2010年4月22日木曜日

木曽路の蕎麦屋ーそばライゼからー

 今年4月の探蕎会の蕎麦屋巡りは、予定では18日の日曜日に長駆丹波篠山の「ろあん松田」ということだったが、10日前の8日に事務局の前田さんから連絡があり、満員のためキャンセルになったとのこと、代わりに信州木曽町の「時香忘」に変更した旨のメールが入った。「ろあん松田」の魅力もさることながら、「時香忘」の「そば」は、これが「そば」の究極の姿とさえ思える逸品ばかり、あそこで出されるすべての「そば」をまだ食べ尽くしていないこともあって、行こうと言われて否はない。私は今度で三度目となる時香忘行き、今回のメンバーには初参加の方もおいでるが、たかが「そば」とは言え、店主の「そば」への拘りをまた共に味わえたとは僥倖だ。満足して時香忘を出た後、久保さんの発案もあって、開田高原の「ふもと屋」で「とうじ(投汁)そば」を味わうことに。前に寄った折に初めて食したが、何事も体験ということでは意義があるが、何度もということになると首を横に振りたくなってしまう一品である。でもこの木曽路にあって、初に経験する方もおいでるとあれば、よい体験だと思う。この日の木曽路は正に桜満開の春爛漫、東に急峻な木曽駒ヶ岳を、西には泰然とした木曽御嶽山を眺め、この春の一日、木曽路の蕎麦を堪能した。
 ところで何処で仕入れたのか定かではないが、手元に「KISOJI/SOBA Reize」というパンフがある。曰く、『ライゼ』とは、ドイツ語で「旅、旅行」・「めぐり旅」・「紀行」という意味があり、「SOBAライゼ」とは、木曽路の蕎麦を味わって頂くばかりでなく、木曽路の自然と人にも接して、木曽路をゆったり楽しんでほしいという想いを込めて名付けたとある。このパンフは、あちこちで行われている「地域おこし」の一環と思われ、昨年11月に策定された「木曽地域広域観光振興計画」に基づいて、「木曽地域広域観光振興プロジェクト会議」が企画・編集し作成した手作り品とか、4月の発行というから、まだ生まれたばかりである。
 木曽というと、木曽の五木の香りを思わせる、清々しい爽やかな雰囲気を頭に描く。山では木曽の御嶽山と木曽駒ケ岳、川は木曽川、谷は木曽谷、街道は木曽街道、人物では木曽義仲、民謡は木曽節、木曽の御料林もある。木曽は信濃国(信州)の十州の一つ、地域は木曽川流域一帯の木曽谷を指すという。行政区域では旧木曽郡全体である。平成の大合併で、北部の旧楢川村が塩尻市に、南部の旧神坂村と旧山口村が岐阜県中津川市に合併された。現在の長野県木曽郡には3町3村あって、北から木祖村、木曽町、王滝村、上松(あげまつ)町、大桑村、南木曽(なぎそ)町となっている。そして南北に流れる木曽川に沿って、中仙道が通っていて、これを通称「木曽路」という。中仙道は69次あり、江戸の日本橋から京の三条大橋に至る街道である。木曽路には33次の贄川(にえかわ)宿から43次の馬籠(まごめ)宿までの11宿があった。北から順に、贄川宿、奈良井宿(以上旧木曽郡楢川村、現塩尻市)、薮原宿(木曽郡木祖村)、宮ノ越宿(木曽郡旧日義村、現木曽町)、福島宿(木曽郡旧木曽福島町、現木曽町)、上松宿(木曽郡上松町)、須原宿、野尻宿(以上木曽郡大桑村)、三留野(みどの)宿、妻籠(つまご)宿(以上木曽郡南木曽町)、馬籠宿(旧木曽郡山口村、現岐阜県中津川市)である。
 さて、手元にある「木曽路/そばライゼ}には、旧木曽郡に所在する46軒の蕎麦屋が紹介されていて、お客さんに好みの「そば店」と「そば」を探していただくためのツール・ナビとして活用して下さいとある。これに記載されている蕎麦店は、自家で手打ちであれ、機械打ちであれ、そば打ちをしている店で、掲載希望のあった店となっている。したがって、パンフには、このほかにもそば処はありますと書いてある。しかし、私の手持ちの資料で調べた限り、この地域で参加していないそば店は僅かに5店のみであった。
