(承前)
2.ウラディミール・アシュケナージ指揮/辻井伸行ピアノ/アンサンブル金沢
アシュケナージと OEK のコンビの演奏はこれまでもかなりあり、私も何回か聴いている。今度も3公演あり、うち2公演は辻井伸行との共演が組まれていて、1日目と2日目にあり、私が聴いたのは2日目の公演である。このコンビは国内ばかりでなく、海外でも組まれていて、二人はその仕草を観ていると、親子のような雰囲気がある。今回このコンビでの2公演は最も人気があり、最も早くに完売になったと報道され、人気の凄さが感じられた。今回は初日にモーツアルトのピアノ協奏曲第 21 番ハ長調、2日目に同 26 番ニ長調「戴冠式」が演奏された。私が聴いたのは後者である。この日の私の席は3列 11 番、ピアニストの運指がしっかり見られる好位置だった。これまでこんな席に座って聴いたことはなく、実にラッキーだった。演奏時間は 30 分前後、私の素朴な疑問は、彼は全盲であるからして、最初の鍵盤へのタッチはどうするのかだった。一旦演奏が始まれば手と音の感覚で続けられるだろうけれど、最初はどう対処するのだろうか。するとピアノの演奏が始まる少し前に、彼はピアノの右端から大きく広げた右手で2度ばかり距離を測り、その後細かい修正で最初の1音を叩いていた。当てずっぽうではない緻密さを感じた。演奏が終わった後は正に万雷の拍手が続いたことは言うまでもない。そしてこの各公演は1時間きっかりで、次の公演までの時間が 30 分ということもあって、例えスタンディング・オベーションが起きてもアンコール演奏はしないのだが、応えて彼は私が聴いたことがないピアノソロを弾いた。翌日係員の方に訊ねると、カプースチンの練習曲とのことだった。
一方アシュケナージ指揮による OEK の演奏は3回あり、初日に2回、私が聴いたのは3回目となった辻井伸行との協演に先立って演奏された交響曲第 36 番ハ長調「リンツ」である。4日で書かれたというこの曲、息の合った演奏は優雅さに満ちていた。
3.アグニエシュカ・ドウチマル指揮/アマデウス室内オーケストラ
名前はよく聞くが、直接聴いたには初めてである。創設者で音楽監督のこの指揮者は女性で、小柄だが精力的、独特なオーラを発する人だ。少人数ながら、その演奏は世界中で公演されているだけあって、洗練されている。曲は初めにモーツアルトが 1772 年、16 歳で作曲したザルツブルグ・シンフォニーといわれるディヴェルティメント3曲の2番目の作品、今回の公演では3曲とも演奏された。10 分ばかりの短い曲だが、演奏は簡潔でリズム感があり感動した。次いで 19 歳の時に書いたヴァイオリン協奏曲第3番ト長調、ソリストは韓国生まれのシン・ヒョンス、美貌の持ち主、彼女の演奏には初めて接したが、素晴らしい演奏だった。そして最後はポーランド出身のキラールが作曲した「オラヴァ」という弦楽オーケストラのための作品、楽器を違えての簡潔なリズムの反復、ラヴェルのボレロを彷彿とさせる作品だが、優雅さより力強さと素朴さを、そして野趣みのある反復はアフリカの音楽を彷彿とさせた。そしてアンコールでは同じような曲名不詳の曲が終始ピチカートで演奏され、これも度肝を抜くアフリカを思わせる曲、凄い反響だった。
4.リッカルド・ミナーシ指揮/ザルツブルグ・モーツアルテウム管弦楽団
管弦楽団は 1841 年創設とか、海外公演も多く、ザルツブルグ音楽祭の主役でもある。指揮者のリッカルド・ミナーシはこの楽団の首席指揮者であり、直に演奏を聴いたのは今回が初めてで、今回の音楽祭の最大の目玉だった。6公演あり、私は3回聴いた。ピアニストとしての共演者は、モーツアルト作曲のピアノ協奏曲第 20 番ニ短調をモナ・飛鳥と、同じく第 22 番変ホ長調を菊池洋子と、そして第 24 番ハ短調を田島睦子が行った。共演者の田島は地元だが、後の二人は国内外で活躍していて、モナ・飛鳥さんの演奏は初聴であった。オーケストラ演奏は、セレナード第 13 番ト長調「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」と交響曲第 38 番ニ長調「プラハ」、本場の味を味わえた。
5.ヘンリク・シェーファー指揮/オーケストラ・アンサンブル金沢
OEKには現在正指揮者は不在で、この音楽祭では、アシュケナージ、天沼裕子、シェーファーが振った。曲目はシューベルトの交響曲第7番ロ短調「未完成」、この曲は2楽章のみなのに、終わって拍手したのは私のみ、暫くして指揮者が客席に向き直って初めて万雷の拍手となった。交響曲は4楽章と暗に認識されていたからだろうと思う。
2018年5月13日日曜日
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