2012年11月10日土曜日

中の湯温泉と上高地(その2)

 「蕎文」を出て向かいの「坊ちゃんとうふ」に寄り、豆乳を頂き、湯葉は冷蔵保存でないと無理とのことで、おからの焼き菓子を求めて高岡を後にする。時間は午後1時、小杉ICへの道を教わり、北陸道を富山ICで下りる。国道41号線をひたすら南下、八尾町への分岐まで来ると、漸く車の流れがよくなる。神岡から平湯へ、安房トンネルを抜け、安房峠へ上る道の7号カーブを曲がると中の湯温泉だ。雨は止んだが空には雲が去来していて、穂高は見えない。ここは標高1500m、木々の黄葉は盛りを過ぎ、散りつつある。山毛欅はもう葉が散って白い梢ばかり、地には雪がある。急な階段を上って宿へ入る。玄関には日本秘湯を守る会と墨書された提灯が掛かっている。着いたのは午後3時10分過ぎだった。
 この日は団体さんも入っていて、ほぼ満室のようだ。収容人員は120名とか。ロビーからは小鳥の餌台が間近に見え、入れ替わり立ち替わりカラ類(コガラ、ヒガラ、シジュウカラ、ヤマガラ、ゴジュウカラなど)の小鳥が出入りしているのが見える。またロビーの北側の一枚ガラスの向こうには真っ白な奥穂高岳から前穂高岳の山並みと明神岳が見え隠れしている。宿の主人では、夏だと雲が夕方には下がるのだが、寒くなると中々下がらないとか、でも時々垣間見ることができた。
 部屋へ入り、早速風呂へ。ここの湯は単純硫黄泉で掛け流し、下の川原の源泉から300mばかりポンプアップしている。穂高の峰々が眺められる露天風呂に入る.目の前に小鳥の餌台があり、小鳥は恐れずに順に次々とヒマワリの種子をついばみに来る。程よい湯温、30分も居たろうか。部屋へ戻り、持参した神の河で喉を潤す。夕食は午後6時からという。
 夕食は広い食堂で、びっしり。どうしてこんなに人気があるのか不思議である。霜月三日の献立を記そう。〔先付〕なめ茸白酢和え。〔焚き合せ〕南瓜葛寄せ、海老酒蒸し、いんげん、里芋、胡麻スープ。〔温物〕飛騨牛しゃぶしゃぶ鍋。〔刺身〕信州サーモン、大根サラダ。〔焼き物〕岩魚塩焼き、なつめ、茗荷。〔しのぎ〕ぶっかけ蕎麦。〔香の物〕野沢菜、赤蕪、胡瓜。〔汁物〕しじみ汁。〔蒸し物〕湯葉かに豆乳蒸し。〔八寸〕鯖押し寿司、茄子しぎ焼き、とろ鮭絹多巻き、小岩魚南蛮、岩魚筋子。〔水物〕ゼリーチーズ、キュウイ。この中では霜降り肉のシャブシャブは質も量も圧巻だった。全部を平らげて満腹、実に大満足だった。後でこの献立は特別感謝プランだと知った。隣の女性チームは羨ましそうだった。
 翌朝早く、男女チェンジした露天風呂に入った.空は冴え渡っていて、穂高がシルエットになって見えている。そして空には星が瞬き、月齢20日の月が中天にかかっている。今日は快晴だ。朝食は7時、ロビーで穂高の朝焼けを愛でる。皆さんカメラの砲列、昨晩は今日のこの天気を全く予想できなかった。宿へ着いた折、朝8時半に宿の車で上高地まで送って頂けるというので、予約しておいたが、これは正解だった。今日は実に素晴らしい一日になりそうだ。散り落ちる葉が陽を受けて輝き、幻想的なシーンを醸し出している。
 バスは満席、大方の人は大正池で下りた。上高地まで約1時間の散策とか、私たちは上高地のバスターミナルで下りた。帰りは12時20分に出て、松本駅まで客を送るとか、中の湯までお願いすることにする。空は抜けるような青、これ以上の天気はない。河童橋まで5分、梓川沿いの道を歩く。水は清冽、河童橋の向こうには岳沢を挟んで、左から雪を頂いた西穂高岳、間ノ岳、天狗ノ頭、天狗ノコル、畳岩ノ頭、ジャンダルム、ロバの耳、そして奥穂高岳、さらに右へ吊尾根を経て前穂高岳の峰々が、そして手前には明神岳、くっきりと見えている。雲一つない正真正銘の快晴である。飛行機が通ると、後に飛行機雲が尾を引く。もう黄葉は過ぎているが、まだ黄色の細い葉をつけた落葉松が残っている。河童橋は人でごった返していた。
 明神池まで梓川左岸を歩くことにする。ざっと50分ばかり。ここまで来るとさっきの雑踏は嘘のように静かだ。山歩きの格好をしている人もいるが、何処まで行くのだろうか。徳沢や横尾までならハイキングの装いで十分なのに、涸沢まで行くのだろうか。道は落葉松の林の中を辿る。途中開けた場所からは明神岳の鋭峰を仰ぎ見ることができる。正に圧巻である。明神館で小憩して明神池へ、ここは穂高神社奥宮の境内、拝観料を払って池へ。一之池、二之池と巡る。池に投影された明神岳が実に鮮やかだ。嘉門次小屋で岩魚の塩焼きを食べる。此処へ来るとこれが定番。帰りは右岸の道を辿る。木道には凍った雪が残っていて歩きづらい。右岸を上流へ向かう人もかなり、外国人もいる。猿にもよく出くわした。
 中の湯温泉旅館まで送ってもらい、往路を引き返す。家内から飲酒を勧められ、道の駅「上宝」で細麺の奥飛騨ラーメンと岩魚の刺身と生ビール、岩魚の生の筋子は生まれて初めてだった。帰路の神通の峡谷を囲む山々は紅黄葉で燃えていた。素晴らしい一日だった。

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