2009年12月25日金曜日

「がん」に効果がある健康食品はあるのか

 済陽(わたよう)高穂医師が著した「今あるガンが消えていく食事」では、特別な食品を食した結果ではなく、要は新鮮な植物性食品(野菜・果物)の大量摂取、動物性食品・脂肪の制限、限りなく無塩に近い塩分制限によるものであった。これにはいわゆる「がん」に効くとかいわれる健康食品の類の摂取は全くなく、通常の食品の摂取による体質改善が根底にあるだけである。ところでこれを読んでいて、ひところ風靡した「がん」に効果のある健康食品、いわゆる「抗がんサプリ」はどうなっているのかが気になった。ここでいう健康食品とは何なのか、まず国立健康・栄養研究所のホームページを覗いてみると、「健康食品」とは、「国が制度化しているものではなく、また表示、許可、認証、届出といった規制もなく、ただ、「平成15年に新設された健康増進法の虚偽誇大表示の禁止規定のほか、食品衛生法での表示基準(保健機能食品と紛れるような名称、栄養成分の機能及び特定の保健の目的が期待される旨の表示の禁止)、薬事法、景品表示法に違反してはならない」とあった。健康食品は医薬品ではないので、医薬品のような疾病の治療・予防を目的とする表示や、身体の構造や機能に影響を及ぼすことを目的とする表示は医薬品的な効能効果とされ、表示することはできない。ただ国の制度の「保健機能食品」については、身体の構造や機能に影響を及ぼすことを目的とする表示を行って販売することができるとある。ここでいう「食品」とは、「医薬品及び医薬部外品以外の飲食物」とされている。
 ところで、アガリクス、メシマコブ、サメ軟骨、フコイダンといったいわゆる「抗がんサプリ」はその市場規模は1兆円を超すともいわれ、通販を軸として簡単に買い求めることができる。これらは俗に「抗がん効果がある」とか「免疫力を高める」とかいわれているが、国立健康・栄養研究所のホームページにある「素材情報データベース」をみると、現時点でのヒトでの有効性と安全性についての信頼できるデータの表示は出ていない。
 次にそのデータベースの記載項目を記す。 [1]名称 [2]概要 [3]制度・法規 [4]成分の特性・品質(主な成分の性質・分析法) [5]有効性(循環器・呼吸器、消化器・肝臓、糖尿病・内分泌、生殖・泌尿器、免疫・がん・炎症、骨・筋肉、発育・成長、肥満、その他) [6]参考情報(試験管内・動物他での評価) [7]安全性(危険な情報、禁忌対象者、医薬品等との相互作用、動物他での毒性試験、AHPA=米国ハーブ製品協会のクラス分類及び勧告) [8]総合評価(安全性、有効性、参考文献)。
 現在ここには358の個々の素材について、上述の項目すべてについての詳細なデータが示されていて、閲覧することができる。しかし「抗がんサプリメント」と称する素材で、試験管内(in vitro)や動物での実験(in vivo)で効果があっても、ヒトでの有効性が立証された素材は今のところない。一方で安全でないデータやかえって逆効果になる恐れのあるデータも記載されていて、それらの根拠となった文献もすべて網羅されている。
 週刊朝日の2005.9.16号に、「アガリクスやサメ軟骨にも危険性!? 抗がんサプリの『信頼度』と『逆効果』の徹底検証」という記事が載ったことがある。この中では主に漢方を用いた「がん」の代替療法を行っている福田一典医師(国立がんセンター研究所や岐阜大学医学部でがん予防の研究に携わっていた経歴をもつ)が、信頼できるヒトでのデータがないだけに、間違えるとかえって「逆効果」になると警鐘を鳴らしている。例を示そう。
 アガリクスやメシマコブといったキノコ類のがんに効く成分とされているのはβグルカンという物質で、培養細胞による実験では、がん細胞を攻撃するリンパ球を活性化することが確認されている。また、βグルカンが含まれる抽出物をネズミに注射すると、人工的に移植したがんが高い確率で消滅するという結果も出ている。これらのことから、アガリクスなどのキノコ類には免疫増強作用があり、これががんに効果があるとされる根拠になっている。しかしリンパ性白血病や悪性リンパ腫など、リンパ球ががん化する病気に用いると、がん細胞を活性化する可能性があること、また免疫力を増強すると、免疫細胞から分泌される物質によって、がんに伴う炎症が悪化したりすることも知られている。個々にこれらの関係を検証するのは難しいが、抗がんサプリを大量に摂取したために病状が悪化したとしか考えられない患者を何人も経験していると福田医師はいう。
