2010年3月2日火曜日

探蕎会総会での寺田会長の講演「水・三題」その2

[2] 美味しい水とは
1.美味しい水
 おいしい水とは何か。観念的には雨水や雪解け水が地中深くに浸透して、長い歳月をかけて湧き水として地表に現れてくると、その間に地中のいろんなミネラルを溶かし込み、その土地その地域に独特な味わいを持つ美味しい水が生まれることになると思う。また谷川の表流水であっても、その水源が単なる雨水や雪解け水でなく湧水であれば、やはり美味しい水と言えよう。いわゆる各地の名水とはそういう類のものだと思う。
 ところで美味しい水には共通した科学的条件があるのだろうか。寺田先生は「美味しい水研究会」がまとめた資料を基に、おいしい水の水質条件について話された。資料から転記しよう。
 水をおいしくする要素としての水質項目としては、「蒸発残留物」「硬度」「遊離炭酸」が、水の味を損なう要素としての水質項目としては、「COD」「臭気度」「残留塩素」「水温」が挙げられる。
 (1)蒸発残留物(ミネラル分):主にミネラルの含有量を示し、量が多いと苦味、渋味等が増し、適度に含まれると、こくのある、まろやかな味となる。おいしい水の要件は30~200mg/lである。
 (2)硬度(カルシウム・マグネシウム):今日本で使われている硬度の表示は、ミネラルの中では量的に多いカルシウム塩とマグネシウム塩の濃度を炭酸カルシウムの量に換算したものである。一般に硬度100未満の軟水はミネラル分が少なく淡白でくせがなく、こくがない味で、日本の水に多い。また硬度100以上の硬水はミネラル分が多く、硬くてしつこい味がするとされ、ヨーロッパの水に多い。またマグネシウムが多いと苦味が増す。おいしい水の要件は10~100mg/lで、これは軟水に該当する。
 (3)遊離炭酸(二酸化炭素):炭酸ガスが含有すると水に爽やかな味を与えるが、多いと刺激が強くなる一方で、少ないと気の抜けた味になる。おいしい水の要件は3~30mg/l。
 (4)COD(化学的酸素要求量):水中に含まれる有機物を過マンガン酸カリウムで酸化する際に消費される量を酸素量に換算したもので、BOD(生物化学的酸素要求量)とともに有機物汚濁の指標となる。多いことは汚染がひどいことを示し、水の味も不味い。また多いと塩素消費量も多くなり、水の味を損なう。おいしい水の要件は3mg/l以下。
 (5)臭気度:微量でも感じる有機物の臭いや、原水を汚染していた藻類の臭いなどの強度を示す。数値が大きいと味を悪くするだけでなく、成分によっては健康を害する。おいしい水の要件は臭気度3以下。
 (6)残留塩素:水源の水質が悪いと、塩素の投入量が増える。水にカルキ臭を与え、水の味を不味くする。おいしい水の要件は0.4mg/l以下。
 (7)水温:適温は10~15℃で、これは体温より20~25℃低い温度である。水は冷たい方が美味しく感じられる。また低いと発臭物質の揮散が減る。おいしい水の要件は20℃以下。
 (8)その他:鉄イオンやマンガンイオンが含まれると水が不味くなる。水道法に基づく基準では、鉄及びその化合物は0.3mg/l以下、マンガン及びその化合物は0.05m,g/l以下となっている。
2.水の硬度
 資料の「世界の水の硬度範囲」の表示では、軟水は硬度180未満、硬水は180以上350未満、きわめて硬水は350以上となっている。そして日本の水は概ね200以下、アメリカの水は50~350、中国の水は200~600、ヨーロッパの水は100~700に分布する。
 また資料の「世界の水ー硬度スペクトル」では、10~50未満を「軟」、50~100未満を「やや軟」、100~200未満を「やや硬」、200~1000を「硬」としている。
 表で「軟」に該当するのは、都市では日本の仙台、神戸、京都の水、米国のニューヨーク、豪州のメルボルン、シドニー、欧州のマドリッド、エディンバラの水、湖沼ではネス湖(硬度10)や琵琶湖の水、河川では信濃川、鴨川、利根川、ハドソン川、アマゾン川の水、ミネラルウォーター類では南アルプスの天然水など。
 「やや軟」には、都市では日本の大阪、東京、北欧のヘルシンキ、北米のホノルル、サンフランシスコ、ロスアンゼルス、ヒューストンの水、河川ではミシシッピー川、セントローレンス川、欧州のロアール川、アフリカの青ナイル川の水、ミネラルウォーター類ではフランスのボルビック、日本の六甲のおいしい水、神戸ウォーターなど。
 「やや硬」には、都市では北米のワシントン、シカゴ、セントルイス、トロント、豪州のブリスベン、北欧のストックホルム、東欧のブカレスト、エジプトのカイロ、インドのニューデリーの水、湖沼ではレマン湖、河川では中国の長江、黄河、アフリカのナイル川、欧州のライン川、ドナウ川、セーヌ川の水、伏流水では灘の宮水など。
 「硬」には、都市では中国の北京、欧州のアムステルダム、コペンハーゲン、パリ、ロンドン、グラナダ、ミラノ、ソレント、マジョルカ、ミュンヘン、米国のラスベガスの水、河川では米国のコロラド川、中東のヨルダン川の水、ミネラルウォーター類ではフランスのエビアン、ベリエ、ヴィッテルなどが該当する。
