2010年4月2日金曜日

オーケストラの日に「ヤマカズ」こと山田和樹登場

 日本でも、沢山の方々にオーケストラに親しんでもらおう、またもっと身近に感じてもらおうと、その一手段として、誰が発案したのか、昨年から3月31日を、語呂読みで捩って「ミミにイチバン」と読んで、この日を「オーケストラの日」としたのだそうだ。この日は日本のプロフェッショナルなオーケストラの団体である(社)日本オーケストラ連盟傘下の30団体中27団体が、各地でそれぞれに趣向を凝らした公演を開催することになっている。石川県ではオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が核となって、今年は石川県ジュニアオーケストラと金沢大学フィルハーモニー管弦楽団が共演する構図でこのイベントが実施された。この催しは前記のような主旨もあってか、入場料金は1000円と安く設定されている。でもそれでも席が埋まらないとの目論見もあってか、賛助会員と定期会員には招待券が振舞われた。大概この手の招待券は人気のある演目には出されないのが通例で、席を埋めて体面を保つために出されることが多い。私の手元には3枚届き、予感で何となく1枚を手元に残した。
 公演の当日は水曜日、平日だと午後7時開演が何となく定着しているので、6時半までに行けばいいと勝手に判断していた。音楽堂に入ったのはその1分前、先にトイレに入ろうとしたら、係員がホールへの入口の戸を順に閉めている。開演は7時じゃないのですかと聞くと、今日は6時30分に始まりますというではないか。トイレどころではない。1階は満席ですというから、2階へ急ぐ。2回もほぼ満席に近い状態、見れば3階はまだ空いている。席へ着くと、さらに遅れて隣に幼児連れの母親と姑、かなりヤンチャでうるさいガキ、この日は特別日で幼児もOKなのだろうかと訝る。通常は未就学児は入れないはずなのに、嫌な予感がする。
 第1部の前半は石川県ジュニアオーケストラの演奏、曲目は宮川彬良の松井秀喜の公式応援歌「栄光の道」、ドヴォルザークのスラブ舞曲第8番とチャイコフスキーの白鳥の湖からワルツの3曲。メンバーは小学校3年生から高校3年生というから、演奏はどうなるのだろうかと心配したが、思ってたよりはるかに良い出来なのに驚く。本当に指揮者の苦労が偲ばれる。指揮者は鈴木織衛さん、かなりの年輩、思うに以前探蕎会にも席を置かれたことのある故榊原栄さんの後任ではなかろうかと思う。ジュニアを指導される方というのは、何か子供に好かれる共通した性格というものがありそうだ。でもあそこまでまとめるというのは大変な努力だ。
 次いで金沢大学フィルハーモニー管弦楽団、定期演奏会も開いているが、義理で聴いたことはあるが、とても感慨に耽って観賞できる類の演奏ではない。この日の指揮者は指揮よりはバイオリンを弾いているのが好きという長尾枝里子さん、彼女の弁では前任者から中では最もマシだからと後任の指揮者に指名されたという。でも指揮法を正規に習ったわけではないのだから大変で、曲目がエルガーの行進曲「威風堂々」第1番とシュトラウス1世のラデツキー行進曲だったから、リズムとりだけしっかりとればよいので、どうにか切り抜けられたような感じた。学生で指揮者というのは酷なような気がする。でもよく健闘した。さて、例の隣りの幼児だが、常に何かを喋っていて、親がそれをたしなめるのに声高になり、周りの人たちの顰蹙をかっていた。私は二度ばかり静かにして下さいと言ったが、暫くしか効き目がなく、不愉快この上ない。でも後半の第2部には入場して来なかったので安堵した。
 前置きが長くなってしまった。20分の休憩の後は待望の山田和樹の登場、まさか彼が来るとは夢にも思っていなかったので、案内のチラシを見てビックリ。心底、聴きに来てよかったと思った。彼は以前に恩人の岩城宏之さんが亡くなった2006年に、岩城さんの代役でOEKを振ったのを聴いているが、あの時は若くて清新な印象を受けた。きっと岩城さんが指名されたのだろう。昨年彼は、若手指揮者コンクールでは最も長い歴史をもつフランスのブザンソン国際指揮者コンクールで優勝している。このコンクールで優勝した大先輩には小沢征爾さん(1959)がいるが、それは50年も前のことですと演奏後に彼は語っていた。ほかにも優勝者には佐渡裕さん(1989)や下野竜也さん(2001)がいるが、タイプはそれぞれ違うものの、二人の指揮を見て聴いていると、凄いオーラを感じて引き込まれそうになる。さて、彼はどうだろうか。チューニングが終り、やや間をおいて、一見華奢に見える彼がステージに現れた。まだまだお若い。指揮する曲はベートーベンの交響曲第7番、演奏はOEK、スコアはなく暗譜、それだけ演奏に集中できるというものだ。全曲40分前後の演奏だが、実に素晴らしい指揮さばきで演奏が終わった。素晴らしい。惚れ惚れとした。若者の指揮は振りが大きくダイナミック、明快で的確、大胆でいて繊細、清々しいキレのあるベートーベンが聴けた。その上ベートーベンの曲に相応しい荘厳さまで伴っていた。この想いは私だけではなかったようで、終わっての拍手が凄かった。心酔した。
 最後のステージは三者合同の演奏、ステージ一杯になっての演奏、曲はチャイコフスキーの白鳥の湖から情景とチャルダーシュ、OEKが入っているからとは言うまい、彼の指揮は的確で、ともすれば乱れがあっても不思議ではない儀式としての演奏なのに、三者をうまくまとめ上げてしまう技術は並大抵のものではない。彼はまだ31歳、将来が実に楽しみだ。そして鳴り止まない拍手の嵐に応えて、アンコールにはラ・フォル・ジュルネにあやかって、メンデルスゾーンの付随音楽「真夏の夜の夢」から結婚行進曲、予め予定されていたのだろうけれど、大編成ならではの良さをうまく醸し出していた。これは指揮者によるところが多いと誰もが感じたであろう。
 演奏が済んでのインタビューで、素晴らしい演奏でしたねと司会者が言うと、僕は何もしていないので、もしそうだとすると、それは演奏された方々が素晴らしかったからですと。何とも憎らしいまでの落着いた殺し文句である。ブザンソンのコンクールに触れ、他のコンクールでは予選の絞込みはビデオでするのだけれど、ブザンソンではすべて本番でするとのこと。昨年は250人の応募があったけれど、1週間かけて先ず20人に絞り、さらに10人に、10人を6人に、6人を3人に、そして最終審査ということだった。朝は9時から、でもその日の結果が出るのは夜の10時半、毎日が大変だったという。中々過酷なコンクールである。それにしても喋りも実に爽やかで清々しい。

 「ヤマカズ」こと山田和樹は、金沢で5月3,4,5日に行われる音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ」にはまた訪れるとか、またぜひ聴きたいものだ。5月3日は尚美ウインドオーケストラを、5月5日はOEKを振る予定だ。楽しみだ。 

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