2010年10月20日水曜日

信州探蕎:屯(飯田市)と黒耀(長和町)

 探蕎会の平成22年秋の探蕎は、久保副会長の企画で、長野県南部の飯田市にある「屯」(たむろ)と中部の小県郡長和町の「とく田」となった。経緯はともかく、南信の飯田市へ行くのは初めてで、企画を聞いたときは、随分遠いところへという印象が先に立った。一度木曽の「時香忘」へ行くのに、中央自動車道を岐阜県の中津川ICで下りて、木曽路を北上したことがあるが、今度も中央自動車道経由でということになった。もっとも岐阜県と長野県の境にある恵那山トンネルを抜ければ、そこはもう飯田の里ということになるから、驚くに当たらないかも知れない。そこから今宵の宿となる中信の別所温泉へは、中央自動車道を北上、さらに長野自動車道を北上、そして上信越自動車道を東進して入ることになる。翌日出かける「とく田」は美ヶ原高原の東南の縁、別所温泉の南に位置している場所、でも直には行けないから、東からか、もしくは西から回り込まなければならない。ただこのそば屋は春に行く予定になっていてボツになった経緯もあって、ぜひ行きたいと思っていたそば屋だ。
 
○工房「屯」(たむろ)(飯田市大瀬木 1948-12)
 そばと家庭料理を標榜する工房「屯」は、飯田市の西に広がる台地の中腹にある。中央自動車道の飯田ICで下りて、国道153号線を南下し、大瀬木交差点の一つ手前の交差点を右折して西に向かって台地を登って行くと、右に見えてくる。標高は700m、「屯」は二階建てのどこか外国の山小屋という感じの建物で、息子さんの設計とか。店の前には5,6台の車が止められる未舗装のスペースがある。私は直感的に、雰囲気としては福井三国の「小六庵」に似てるなあと思った。どちらも高台にあり、「小六庵」からは海が見えるが、「屯」からは飯田盆地を挟んで、東には南アルプスが屏風のように連なっているのが見える。実に素晴らしい環境である。着いたのは開店少し前、付近を散策する。天気は上々、汗ばむほどだ。山々を飽かず眺める。南アルプスは北半分の山々が見えている。南半分の山々は手前の伊那山地に隠れて見ることはできない。左手の北から順に、仙丈ヶ岳(3033m)、北岳(3193m)、間ノ岳(3189m)、農鳥岳(3026m)、塩見岳(3052m)、小河内岳(2802m)が見えている。
 開店時間の11時30分少し前に店に招じ入れられる。7人が大きな長いテーブルに陣取る。既に久保さんは「屯コース」(1,650円)を予約してあった。お酒は瓶詰めの地酒の冷やを貰う。この店の看板は「手打ちそば」に手造りの黒豆豆腐、それに家庭料理、中でも店主の出身地の神奈川県三崎のマグロの中トロはお勧めの品とか、何とも変わった一面を持つ店ではある。コースには三崎マグロの刺し身、冷や奴、がんもどき、デザートが「ざるそば」のほかに付いてくる。この山の中でマグロとは何ぞやと思ったものだが、前住の地の拘りもあるからなのだろう。でも新鮮で実に美味しかった。何ともはやである。デザートを残してメインの「ざるそば」が出てきた。手製の白木のせいろにこんもり高く盛られた二八の細打ちのそば、きれいな手打ちだ。手繰ると蕎麦の香り、素敵な喉越しである。汁は濃くない。
 パンフには、おそばが大好きな人、夜景を楽しみたい人、ものづくりが好きな人、一人しずかにお酒を飲みたい人、音楽を愛する人・・が多く集い、出会い、くつろいで頂ける店として・・・とあった。ものづくりが好きといえば、店内のテーブルや椅子はすべて店主の自作だそうだ。

○手打ちそば処「黒耀・とく田」(小県郡長和町和田 3360-1)
 そば処「とく田」は、これまで国道142号線の旧和田村役場から県道和田美ヶ原線(178号線)をビーナスラインへ向かって行き、美ヶ原高原別荘地の手前1kmの和田野々入地区にあったが、平成21年春からは国道142号線(旧中仙道)沿いに「黒耀・とく田」として営業している。国道を通っていると大きな木を組み合わせて造られたモニュメントが見え、それに「そば処」「黒耀」と大書してあり、一目瞭然である。そして広い駐車場がある。またモニュメント下の看板には「黒耀・とく田」の文字が見える。店は大きな平屋建て切妻屋根の建物だ。開店は11時なのだが、ここでも開店前に招じ入れられた。私たちが最初の客である。中へ入ると広い「おえのま」があり、沢山のテーブル台が並んでいる。私たちは「おくのま」に入る。テーブル台に両肘掛け付きの座椅子、心地よい座りだ。ここでも久保さんは「黒耀三色盛り」を既に注文されていた。三色盛りはすべて十割の田舎・さらしな・ダッタンの盛合わせ、いろいろなそばを味わえるよう配慮された由である。それに二人に1皿のすごいボリュームの「海老と季節の野菜の天ぷら盛合わせ」も手配済みであった。そして蕎麦前には地酒の喜久水の300mlの瓶詰めの冷やを2本もらう。
 それぞれのそば一品は1,050円、三色盛りは1,575円であるから、単純には三色盛りは1.5食分ということになる。宿の朝食をお代わりして食べられた方々には量が多いと目に映ったようだ。長方形の店主自作のせいろに三つのそばが盛られて出てきた。細打ちの「田舎」は思ったより滑らか、とても十割とは思えない喉越しの良さ、食べやすく旨い。次いで純白の「さらしな」、繊細と言えばよいのだろうか、十割の水ごねでこんなに極細の打ち、ほのかな甘味を感ずる。そして「ダッタン」はと見ると、淡い紅黄色の細打ち、以前食べたダッタンそばは黄色く、しっかりした苦味を感じたが、これは色も苦味も従前のものとは違ってどちらも淡い。あの苦味と色が念頭にあった私は、咄嗟にはダッタン2割と思った。他所ではダッタンそばは3割で打つのが通常だ。でもこの店のそばはすべて十割とのこと、とすると私の知っているダッタンそばとは違うものであるらしい。
 店のパンフでは「信濃霧山ダッタンそば」とあり、地元長和町の標高800-1,400mの霧の高原で栽培したダッタンそばで、苦味が少ないのが特徴とのことだ。蕎麦にはポリフェノールのルチンが含まれていることはよく知られている。ところでルチンは毛細血管を強化し、血圧を降下させる働きがあることが知られているが、ダッタンそばにはこのルチンが通常のそばの100倍も含まれているという。ところが長和町産のダッタンそばにはこのルチンの含有量が120倍だという。加えて苦味が少なく食べやすいとのことでアピールしていて、特産品としてダッタンそばの乾麺やケーキ、クッキーも販売している。そば麺は1袋200g入り600円とか、申し分のない健康食品である。
 付:この店の名の「黒耀」は、長和町の和田峠や霧ケ峰周辺に産する黒曜石に因んで付けられたものだろう。現にそば打ちに使われている水は、すぐ近くで湧く「黒耀の水」だそうだ。黒曜石の「曜」の字は、本来は店名に使われている「耀」の字が当てられるのだが、当用漢字にはないとかで「曜」となっている由である。北海道十勝地方も産地としては有名で、北海道では「十勝石」という名で知られている。なお、大分県の姫島の黒曜石産地は天然記念物に指定されているそうだ。

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