2015年2月25日水曜日

金茶寮での歳時記「早春の宴」(その2)

(承前)
食 談:「対談:世界から見た金沢」
 食談では金沢21世紀美術館長の秋元さんが司会役となり、国内外で活躍している渡邊さんと大樋さんの両ゲストから、世界視点で見た金沢の魅力を語ってもらうというスタイルがとられた。司会の秋元さんは 1955 年東京生まれの60歳、東京芸術大学絵画科卒で、前任はいろんな話題を蒔いたベネッセアート直島の地中美術館の館長だった。
 初めに、能楽宝生流シテ方として重要無形文化財指定の渡邊さんから話題が提供された。渡邊さんは 1949 年生まれの 66 歳、先代の次男で、宝生流第18世の宝生英雄さんに師事され、ここ数年はアメリカやブラジルで能の普及に尽力され、一昨年金沢へ戻って来られたとか。日本では新幹線の開通にあやかり、新潟、長野でも拠点を設けて活動してこられたという。海外でも日本でも、本当の能の真髄を堪能してもらうことに腐心されたとか。そして下手に迎合することなく、良さを理解して頂くことが肝心だという。しかし東京でも金沢でも、もし同じレベルのものが見られるとすると、金沢まで来なくても東京で済んでしまうことになる。そうでなくて、金沢でないと見られないものがあるとすれば、金沢へ来てもらえることに。宝生なら本場金沢という位置付けが大事である。
 次いで大樋さん。大樋さんは文化勲章受章者の 10 代大樋長左衛門さんの長男、1958 年生まれの 57 歳、玉川大学卒業後、ボストン大学大学院を修了されている。大樋焼は京都の楽焼をルーツに持ち、ここ 340 年間、日本の茶の湯の文化の中で、日本を代表する焼き物として伝統を受け継いできた。しかし大樋さんが在住していたボストンでは、小さな窯で焼く茶道の陶芸ではなく、外国人にも共鳴を与えられるように、前衛的な陶芸にも取り組み、それが現地の外国の方にも共感を呼び感銘を与えられたという。そして陶板画などにも挑戦し、新しいジャンルにも意欲的に取り組んできたという。私は大樋焼を核にして、外国では、そこの居る人達に共感を与える作品を制作することが肝要と思う。温故知新。そのルーツが金沢だということで、金沢を世界に発信できると思う。
 これに対し渡邊さんは、前衛的ということでは、能ではそのような要素を取り入れることは極めて困難だが、現在、例えばオーケストラアンサンブル金沢の井上監督とも時々コラボして、新しい試みに挑戦している。ただこの場合でも、能の基本を崩すことは絶対なく、そこが陶芸との違いでもあると。しかし、金沢21世紀美術館で能をやるなどというのは新機軸かも知れない。金沢へ来れば見られる魅力を、金沢まで新幹線が開通した今、また 2020 年のオリンピックも見据えて、金沢の魅力としてアピールできればと思う。

 食談を終え、金沢市副市長の方の音頭で乾杯し宴会に入る。
 宴会になって、今宵の酒を提供された、明治3年 (1870) 創業の吉田酒造店の現社長の隆一さん (5代目) の長男泰之さん (6代目) から酒蔵の紹介があった。彼は東京農業大学を卒業後、大手酒造会社に勤務した後にロンドンに留学したことのある 29 歳。ニューヨークでの日本酒キャンペーンの折、エリック・シライ氏から、アメリカ人から見た日本酒造り:THE BITTH OF SAKE「酒の誕生」というドキュメンタリー映画を作りたいとのことで協力を求められ、一昨年 11 月から昨年 4 月にわたって撮影に協力し、その映画は今秋に公開予定とか。会場ではその予告編が上映された。外国人の目で見た新しい視点での酒造りの情景が見られそうで、乞うご期待である。

2月14日の献立「桜ほのか」は次のようだった。
「口取り」 笹小鯛の辛子味噌あえ、烏賊の花寿し、堅豆腐と蒸し雲丹、春鱒の黄身焼き、
      金時草のレモン煮、うなぎ玉子巻、かぶら寿し、鰯の胡麻まぶし、花びら百合根。
「造 り」 寒ぶり、鯛、甘海老。
「炊合せ」 鯛のうま煮、結びぜんまい、車海老、蕗色煮。
「焼き物」 のど黒南天焼、里芋うに焼、菜の花辛子和え。
「合 肴」 ぐじのかぶら蒸し、蛤・岩のりあん。
「止 肴」 早堀り若筍と蕗の薹、わかさぎ南蛮漬。
      春ちらし蒸し寿し。  鴨のつみれ汁。  フルーツ。

 宴会も終わりに近く、琵琶と横笛のコラボで、「今を輝いて」と銘打って、筑前琵琶の藤本旭舟さんと横笛の藤舎秀代さんとで、平家物語の平実盛の死を扱った「篠原の段」の演奏があった。琵琶の演奏を聴いたのは久しぶりだった。

 午後9時過ぎ、宴が終わって席を立った折、同じ卓の方が名刺を下さった。私はリタイアして名刺を持ち合わせていないが、話をすると、私と同じ金大薬学部出身の方がいたり、北陸大学や太陽グループの方がいたり、もっと早くだったら話も弾んだろうにと思った。
 帰りは私たちが殿になったが、玄関へ着くと迎えのタクシーはすべて出払ったとか。何方かが予約しないで乗られたらしい。女将さんが恐縮されて、貴賓室で暫くお待ち下さいとのこと、とんだハプニングで、茶菓の接待まで受け、お話もいろいろお伺いし、お陰で素晴らしい予期しない時間を過ごすことが出来た。このような催しは年に4回、季節ごとに開かれるとのことだったが、次回出る機会があるだろうか。ケセラセラである。 

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