の生前には全く演奏されなかったことは有名な逸話である。その結果ノイローゼになり、「作曲すれば、また酷評される」と作曲できないでいた。その時に彼の治療にあたったのが精神科医のダール 博士で、その苗向きな暗示療法によって彼は劇的に恢復し、そして作曲されたのがこの曲である。この曲はダール博士に献呈されている。現在4曲あるピアノ協奏曲の中では、最も多く演奏されている。この日の外山の演奏は、自信に満ちた清澄なタッチと流れるような楽想、でも緊張していたのか、よく汗を拭っていた。そして終楽章では劇的な高揚があった。オケとの調和も絶妙で、私も久々に興奮し感激した。この演奏に聴衆は万雷の拍手、拍手は鳴り止まなかった。素晴らしかった。アンコールに応えて弾いた静かな曲、メロディーは知っているが、曲名は失念したが、嵐の後の静けさを感じた。
● ブラームス 交響曲第1番ハ短調 op.68
 ベートーベンがシラーの「歓喜に寄す」の詩に感動し、その詩に作曲すると決心してから出来上がるまでに32年が経過したことは有名である。そしてこの交響曲第9番「合唱付」を聴いたブラームスが、これに匹敵する交響曲を書こうと思い詰めたものの、出来上がるまでに21年を要したという逸話も有名である。それでこの第1番は、ベートーベンの第10番とも言われるとか。第1楽章の冒頭は巨人の足音、それはベートーベンの足音なのか、そしてハ短調の序奏部とハ長調のコーダを両端にもつ調性は『運命』と同じだという。第2楽章は旋律美のある室内楽的な響き、第3楽章は澄明なハーモニーが光と影を演出し、そして第4楽章はあのアルペンホルンの旋律と沸き上がる崇高な主題、最後は凄く圧倒的な大編成ならではの素晴らしい高揚感で結ばれた。久々の感激、拍手が鳴り止まなかった。応えてハンガリー舞曲第5番が演奏された。時間は20分もオーバーしたが、帰る人はなく、満員の客は感激に酔いしれた。



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