2010年1月28日木曜日

いわゆる抗がんサプリメント (4) アポトーシス誘導物質

 以下に挙げたいわゆる抗がんサプリメントは、アポトーシスを誘導したり促進して、がん細胞が自ら死ぬように誘導したりするとされているものである。ここでいうアポトーシス apoptosis というのは、病的な細胞死とは異なり、細胞内部器官の構造は保たれながら核内のDNAが断片化して死に至るもので、いわば管理・調節された細胞の自殺、すなわちプログラムされた細胞死 programmed cell death と言える。このような現象は自然界ではよくあることで、卑近な例としては、オタマジャクシから蛙になる際にオタマジャクシの尾が成体になるときに自然になくなる、これがプログラミングされたアポトーシスである。しかし人体でがん細胞や組織が、このようなアポトーシス誘導・促進作用によって消滅したという事実は検証されておらず、もしがん細胞が自ら死滅するほどの濃度のサプリを用いれば、抗がん剤と同じような副作用が出る可能性があり、健康食品の素材情報DBを見るかぎりアポトーシス誘導・促進作用があるとの記載は一切ない。

1.パウ・ダルコ(紫イペ) Pau d‘arco, Ipe-roxo(イペーロショ)
 南米アマゾン川流域に自生するノウゼンカズラ科タベブイア属の高木(樹高30-50m,幹径1-2m)で、滑らかなグレーの樹皮と黒褐色の木部をもつ広葉樹で、白、黄、紫の花をつける。このうち紫の花をつけるのが「紫イペ」で、これは T.heptaphylla、T.inpetiginosa、T.avellanedae の3樹種の総称で、このうち T.avellanedae のみを区別して「タヒボ」と称している。ちなみに黄色イペはブラジルの国花となっている。インカのインディオたちはこれらの樹木の外皮と木質部に挟まれた僅か7mmほどの内部樹皮を煮出し、茶として愛飲してきた。
1´ タヒボ Taheabo. Tabebuia avellanedae
 日本ではこの名の健康茶が出回っている。俗に「免疫機能を高める」「関節炎や痛みを和らげる」と言われているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータが見当たらない。安全性については、過剰摂取では吐き気、嘔吐、目まい、下痢を起こし、場合によっては重篤な悪影響を起こすことが報告されている。主な成分としては、抗酵母化合物であるラパコール及びβラパコーン、キシロイジンが含まれる。
2.フコイダン Fucoidan
 コンブ、ワカメ、モズク、メカブなどの褐藻類の特に「ぬめり」の部分に含まれる酸性多糖類で、L-フコースを主要構成糖とし、他の多糖類と違って硫酸化多糖類(硫酸化フカン)が多く含有されるのが特徴である。フコイダンは海藻が潮の流れや衝撃で起きた傷の修復や周囲の生物に食べられないように自分自身を守るためのガードの役割を果たしているとされる。俗に「血圧の上昇を抑える」「抗ウイルス・抗菌作用がある」「肝機能をよくする」「コレステロールを下げる」「がんによい」などと言われているが、ヒトにおける安全性・有効性については調べた文献の中には信頼できる情報が見当たらない。ただ in vivo で担がんマウスに投与したところ生存期間が延長したとか、正常マウスに投与するとNK活性やT細胞のIFN-γの産生が高まったという報告がある。
3.アラビノキシラン Arabinoxylan
 健康食品の素材情報DBには記載がない。イネ科植物(イネ、トウモロコシなど)の植物の細胞壁を構成しているヘミセルロースのうち、温水で抽出された水溶性食物繊維のヘミセルロースBを酵素の働きにより低分子化したものがアラビノキシランで、キシロース3分子にアラビノース1分子が側鎖についたキシロースの直鎖重合体からなる。市販のものは米糠アラビノキシランと称されている。
4.環状重合乳酸 CPL(cyclic-poly-lactate)
 いくつかの乳酸分子が環状に連なった重合体で、普通の乳酸とは全く異なった働きをする。がん細胞の培養液から見つかったがん細胞の増殖抑制因子が低分子の乳酸重合体であるという報告により注目され、現在では合成されている。俗に「がんの痛みを和らげる」「免疫機能を向上する」などと言われているが、ヒトでの有効性・安全性についての信頼できるデータは見当たらない。 