 ちなみにWHOの基準では、軟水は0~60未満、中程度の硬水(中硬水)は60~120未満、硬水は120~180未満、非常な硬水は180以上となっている。
 日本酒の仕込み水に軟水を用いると、甘口で口当たりがやわらかな酒ができ、伏見の御香水などがそうである。一方硬水を仕込み水に使うと、辛口ですっきりした酒に仕上がる。灘の宮水などがそうである。またビールの仕込では、一般に淡色ビールには軟水を、黒ビールには硬水を用いるという。
3.農水省品質表示ガイドラインによる容器入り飲料水の分類
 現在市販されているペットボトル入りミネラルウォーター類は、地下水などのうち飲用適の水を容器に詰めたもので、ガイドラインでは次の3種に分けられる。
 ①ナチュラルウォーター:特定の水源から採った地下水(深井戸など)を、沈殿、ろ過、加熱殺菌以外の物理的・化学的処理を行わずにボトリングした水で、ミネラル含有量の規定はない。
 ②ナチュラルミネラルウォーター:前記①のうち、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム等のミネラルが溶け込んだ地下水、すなわち鉱化された地下水(地表から浸透し、地下を移動中または地下に滞留中に地層中の無機塩類を溶解した地下水で、天然の二酸化炭素が溶解し、発泡性を有する地下水も含む)を原水としたもの。
 ③ミネラルウォーター:②を原水とし、品質を安定させる目的などのため、ミネラル調整、ばっ気、紫外線・オゾン殺菌のほか、複数の水源から採水された②の混合などが行われているもの。
 ④ボトルドウォーター・飲用水:原水が地下水でない(前記①~③以外の)飲用可能な水で、飲用水の基準を満たしている水道水、河川水、純水、蒸留水などで、ミネラル含有量表示の規定はない。
4.生活排水による水質汚濁
 水の汚れの最大の原因は、台所、風呂、洗濯、洗面、掃除雑用等から排出される「生活雑排水」である。この資料に記載されている「生活排水」とは、「生活雑排水」と「し尿排水(水洗)」を併せたものである。まずBODについてみる。BODとは、水中の有機物などの量を、その酸化分解のために微生物が必要とする酸素の量で表したもので、特定の物質を示すものではない。通常mg/lで表示される。一般にBODの値が大きいほど、その水質は悪い。
 「生活雑排水」Aと「し尿排水(水洗)」Bの別に、BODについてみてみると、原単位=負荷量(g/人・日)は、Aが27、Bが13、1人1日の汚水量は、Aが150ℓ、Bが50ℓで、水質=濃度は、Aが180mg/l、Bが260mg/lとなる。生活雑排水とし尿排水との水質汚濁負荷の比は約2:1で、生活雑排水での比は、台所4:風呂2:洗濯1である。合計した負荷量は1人1日当たり40g、汚水量は1人1日当たり200ℓで、平均した濃度は200mg/lとなる。このように平均化した濃度を他の項目についてみると、COD(化学的酸素要求量)は90mg/l、SS(浮遊物質)は175mg/l、T-N(総窒素)は36.5mg/l、T-P(総リン)は4mg/l、MBAS(メチレンブルー活性物質:水中の陰イオン界面活性剤濃度)は13mg/lとなる。
 私達は平均して毎日台所から1人当たりBODで180mg/l濃度の雑排水を100ℓ 流しているが、その元凶が調理廃液である。中でも高いのは古い食油でBODの値は1,400,000~1,670,ooomg/lと非常に高い。ほかにも、おでんの煮汁が74,000~95,000、味噌汁が37,000、ラーメンの汁が24,000~26,000、スパゲッティのゆで汁が5,400、米のとぎ汁が2,400~3,000、うどん・そばのゆで汁が1,030である。同様に台所からは1日1人当たり495mg/lのT-N、114mg/lのT-Pを排出している。T-Nで高いのはおでんの煮汁の4,200mg/l、台所用洗剤の3,200、古い食油の1,400、ラーメンの汁の1,100~1,180、米のとぎ汁は29と少ない。T-Pでは古い食油が30~3,000mg/l、おでんの煮汁970、ラーメンの汁280、米のとぎ汁は7.8と低い。
 同様なことを各種食品でみてみると、BOD(mg/l)で高いものとしてはマヨネーズ1,290,000、ドレッシング660,000、ソース240,000、醤油220,000、日本酒188,000~200,000、ウィスキー160,000、ワイン150,000、缶コーヒー116,000などである。T-N(mg/l)で高いのは醤油25,000、牛乳4,900、マヨネーズ4,400、缶コーヒー2,400、ドレッシング1,500、ソース1,200など、T-P(mg/l)で高いのは醤油3,900、牛乳1,340、マヨネーズ870である。

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