2010年1月20日水曜日

いわゆる抗がんサプリメント (2) 抗酸化物質

 ここでいう抗酸化物質とは、抗酸化性のビタミン及びビタミン前駆物質、ビタミン様物質並びにカロテノイド及びポリフェノールを指す。これらの物質は二重結合を多く含んでいるので抗酸化作用が大きく、生体内でフリーラジカルを除去し、一重項酸素を消去し、がんの発生や悪化の原因となる活性酸素を除去する。
 しかし一方で抗がん剤や放射線治療中に過剰に摂取すると、これらの治療法は活性酸素の力を利用してがん細胞を死滅させるため、抗酸化サプリを過剰に摂取すると、活性酸素を消去して治療効果を弱める可能性がある。また βカロテンは、喫煙者が過剰に摂取すると、肺がんの発生・増殖を促進する可能性があるとされている。

1.抗酸化性ビタミン
1.1 ビタミンC (アスコルビン酸) L-ascorbic acid
 抗酸化作用をもつ水溶性ビタミンで、体内ではコラーゲンの生成並びに重要な抗酸化物質として作用する。食品で100mg/100g以上含まれるのは、芽キャベツ(160)、赤・黄ピーマン(160)、ブロッコリー(120)、菜の花(110)、レモン(100)である。VCはほとんどの動物では生体内で生合成できるが、ヒトとモルモットでは合成酵素の欠損から生合成することができない。 VCは生体内ではストレスや喫煙によって消費されることが知られている。一般に「コラーゲンの合成を促進する」「抗酸化作用がある」「FeやCuの吸収を妨げる」「メラニン色素の生成を抑制する」「免疫力を高める」などと言われている。食事からのVC摂取では、がんのリスクや死亡率を低減させる効果があるとされるが、サプリメントではそのような効果はないという。 
1.2 ビタミンA (レチノール) retinol
 動物性食品に含まれている脂溶性ビタミンの一つで、1mg/100g以上含まれる食品としては、ニワトリ肝臓(14)、ブタ肝臓(13)、ウシ肝臓(1)、ヤツメウナギ(8)、ウナギ(2)、ギンダラ(1)がある。植物性食品に含まれるカロテンは、生体内ではVAに変換される。VAは上皮、器官、臓器の分化に関与することから、妊婦や授乳婦にとっては特に必要なビタミンである。一般に「眼や結膜を正常に保つ」「夜盲症を防ぐ」「がんのリスクを軽減する」などと言われている。しかしがん患者の2次がん再発リスクの減少に対しては恐らく効果がないのではと言われている。ただ経口摂取による乳がんの予防に対しては有効性が示唆されている。脂溶性であるので、過剰摂取には注意が必要である。
1.3 ビタミンE (トコフェロール) dl-α-tocopherol
 脂質の酸化を抑制し、結果として細胞膜やタンパク質、核酸の損傷を防ぐ作用を有する脂溶性ビタミンの一つである。VEが不足すると神経障害を引き起こす。食品では植物油(コーン油、大豆油、サフラワー油)や小麦胚芽、アーモンド、落花生などに多く含まれる。一般に「活性酸素を消去する」「心疾患、脳卒中、がんを予防する」「老化を防止する」などと言われている。VE単独では効果はないが、 βカロテンとSe、VAとVCを組み合わせると、がんの発生率や死亡率の抑制に効果があることが示唆されている。
2.ビタミン前駆物質
2.1 カロテン carotene
 カロテノイドに属する色素で、生体内でVAに変換される物質で、プロビタミンA である。その代表が βカロテンで、最も効率よくレチノールに変換され、VA作用を介して上皮、器官、臓器の成長や分化に関与している。 βカロテンが1mg/100g以上含まれる食品としては、ニンジン(9)、ホウレンソウ(5)、シュンギク(5)、コマツナ(3)などがある。俗に「活性酸素を消去する」「がんを予防する」「LDL-コレステロールを低下させる」などと言われている。前立腺がん、胃がんの予防に役立ち、がんの発生率や死亡率の抑制効果が示唆されるという報告がある。
3.ビタミン様物質
3.1 コエンザイムQ10(CoQ10) coenzyme Q10
 肉類や魚介類などの食品に含まれている脂溶性の物質で、ヒトの体内でも合成されていることから、ビタミン様物質といわれる。ビタミンQともいわれ、生物界には広く分布している。キノン構造を有することから、ユビキノン ubiquinone と呼ばれることもある。コエンザイムQ10の「10」という数字は、構造中のイソプレンという化学構造の繰り返し数を表している。1957年、電気伝導系に関与する補酵素としてウシ心臓ミトコンドリアから分離された。コエンザイムとしてATPの産生に関与、また抗酸化物質として注目される。この物質は脂溶性のため、脂肪の多い食事と共に摂取すると吸収率が高まる。体内では、呼吸活性の高い心臓、肝臓、肺臓、腎臓、副腎などに多く含まれる。細胞では、ミトコンドリア内膜、血液中では LDLなどのリポタンパク質に結合して存在する。ヒトでは脳と肺以外では、還元体(ユビキノール)の形態をとる。血漿中のCoQ10の40%は食事由来、60%は体内で合成されたものである。俗に「活性酸素の増加を抑制する」「免疫増強作用がある」と言われる。 in vitro や in vivo で脂質の抗酸化作用や免疫細胞や白血球の作用を高め、免疫増強作用があることが確認されている。純品には毒性はなく、経口投与では高用量でも副作用がない。医薬品や健康食品に配合されるのは、テンサイやサトウキビを原料とし、酵母等の微生物による醗酵や化学合成により製造される。
