2010年10月4日月曜日

白山平瀬道の今年の秋色は望み薄

 10月初旬の土日、白山の秋色の具合を探るため、今年4度目の山行きをした。白山の紅黄葉を観る場合、白山の東側、登山道でいうと岐阜県の大白川から登る平瀬道からが一番だと思う。白山で最も多く利用されるのは山頂の西側、市ノ瀬から登るルートなのだが、紅黄葉ということになると、紅黄葉する樹種が少ないこともあって、秋は何とも味気ない。もっとも弥陀ヶ原まで登れば、草紅葉や散在するウラジロナナカマドの橙色が目を和ませてくれるが、何といっても数が少ない。でも室堂平まで上がれば、その数は少し多くなる。
 秋色でつとに有名なのは涸沢の紅黄葉であるが、年によって若干差異があるのかも知れないが、概して毎年、台風などの影響で葉が痛まなければ、観賞に値する紅黄葉を期待できるようだ。その要因の一つは涸沢が圏谷という大きな谷筋に当たることだと思う。木々の紅黄葉には水が大いに影響していることは昔からよく言われていることで、山でなくても紅黄葉の名所などでも、適度な保湿と寒暖の差が紅黄葉の出来に大いに影響するとされている。その点涸沢は紅黄葉の条件が十分満たされている。
 私が住む石川県野々市町から岐阜県白川村の平瀬までは、以前だと、森本から富山県の福光へ、さらに城端から五箇山へ抜け、庄川をさかのぼって平瀬に達し、そこから大白川に入ったものだ。優に登山口まで3時間はかかった。ところが今では東海北陸自動車道ができて、これを利用すれば、距離はずっと長いが、時間は1時間半で登山口まで辿り着ける。ずっと以前は、平瀬が登山口、自動車道はなく、奥の大白川温泉へ行くにも歩いていったものだ。ただ現在でも道路幅は狭く、大型バスの乗り入れは困難なこともあって、定期の登山バスは通っていなくて、入山は自家用車かマイクロバス、タクシーかハイヤーということになる。
 私が出かけた10月2日は上天気、私が大白川の駐車場に着いた時にはもう50台くらいの車が並んでいた。見ると関東と中京、それに地元の岐阜と北陸の富山、石川ナンバーも1台いた。私が着いたのは6時半、7時に登り始める。この歳では若い人と伍する歩きはできる筈もなく、ゆっくり、ただ休まずに登る。平瀬道は別当出合からの登山道に比べて若干長いが、登山口の標高は偶然ながら同じである。初めに尾根筋に出るまでの高度差約200mは急登となるが、以後は緩急のある登りとなる。散在するヤマウルシが橙色に、オオバカメノキが赤く色付いているが、まだ紅黄葉は始まったばかり、カエデ類はまだ緑のままだ。高度で500mばかり登ると、東の展望が利くようになり、槍・穂高から乗鞍・御岳が一望できる。このジグザグを抜けると、根曲がり竹の斜面のトラバース、この辺りのブナは少し黄葉がかってきている。白水湖のエメラルドグリーンが印象的だ。ここを過ぎると大倉尾根に取り付くことに、この辺りになると、紅葉の主役のタカネナナカマドが多く見られるようになる。いつか家内と家内の友人を案内したときは、最高の紅葉、紅の海の中を逍遥しているような感があった。先月に砂防新道から登ったときには、弥陀ヶ原や室堂平のウラジロナナカマドは葉はシャンとしていて、今年は紅黄葉が期待できそうだと思っていたが、どうだろうか。大倉尾根下部のタカネナナカマドは丁度緑から紅への移行中であった。さらに登りつめると視界が開けて、左に御前峰、右に剣ヶ峰が見えるようになる。ミネカエデが鮮やかな黄色に輝いている。そしてタカネナナカマドは紅色に、しかし鮮やかさがないのはどうしてなのか。大体平瀬道の標高1700mから2000mにかけてはタカネナナカマドが多く、最盛期にはこの紅色が主役なのだが、今年はこの紅色がどうしたわけかくすんでいる。大倉避難小屋を過ぎる辺りからはウラジロナナカマドが混生してくる。見分けは葉の形で一目瞭然、色はタカネが紅なのに対してウラジロは橙色に染まる。だが今年のウラジロは葉が丸まっていてきれいな橙色になっていない。一部茶葉になっているものもある。この道での最高点である賽の河原への急なのぼり道からは白水谷の黄葉が俯瞰できるが、まだ少し時期が早いようだ。辺りの黄葉した草紅葉は今が盛りだ。
