2011年2月3日木曜日

「ストラディヴァリウス」&「デル・ジェス」

 1月29日の土曜日、ストラディヴァリウスとデル・ジェスという2つのヴァイオリンの名器を聴き比べるというチャリティーコンサートが北國新聞社赤羽ホールで開催されることになっていた。早々とチケットを買い、この日を待った。
 久しぶりの土曜日の外出とあって、じゃ金沢駅まで出向いて「蕎麦やまぎし」へ寄ることにした。この前に寄ったのは大晦日、予約をして年越し蕎麦を食べに出かけて以来、1ヵ月ぶりだ。暮れの年越し蕎麦は予約制、午後4時からおおよそ30分入替えで、午後10時半まで、全部予約済みだというから、単純には満席は9人だから延べ108人ということになる。除夜の鐘の数と同じなのも何かの因縁か。私たちは4家族7人の予約をした。第1陣は午後4時半、第2陣は午後6時、私は第1陣、いつものように券売機でチケットを買おうとしたら、山岸さんが木村さんは皆さん「黒」(挽きぐるみ)と奥さんから伺っているとのこと、ならば従わないといけない。予約の皆さんには時間もさることながら、品も予め決めて頂いたという。蕎麦は契約栽培してもらっている加賀市宮地町の産、自宅で石臼挽きしての十割である。そばは中打ち、新蕎麦で香りもよく、皆さん大喜びで私も推薦した甲斐があるというものだ。この日は奥さんと娘さんが助っ人だった。
 その日は午前11時に出かけた。開店は11時半だが、11時には開いている。ただ、そばが出てくるのは、いろいろ事前の用意もあることから11時半過ぎになる。先客はいなくて、券売機で「粗挽き入り」の大盛りにする。ほどなく東京からの客人と地元の客、皆さん「粗挽き入り」、山岸さんでは、予約もあるので、今日は「粗挽き入り」は完売とか、凄い人気だ。暫らく話していて、ついこの前、松田さんと新田さんが見えましたと言われる。探蕎会のことを何方か耳に入れたのだろうか。でなかったらこんな話が出るわけがない。松川さんも二度ばかり見えましたとか。前田さんと一緒に見えられた方は何といわれましたと言われるから、小塩さんでしょうと話す。例によって「財宝」、今日はコンサートがあるので2杯にしておこう。家内からは予め小銭を400円もらってある。というのは千円札を出すと往々にして釣り銭がないので、どうしても小銭が必要となるからである。今じゃ「蕎麦やまぎし」は大変な人気のようだ。この間はラジオでのインタビューもあったという。
 正午過ぎに「蕎麦やまぎし」を出る。その時はてっきりコンサートは午後2時開演とばかり思い込んでいたものだから、雪のなか、鞍月用水沿いに赤羽ホールへ向かった。でも着いてから分かったことだが、開演は午後3時だった。

