2013年3月27日水曜日

白川義員作品集『永遠の日本』への賛辞 その2

6.湖沼:「変化に富む湖沼が彩る列島」 辻井達一(専門:植物生態学)
 日本は国土の小さい割には湖沼が多いが、それは火山国だからと言ってよい。理科年表によると、面積4平方km以上の湖が72湖あるが、そのうち半数の34湖は火山性のカルデラ湖、堰止め湖である。次いで多いのは海岸のラグーン、すなわち汽水性の潟湖で3分の1を占める。残りは高山の湖沼と泥炭地の湖沼で、これは気候とか地形が要因となっている。この写真集には、それぞれに特徴的な湖沼がちりばめられている。それぞれにまことに興味津々の「水の異界」ともいうっべき存在である。
7.森林・巨木:「森林は雨が育てる、森林は文化を育む」 只木良也(専門:生態学)
 日本列島の年間平均降水量は1,700mmを超え、これは全土にわたり森林の生育に十分な降水量です。だから「あとは野となれ、山となれ」の譬えが成り立ち、日本人は「自然」には森林があって当たり前と思っています。しかし世界を見ると、森林の成立が許されるのは3分の1にしか過ぎません。それが更に現今の人間活動のためにどんどん減少し、今や4分の1に近づいています。日本は森の国です。日本人の活動でこれだけ開発が進んだのに、なお国土面積の3分の2が森林です。豊かな森林に恵まれたところには、それに育てられた文化が生まれます。森林との賢い付き合いを進めて行きたいものです。
8.渓谷・河川:「大地に刻まれた山、川、森の複合美」 小野有五(専門:景観生態学)
 日本には3万の川があるといわれる。狭い国土にこれほど多くの河川があるのは、日本が世界で最も活発な変動帯の上にあって、山は常に隆起し、雨で削られ、谷ができ、そこに雨水や雪解け水が流れ込むからである。日本の渓谷は、ほとんど山頂の直下に始まり、山地と平野の境目で終わる。それ位、日本の川は短い。源流に落ちた一滴の雨粒は、川に流れ込めば、1週間か10日で、海まで流れていく。この速さと、山と海の近さに、日本の渓谷・河川の特徴がある。白川さんは23点選ばれたというので、私も事前にリストを作ってみたりもしたが、3分の2は共通していた。
9.高原:「驚きと感動に満ちた日本の高原」 小泉武栄(専門:自然地理学)
 「高原」とは、高いところにある平坦な土地を指し、世界的にはチベット高原やデカン高原、コロラド高原のように、日本列島がいくつも入ってしまうような広大なものを指すのが普通ですが、日本の高原はこれとは別のものです。高原と名のつく日本の高原は、美濃三河高原などのように、数百万年前に平地だったところが、その後隆起して高くなった「隆起準平原」と呼ばれるものです。でも一般的には、火山麓扇状地(那須高原、妙高高原など)や火山群(志賀高原など、本書では大雪山、十勝岳なども)、火山性台地(立山弥陀ヶ原、八幡平、美ヶ原、霧ヶ峰など)もそう呼ばれています。
10,湿原:「湿原が語る日本列島の歴史」 辻井達一(専門:植物生態学)
 太古、日本は湿原の国でした。最古の歴史書「古事記」にある「豊葦原瑞穂国」は正に「葦が一面に生えるように、稲が豊かに育つ国」を意味するものです。葦の生えている湿地は、絶好の稲作の場だということです。日本にはツンドラ湿原こそありませんが、湖沼が浅くなってできた湖成湿原、ラグーンで海が退いたり、陸地が隆起したりしてできたもの、高山の平らな場所や窪地に形成された高層湿原、暑い地方で発達するマングローブ湿地など、南北に細長く延びた国土にはいろんなタイプの湿原が揃っています。
11.海浜/島嶼:「生命に満ち溢れた海洋列島」 安田喜憲(専門:環境考古学)
 奇蹟の生命の惑星地球が、ほんの一瞬だけ、サムシンググレードの存在を人間に実感させる時があります。それは多くが人生の転機に引き起こされます。白川氏がマッターホルンの朝焼けの一瞬を撮影するために6年間も通い詰めたのは、その存在に出会うためではなかったかと想像します。山国に生まれた私が東北に来て、名取市の閖上から広大な太平洋の波涛を見た時の感激も、奥松島から太平洋の大海原を望んだ時の感動も忘れられません。こんな世界があったのかと思ったものです。「アルプス」から「世界百名瀑」まで、地球の大陸を撮り続けてきた白川氏が、自らの生まれた海洋的な日本列島の風土、多神教の国の素晴らしさを表現したのが「永遠の日本」です。日本の素晴らしさを一口で言えば、「生命に満ち溢れた海洋列島」と言えましょうか。  

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