2011年10月4日火曜日

白山のコマクサ除去の受難ー掃討作戦開始ー

 平成23年(2011)9月28日付けの朝日新聞石川版に、「白山のコマクサ除去へ、『高山植物の女王』を外来種と断定」という見出しで、生田大介記者による記事が登載された。
 記事は次のようである。記事内容は「  」で示した。
 「ピンク色の可憐な花をつけ、『高山植物の女王』と呼ばれるコマクサを、白山から除去する作業が27日、環境省や県によって始まった。他の地域では盗掘が問題になる人気植物だが、白山にはもともと存在しない外来種で、生態系への影響が懸念されるためだ。」
 私がコマクサが除去されるかも知れないと初めて耳にしたのは、今年の8月21日の日曜日、南竜山荘の関係者からである。白山でのコマクサの生育地で、私が確認しているのは1箇所だけだが、それは見たところ明らかに植栽されたもので、私が知ってから10年位経過している。場所はコマクサにとっては好い?環境の礫地とは思うが、10年前と比較してもそんなに繁殖はしていない。ただ実生が幾株か見られるので、将来増えるのかなあとは思うものの、その速度は遅々としている。
 「白山国立公園では、1992年に山頂付近で初めてコマクサが確認され、当初から人為的に持ち込まれた可能性が指摘されていた。」
 私が白山にコマクサが生育していると知ったのは、平成12年(2000)7月19日付けの北國新聞の『北陸の自然発見』というシリーズで、宮誠而氏が前年の平成11年(1999)に撮影した『白山のコマクサと能登半島』という写真と、『人知れず咲いたコマクサ 魅惑のピンク がれ場に植えられ』というタイトルの一文である。そこには10株位の花を付けた株と、実生と思われる株も8株位写っている。撮影した日は台風一過で大気が澄み渡っていて、能登半島も遠望できたという。氏は順調に育っているコマクサを見た時、複雑な気持ちでしたと述懐している。そしてこれに関わった人は、コマクサの生育に精通していて、その場所がコマクサの生育に適した場所であることを見抜き植栽したのだろうと。そしてその場所は花壇でも造成するように石で囲ってあったと記している。私はその場所に遭遇したくて御前峰の西側で能登半島が見える場所にこだわり探したが、その場所は特定していない。しかし今年9月11日に、白山室堂に23年間勤務されていた鴛谷さんから直に伺った話だと、御前峰の東側だという。改めて宮誠而氏撮影の写真を見て、東面で能登半島が見えそうな場所となると特定できそうだ。でもそれは登山路からは入り込んだ場所だろう。ところで写真では慎ましく、高々20株程度が写っているに過ぎないが、朝日新聞の記事はこう続く。
 「その後、個体数は増え続け、2009~2010年度の調査では約5900株にも及んだ。」と。
 宮誠而氏の写真でも私が知っている場所でも、10年経過していたとしても、そんなに爆発的な増殖はしていないし、成長が旺盛な植物ではなく、根も地中深くに達することから、もしそんなに増えているとすれば、実生が育っているから、種子の散布による結果だろうか。しかしこのようにべらぼうな数の植栽は考えられず、この記事を見たとき、その数の多さに仰天した。早速今は石徹白に在住されている鴛谷さんに電話して伺ったところ、いやそれ位の株数はあるでしょうとのこと、どうしてそんなに増えたのですかと訊くと、種を蒔いたのでしょうと。ケシ科の植物の種子は細かく、卑近な例では芥子粒を思い浮かべて頂ければよい。鴛谷さんはその場所をご存知で、植栽は一部で、大部分は種子由来だろうと仰った。また種子散布があったのは、およそ20年位前のことだとも。
 「これを受け、環境省は学識者らによる対策検討会を設置、1973年頃に乗鞍岳のコマクサを持ち込み移植したという登山愛好家の証言が正しいことを確認した。DNA解析の結果、実際に白山と乗鞍岳などのコマクサの遺伝子も一致。一方、1822年以降の主要文献を調べた結果、自生していた記録はなかったことから、外来種と断定した。」
