2011年10月26日水曜日

信州探蕎 「かじか亭」と「職人館」 (2)

● 二日目の探蕎は望月の「職人館」  (佐久市望月春日 3250-3) 電話0267-52-2010
 初日の宿の満山荘からの出しなに、草庵風の入り口で、宿の主人がカメラマンになってくれて、集合写真を撮ってもらう。また来ますと言って別れ、予定通り9時に出発する。取り敢えずは山を下りて、先ずは土産のリンゴを買うべくJA須高(須坂市と高山村合同のJA)管理の高山共選所へ寄る。地元高山産のいろんな品種のリンゴが格安の値で手に入る。私はリンゴワイン(発泡酒)を求めた。さて次は久保さんの所望で、昨晩の地酒「やまと」を求めて須坂市内を巡る。しかし地元のコンビニには置いてなく、それで蔵元へ、でもここには商品はなく、漸く探しあぐねて遠藤酒造直営の商店に辿り着けた。松川さんは以前来たことがあるとか。久保さん御執心の「やまと」という酒は、遠藤酒造の渓流純米吟醸の一商品、ラベルにはあの達磨大師が書いた?〇が書かれている。私も一本求め、更に今が旬の渓流ひやおろし純米酒も求めた。
 これで土産は一段落、後は第二の探蕎の地、佐久望月の里へ一直線。もう10時半は過ぎていた。須坂長野東ICから上信越道に上がり、佐久ICへと急ぐ。佐久ICで下りて、久保さんはナビに従って走行されたとか、松川さんはひたすら久保車の後を追う。どこをどう通ったかは全く不明、何か中仙道の望月の近くで正午近くだった。その後どうやら山に近い田中の道を走るようになり、どうもお目当ての蕎麦屋が近いと肌で感じられるようになった。そして間もなく手打ちそば家という「職人館」に到着した。もっと遅れると思いきや、僅か四半刻ばかりの延であった。
 この山近くの田園に囲まれて建つ古民家は、店主の北沢正和さんの祖父が暮らしていたという家屋、落ち着いた佇まいの建物である。入り口右手の梁には「職人館」の掲額、パンフレットによると、題字は信濃デッサン館の窪島誠一郎氏によるとあるが、この方が命名者でもある。あの戦没画学生慰霊美術館の「無言館」の館長でもある氏に、開店に際して店の名を依頼したところ、この名を頂いたとのこと、一風変わった癖のある店名という印象を受けていたが、これで納得がいく。
 入り口は障子戸、上には注連飾りがあり、真ん中には「笑門」の札が。中へ入る。既に何組かの客が来ている。右手の板の間に置かれた細長い分厚い一枚板の座机に案内される。10人は座れよう。注文はランチサービスの『そばと何かほしい膳』ということに。メニューの名前からしてオリジナル、遊び心が伝わってくるが、はたしてどんな料理が登場するのだろうか。暫らく間があって、先ずお通しに「村の豆」が出た。これには白色で粗い塩の「味の決め手塩」という名のフィりピン・ソハモセリナ産の塩と、茶色でやや粗い「銀葉藻と塩」という名で、塩は新潟・村上産というのが付いてきた。銀葉藻(ぎんばそう)というのは、褐藻類ホンダワラ科の海藻で、和名をアカモクといい、佐渡などでは刻んで湯通しして食べるようで、モズクに似ている。また乾燥したものは商品化されていて、出ている塩は粉末にした銀葉藻を塩と混ぜたものだろう。
 初めに「村のとうふ」が出る。地元御牧(みまき)村特産の丸大豆100%の豆腐、木綿豆腐位の堅さ、でもしっかりとした甘味と香りがする一品だ。次いで「季節の一品」、色鮮やかなサラダ、取り分けて食べる。トマト、キャベツ、パブリカ、リンゴ、レタス、ダイコン、ネギが、自家製の「天来醤油」で味付けされており、それにコスモスのピンクの花びらを散らしてあり、見た目には極彩色、実に楽しい盛り付けで面白い。花弁はもちろん食することができる。次に登場したのは「そばの実のリゾット」、丸抜きのそば粒の粥に、丸大豆、トマト、インゲン、カキが散らされている一品、これも取り分けて食べる。そろそろ「そば」かと思ったら、もう一皿「季節の野菜盛り」が出てきた。完熟した真っ赤なトマト、一人に丸ごと一個、包丁は入っている。