現在市場に出回っているいわゆる「抗がんサプリメント」と称するものについて、主に国立健康・栄養研究所のホームページにある「素材情報データベース」から、主としてその有効性と安全性について紹介する。一部現在薬剤として使用されているものについては、「治療薬マニュアル」を参照した。紹介順は50音別によった。
キノコ類の俗に「抗がん効果がある」とか「免疫力を高める」といった効果は、キノコ類に共通して含まれる多糖体のβ-(1→3)D-グルカンやβ-(1→6)D-グルカンが主作用成分であるとされるが、これら高分子グルカンはキノコの種類、菌株、産地、生育条件、採取時期等によって、β-D-グルカンの構造特性や成分含量には大きな違いがあり、その構造と活性との関連については、これまで一定の見解がないのが現状である。
1.アガリクス Agaricus → ヒメマツタケ
2.カワラタケ 瓦茸 (タコウキン科、カワラタケ属)
素材情報DBに記載はないが、菌糸体から得られた β-D-グルカンの「かわらたけ多糖体製剤末(krestin=PSK)」(製品名クレスチン)は、in vitroで白血病細胞、ヒト肝細胞に対して細胞増殖抑制を示し、また in vivoでも種々のがんに対して抗腫瘍効果がある。この製剤は現在「非特異的抗悪性腫瘍剤」として、消化器がん手術後の患者における化学療法との併用による生存期間の延長や、小細胞肺がんに対する化学療法併用での奏功期間の延長の目的のために経口投与され使用されている。
3.カワリハラタケ → ヒメマツタケ
4.シイタケ 椎茸 (キシメジ科、シイタケ属)
食用キノコで、東アジア、ニュー-ジーランドに分布する。日本では春・秋の2季に、シイ、クヌギ、コナラなどの広葉樹、稀に針葉樹の倒木や切り株にも発生する。現在はホダ木による人工栽培が行われている。健康食品として俗に「免疫賦活作用がある」「抗ステロール作用がある」と言われているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータは見当たらない。食事で摂取する量ならば安全であるが、アレルギー体質の場合には、腹部不快感や皮膚病や光過敏症を起こすことがある。成分はレンチナン(β-D-グルカンを主体とした多糖類)、エルゴステロール(VD前駆体)、オレイン酸、リノール酸、VB群で、レンチナンに関しては、胃・大腸・肺・卵巣・乳・膵臓・肝臓・食道がんの付加的治療への使用について有効性を示唆する予備的な報告がある。特に胃・大腸・肺がんに対しては有効性が示唆されている。微粒子分散したレンチナン含有食品には、抗がん剤の副作用の発現抑制効果がある。
また「非特異的抗悪性腫瘍剤」として収載されている「レンチナン注」は、シイタケの子実体より抽出して得た抗腫瘍性多糖類を精製したもので、β-(1→3)結合を主鎖とする高分子グルカンである。適応は手術不能または再発胃がん患者における代謝拮抗剤テガフール経口投与との併用による生存期間の延長で、週1-2回静注する。
5.スエヒロタケ 末広茸 (スエヒロタケ科、スエヒロタケ属)
素材情報DBに記載はないが、菌糸体の培養ろ液から得られる抗腫瘍性多糖体(β-(1→3)D-グルカン)のシゾフィラン(sizofiran=SPG)は、免疫機能を活発にすることで腫瘍増強抑制・転移抑制・延命の効果がある。製品名は「ソニフィラン注」で、適応は子宮頚がんの放射線治療の直接効果の増強で、腫瘍の発育を抑える「非特異的抗悪性腫瘍剤」として収載されている。
6.トウチュウカソウ 冬虫夏草 (バッカクキン科、トウチュウカソウ属)
