私の父も私も長男なので、何というか所謂「お里」という感覚の場所がない。もっとも母方の里はあるのだが、所は北海道の札幌と旭川の間のやや旭川寄りの奈井江町、まだ母の父親が存命中に三度ばかり寄ったことはあるが、それはお盆とかお正月の時ではない。翻って私の父は長男で家を継いでいたので、叔父や叔母はよく来ていた。ところで私たちには三人の子がいて、皆男の子である。昔なら長子相続が当然というならわしがあったが、この頃はどこの家でも両親がサラリーマンの家庭では、次男三男はもとより、長男であっても両親と同居している例は極めて少なく、核家族化している。
私の長男はコンピューター関連の仕事に就いているが、就職した時は地元だったが、今では横浜での生活の方が長くなったのではと思ったりしている。次男は銀行マンで、地元での勤務もあるが、富山や大阪、東京での勤務もあり、旅烏稼業である。三男は地元にいて自宅も建て、こちらで腰を落ち着けることにしていた。三家族とも子供は二人ずつの四人家族である。そんなわけで、平生の私たち夫婦の生活は二人のみなこともあって、三家族が集まるお盆とお正月には一挙に大家族と化する。しかし私はともかく、家内はこの時を心待ちにしているし、何よりも孫たちは孫たち同士が集まるのを楽しみにしている。まるで合宿の様相である。
年暮れから正月にかけては、おせち料理を作って、年越しそばやお雑煮は作るものの、あとはその時々に料理を作ることはしないで、作り置きした料理を食べるのがこれまでのしきたりだった。私の母が元気だった頃は、沢山の種類のおせち料理をほとんど暮れの二日間で作っていた。今こそ便利で出来合いのものがあり、家で料理しなくても可だが、でもわが家では母がしていたように、家内が奮闘して作ってきた。来る人数が人数だけに、全部手前料理で済まそうとするとかなり大変である。ただここ数年は、お正月の飾り料理は付き合いや義理もあって買っていたが、やはりメインは家で作った手作り料理だった。
ところが今年は異変が起きた。次男から正月の元日に温泉へ皆で行かないかという話が持ち上がった。他の家族もOKだし、私も家内も賛成した。次男の思惑では、母の手料理の負担を少しでも軽減したいという気持ちが先立ってのことではなかったか。確かにそうすれば、これは家内にとっては大きな負担軽減につながろうというものだ。行き先は山代温泉の山下家とか、私は一度小中学校同窓生で還暦祝いの時に行ったことがある。家内からは、料金が安いこともあって、サービスはないようだけれど、不平は言わないようにと釘をさされた。それは家内がここを利用した人から、安かろう悪かろうとの情報を得たからだった。ともかく私にとってはこの手の格安温泉旅館は初めての経験である。
元日の朝、家の神仏、近所の氏神の白山神社、そして加賀一の宮の白山さんへ恒例の初参り、お神酒も頂き、帰宅して皆でお雑煮を祝う。元日は天気は荒れるとの予報だったが、まずまずの日和だ。温泉宿のチェックインは午後3時とかで、皆は2時頃に家を出た。私と家内は1時間遅れで向かった。途中でもう寛いでいるとの連絡が入る。
宿へ着くと大変な雑踏、温泉旅館でこんな混み様は初の経験だ。車も離れた駐車場へ回すように言われたが、結果としては回送してくれることになった。それにしてもこの時節どの旅館でも客足が遠のいているというのに、本当に仰天した。経営の改革というのは恐ろしいことだ。部屋番号は聞いていたので、順路に従い、身長に応じた浴衣を選んだ後、部屋へ向かう。ところが飛び乗ったエレベーターは目的の12階の部屋には行けず、聞けば別棟のエレベーターに乗らないと行けないとか、宿へ着いてから部屋に入るまで随分うろうろする破目に。
