2016年9月14日水曜日

岩城宏之没後10年メモリアルコンサート

1.はじめに
 オーケストラ・アンサンブル金沢 (OEK) の創始者である岩城宏之さんが亡くなったのは2006年9月6日、あれから10年、標記のコンサートが9月10日に石川県立音楽堂で開催された。毎年この時期には、故人の遺志と故人の夫人の木村かをりさん (ピアニスト) の計らいで、北陸3県に関わりのある優秀な演奏者を表彰している。選考にはほかに井上道義 OEK 音楽監督と池辺晋一郎 音楽堂洋楽監督が審査にあたる。第10回の今年は、OEK の第1コンサートマスターのアビゲイル・ヤングさんが受賞した。OEK からは過去に首席チェロ奏者のルドヴィード・カンタさんが受賞している。彼女はスコットランドのグラスゴー出身とか、スピーチの通訳は第2ヴァイオリン首席奏者の江原千絵さんがされた。ヤングさんが使われているヴァイオリンは、OEK がレンゴー(株)から貸与されている 1714 年製のストラディヴァリウス「ラング」だそうである。
 この公演は金沢と東京で行なわれる。指揮は山田和樹、彼は現在モンテカルロ・フィル芸術監督兼音楽監督、スイスロマンド管弦楽団首席客演指揮者、OEK ミュージック・パートナー、また故岩城宏之氏が務めていた東京混声合唱団音楽監督・理事長を引き継いでいる。彼が OEK を振ったのは16ヵ月ぶりである。私はこの日を待ちわびていた。この日私の胸は躍った。彼は現在37歳である。将来が頼もしい。

2.リゲティ:ルクス・エテルナ (永遠の光) 無伴奏合唱 (アカペラ)
 正面のパイプオルガンが置かれている中2階のバルコニーに、東京混声合唱団のソプラノ、アルト、テノール、バスの各4人が上がり、各声域がさらに4部に分かれ、計16声部が微妙にずれて歌うという複雑な歌い方、総譜には「音を保って非常に静寂に 遥かに届くように」と書かれているとか。指揮者は1階の指揮台に立ち、端正な指揮をした。何とも荘厳な祈りの歌であった。「永遠の光が彼らに輝きますように」と。岩城宏之氏への鎮魂か。

3.バーバー:ヴァイオリン協奏曲  Op. 14
 故岩城宏之氏は、中西陽一石川県知事が亡くなった時に、鎮魂のためにバーバー作曲の「弦楽のためのアダージョ」を演奏されたことを思い出す。解説によると、この曲はアメリカの富豪の依頼によって作曲されたが、余りにも技巧的で演奏不可能とまで言われたという。そこで依頼者は改訂を申し出たが彼はこれを拒否、結果として別の人が非公式にピアノ伴奏のみで初演、その後アメリカの著名な指揮者であるユーディン・オーマンディやフリッツ・ライナーにより取り上げられ、新たな形式の協奏曲の傑作として演奏されるようになったという。聴いていると正に常動の曲、演奏者には実に難曲だ。しかしアビゲイル・ヤングさんは実に見事に弾き切った。あまり馴染みのない曲だが、しかし素晴らしい技巧での弾き振りの彼女に、惜しみない拍手が送られたのは当然の帰結であった。山田和樹の指揮ぶりもお世辞なしに秀逸で、実に聴き応えがあった。演奏が終わっても拍手が鳴り止まず、ヤングさんはこれに応えて、スコットランドの唄をヴァイオリンで奏でてくれた。

4.フォーレ:レクイエム ニ短調 Op. 48
 作曲家でクリスチャンであれば、大概教会音楽を作曲している。これは必然といってよいと言える。今手元にある三省堂のクラシック音楽作品名辞典を見ると、42名の作曲家がレクイエムを作曲している。この中で最もよく演奏されるのはモーツアルト作曲のレクイエムであろう。この曲は未完に終わり、没後弟子のジュスマイアーにより完成されたことで知られ、私も過去2回演奏会で聴いたことがある。またブラームスのドイツレクイエムも往々に演奏されるが、それよりもっと演奏の頻度が多いのがフォーレ作曲のレクイエムである。この曲を私は生で初めて耳にした。
 合唱は東京混声合唱団、東京芸術大学声楽科の卒業生で構成される日本を代表するプロの合唱団、本年は創立60周年とか、音楽監督・理事長は山田和樹である。この日はソロがソプラノとバリトンの2人、合唱はソプラノ11人、アルト11人、テノール9人、バス9人の構成だった。伴奏はパイプオルガンと OEK、ソロはソプラノの方はパイプオルガンのある中2階、バリトンの方はステージの最前列、コーラスは OEK の最後列に2列で、これには木村かをりさんがピアノのパートを担当された。曲は第1曲の「入祭唱とキリエ」から第7曲の「楽園へ」まで、指揮者は合唱団の音楽監督でもあり、見事な指揮ぶりだった。曲が終わって数秒の静寂、実に荘厳だった。ステージには大きな岩城宏之永久名誉音楽監督の微笑むパネルが飾られていて、指揮者の山田さんが曲が終わった後、遺影に拝礼されたのが印象的だった。彼と OEK との初の出会いは、岩城さんの代役での共演だった。

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