 閑話休題
「ストラディヴァリウス&デル・ジェス チャリティーコンサート2011」
 -2つの1736年製ヴァイオリン「ムンツ」-
● ストラディヴァリウス「ムンツ」(1736年製)
 これはアントニオ・ストラディヴァリ(1644-1737)が92歳の最晩年に製作したヴァイオリンである。彼が93歳で亡くなるまでに製作した弦楽器は、ヴァイオリン約1100挺、ヴィオラ約10挺、チェロ約50挺と言われていて、このうちヴァイオリンで現存が確認されているのは約半数と言われている。愛称の「ムンツ」は1874年以降にイギリスのアマチュア演奏家で収集家のムンツ氏が所有していたことに因む。そしてこのヴァイオリンの内部にはラベルが貼ってあり、それにはストラディヴァリ本人の手書きで「d’anni92(92歳の作品)」と書かれているという。現在の所有は日本音楽財団、彼には息子が二人いてやはり弦楽器を作ったそうだが、親父の作品には遠く及ばなかったという。したがって「ストラディヴァリウス」というのは親父の製品のみを指す。でもこの楽器、個々では音色や保存状態によって差があり、ピンからキリだと聞いたことがある。
● グァルネリ・デル。ジェス「ムンツ」(1736年製)
 製作者はバルトロメオ・ジュセッペ・グァルネリ(1698-1744)で、作られたのはヴァイオリンのみで、ロンドンの老舗楽器商のヒル商会が確認している数は世界で147挺のみ、外聞では女に手出しして刑務所にも入っていて、その間は製作できず、製作本数はそんなに多くはないとか。40歳台で他界したことも影響していよう。兄がいて兄も楽器を製作していたそうだが、グァルネリの名器といえば、弟の作ったものを指す。彼は自分が作ったヴァイオリンの内部には、イエズス会を示すIHSの符号と十字架を記したラベルを貼っていたことから、彼が製作したヴァイオリンは「デル・ジェス」(イエスの)と呼ばれている。また愛称はムンツ氏が一時所有していたことに因む。現在の所有は日本音楽財団。
● 日本財団と日本音楽財団
 日本財団(会長 笹川陽平)はこれまでもモーターボート収益金で海洋船舶関連事業や公益・福祉事業、国際協力事業を支援してきたが、1993年以降、会長の発案により、文化芸術活動の支援をする目的で名器(とりわけ弦楽器)を購入し、内外の演奏家に無償で貸与する事業を日本音楽財団に託して支援を行っている。財団では、現在ストラディヴァリウス19挺(ヴァイオリン15挺、ヴィオラ1挺、チェロ3挺)とグァルネリ・デル・ジェス2挺(ヴァイオリン)を保有している。ただ貸与者には楽器を3ヵ月に一度、財団が指定する世界各国の楽器商でメンテナンスすることを義務づけているが、その費用は財団が負担している。その経費は年間5千万円にもなるという。楽器貸与先の決定は財団の楽器貸与委員会(委員長は指揮者のロリン・マゼール氏)が行っている。
● 演奏者
 ヴァイオリン演奏:[ストラディヴァリウス使用] 有希・マヌエラ・ヤンケ(2007年サラサーテ国際コンクール優勝・ドイツ国籍)  [グァルネリ・デル・ジェス使用] 渡辺玲子(1986年パガニーニ国際コンクール最高位受賞・日本国籍)
 ピアノ伴奏:江口 玲(1986年ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリン・コンクール最優秀伴奏者賞受賞・日本国籍・ニューヨーク在住)
● プログラム
 演奏会に先立って挨拶した日本音楽財団の塩見和子理事長は演奏者を、「有希」「玲子」と言っていたので、以下には演奏者をそのように略記する。
 1.ヴァイオリン二重奏:ルクレール作曲 2つのヴァイオリンのためのソナタ第2番イ長調(3楽章)。
2.「有希」独奏(ピアノ伴奏):サン=サーンス作曲 序奏とロンド・カプリッチョーソイ長調 と ヴィエニャフスキ作曲 華麗なるポロネーズ第1番ニ長調。 3.ヴァイオリン二重奏とピアノ演奏:モシュコフスキ作曲 2つのヴァイオリンとピアノのための組曲ト短調(4楽章)。 4.ヴァイオリン独奏(同じ曲を2つのヴァイオリンで聴き比べる特別企画).「有希」と「玲子」:J.S.バッハ作曲 独奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番ホ長調からガボット。 5.「玲子」独奏(ピアノ伴奏):クライスラー作曲 ウィーン奇想曲/愛の喜び と ワックスマン作曲 カルメン幻想曲。 6.ヴァイオリン二重奏(ピアノ伴奏):サラサーテ作曲 ヴァイオリン二重奏曲「ナバラ」。

 以上を休憩なしの90分で、息継ぐ間もない演奏、演奏者は大変だったろうと思う。それにしても曲はみなヴァイオリン曲としては難曲の類、特に二重奏は息がピッタリ合ってないと様にならないのだが、実に見事で聴き応えがあった。3人の演奏家は共に始めてであるが、さすが国際コンクールで優勝したり最高位だったりした人たちとあって、何とも素晴らしい迫力だった。また楽器が楽器だけに、500人収容のホールの隅々にまで音が響きわたり、極端な言い方をすると、うるさい位、ピチカートでもビンビン音が響いた。あの小さい楽器であの音量と音色、十分堪能した。2台のヴァイオリンの弾き比べでは、ストラディヴァリウスは全体に女性を思わせるようで、特に高音部は繊細で心を震わせるような音色、それでいて芯が強く、放射線で言えばガンマ線のようだ。片やデル・ジェスは、どちらかというと男性的な響き、中でも中低音部での野太い豊かで野生的な音が印象的だった。高音部も澄んではいるものの繊細さはなく、むしろ力強さを感じた。放射線で言えばベータ線だ。ピアノで例えると、ストラディヴァリウスは優等生のスタインウェイ、デル・ジェスは野生児のベーゼンドルファーといったところだろうか。話は変わるが、五嶋みどりは以前は日本音楽財団からストラディヴァリウスを長期貸与されていたが、現在はグァルネリ・デル・ジェス「エクス・フーベルマン」(1734年製)を林原共済会より終身貸与されて使用しているとかである。ちなみにこの日に使われた「ムンツ」2挺の合計評価額は、嘘か真か、約13億円とか、大変な共・競演だったわけだ。

 この企画は北國新聞社の飛田社長のたっての希望で実現したと塩見理事長が挨拶の中で述べていた。演奏会には理事長も社長も出席していた。  

0 件のコメント:

コメントを投稿