 またビタミンCやコエンザイムQ10などの「抗酸化サプリ」は、がんの発生や悪化の原因となる活性酸素を除去するとされているが、抗がん剤や放射線治療中の使用には問題がある。というのは、ある種の抗がん剤や放射線は、正に活性酸素の力を利用してがん細胞を死滅させるため、抗酸化サプリを飲むと活性酸素を消去して治療効果を弱めてしまう可能性がある。
 このようにして、抗がんサプリには期待される?効果がある一方で、逆の効果もあるといった諸刃の剣の要素をもっている。でも藁をも縋る思いでこれらを用いた代替療法が行われていることは事実で、厚生労働省も漸く科学的な裏付けをとるために「臨床試験」を行い検証する必要があるとしている。この場合、信頼性の高いのは「ランダム化比較試験」という方法で、一定数以上の被験者を、本物を摂取するグループと、偽者(プラセボ)を摂取するグループとにランダムに分けて、両者の効果を比較するもので、このとき主観的な評価が入らないように、試験者も被験者も、誰が本物を摂取したかが判らないようにする「二重盲検(ダブルブラインド)」という手法を取り入れることで、試験の信頼性はさらに高まる。そしてこうした臨床試験を複数の施設で実施し、それらの結果を総合的に評価した後に科学的な判定がなされる。この方法は薬の効果判定には一般的に用いられる方法ではある。
 ところで、売らんがための広告では、〇〇でがんが治ったとか消えたとかいった個人の体験談が出てくるが、読者を引き込むにはこんな作文など朝飯前である。また、よしんば本当に平癒したとしても、サプリの効果なのか、治療していた抗がん剤や放射線の効果なのかは、判別し難い。いま巷間を賑わしているサプリの多くは、試験管内やマウスを使っての実験で効果があったというデータだけで、飛びついて市販され出したものが大半で、それをもってヒトにも効果があるとするのは早計である。この度ようやく国でも人を対象とした抗がん効果の真偽について検証しようと腰を上げたことは素晴らしいことだと思う。
 抗がんサプリの科学的根拠が証明されていない現在、医師が抗がんサプリを使ってがんの治療をすることはあり得ない。しかし、もう治療法がない患者をフォローする医師がいないのも事実である。とすると患者のとるべき道は、静かに待って死と対峙するか、効果は不明でも抗がんサプリを使うかであるが、がん患者の半数は後者の選択をするという。冒頭にあげた済陽高穂医師による食事療法や文中の福田一典医師による漢方による代替療法はこの方面での草分け的存在であるが、まだ広く敷衍しているわけではない。また日本で初めて補完医療学講座を開設した金沢大学大学院医学系研究科の鈴木信孝教授も、今は「もしかしたら効くかも知れないという精神的な支えとなるのも抗がんサプリの重要な要素」というにとどまり、何をもって代替療法とするかについては言及していない。これに呼応してか、抗がんサプリを10種均等に配合したミオス(MIOS:Multi In One Supplement)なる散剤製品がさくら新薬から発売されていることをネットで知った。10種の内訳は、アガリクス、メシマコブ、サメ軟骨、フコイダン、霊芝、アラビノキシラン、紫イペ、キチン・キトサン、冬虫夏草である。大部分は抗がんサプリとして名を聞いたことがあるものばかりで、個々の量を減らして副作用を減弱させる一方で、相乗効果を狙うといった魂胆が見え見えである。個々の材料の質を吟味すればするほど、価格に跳ね返り高価になる。価格は1週間分で約1万円、1年間では50万円だとのこと、こういう製品こそ「臨床試験」が待たれるのではないか。
 この続きには、個々の抗がん作用があるとされる健康食品について、国立健康・栄養研究所のホームページにある「素材情報データベース」のデータを紹介してみたい。

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