2010年11月11日木曜日

「百萬石」と「ギャルド」

・百萬石ウィンドオーケストラ
 10月25日付けの朝日新聞石川版に、「百萬石」が銀(吹奏楽コン)という見出しの記事が載った。これは全日本吹奏楽連盟と朝日新聞の主催で、10月24日に松山市の愛媛県県民会館(ひめぎんホール)で開催された第58回全日本吹奏楽コンクールの結果の記事で、百萬石ウィンドオーケストラが職場・一般の部に北陸支部代表として出場し、銀賞を受賞したとあった。このウィンドオーケストラは石川県で数多くある吹奏楽団の中ではトップクラスで、私も二度ばかり聴いたことがあるが、かなりレベルの高い演奏内容をもっている。何故この楽団を紹介したかというと、このオーケストラの団長の谷井君は、私が勤務している予防医学協会の同じフロアで仕事をしているからで、彼のこのオーケストラでのパートはユーフォニウムというあまり聞いたことがない金管楽器である。彼に会って「おめでとう」と言うと、地元新聞での報道がないのに、どうして分かりました」と言ったものの、あまり嬉しそうでないのに驚いた。聞くと「金賞だと嬉しいのですが、実は金と銅は少ないのですが、他はみな銀賞なんです」と。でもこれまで10回も出場しているというし、定期演奏会も行い、今回の自由曲もマッキー作曲の「オーロラの目覚め」という幻想的なオーロラの情景が思い浮かぶような繊細な演奏が必要とあって、全体として一つのサウンドにもっていくのに、実に緻密な練習を繰り返したと語っていた。団員は学生のほかは皆さん手に職を持っている人たち、息を合わせるのは大変だったろう。谷井君はまだ30代、協会では仕事もバリバリやっている静かな闘志を秘めた若い子煩悩な父親だ。

・パリ・ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団(パリ共和国親衛隊音楽隊)
 10月末の30日には、石川県ほか2団体の主催で、通称「ギャルド」として知られる世界の名門吹奏楽団の金沢公演が県立音楽堂であった。この種の公演は大概座席指定なのに、この公演ではS席とA席はグループ内自由席という変則的な方式、だから開始前1時間というのに長い長い列、その数は数百人、私は1時間半前に来て200番くらい、とても往生した。しかし約160年の伝統があるこの吹奏楽団の演奏は実に素晴らしく、その音色は心を震撼した。指揮者は第10代楽長のフランソワ・ブーランジェ氏、全員が金モールの付いたブルーの軍服もどきの制服を着用、女性もいる。総勢は80人ばかり、金管より木管が多い編成で、特にクラリネットは20人ばかりいて、楽員の4分の1を占め、その首席奏者はコンサートマスターも務める。本邦での公開公演は7回、メインはクラシックの吹奏楽編曲、歴代の楽長/主席指揮者の手になるものが多い。
 金沢公演での曲目は、バーンシュタインの「キャンディード」序曲、ハチャトゥリアンのバレー音楽「ガイーヌ」から剣の舞とレズギンカ、組曲「仮面舞踏会」からワルツ、レスピーギの交響詩「ローマの松」、次いでマーチが2曲、「サンブル・エ・ミューズ連隊行進曲」と「ロレーヌ行進曲」、そして最後にラヴェルの「ボレロ」だった。聴いていて中でもマーチ曲の演奏が最も生き生きとしていたように感じた。十八番というべきか。でも金管が主のウィンドオーケストラとは一味違った、華やかさがある中にも落ち着きのある響きだった。木管のなせる業なのだろうか。ところでこのマーチの演奏は金沢公演だけだったらしい。演奏の前半のバーンシュタインとハチャトゥリアンも、吹奏楽では見せ場の多い曲、大編成を武器にした迫力ある演奏は、管弦楽とは違った感動で心を揺さぶった。最後のラヴェルの「ボレロ」、吹奏楽ではどうなるのだろうと固唾を呑んだが、あの初めから終いまで続く単調な小太鼓の響きはなく、少々落胆した。聞けば、パーカッションで共演の石川直(なおし)が、なぜか金沢公演のみ欠席だったとか、正に画竜点晴を欠くきらいがあった。この編曲の初演にはラヴェル本人が指揮し、しかも満足したというから尚更である。あのただひたすら繰り返される同じリズムがないと、またあの単調で根気の要るワザが聴けないと、この曲は生きて来ないように思う。
 ちなみに、この楽団の入団応募資格は「パリ音楽院で一等賞を獲得した者またはそれと同等の能力を持つ者」となっていて、しかもその応募者の中からコンクールによって採用者を決めるという厳しい条件が課せられているから大変だ。また金沢との関係でいえば、「ギャルド」第9代楽長のロジェ・プトリー氏は、オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のコンポーザー・イン・レジデンスを務めたことでも知られている。

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