以下に「永遠の日本」の解説編に載せられた全体に対する序、及び各章(名岳、名瀑、湖沼、森林・巨木、渓谷・河川、高原、湿原、海浜・島嶼)の序、及び著者による「はじめに」と「あとがき」の要約を記す。
1.序「日本列島、人間の意識の根底に迫る」 山折哲雄(宗教学者)
日本列島は正に三層構造で出来上がっている。海洋と山岳と森林をベースとする縄文的世界が基層にあり、その上に弥生的農耕社会が中層をつくり、最上層が近代社会によって構成されている。そのうち最も根源的で重要な役割を果たしているのが、縄文的無意識世界に内包される宇宙観と価値観であるが、それを日本列島の自然景観の中に探り出し、その千変万化する個性的な風土をカメラの目を通して映像化したのが白川義員氏だった。彼の目は醜悪な人工物に囲まれた自然から離脱し、自然そのものに内在する美と神秘の世界に近づこうとする志と情熱によって再現されたものである。
2.序「努力と勇気、類まれな想像力」 安藤忠雄(建築家)
私はずっと、不思議に思っていた。写真や映像でよく見知っているはずの風景、それがなぜ、白川義員の作品でのみ、全く異質なものに見えるのか、画枠を超えて、山が語りかけるように、海が襲いかかるように見えるのか。その答えは、人間世界の向こう側にあって、雄大に広がる自然が、ある季節のある一日、ある一瞬に垣間見せる、その瞬間の輝きを、身を賭して、執拗に追いかけて表現した、それは彼の稀有な才能による生命力をかけた魂の表現である。
3.「はじめに」 白川義員
私はこれまで、第1の目的は「地球再発見」、第2の目的は「人間性の回復へ」を基本理念として10作の仕事を完成させてきた。次の第3の目的には「日本再発見による日本人の魂の復興へ」を掲げ、5年がかりで「永遠の日本」に取り組んだ。私はこれまで50年にわたって世界143ヶ国と南極大陸を巡り旅をしてきたが、帰国して最も衝撃を受けたのは、親殺し子殺し、通り魔による大量殺傷の事件、これは人間が終始ビルディングの谷間を右往左往し、醜悪な人工物に囲まれて、自然の一部である人間が自然から隔絶された生活をしているからにほかならない。「永遠の日本」は日本の政治が堕落しようと社会が荒廃しようと、我が祖国日本の自然はかくも偉大で崇高で永遠なのだということを人々に見ていただきたいとの想いをこめて制作した。
4.名岳:「火山国ならではの名山風景」 鎌田浩毅(専門:火山学)
日本は四方を海に囲まれた島国で、日本列島は陸のプレート2つと海のプレート2つの計4つのプレートの相互運動によって誕生した。日本列島は世界の陸地面積の400分の1しかないのに、世界中の7%の活火山がある。本書には南北アルプスの山々が掲載されているが、このうち南アルプスは海がフィリピン海プレートによって隆起したものであり、北アルプスを隆起させたのは太平洋プレートである。また日本は世界有数の火山国であって、本書でも霧島火山・新燃岳や桜島火山の噴火写真が多数収められているが、まさに活火山の荒ぶる姿である。こうした多様な姿を見せる日本の名山を眺めつつ、「生きている大地」を感じとっていただきたい。
5.名瀑:「悠久のなかの滝と日本人の魂」 秋道智弥(専門:生態人類学)
日本列島は南北3,000kmにわたる島々からなる。日本の森林面積は国土の7割を占め、森の国と言われる。また複雑な地形ゆえに峡谷が発達していて、国土にもたらされる降水は無数の河川となって海にそそぎ「川の国」とも言える。しかし必ずしも「滝の国」とは言えない。「日本の滝百選」をみると、男性的な力強い滝、いくつも流れが絡みあう女性的な滝、岩を這うように流れるカスケードの滝がある。これらの滝の造形美は、生命のほとばしりを彷彿とさせる。また滝は見る位置によって、人の精神を高揚させ、あるいは沈静化させる不思議な存在でもある。また日本人は古来より滝に霊的な意味を見出してきた。滝は神であり、また滝壺は水神の棲む場でもあった。滝は生きている。白川さんは滝に「日本人の魂の原風景」を読み取らせてくれる。
2013年3月26日火曜日
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