キノコの胞子が昆虫の幼虫に寄生して、その体内に菌糸の塊りである菌核を充満させ、時期がくると昆虫の頭部や関節部から棒状の子実体を伸ばしたものの総称で、中でもコウモリガの幼虫に寄生するチベット産のもの(ブレゼイ冬虫夏草)が有名であるが、ほかにも多くの種類がある。中国では古くから漢方の素材として滋養強壮作用があり、慢性疲労や病後の回復によいとされ、また滋養強壮の薬膳料理として幅広く使用されてきた。現在化学療法後のがん患者の生活の質(QOL)と細胞性免疫の向上及びB型肝炎患者の肝機能の向上に対して、一部の人では有効性が示唆されている。安全性については、経口で適切に使用する場合には問題はない。成分としてのβグルカンの含量は通常のキノコの約170倍と多く、アミノ酸、ミネラル、ビタミンも豊富である。またATP分子を増やす効果があり、肝臓に蓄えられるATPを30%増やすとされる。
7.ハナビラタケ 花びら茸 (ハナビラタケ科、ハナビラタケ属)
亜高山帯の針葉樹の根元や切り株に発生する食用キノコで、俗に「抗がん作用がある」とされ、一部栽培もされている。素材情報DBに記載はないが、β-(1→3)Dグルカンの含量は通常のキノコの40倍と多い。
8.ヒメマツタケ Agaricus 姫松茸 (ハラタケ科、ハラタケ属)
属名が英名になっていて、食用のハラタケとは同属である。学名を Agaricus blazei、別名をカワリハラタケという。1965年にブラジルから移入され、人工栽培されている。俗に「抗がん効果がある」「免疫賦活作用がある」「血糖降下作用がある」などと言われ、「アガリクス」という名の付く健康食品が数多く出回っているが、これまで公式にヒトに対する有効性と安全性については、信頼され参考になる十分なデータは見当たらない。成分としては、他のキノコに比し粗タンパク質が43%と多いほか、多糖類、アミノ酸、VB群、エルゴステロール(VD前駆体)、Mg、Kなどを含むとの報告があるが、通常のキノコより10倍は多く含まれるというβーD-グルカンも含め、その含量は製品により大きなバラツキがあるとされる。アガリチンの含有量は乾燥重量の500-5000mg/kgである。有効性については、ヒトへの投与でNK活性が増加したという報告があるが、対象人数が少ないうえ期間も7日と短く、更なる検証が必要である。in vivoでは、①熱水抽出物をマウスに経口投与すると脾臓の免疫細胞が有意に増加した、②酸処理画分(ATF)を担がんマウスに注射するとNK細胞の浸潤があり、がん細胞のアポトーシスを誘導し腫瘍細胞の増殖を抑制した、③冷水抽出物を担がんマウスに経口投与したところ腫瘍増殖の抑制があったとの報告がある。
副作用については、アガリチンによるとみられる肝機能障害があったとの報告がある。また含有されるβ-(1→6)Dグルカンには、リンパ性白血病や悪性リンパ腫など、リンパ球ががん化する病気に用いると、発がん作用を促進・助長する発がんプロモーター効果があるものがあり、これらについては回収と販売の停止がなされた。また免疫力の増強により、免疫細胞から分泌される物質によって、がんに伴う炎症が悪化したり、体力の消耗があったとされる例も報告されている。安全性については、副作用の肝障害は使用中止により回復、呼吸困難、紅斑、皮疹も使用中止により改善されたとの報告がある。
9.マイタケ 舞茸 (タコウキン科、マイタケ属)
ブナ科の樹木の根元に出るキノコで、栽培品も多く、食用として馴染みが深い。マイタケの中国名は「灰樹花」、英名は Gray-maitakeで、その抽出物は「中性脂肪を下げる」「がんを予防する」と言われているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータはこれまで見当たらない。安全性については適切に摂取すれば問題はない。サプリメントとして摂取する場合には、妊娠中・授乳中の場合にはデータがないので、避けた方がよい。成分としてはβ-(1→6)Dグルカンを含み、マイタケ多糖体にはⅡ型糖尿病患者で血糖値を下げる可能性が示唆されていて、ハーブやそのサプリメントと併用すると相乗的に血糖値低下を来たすとされる。
10.マンネンタケ → レイシ
11.メシマコブ 女島瘤 (タバコウロコダケ科、キコブタケ属)
