(承前)
3.モーツアルト:交響曲第35番ニ長調「ハフナー」K.385
20分間の休憩で、前の舞台はすっかり片付けられ、次いで OEK の常任メンバーによって、お馴染みのモーツアルトの交響曲第35番「ハフナー」が演奏された。両大作の合間の一服の清涼剤の役目を果たしてくれた。演奏時間は約20分間。そして次の演目に備えての30分間の休憩。この間にカフェコンチェルトのフロアではドリンクサービスがあり、あるスポットでは、石川県酒造組合連合会の協賛で、県内34の酒蔵から出品された日本酒が振る舞われた。お代わりも可で、大変盛況だった。
4.ラヴェル:舞踊音楽「ボレロ」 舞/野村萬斎(狂言師)
ラヴェルの「ボレロ」に合わせて野村萬斎氏に舞を希望したのは井上道義 OEK 音楽監督だとか。5年前に東京で試演したこともあるとかだったが、今回の舞をするに当たっては、萬斎氏は、振り付けでは、不動の静から始まり、復活、再生を描くとし、そしてそれには、夜明けから始まる一日や一年、一生を、この16分間ばかりの曲に凝縮させるつもりと意気込みを表明されていた。萬斎氏は、狂言師で人間国宝であった野村万作氏の長男、祖父の故六世野村万蔵氏と父に師事し、現在重要無形文化財総合指定保持者として活躍している。
さて、ラヴェルの「ボレロ」を演奏するにあたっては、40人規模の室内オーケストラでは演奏できず、80人規模の演奏者を必要とする。OEK では過去に一度演奏したことがあるが、その時はどこか他のオーケストラとの合同演奏だったような気がする。この日のメンバーを拝見すると、OEK のメンバーが35人、客演奏者が39人の総勢74人だった。
この曲は、イダ・ルビンシテインが自ら踊るためにラヴェルに作曲を依頼した作品である。この曲の特徴は、始めから終いまで延々と続くあの2小節の「タンタタタタンタタタタンタン/タンタタタタンタタタタタタタタタ」という小太鼓のボレロリズムで、それが延々と規則正しく、なんと169回も反復され、そして次第次第に強くなり、最後には大音響で叩きつけられて終わる。この間、18の管楽器が単独若しくは複数で、18のパートで、あの18小節のボレロのメロディーを反復する。一見単調単純なようだが、あのボレロのリズムとメロディーは聴衆を虜にする不思議な心理効果を醸し出す。そして曲が進むにつれ気持ちは次第に高揚し感動し、そして最後には大音響で瓦解し現実に戻る。
バレー音楽ながら、曲のみでも素晴らしいが、今回は野村萬斎氏が精魂を傾けた振り付けを行なって披瀝した。氏の言によると、「ボレロ」は狂言の「三番叟」という舞踊に似ていて、同じリズムを繰り返しながら盛り上がっていくところに通ずるものがあり、それを振り付けに取り入れたとのことであった。
ステージには3m四方ほどの緋毛氈が敷かれ、それを凹状に囲んで演奏者が陣取り、その凹状の要に当たる部分の左側に指揮者、そして緋毛氈の通り道を挟んだ右側に、この曲の重要な主役である小太鼓の奏者、そしてこの緋毛氈の通路は真ん中奥の扉に通じている。
暫しの静寂の後、弱く小太鼓があのリズムを刻み出した。そして始めにフルートがソロで pp でメロディーを奏でる。次いで p でクラリネット、この時奥の扉が開いて野村萬斎氏が現れた。乳白色の長袖長袴の素袍?の出で立ち、そして背には緋色の背当て、ボレロのリズムに合わせて、長い袖と長い袴をいろんな形容に変化させながら、緋毛氈の舞台を縦横に使っての幽玄な仕舞い、単純だが一つ一つの仕舞いに微細な差があり、16分はアッと言う間に過ぎた。そして最後の大団円には、氏は舞台から客席前に仕組まれた穴に高くジャンプして飛び下りた。正に和と洋が渾然と融合した仕舞いだった。
今回の石川県立音楽堂開館15周年記念コンサートは、パンフレットには「ディスカバリー・クリエーション〜過去・現在・未来〜」という副題が添えてあった。そして今回の記念公演は、次の十五年、さらには五十年、百年先を見据えての企画だとあった。そして金沢素囃子・混声合唱・オーケストラによる「勧進帳」と OEK による「ハフナー」は過去の音楽堂の集大成、野村萬斎氏を招いての OEK
との「ボレロ」の響宴は、ホールの特性を生かした新たな演出によるパフォーマンスだとした。
2016年9月9日金曜日
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