5.プロポリス Propolis
 ミツバチが樹木の特定部位(新芽、蕾、樹皮など)から採取した樹液や色素などに、ミツバチ自身の分泌液を混ぜて出来た巣材である。ハチの巣から分離するため純物質を得ることは難しく、巣の副産物が含まれることが多い。また産地や抽出方法によってその構成成分が異なっている。プロポリスは紀元前350年から利用されていて、ギリシャ人は膿瘍に、アッシリア人は傷や腫瘍の治療に用いたと言われている。俗に「抗菌作用がある」「炎症を抑える」などと言われ、一部でヒトでの有効性が示唆されているが、参考となる十分なデータは見当たらない。安全性については、ハチやハチの生産物にアレルギーのある人(特に喘息患者)は使用禁忌であり、外用に用いた場合(化粧品を含む)に接触性皮膚湿疹を起こすことがある。主な成分はフラボノイドのピノセンブリン、ガランギン、ピノパンクシンなどである。またブラジル産プロポリスに含まれる化合物の多くは、Baccharis draculifolia という植物の新芽にしか含まれないものであったという報告がある。
6.紅豆杉(ホングドウサン) Hongudoushan
 中国雲南省の高山、主に3300mから4100mの山地に自生しているイチイ科の植物で、世界の樹木の中では最も高い場所に自生している。別名を赤柏松、紫杉、紫金杉と言い、2億年前の中生代から生き延びてきた仙樹で、「太古の生きる化石」と呼ばれている。材の部分を粉砕したものを紅豆杉茶として飲用する。抗がん剤として使われているタキソール系の植物アルカロイドが含まれているので、抗がん活性がある程度期待できると言われる。
7.アミグダリン Amygdalin (レートリル Laetrile)
 アミグダリンは青酸配糖体で、アンズ、ウメ、モモ、スモモ、アーモンド、ビワなどのバラ科サクラ属の未熟な種子にある仁に多く、未熟な果肉や葉、樹皮にも微量含まれる。俗に「がんに効く」「痛みを和らげる」などと言われているが、ヒトにおける安全性・有効性については、米国がん研究所(NCI)での臨床試験では、がんの治療・改善及び安定化、関連症状の改善や延命に対し、いずれも効果がないとされた。この物質は酵素分解されるとシアン化水素 HCNを発生する。
8.ω3不飽和脂肪酸 (DHA、EPA) (前出)
 体内酵素で炎症細胞やがん細胞に多く存在するものにCOX-2(シクロオキシナーゼー2)があり、炎症反応や血管新生、発がんなどに関与しているとされ、この酵素が過剰に発現しているがんとして、大腸がん、乳がん、胃がん、食道がん、肺がんなどが報告されている。ω3不飽和脂肪酸(代謝順はαリノレン酸→エイコサペンタエン酸→ドコサヘキサエン酸)にはこのCOX-2に対する阻害作用があるが、ω6不飽和脂肪酸(代謝順はリノール酸→リノレン酸→アラキドン酸)は逆に促進する作用がある。ところでヒトを含む動物は、多くの不飽和脂肪酸の中で、αリノレン酸とリノール酸を合成できず、この2種の不飽和脂肪酸は動物にとって絶対不可欠で、これらは食物から摂取しなければならない必須脂肪酸である。プロスタグランジンE2(PGE2)という生理活性物質は、増え過ぎるとがん化しやすくし、進行も速めることが分かっている。PGE2は細胞の増殖や運動を活発にしたり、細胞死を起こりにくくする生理作用があるため、がん細胞の増殖や転移を促進する働きがある。そして一般的にはω6系脂肪酸はがんの発育を促進し、ω3系脂肪酸はがんの発育を抑制するので、摂取するω3系とω6系の脂肪酸の比ががんの発育に影響を及ぼすことになる。ω3不飽和脂肪酸は「魚」に多く含まれていて、PGE2の産生を抑制し、がん細胞の増殖・転移や腫瘍血管の新生を抑制し、がん細胞のアポトーシスを促進し、結果としてがんの増殖を抑制する。一方、「肉」に多く含まれるω6不飽和脂肪酸は、逆にPGE2の産生を促進し、がん細胞の増殖・転移や腫瘍血管の新生を促進し、がん細胞のアポトーシスを抑制し、結果としてがんの増殖を促進することになる。

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