日本、中国などに分布する桑に寄生する多年生のキノコで、昔から漢方として使われていて、健胃、利尿、止汗、止痢作用があるとされている。メシマコブの由来は、長崎県男女諸島の女島産の「猿の腰掛」を意味し、和漢薬で薬用に供される「猿の腰掛」はこのキノコである。このキノコは八丈島の桑にも発生していることが分かり、江戸時代にはこの両島産のものが良品とされた。中国名は「桑黄」。俗に「免疫力を向上させる」「がんを予防する」などと言われているが、ヒトでの有効性についてはデータが見当たらない。安全性については、大量に摂取すると下痢や嘔吐を起こす可能性がある。成分としては、子実体に汗腺の分泌を抑えるアガリシン酸やアガリチンのほか、β-(1→3)(1→6)Dグルカンを含み、水溶性エキスには抗腫瘍性があるという研究報告がある。一方で間質性肺炎を発症した例がある。
12.ヤマブシタケ 山伏茸 (サンゴハリタケ科、ヤマブシタケ属
傘を分化せず、全面から長さ1-5cmの柔らかい針を垂らし、全体は倒卵形~卵形の塊をしており、広葉樹の立ち木や枯れ木に下向きに垂れ下がる。その形が山伏の衣装についた飾りに似ていることから、この名が付いた。中国でも日本でも食用とされる。別名はシシガシラ、ハリセンボン、上戸茸。成分としてヘリセノンが子実体から、エリナシンが菌糸体から分離されているほか、β-D-グルカンが通常のキノコの30倍程度含まれる。俗に「中年の物忘れを改善する」「免疫力を高める」と言われているが、ヒトに対する有効性については信頼できる充分なデータは見当たらない。安全性については、ヤマブシタケ摂取によると考えられる急性呼吸不全、接触性皮膚炎の報告がある。
13.レイシ 霊芝 (マンネンタケ科、マンネンタケ属)
北半球の温帯広葉樹林にみられるキノコで、中国では紀元前200年から記述がある歴史の古い漢方素材である。一般に食用とはしない。古来より6種の霊芝が記され用いられてきたが、現在では赤霊芝と紫霊芝の2種類のみが使用される。一般的にはサルノコシカケの一種であるマンネンタケのことを「霊芝」と呼んでいる。近年霊芝の多糖類が注目され、俗に「抗腫瘍活性がある」と言われているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータが見当たらない。ただ in vivoで、熱水抽出物にNK細胞を活性化する、水溶性多糖類に抗腫瘍効果がある、in vitroで子実体の多糖類には白血病細胞株の増殖抑制作用があるとの報告がある。安全性については、血小板減少症の人では出血傾向、血圧低下作用のある医薬品との併用により低血圧を起こす可能性がある。主な成分は、トリテルペノイド60種以上(ガンデリン酸ほか)、フコフルクトグリカン、ペプチドグリカン、アラビノキシルグリカン、β-D-グルカン(通常のキノコの数倍量)などの多糖類のほか、エルゴステロール(VD前駆体)、マンニトール、種々の脂肪酸などが含まれるが、品質は同一産地、同一品種であっても、栽培条件や収穫時期により異なる。
付. パン酵母・ビール酵母 (サッカロミセス属)
酵母(イースト)は糖を分解してアルコールと炭酸ガスを生成し、醗酵食品には欠かせない微生物で、菌体には醗酵に必要なビタミン、ミネラル類をはじめ、タンパク質、グリコーゲン、セルロース、脂肪などを多く含む。酵母はビタミン剤の製造原料となるほか、乾燥酵母としても用いられる。ビール酵母の細胞壁を構成するセルロース由来の食物繊維を関与成分とした特定保健用食品が許可されている。これまで俗に「肝機能を向上させる」「老化防止や美容に効果がある」などと言われているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータは十分ではない。酵母製品においては、ビタミン、ミネラルのほか、機能成分として、キノコ類に広く含まれる多糖類の β-D-グルカンが多く含まれていることから、近年その働きが注目されている。
2010年1月15日金曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