それに食用ホオズキ、何とも言えない淡い甘さ、種はない。そして紫色の食用菊の花びら、それに香草のバジル、この皿はコース外のような気がする。そして次にお目当ての「十割そば」。丸皿に丸い竹簾を敷き、細打ちのそばがこんもりと盛られて出てきた。そばは近くの高原で昔から栽培されてきた村内産の玄そばを、石臼挽きした地粉100%の手打ちそばである。香りがあり、コシがあり、かつ喉越しが良い。正に絶品である。つゆは辛め、地元産の丸大豆を使った職人館オリジナルの「天来醤油」を用い、鰹節にもこだわり、化学調味料は一切使っていないという。そして最後には蕎麦湯が、大きな片口になみなみと、そばの茹で汁で、割ってもそのままでも美味しい。
 ここで出される食材は、すべて無農薬・有機栽培で栽培された旬のものばかり、しかもこの地域で採れたものを頂くという地産地消にこだわり、その日の料理も材料を見てから考えるという。扱う食材は、自然が既に料理してくれているから、そのまま皿に盛るだけで充分なのだが、少し手を加えると更に美味しくなるとも。彼の料理に対する考え方は、健康は良い食べ物を食することによって作り出されるという「食養」という信念に基づいているからだという。
 少し彼の言を引用しよう。「食養」のための食材は、(1)『身土不二』、(2)『一物全体食』、(3)『不飽常食』の三つに集約されるという。(1).人間も含めて地球上の生物は、土から育った植物を食べて生きているから、人間も動物も間接的には土を食べて生きていることになり、食養のためには、良い土壌に育った食材が必要である。野菜なら昔からの農法、無農薬・有機肥料で育てられた野菜本来の味を持つ食材、山菜のように自然に野山に自生している食材がそうである。(2).一つの生命がまるごと入っているもの、その全体を食べるのが健康のためには良い。穀物や蕎麦のように、土の中に種を蒔けば生命となるものが良い。牛などのように、まるごと食べられないものは除外される。(3).米などのように、毎日食べても飽きない食材をいう。
 次にお品書きを一部紹介するが、何ともユニークでオリジナリティーの高い、遊び心が伝わってくるメニューである。(  )内の数字は税抜きの価格である。
『山里の季節膳』:「炭にきけ膳」(4000)、「棟上げ膳」(5000)、「野にきけ膳」(6000)、「山にきけ膳」(7000)、「山里の恵み膳」(8000)。
『ランチサービス』:「そばと何かほしい膳」(2500)、「館主の野遊び膳」(3000)、「山里の彩り膳」(4000)。
『職人館の創作そば』:「そばの実と放し飼卵のリゾット風」(1500)、「山ぶどうドレッシングのそばサラダ」(1500)、「みまき豆腐の葛あんかけそば」(1500)、ほかに「岩魚そば」「どんぐりそば」。
『そば』:「職人そば」「みぞれそば」(850)、「十割石臼挽きそば」「山菜温そば」(1300)、「季節のかわりそば:更科かダッタン」(1500)。
『ちょっと一品』:「村の豆とうふ」(350)、「野菜・きのこのそば味噌炊き」(850)、「山野のお任せ盛り」(1500)。
『調味料・酒はオリジナル』:「味の決め手塩」「銀葉藻と塩」「天来味噌」「天来醤油」「職人館酒」「そば焼酎」ほか。

 「季節の野菜盛り」は盛り沢山で食べられないので持ち帰りたいと言ったところ、お持ち帰りはできませんとのこと、諦めていたところ、帰り際に清算をしているとき、新しい野菜をお持ち帰り下さいと頂戴した。何とも嬉しい心遣いだった。玄関で集合写真を撮るのに、館主にシャッターを切ってもらった。その後しばらく話していたら、ここで開業する前の6年間、金沢と鶴来で修行したとのこと、驚いた。此処へ来てもう二十余年というから、かれこれ30年位前のことになる。帰りに注連飾りの下でポーズしてもらった。
 遠いが、また訪れてみたい蕎麦の館である。

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