丁度4年前の3月、石川県では能登半島地震が輪島市を震源として起き、その規模は東日本大震災とは比ぶべきもないが、それでも多くの家屋が倒壊し、住民は避難生活を余儀なくされた。その際、全国から沢山の方々の支援を受け、それが以後の復興の大きな足がかりとなり、被災者は大いに勇気づけられた。ところで今回の大震災、その規模はべらぼうに大きく、大地震に加え、大津波あり、加えて予期せぬ原発からの放射能漏れありと、その惨状は目に余るものがある。石川県からも人的物的な支援が公私共に行なわれていて、私ができることといえば、ささやかな義捐金活動への協力だけだが、微力だが尽くしたい。
4月4日のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期演奏会には仙台フィルの団員の方(宮城県多賀城市在住)に客演参加してもらい、その際カンパされた義援金120万円は彼に預託され、多賀城市へ届けられた。これに先立って、石川県音楽文化振興事業団(理事長は県知事、副理事長は金沢市長と県商工会議所連合会会頭)とOEK、県立音楽堂の三者が、「音楽」を通しての支援活動ができないかを模索し、その初の活動が仙台フィル楽団員の客演参加という形で実現した。そして次には、大震災で東北一円での公演活動の中止を余儀なくされている仙台フィルハーモニー管弦楽団(SPO)を金沢へ迎え、「大震災からの復興支援コンサート」と銘打ち、コンサートを開催することが企画された。このコンサートの合言葉は、『がんばろう東北 つながれ心 つながれ力』で、支援義援金を含む入場料は5千円、SPOが要した経費を除く全額を被災された方々への復興資金としてSPOに預託するものだ。またこのコンサートには、県内に避難されている東日本大震災の被災者も招待された。
当日は午後7時の開演、私が着いたのは6時半、開演前の2階のロビーでは、サックス奏者の筒井さんがピアノ伴奏でクライスラーの曲をプレコンサートされていた。今晩のコンサートは全席自由、きっと満員になると思っていたのに、行列もなく、思ったよりも少ないのに驚いた。入場して公演のパンフレットを受け取ったが、それがOEKの第二ヴァイオリン首席奏者の江原さんからだったのでびっくりした。今日はOEKの方々は皆さんボランティアだとかだった。ホール入口では2・3階へと言われたが、ホール1階ではまだ少し余裕があるとのことで1階に席をとった。入りは8分、もう少しアピールして、満席にしてほしかった。
会の冒頭、OEKの岩崎ゼネラルマネージャーから、これから献奏がありますが、決して拍手はしないようにとの発言がある。次いでSPOとOEKの弦楽器のメンバー、総勢60人が席に着き、リーダーでヴァイオリニストの前ベルリンフィルハーモニー管弦楽団コンサートマスターの安永徹さんのリードで、J.S.バッハの管弦楽組曲第3番ニ長調BMV1068の第2曲「アリア」が弦楽合奏で演奏された。約4分弱の調和のとれた、大編成を感じさせない静かで厳かな演奏、会場からはしわぶきも聞こえず、正に鎮魂の音色だった。後で安永さんは、この曲は通常は4,5人、多くても8人なのだが、こんなに多くの人をリードしたのは初めてだったと述懐されていた。
コンサートのプログラムに入り、始めにM.グリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」の序曲、演奏はOEKとSPO、総勢100名ばかりの大編成、指揮はOEK音楽監督の井上道義さん、コンマスはサイモン・ブレンディス(OEK)さん、一転して豪壮な演奏、大編成の魅力を十分に発揮し、聴衆を魅了した。
この後にはSPOのみによる演奏に入る。SPOの前身は1973(昭和43)年に設立された「宮城フィルハーモニー管弦楽団」、OEKに先立つこと15年である。その後1989(平成1)年に「仙台フィルハーモニー管弦楽団」と改称し現在に至っている。現在の正指揮者は山下一史さん、彼は初代のOEKプリンシパル・ゲスト・コンダクター:首席客演指揮者(1991-1993)でもあった。演奏に先立って、山下さんから次のような挨拶があった。
震災の当日はゲネプロ(本番前の本番さながらのリハーサル)を行なうため、楽団員はホールに集合していました。このときかつて経験したことがない大きな地震、長くて大きな横揺れ。でも建物の倒壊はなく、楽団員も事務局員も全員無事で、楽器の被害も最小限でした。この時はホールの天井は落ちなかったのですが、4月7日の震度6強の揺れでは落下してしまいました。こうして本拠地のホールはもとより、東北一円の各ホールも甚大な被害を受けてしまい、公演活動は少なくとも6月までは中止せざるを得なくなりました。しかし時を経ずして、復興に向けて力強い営みがあちこちで始まり、我々も音楽を届けることによりそれを支援しようと、さる3月26日には『復興のためのコンサート』を自ら企画し実施しました。4月に入ってからは、メンバーの有志が交代で市内の2ヵ所で演奏を行い、市民生活のより身近な場で、人々の心に希望の灯をともすため、音楽を届ける活動をしています。仙台フィルは、このような活動を地道に積み重ねていくことで、小さくとも復興の灯となり、真に地元に根差したオーケストラになれるよう力を尽くす決意です。
この後、60名のSPOのメンバーによる演奏があった。曲は、F.シューベルトの劇音楽「ロザムンデ」op.26,D797 から間奏曲第1番ロ短調と第3番ロ長調の2曲、それとJ.シベリウスの交響詩「フィンランディア」op.26。3曲目は愛国の曲としてはつとに有名な曲、殊のほか思いのこもった演奏、そこには皆と手を携えて復興に立ち上がろうという響きが感じとれた。大きな拍手が沸き上がった。楽団が揃って演奏するのは約1ヵ月ぶりとか、故郷の復興への思いがこの曲に込められていた。
休憩の後、再び合同の100人という大編成で、A.ドヴォルザークの交響曲第9番ホ短調「新世界より」op.95が演奏された。指揮は井上さんだが、コンマスはSPOの伝田さん、後で井上さんから説明があったが、コンマスが伝田さんということは、ソロの部分はSPOの方が行なうということなのだそうだ。曲は哀愁を帯びたものなのだが、この大編成ではむしろ豪壮さでホールの聴衆を魅了した。この復興支援の響きに、会場からは惜しみない轟きにも似た拍手の嵐が起きた。
アンコールは大編成のまま、始めは井上さんの指揮、コンマスはサイモン・ブレンディス(OEK)さんで、曲は2002(平成14)年の大河ドラマ「利家とまつ」のテーマ曲、これまでテーマ曲はNHK交響楽団のみで収録してきたが、岩城宏之さん指揮とあって、OEKと合同で収録したという因縁の曲だ。この大編成で直に聴くと、テレビから流れるテーマ曲とは全く違った雰囲気の歌劇の序曲を思わせる壮大な曲となり、大きな絵巻物を見ているような錯覚を覚え興奮した。凄い拍手だった。
次いで山下さんが登場、コンマスも伝田さんと交代した。曲は同じく1987(昭和62)年の大河ドラマ「独眼竜政宗」のテーマ曲、これも前曲に優るとも劣らない大音響での豪快な響き、仙台の底力を感じとった曲だった。この復興を願う響きと友好のハーモニーに対し、全員総立ちの大きな大きな拍手が送られ、楽団員がステージを去るまで鳴り止まなかったのには驚いた。これに応えて、仙台フィルのメンバーは、「石川の皆さんありがとうございました」という横断幕を持ち、来場者を見送りしていたのは印象的だった。
2011年4月22日金曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