2010年7月13日火曜日

小布施で出会った発芽そば

 三男誠孝の満中陰の法事が終わったら、骨休みを兼ねて二人でゆっくりどこかの温泉にでも入りに行こうと家内と話していて、こんな夫婦二人だけの旅というのは新婚旅行以来ということに気付く。折角だから泊まりは2泊として、日月火とすることに。ところで場所を何処にしようかということになり、そういえば家内の姪がよく旅行をするので何処か好いところを推薦して貰えないかと相談したら、「岩の湯」が実に素晴らしかったという。では其処を先ず第一候補にしようということに。その湯は信州なので、もう一軒も信州にすることにして、それは私の希望で、いつか探蕎会で行ったことのある「二人静」にした。後者はインターネット申込みで7月4日の晩に、前者は電話申込みで翌5日の晩に泊まることに。
 月曜に泊まった仙仁温泉の「岩の湯」は北信の須坂市にあり、市内から菅平高原へと続く国道406号線沿いにある。温泉の紹介は別の機会にすることにして、翌日の火曜日には小布施の街をぶらつくことにして、宿の方に小布施でどこか蕎麦屋を紹介してくれませんかと頼んだところ、四軒ばかり地図を付けて紹介してくれた。小布施では「せきざわ」にはこれまで3回も訪れているので、家内はそれ以外のところにしようと言う。街中は駐車も大変だろうからと、国道406号線沿いの店の「鼎」という店を訪れることにした。通りから1本入った処だが比較的分かりやすい店だった。駐車場に車を止めて店へ行くと、都合により臨時休業とか、じゃ次の候補の「おぶせ」にする。この店は宿で100円引きの券をくれた店だが、地図はあるものの、街中で何となく分かりづらい。しかしぐるぐる回っている間に、目印の小布施ミュージアムに出た。車を止めて、いざとなれば入館しようと、そこの駐車場に止める。駐車場には先に1台が止まっていた。さて、これからどうしたものか。地図ではこの建物の北側に隣接するとある。
 うろうろしていると、中年の小母さんが現れ、「おぶせ」という蕎麦屋さんへ寄って下さいと勧誘された。実はそこへ行きたいのだがと言うと、この小径を下って行って左へ行くと案内板があるので、それに従って行くと見えて来ますとのこと、ところが分かりづらい。小径を辿っているともう一組のカップルがいて、何故か迷っている様子でうろうろしている。私は左へ上る小径があったのでそこを曲がるのじゃないかと思ったが、家内は猪突猛進の勢いでどんどん下がって行く。しかしこの小径はミュージアムに続く建物のところで切れてしまっている。しかしここから下の方を見ると、前方に蕎麦屋の看板が見えた。もうこうなれば見つかったも同然、草原を横断して、下の道に飛び下りた。それにしても何と分かりにくいことか。
 店の名は「手打百芸 おぶせ」、手打百芸は何かで見たことがある。看板が出ていなければ、ありふれた普通の町屋である。途中でうろうろして迷っていた一組も、目的はこの店だったらしく無事御到着になった。店に入ると2組5人がいた。土間に4人掛けテーブルが4脚、座敷にはやはり4人が座れる座机が6脚、つくばいの水音が響く落着いた店である。
 店主がお出でて、メニューの説明をされる。一番のお薦めのそばは、「御前二色そば」だと仰る。これは「発芽そば切り」と「更科そば」の盛合わせだとのこと、せっかくのお薦めなのでそれを頂くことに。店主は脱サラだとか、上田市の「おお西」の大西利光さんに師事して修行し、ここで6年前に開店したとのこと、それで初めての人にはぜひ「発芽そば」を食べてほしいとのことだった。発芽そばを見せていただく。丸抜きの蕎麦を暫く水に浸し、その後ざるに上げてならし、半日ばかり寝かすと発芽するが、この状態の蕎麦粒を石臼で搗いて餅状態にして、これに同量の石臼挽きの蕎麦粉を加えて捏ね、伸して、切るとか。一通り話を聞いた頃、10人ばかりの地元の人達が入ってきた。もっとも昼時でもあり、独りの方も2組ばかり。この店で出すそばは全部十割とのことだった。店が忙しくなって御主人一人で大丈夫なのかと思っていたら、駐車場でそばの割引券を配っていた例の小母さんが現れた。勧誘していたのは主人の相方で、客引きのためだったのか。
 始めに、突き出しとして大根の塩漬けとそのチップの揚げ物が出た。塩漬けはともかく、揚げ物とは驚いた。酒の肴には良いかも知れないが、運転がある。次いでそば汁と薬味、薬味は葱と山葵、程なくして注文の品が届いた。長方形の黒塗りのせいろに二盛り、更科の方は真っ白の細打ち、一方の発芽そばはというと淡い黄土色に淡い緑色がかった色の細打ちである。先ず発芽そばを手繰ると、箸にぬめりを感じる。普通はこのぬめりを洗いとって冷水で締めるのだが、どうもこれが発芽そばの特徴らしい。口にすると餅のようなもつもつ感、しかも普通のそばより甘味を感ずる。甘味は発芽期に発生する糖化酵素による甘味だとか。以前探蕎会で福井で発芽そばを食したことがあったが、あの時は特別に意識しなかったが、今回はその違いをはっきり意識できた。ただ切りが丁寧でないのが気になった。御前の方は心持ち発芽より細め、性質上どうしても水を含みやすく、からみやすいが、まずまずの出来、それにしても通常はつなぎが入るのに、この店のは更科の生粉打ちというから恐れ入った。しかも水捏ねだとか。技術がいるそうだ。とにかくこの二色盛りは貴重な体験となった。これで切りがきっちり揃っていたら申し分ないのだが、その分未完成の部分が残っている印象を受けた。
 玄蕎麦は信州八ヶ岳産と信濃町産とのことだが、これはどうも製粉工場で石臼挽きした粉を仕入れているような雰囲気、ただ「田舎そば」は店で手挽きした粗挽き粉をブレンドしているようだし、「挽きぐるみ」と「発芽そば切り」には、やはり丸抜きを手挽きしたものをブレンドしているような口ぶりだった。

