2010年7月23日金曜日

二年振りに白山へコマクサを見に行く

 白山にコマクサが植わっていることを知ったのは10年前のことである。北國新聞に「北陸の自然発見」というシリーズがあって、これを加賀市在住の写真家、宮 誠而さんが担当していて、その第28回のテーマが「白山の高山植物」だった。そしてその表題は「人知れず咲いたコマクサ」、副題は「魅惑のピンク、がれ場に植えられ」だった。新聞は平成12年7月19日付発行で、写真では、遠くに能登半島が望める礫地にコマクサが十数株植わっていて、半数の株が花を付けている。宮さんはコマクサを目的として登山したわけではなく、高山植物を撮る目的で入山されていて、コマクサに遭遇したのは前年の3回目の登山の折だったという。丁度台風一過で能登半島が遠望できる程の澄みきった晴れの日だったとか。そして能登半島が望める地点で撮影していたときに、偶然にも足元に植わっているコマクサに出会ったという。写真で見たところ、実生もあるらしいから、植栽されたのは更に5年以上も前のことだったのではなかろうか。
 コマクサは他の植物が育たないような過酷な礫地に生育することで知られる。その秘密は根にある。栽培品はどうか知らないが、自生のコマクサは細い根が地中深くにまで入り込んでいて、地上部を養っているという。地上部は冬には枯れ、種子は親株の近くで芽吹くことになる。したがって、実生は親株から遠く離れた場所で芽吹くことはない。この写真でも親株の周辺に実生と思われる株が生えているのが伺える。見ると、コマクサは数株植栽されたらしく、その周りにはあたかもコマクサをガードするように手頃な岩を環状に巡らせてある。宮さんはこの場所が何処なのかは記していない。ただ遠くには能登半島を望める場所とあるから、感じでは御前峰のどこか一角だろうということになろうか。私も興味があって、一度は見たいものだが、まだその場所には遭遇してはいない。
 こういう火成岩の礫地は、白山は火山であるからして、あちこちに存在する。コマクサの生育環境を熟知していないと植栽できないのは当然で、私なら何処に植栽するかと逆推して選んだのが大汝峰の頂上一帯の礫地である。私が見つけたのは6箇所、1箇所に3株ばかり、周りを拳大の岩を積んで囲ってあった。初めての遭遇は5年前のことである 。しかしこの植栽されたコマクサは、私が雪倉岳や蓮華岳や燕岳で見た群生地のコマクサ比較すると、何とも貧弱で弱々しい。でも年月を経れば、逞しさが身についてくるのではないかと思い、以来毎年訪ね、観察することにしている。
 ところで白山のコマクサのことを神戸に住む畏友に話したところ、私も見たという。何処かと聞いたところ、後日地図にその場所を示して送ってくれた。場所は室堂から御前峰への登拝路から千蛇ヶ池へ行く径の左手、径からは少し離れているとか。目印は黒い岩だという。何度か注意して探して見たが、一帯は草が生い茂っている場所でもあり、開けた礫地は見えず、コマクサの植生地としては適していないような気がしてならない。
 ところで昨年は梅雨の明けるのが不明瞭なこともあって、コマクサの花期に合わせての登山はできなくて、ご対面は叶わなかった。それにひきかえ今年は7月15日には梅雨が明け、今年は是が非でもと、21日の水曜日に年休をとっての白山行となった。午前4時に家を出て、別当出合の駐車場には5時過ぎに着き、体力のことを考えて砂防新道を上ることに。昨年からみると更に足に衰えを感ずる。砂防新道に新しく作られた径は上部が特に急で、供用するに当たっては上り専用となっている。一方で、従来の別当の七曲りは下り専用となって供用されることに。下りの疲れた足には、極度に急な新道は危険が孕んでいる。ところで私はゆっくりのマイペース、若者にも女の子にも径を譲るのがしょっちゅう、情けないことになったものだ。中飯場近くで径を譲った妙齢の女の子はチタンの軽ピッケルを持っていたので印象に残ったが、飄々とした足取り、幽霊がフワフワと歩いているようで、見とれてしまった。この日の登山者は二百人台だろうか。ゆっくりゆっくりで室堂まで4時間もかかってしまった。