 1973年というと昭和48年、38年前、何方かは知らないが、植栽されたと自供されたのだろうか。私が知っている方は、もし存命ならば75か76歳、その方が20年位前に種子散布されたのだろうと鴛谷さんは話されていた。そしてその種子の採取場所は乗鞍岳だったとも。それにしても文献調査の最古が1822年というと江戸時代の文政5年、当時は何と称していたのだろうか。恐らく駒草と称してはいなかったのではないか。また当時の記載には草花の記載は極めて少なかったのではと思う。それにしても現行の国立公園法では、国立公園内での植物の採取は禁じているが、植栽してはいけないとの条文はなく、採取は法律に反しているのではと思うがどうなのだろう。また鴛谷さんでは、岐阜県内に成育しているものを石川県の職員が勝手に除去できるのかとも指摘されていた。この点について石川県自然保護センターへ問い合わせたところ、この事業(白山国立公園コマクサ対策事業)は環境省中部地方環境事務所の事業であって、事業遂行の最大の隘路は、地権者との調整だけで、県はこの決定の段階では関与していないとのことであった。この決定の発表は、中部地方環境事務所で9月26日に行なわれた。そこのHPには「白山では本来分布していなかったコマクサの種が持ち込まれ、一部が生育しているが、この外来種を除去するための白山国立公園コマクサ対策事業が実施されている。」とあった。
 「白山のコマクサの生育地点には他に8種類の在来植物が生えており、生育場所や養分などの面で悪影響を受けている可能性があるため、環境省が今後も影響を調査するという。」
 コマクサは礫地を好む、といっても礫地に直根を深く穿って生育する。だから他に8種類というのは何かは知らないが、それらの大部分は比較的根が浅く、コマクサと競合するとは考えにくい。しかも悪影響というのはどんなことを意味するのか。もっとも外来の植物の植栽を奨励するわけではないが、コマクサが可憐であり、かつ生育環境も厳しく、また生育場所が一般登山者の目に触れることが少ない場所ならば、現行法律に則って対処されるべきではないか。朝日新聞の記事に付載されている「白山国立公園に生育するコマクサ=環境省」の写真を見ると、宮誠而氏提供の過保護状態とは違って、のびのびと生育しているし、また1株に付いている花数も多く、逞しさが感じられる。掃討作戦が開始されたのが9月27日、恐らくその時期にはコマクサの種子は結実し、既に散布されてしまっているだろうから、根こそぎ絶やすためには、数年を要することになろう。白山自然保護センターの係員の話では、ここ10年ばかりで急に個体数が増え、それは種子散布もあるだろうが、それよりも株の分けつにより増えているとのことだった。
 「コマクサはケシ科の多年草で、国内では北海道と東北、中部などに分布している。」
 駒草は以前には腹痛に効く薬草として重宝され、乗鞍岳、御嶽山、燕岳、木曽駒ヶ岳ではほとんど採り尽くされてしまったという。でも木曽駒ヶ岳のほかは群生地として復活しているという。木曽駒ヶ岳では1960年以降、植栽による復旧に努めているという。
 現在の日本でのコマクサの群生地は、北海道では、知床半島、雌阿寒岳、大雪山系、東北では、岩手山、秋田駒ヶ岳、蔵王連峰、北アルプスでは、白馬岳、蓮華岳、燕岳、乗鞍岳、ほかには、草津白根山、八ヶ岳、御嶽山、このうち私が見ているのは北アルプスの4山で、白馬岳ではその北に位置する雪倉岳が圧巻である。
 古くは薬草として撮り尽くされた例もあることから、執念をもってすれば、絶滅させることは出来ようが、広い国立公園内のほんの狭い一画に生えるコマクサを除去するというのは、何ともしっくりこない。それよりオオバコこそ除去してほしいものだ。また外来種といえば他にもあるのに、そちらの対策はどうするのか、問題は残る。

 [平成23年(2011)9月27日付け北國新聞での記事] を以下に記す。
 『コマクサ除去開始 5900個体確認 白山の生態系回復 きょうから環境省』
 環境省中部地方環境事務所は27日から、白山国立公園の高山帯で生育範囲を広げているコマクサの除去作業に乗り出す。生態系の維持回復に向けて、効果的な除去手法の確立に向けた調査も行い、将来的にコマクサがない状態を目指す。
 コマクサはケシ科の多年草で、本州では岩手山や北アルプスなどに分布している。白山では1992年に生育が確認され、2009年度と昨年度の調査では、山頂部付近に約5900個体が確認された。人為的に持ち込まれたことがDNA解析で分かり、個体数も増加していることから、有識者を交えた検討会で、早急な対策が必要と判断された。
 地表から10~20cm下にある成長点の上部のみ除去することで枯死させ、土壌への影響を最小限にする。個体数が多い地点では開花が予想される大きな個体を取り除くなど継続的に作業を進める。 コマクサの持ち帰りは自然公園法で禁じられているが、除去は生態系維持回復事業として行われる。
 写真「白山国立公園に生育するコマクサ」は、環境省白山自然保護官事務所の提供。

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