 注1.〔発芽そば〕 丸抜きの蕎麦の粒を水に入れ、発芽促進のため夏期は30分、冬期は2時間置く。水を吸った蕎麦粒を水から上げ、笊に均一な厚みになるように敷き詰め、発芽するまで25~28℃に、夏期なら9時間、冬期なら12時間寝かせる。こうして芽が0.5~1mmにまで成長したら全体を石臼で搗くか、フードプロセッサーで餅状にする。これに元と同重量の丸抜きを石臼で挽いた蕎麦粉を加えて捏ね、その後伸して切る。(この部分が大西利光師匠考案の手打法の伝授によるらしい)。発芽期に発生する糖化酵素による甘味の増加、餅のような食感、独特のぬめりで、従来のそばの概念とは異なるものである。新芽の誕生によって、もともと蕎麦に含まれている優れた成分の増加があり、またブロックされていて使えなかった成分や新しい成分が利用できるという。その点このそばは素晴らしい健康食だといえる。なお、『発芽そば切り』は特許及び商標登録出願中だという。
 注2.〔手打百芸 おぶせ〕でのお品書き(抜粋)
〔店主お薦めそば〕
・発芽そば切りー1370円
・御前二色そばー1700円(発芽そば切りと更科そばの盛り合わせ)
〔も り〕 更科、挽きぐるみ、田舎 ー 各890円
〔お薦めのもり〕 (大盛りは全品400円加算)
・三種そばー1450円(更科、挽きぐるみ、田舎の三種類)
・二色そばー1450円(更科、四季そばの盛り合わせ)
・四季そばー1260円(この時期は「梅切り」)
・鴨南もりー1850円
〔そば団子/そばがき〕 - 各525円
・発芽そば団子(醤油と砂糖をからませています)
・発芽そばがき(わさび醤油で召し上がっていただきます)
・揚げそばがき(汁仕立てで召し上がっていただきます)
・焼きそばがき(くるみ味噌で召し上がっていただきます)
〔そば雑炊〕 - 840円  きのこ入り発芽そば雑炊
ほかに、〔あつもの〕 〔ひやもの〕 〔つまみ〕 〔のみもの〕
 注3.〔店舗データ〕 店名、住所、電話、営業時間、定休日
「手打百芸 おぶせ」 小布施町中央627-15、 ℡026-247-2847、 11-15 17-20、 木曜
 注4.〔長野県内の系列店〕 「手打百芸 おお西本店」(上田市中央) 「手打百芸 おお西別所支店」(上田市別所温泉) 「手打百芸 奈賀井」(上田市西内)
 
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