 賽の河原を過ぎるとそこは室堂平の一角、草紅葉と散在するウラジロナナカマドの橙色のコントラストがよい。室堂平ではこの辺りが最も観賞に値する場所だと思う。写真家が別山をバックに紅黄葉の一葉をものにするのもこの辺り、この日も1名いた。ここから室堂までは600mばかり、草紅葉の中ではハクサンフウロの濃い紅色が印象的だ。小潅木のクロウスゴも多く、こちらは紫色がかった紅色が地を染めている。しかし主役のウラジロナナカマドは橙色が冴えない。しかも先月中旬にはまだ元気だった葉が、一部丸まっていて、強い風のせいなのか、あるいは気温のせいなのか、とにかく一部が茶色がかっている。この傾向は室堂に近づくにつれ、一層酷くなるような印象を受けた。
 室堂のビジターセンター前は登山者で溢れかえっていた。今日一日は天気が保証されていることもあってのこと、団体さんも3組くらいいる。女性が6割くらい、中年もいるが、若いいわゆる山ガールが多い。時間は11時、食事してから御前峰を往復する。雲が湧いてきて、頂上からの視界は効かないが、頂上も人、人、人の賑わい、何人もからシャッター押しを頼まれる。「白山頂上」の碑が立っている場所が空くことがない繁盛ぶり、こんな場面には久しぶりに出くわした。室堂へ戻ったのが12時半過ぎ、平瀬から登った人の9割以上の人は日帰りで、登ってきた道を下って行く。私が登っているときに尋ねた老若男女、一人を除いて皆さん日帰りだった。それも泊まるとすれば室堂泊まりが普通、私のように南竜山荘に泊まる人は皆無である。何故なら翌日の帰りには、賽の河原までの400mの登り返しがあるからである。
 室堂からトンビ岩経由で南竜山荘へ、この道は古い美濃禅定道そのもの、途中石畳の部分が残っている部分がある。昨年このルートが一部改修され、半月前はここを登ったが、以前から見れば随分良くなった。でも下りとなるとエコールートに比べ、距離は短いが、下りに要する時間は長い。8月末の閉山祭の折、お下がりの御神酒の一升瓶を頂いた南竜山荘の主任さんに下りはトンビからですかと聞いたら、エコーからと言われたのを思い出した。岩の角に当てて割らしたのでは様にならないからなのだろう。上りは構わないようだ。下る途中に母娘の一組に出会った。南竜泊まりですかと聞くと、この後砂防を下るのだとか、元気だ。
 トンビ岩から下るこの斜面は、室堂辺りから比べるとウラジロナナカマドの傷みが随分と少ない。先月の泊りでは、南竜ヶ馬場の紅黄葉は10月初旬が身頃ですとのことだったが、少し早いものの、見頃に近い風情、黄色い草紅葉と相まって、あちこちにある橙色のスポットが映える。この前は泊り客9人だったが、今日は37人とか、奈良から16人の団体さんが入っていた。年を通じても、平瀬へ下る人で、ここに泊まる人は極めて少ないだろう。夕食は5時、朝食は6時と言われる。今晩はスタッフが5人ばかり多いので、今日は土曜だからとだと思っていたら、最盛期にバイトでいたスタッフが応援?に来たのだとか、殊勝な連中だ。彼らは朝早くほとんど空身で下って行った。愉快な気のおけない連中だった。夕食をはさんでビールと神の河、7時頃には眠たくなり、消灯前に寝てしまった。明日の天気予報は曇り後雨、夜起きて外へ出たが、星は全く見えずガスっていた。
 翌朝4時半には団体さんが出発した。朝食のお膳は12人分しかなかったから、大部分の人が朝暗いうちに出かけたことになる。その人たちは皆さん夕方別当出合から来ていて、朝早く室堂へ向かって発って行った。私も食事を済ませて7時に山荘を出た。オバちゃんが「今年はもう会えないね」と言うから、天気が好かったら16日(山荘はこの日で閉鎖)に来ますと言ったが、天気次第だ。もう半月後となると、紅黄葉も終わりに近いだろう。この時間に展望歩道を歩く人は皆無、もっともガスで視界は20mばかり、何も見えない。ホシガラスがよく鳴いている。賽の河原まで1時間、もっとかかると思っていたが、私もまだ捨てたものではないなと思った次第。ここからは1200mの下り、下り始めて間もなく3人の若者、下を5時頃に出たのだろう。私が大白川の登山口に下りるまで30人ばかりの登山者に出会った。今日も午後から雨模様、明日も雨なのにと思う。下りには2時間半を要した。もっと時間を要するかと思ったが、どうやら標準タイムのようだ。
 今年の平瀬道は、下部はまだこれから、中間部はこれからそろそろ始まる様相、上部は始まってはいるが、草紅葉はよいとして、肝心要のウラジロナナカマドの葉が縮れて丸まっていて橙葉を期待できない。またタカネナナカマドも紅葉は始まってはいるものの、何か色が冴えない様相、あの鮮烈な紅葉は期待できそうにない。後は中間部と下部のブナとカエデ、黄葉を期待したいがどうなるだろうか。
 

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