 木曽路のそば店の紹介は、概ね北から南へとなっていて、店の名称、住所、電話番号、代表的なそばの「麺の太さ」「そば粉とつなぎの割合」「つゆの特徴」、[店からのこだわり・セールスポイントの一言]、[お勧めのそば2品とその値段]、禁煙席の有無、座席数、駐車数、営業時間、定休日、あれば店舗のHPアドレスが載っている。またお勧めの品のそばの写真と、店自慢の一品の写真か、店内もしくは店の外観の写真が掲載されている。そして取材したプロジェクトチームのメンバーのコメントも付されている。統一されたスタイルなので比較しやすいし、その点では親切な見やすいパンフレットだといえる。
 概観してみよう。地域別にみると、北から順に、塩尻市(旧木曽郡楢川村)8、木祖村3、木曽町19(旧木曽福島町6、旧日義村4、旧開田村8、旧三岳村1)、王滝村5、上松町3、大桑村2、南木曽町3、中津川市(旧木曽郡山口村)3である。
 代表的なそばの太さは、大部分(34店)が2.0-3.0mm未満の中細、2.0mm未満の細打ちが10、3.0mm以上の太打ちが1、時香忘は麺の種類により変わるとあった。そば粉とつなぎの割合は8割(二八)が最も多くて36、外二が1、7割が3、9割が3、10割が1、99.8%が1(時香忘)、未公表が1だった。つゆの特徴は、すべての店で自家製であるらしいが、鰹節と記載されているのが26、昆布とあるのが17、煮干が4、鯖節が3、椎茸が3、シメジが2で、単味というのはなく、複数の味の混合である。因みに時香忘のつゆの特徴は、こだわりの醤油(以前に記載)、3種類の削り節、天然物の昆布、霜降りシメジとなっていた。
 こだわりでは、自家製粉の記載があったのが13店あり、これらの店は当然手打ちと思われる。ほかに手打ちと記載されていた店が11店あった。中に1店は注文を聞いてから機械打ちするとあった。蕎麦粉は地元の開田高原や王滝産を用いると書いていたのが11店、長野県内産との記載が12店、国内産との記載が3店、他は特に記載はなかった。
 お勧めのそばで多かったのは「ざるそば」で38、次いで「すんきそば」が14、「天ざる」が9、「天ぷらそば」が5、「もりそば」「とうじ(投汁)そば」「きのこそば」が各4、他は3以下だった。因みに時香忘のお勧め品は、日により蕎麦が変わりますとの注釈付きで、「おやまぼくち蕎麦」と「夜明け蕎麦」とあった。なお、プロジェクトメンバーの時香忘の印象メモには、『原点回帰のそば! 木曽を感じ、すべてに癒される』とあった。
 このパンフの1-2頁には蕎麦の一般的知識を要領よく説明してあり、全粒粉から打つ「田舎そば」、挽きぐるみを使った一般的なそば、ご膳粉を使った「更科そば」などを、分かりやすく写真を添えて紹介してある。そしてこだわりのお蕎麦として、十割そうだが、そば、粗挽きそば、実のまま、二色そばを収載してあるが、後の2点は時香忘でしか打てない特殊な「そば」なのにあえて紹介したのは、チームの並々ならぬ意気込み以外の何物でもない取り組みと感じとれた。
 〔補記〕 お勧めのそばに出てきた「すんきそば」とは、赤カブ菜の茎を塩を使わずに醗酵させてつくった「すんき(酸茎)漬け」を、温かいそばの上に載せた酸味の効いた木曽地方独特のそばで、寒い時期(概ね11月~3月)に限定して出されるもので、木曽の冬の味である。 そしてこの「すんき漬け」とは、木曽特産の赤カブ菜の茎を植物性乳酸菌のみで醗酵させてつくった漬物で、酸味が特徴である。昔はヤマブドウやコナシの果汁を醗酵に使ったそうだが、現在はすんき漬けから出た液を寒干ししてつくったタネ(すんきの汁)を使って漬け込んでいる。塩が手に入りにくかった山国で、冬の野菜不足を補うための知恵として伝承されてきたと言われ、味の文化財といわれる所以である。 なお、塩を使う京都の「すぐき(酸茎)漬け」とは別物であるが、名称の語源は同じかも知れない。

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