 食事を済ませてから、お池巡りコースを逆に辿り千蛇ヶ池に出て、そこから大汝峰に向かうことにする。大汝峰には下から見ると5人ばかりが取り付いている。岩場には赤ペンキでと登路が示されていて、初めての人でも大概上り下りすることができる。正午近く、ガスが湧いてきて視界は効かない。大汝神社にお参りしてからコマクサの植栽されている場所へ行く。前に見た一昨年には6箇所あったが、それが何故か4箇所になっていた。根の張り具合からすれば、岩の囲いが自然の力で無くなっても、根があれば株は残っていそうなものだが、それがなくなっている。またそれぞれのサークルでは、これまではそれまでに植栽された3株に加えて実生もあり、繁殖しているという印象を強くしてきたが、今年はというと、1株を除いて花の数も少なく、かつ株も小さくなっている印象が強い。このことは、礫地なら何処でもということではなく、相応しい場所とそうでない場所があるのではと思いたくなる。観察し終わって立っていると、件のあの軽ピッケルを持った彼女がいるではないか。彼女に今朝会いましたねと言ったが、そうでしたかという返事。私はどうしてピッケルを持参して登るのかと思っていたと言うと、本当はヒルバオへ行きたかったのだけど、途中で引き返してきましたとのこと、あの雪渓は急で、もしお花松原まで行こうとすると、ピッケルは当然必携、安全を期すならアイゼンも要るだろう。彼女の颯爽と、しかも飄々とした歩き振りを再び垣間見ることに。彼女には4箇所のうち最も花数が多く堂々としている1株のコマクサを紹介することにした。びっくりしたような様子、白馬岳や燕岳で見たことがあるけれど、まさか白山で見られるなんてと興奮気味だった。携帯電話で何枚か撮って、誰かに転送しようとしたけれど、圏外とのことでそれは叶わなかったが、喜んでいた。そして有難うと言って飄々として去っていった。
 ガスが巻く大汝峰を後にする。先に出かけた彼女が急崖を下りてゆく姿が見えた。しかしこの後目を凝らしたが彼女は私の視界からは消えてしまった。峰を下りて私は翠ヶ池に回り、紺屋ヶ池からガラ場を御前峰へと向かう。宮さんが写した場所はこの辺りと見当をつけて探したが、今回も場所を特定することはできなかった。午後2時近くとて、山頂にいるのは十人ばかり、今から上がってくる人達は今晩宿泊の人達だろう。家内に携帯電話で連絡しようとするが、圏外でダメだった。室堂から電話することにしよう。一度は必ず電話するようにとうるさい催促なので、とにかく一度は連絡しなければ。家内と二人で山へ行っていた頃が懐かしいが、近頃は家内は歩いた後に身体が浮くとかで、それ以降は一緒に山へは登っていない。それもあってか尚更心配になるらしい。ここは彼女の意も酌まねば。
 室堂から家内の勤務する病院に電話したのが午後2時半少し前、以前は下りは2時間もあれば十分下山できたが、今は無理だろう。交通規制がある日は、最終バスの発車は午後5時、一度逃したことがあるが、今日は車を乗り入れているのでその心配はないが、膝と大腿の衰えは上りにも下りにも影響している。下りには連れになった二組の夫婦と共に下る。元気なときには考えられなかったことだ。一つには何かアクシデントがあった時などに、誰かそばにいるのとそうでないのとでは安心感が違う。この日は団体の大部隊が5組も上がってくるのに遭遇した。2組は高校生、他の組はメインがおばちゃん連、平日でも空いているとは限らないのが今の白山の現状なのか。
 下りは砂防新道を下ったのに2時間半もかかってしまった。今日の予定では観光新道を花を愛でながら下る積もりでいたが、惰弱にも砂防にしてしまった。冷たい水もあり、暑い日にはうってつけと思ったからだ。歳が歳だけに、家内の心配も酌んでやらねばと思う昨今となった。でもまだ、気が向いたらブラッと山に出かけたいという気持ちはまだ失せてはいないのは取り柄だ。

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