2012年9月11日火曜日

岩城宏之生誕80年記念メモリアルコンサート

 頭書のコンサートが平成24年(2012)9月8日に、オーケストラ・アンサンブル金沢の第326回定期公演フィルハーモニーシリーズとして、石川県立音楽堂コンサートホールで開催された。岩城宏之さんは言わずと知れた日本を代表する世界的指揮者であり、日本最初のプロの室内オーケストラである「オーケストラ・アンサンブル金沢」の創設者(現在、永久名誉音楽監督)でもある。
 このメモリアルコンサートはオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の音楽監督だった岩城宏之さんが亡くなった平成18年(2006)以降、夫人であるピアニストの木村かをりさんの提唱で「岩城宏之音楽賞」が創設され、その受賞者が演奏を行なうコンサートでもある。選考はOEK音楽監督の井上道義、石川県立音楽堂洋楽監督の池辺晋一郎、そして木村かをりの各氏で行なわれる。それで今年は氏が生誕の昭和7年(1932)9月6日から数えて80年にあたることから、特に生誕80年記念と銘打ってのコンサートとなった。そして命日の9月6日には、この日と同一の演奏曲目で、東京公演が東京オペラシティコンサートホールで行なわれた。今年度の受賞者は、金沢市出身の田島睦子さんである。
 この日の生誕80年記念岩城宏之メモリアルコンサートは実に多彩でユニークな構成、聴衆を引きつけてしまった。演奏に先立っては、この日の演奏曲目の作曲家でもある池辺晋一郎さんと西村 朗さん両名によるプレトークがあった。お二人ともOEKのコンポーザー・イン・レジデンス(現在はコンポーザー・オブ・ザ・イヤー)で、OEK創設時から岩城音楽監督が毎年作曲を委嘱されてきたもので、現在もその意思を継いで続けられている。生前岩城さんは「私は初演魔」と仰っていたが、初見で総譜を見る楽しみは格別で、見てると曲がすぐに頭に描かれてくると話されていた。だから初演が如何に多かったか、千曲というのは多過ぎるだろうが。それで西村 朗さんは平成5年度(1993)度、池辺晋一郎さんは平成10年(1998)度のコンポーザー・イン・レジデンスだった。因みに西村さんは岩城さんと誕生日が同じ9月6日生まれ、池辺さんはその1週後の9月13日とのことだった。
● 第1曲:池辺晋一郎作曲「悲しみの森」 指揮 天沼裕子
 この作品は、池辺晋一郎が平成10年(1998)にOEKから委嘱されて作曲したもので、尾高賞の受賞作品でもある。曲は悲しみを内に秘めている森の中をそぞろ歩く印象を描いたもので、草も葉も枝も、そして石までも微かに震え揺れているという印象の音楽。初演は岩城宏之さんの指揮で、OEKによって演奏されている。この日の指揮は、OEK初代常任指揮者だった天沼裕子さん、池辺さんの意を汲んだスマートで見事な指揮の演奏だった。
● 第2曲:プーランク作曲「ピアノ協奏曲」 指揮 井上道義  独奏 田島睦子
 前回の第325回OEK定期公演では、日本国内でのオーケストラの指揮は初めてというマルク・ミンコフスキーが、プーランクの「2台のピアノのための協奏曲」を指揮したが、フランス音楽会の若き天才ピアニストのギョーム・ヴァンサンの対手として、指揮者自らの指名による抜擢で、田島睦子が共演することになったという。このことは今回の岩城宏之音楽賞受賞の大きな誘因になったのではなかろうかと思う。今回も同じプーランクの作品、瑞々しいタッチ、でも常に指揮者を意識しての気遣いの演奏は、まだ初々しさと若さが感じられた。
● 第3曲:西村 朗作曲「ベートーベンの8つの交響曲による小交響曲」 指揮 山田和樹
 この作品は、大阪のいずみホールの委嘱によって平成19年(2007)秋に作曲されたもので、ベートーベンの第9交響曲演奏に先立つ序曲的性格をもつ10分程度で、かつ第1番から第8番までの交響曲の対応楽章をすべて引用してほしいという注文で作曲された4楽章の曲である。順不同なこともあって、聴いていて原曲に近い曲は分かったものの、大きく変形されたものは全く分からなかった。ただ5楽章ある第6交響曲は、第5楽章をこの曲のフィナーレのコーダに用いたとのことだった。でも聴いていて曲を繋いだという違和感は全くなく、今では世界に通用する名指揮者のヤマカズの流れるような優雅な指揮で、実に楽しい曲に仕上がっていた。彼は現在OEKのミュージック・パートナーで、横浜シンフォニエッタの音楽監督、スイス・ロマンド管弦楽団の首席客演指揮者も勤めている。
● 第4曲:ベートーベン作曲「交響曲第9番合唱付より第4楽章」 指揮 井上道義
 独唱者では、ソプラノでは人気実力ともに日本を代表するオペラ歌手の森 麻希さん、声も容姿も実に素晴らしかった。またバリトンの木村俊光さんは、平成8年(1996)に日本芸術院賞受賞、桐朋学園大学教授で新国立劇場オペラ研修所所長の重鎮である。また地元からは七尾市出身でメゾソプラノの鳥木弥生さん、福井県敦賀市出身でテノールの吉田浩之さんが出演した。そして合唱には、OEK合唱団を母体に、今回の岩城宏之生誕80年を記念して、過去に岩城宏之と共演したことのある人々によって特別に編成された合唱団員八十数名が出演した。中々の圧巻だった。指揮者も合唱団を絶賛していた。ソプラノの森 麻希さんは、次回の第327回定期公演ではオペラのアリアなどを独唱されることになっている。楽しみだ。

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