夕食まで1時間ばかり、バイキング形式だから混みそうだという。そういえば部屋へ来る途中、食堂の前にはもう待っている人たちがいた。急いで1階上の展望風呂へ。でもこの男風呂は脱衣場が狭く、入るときは人数が少なくて問題はなかったが、出るときは混んできて大変だった。部屋へ帰ってもお酒を飲む間もなく、ディナーバイキングに出かける。食堂はレストランの方は案の定満員、仕方なく離れた畳の間へ、そして13人が座れる長机に案内されたが、もう少し遅れていたら座れる場所がなくて、次回に回されるところだった。
バイキング料理はかなり豊富で、和洋いろいろあり、どれも美味しそうに作られている。思い思いのものをチョイスするが、バイキングの常としてどうしても余計に取ってしまう。別料理でずわい蟹を食べている人がいたが、1,500円でも身が詰まっていてお得だったとか、良心的だと言っていた。遠所の人なのだろう。お酒は別注文なのだが、人手が少ないせいか、届くのに随分と時間がかかった。そして見てると、夕食が終わっても、飲み物を飲んだり、駄弁ったりで、優に1時間は席が空かず、部屋に入れなかった人はその間待っていなければならず、大変だったろう。
午後8時から落語寄席があるというので見に行く。かなりのお歴々が高座に上ったということを示す顔写真や色紙が飾ってあるが、それは随分昔のことなのでは。この安い料金ではそんな高名な人をお呼びすることは叶うまい。寄席には百人位、半分の入り、前座があって、落語があって、歌もあり、9時までとか。落語が終わって小用に立ち戻ろうとしたら、皆さんお戻りとか、私も部屋へ帰ることに。
さて、これからが本番、というのはお年玉の交付と皆でのビンゴ、でも子供たちは先ずはお年玉が先だという。子供たちは6人、小学生から高校生まで、4家族と家内の姉からも頂いているから、一体各人いくらになるのか見当もつかないが、個々には皮算用をしているに違いない。ただ毎年のことだが、次男は皆に渡す前に今年の抱負を言わしていたが、皆しっかり答えていたのには感心した。
そして次はビンゴ、一番小さな次男の小1の長女が司会、今時の子たちはしっかりしている。景品は男衆には白ワイン、女衆には小物、子供衆には仮装用品を用意したとか。長男はゲットした子供たちには仮装の品をつけさせ撮影していた。被りものや着るものはともかく、圧巻は強く揉むと膨らむというボール、膨らむ前は2個でこぶし大だが、着衣の下の胸に装着して強く揉むと次第に膨れて直径10cmばかりのボールになり、大変なボインになるという代物、女の子がチョイスしたものの、さすがこれは着けさせるわけにはゆかず、男の子が実演したが、これにはたまげてしまった。よくぞ考えたものだ。原理はどうなっているんだろう。
その後飲んだり、トランプをしたり、オセロをしたり、駄弁ったり、夜の更けるのも忘れての楽しい時間、家ではこうは行かない。家内とも初めてオセロをしたが、彼女の2勝1敗、でもこれは先手必勝の気がする。皆が寝た後、今年高校へ入った次男の長男が、別室で勉強をするという。しっかりした心掛けだ。エライ。
翌朝、再び13階の展望風呂へ、今朝は昨晩とは男女入れ換えになっていて、今朝の方が昨晩のより脱衣場も浴槽もはるかに広く、こちらの方が断トツに快適だ。湯加減も上々、文句のつけようがない。上って朝食バイキングへ、今朝は早かったこともあって、レストランのテーブルでの食事となった。朝粥があるのも嬉しかった。食後寛いで、チェックアウトの11時少し前に宿を出た。料金はと聞いたら、大人一人6,700円とか、あれでペイできるのかと、他人事ならず心配になった。家内では、知人の印象ではよくなかったとか、どうなんだろうか。私たちは部屋も最上階で快適だった。
通常の日本旅館ならば部屋にはランクがあるはずなのに、利用した加賀の本陣・山代温泉山下家は、大江戸温泉物語グループになった現在では全室同一料金、しかも365日間同じだという。結構だが、信じられない経営形態だ。石川県では、片山津温泉の「ながやま」もそうだという。
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