4.カロテ(チ)ノイド carotenoid
4.1 カロテン類 carotenes (CとHで構成)
4.1.1 α,β,γ,δ カロテン α-,β-,γ-,δ-carotene (前出)
4.1.2 リコペ(ピ)ン lycopene
 トマトなどの野菜やスイカ、ピンクグレープフルーツ、アンズ、グアバ等の果物に含まれる赤い色素で、カロテノイドの一種である。VA作用はないが、一般のカロテノイドの中では抗酸化作用が強く、俗に「美白効果がある」「ダイエットに効く」「血糖値を下げる」「動脈硬化を防ぐ」「がんを予防する」「喘息によい」と言われている。食事に由来するリコペンとがん予防効果等の関連については、ヒトでの科学的知見が増えてはいるものの、サプリメントとしての有効性については調べた文献では十分なデータはない。
4.2 キサントフィル類 xanthophylls (CとHとOとで構成)
4.2.1 ルテイン lutein
 植物の緑葉、黄色花の花弁や果実、卵黄など、自然界に広く分布するカロテノイドである。生体内ではVAに変換されない。俗に「目によい」「抗酸化作用がある」などと言われている。トウモロコシ、ホウレンソウなどの緑黄色野菜に多く含まれる。ヒトの生体内では合成されない。食事から多く摂取した人において、結腸がんの発生リスクを減少させたことが示唆される疫学調査がある。但しサプリメントとして摂取した場合の効果は不明である。
4.2.2 アスタキサンチン astaxanthin
 サケ、イクラ、タイ、エビ、カニの赤色色素で、抗酸化作用をもち、血中のコレステロールの酸化を抑える作用が強く、また血管壁を守る働きがある。
5.ポリフェノール polyphenol
 ほとんどの植物に含有され、その数は5000種以上に及ぶ。光合成によってできる植物の色素の苦味成分で、植物細胞の生成、分裂、活性化などを助ける働きをもつ。1992年ボルドー大学のセルジュ・レヌーが、肉類や乳脂肪を摂取しても、赤ワインを日常的に飲用していると、心臓病による死亡率が低いという説を出し、その後含有するポリフェノールに動脈硬化を防ぐ抗酸化作用や内分泌促進作用、抗変異原性があることが判明した。
5.1 フラボノイド類 flabonoids
5.1.1 カテキン catechin
 緑茶や紅茶の渋み成分で、俗に「抗酸化作用がある」「コレステロールを低下させる」「抗菌作用がある」などと言われている。緑茶を飲用すると、各種がんのリスクの低減に対して有効性があることが示唆されている。
5.1.2 アントシアニン anthocyanin
 植物の花や果皮に広く分布するアントシアン色素のうち、アントシアニジンの配糖体をアントシアニンという。糖鎖の構成により多くの種類があり、ブルーベリーやブドウに多く含まれる。俗に「視力回復によい」「動脈硬化や老化を防ぐ」「炎症を抑える」などと言われている。
5.1.3 ルチン rutin
 ルチンはビタミン様物質であるビタミンPの一種で、ケルセチンと二糖類のルチノースからなるフラボノイドである。ソバ、イチジクに多く含まれていて、俗に「高血圧を予防する」「毛細血管を強化する」などと言われている。
5.1.4 イソフラボン isoflavone
 イソフラボンは大豆、レッドクローバー、クズなどのマメ科の植物に多く含まれているフラボノイドの一種で、通常イソフラボンは配糖体として存在しているが、摂取されると腸内細菌等の作用により糖部分が分離したアグリコン型になって消化管から吸収される。イソフラボンは大豆とその他の由来のものとは組成が異なり、得られる効果にも違いがある。女性ホルモン様働きがあるのは大豆イソフラボンで、後述する。
5.2 その他のポリフェノール類
 フェノール酸類 :コーヒーに多いクロロゲン酸など
 エラグ酸類 :イチゴに多い
 リグナン類 :ゴマに多いセサミンもこの一種
 クルクミン類 :ウコン、ショウガに多い
 クマリン類 :サクラの葉、パセリに多い
6.大豆イソフラボン soybean isoflavone
 大豆イソフラボンは他のイソフラボンとは異なり、性ホルモンのエストロゲンに似た働きをすることから、植物性エストロゲン phytoestrogen と呼ばれている。大豆胚芽に特に多く含まれ、今のところダイゼイン、ゲニステインを代表とする15種類の大豆イソフラボンがj確認されている。俗に「女性ホルモン様の作用をする」「骨そしょう症の予防や更年期障害を軽減する」「脂質代謝の改善などに有効である」などと言われている。大豆イソフラボンの有効性や安全性を解釈する場合には、少なくとも豆腐などの通常の食材の形態で摂取するのと、サプリメントのような濃縮物で摂取するのとでは、異なった考え方で対応する必要がある。大豆イソフラボンは経口摂取で、乳がんや子宮体がん、前立腺がんの予防に有効性が示唆されている。しかし一旦乳がんや子宮体がんなどが発生すると、エストロゲン様作用により、逆にがん細胞の増殖を促進する可能性がある。また、がんの治療に抗エストロゲン剤の治療を受けている場合は、効果を阻害する可能性がある。




 

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