2010年2月25日木曜日

平成22年探蕎会総会の講演は寺田会長の「水・三題」

 昨年暮れの世話人会で、総会の日時や議事は決まったものの、例年行う講演をどうするのかは決まっていなかった。しないのも一法だが、その席で寺田喜久雄会長が私がやりましょうという鶴の一声で講演者は決まってしまった。どんな演題なのかはお聞きしなかったが、後日「水・三題」だということを伺った。先生の御専門は講演で水に含まれる微量元素の検出と伺ったが、それもさることながら、県でもその関係の委員会を主宰されていたこともあり、話題は豊富だろうと期待して拝聴することにした。総会の当日は念入りな資料も用意され、時間は40分ばかりだったが、大変格調の高い、でも大変平易な説明をいただき感激した。身近な水が話題とあって、随分質問も多く、こんなに盛り上がったのは初めてだった。その時の状況をなんとか記事にしたいと書き出したものの、資料のみでは到底当日を再現できず、少しは参考書も参照した。メモは取らなかったわけではないのだが、聞かなかった人に伝達するには余りにも貧弱、でも私なりにまとめてみたいと思ったのは確かだ。事務局長は講演総てを録音されているので、それを起こせば講演録になるのだが、ここでは私なりに記してみた。でも専門ではないので、間違い勘違いはあるだろうから、それはまた後日直して正そうと思う。演題にある「水・三題」というのは、[1]水は地球の気候を温暖に保つ [2]美味しい水とは [3]資源としての水 の3テーマのことである。ここではとりあえず[1]について記してみようと思う。話は逸れるが、先生の講演を聴いて「共有結合」を実にすんなりと理解できたのは収穫だった。大学で習ったときにはよく理解できなかったのにである。教え方の妙というべきか。
 [1] 水は地球の気候を温暖に保つ
(1)水の特性は水素結合によって生ずる
 水の構造:水がエッチツーオーということぐらい、小学生でも知っていそうだ。水の分子は2つの水素原子と1つの酸素原子とから成っている。先生は水の分子の模型を使われて説明された。ところでこの水の分子では、酸素側の電子6個に2個の水素側の電子2個がお互い両原子の最外殻の軌道内に電子を共有している。ということは、酸素原子は最外殻に酸素側の電子6個と水素側の電子2個で充足され、2個の水素原子は自前の電子1個と酸素側の電子1個で充足され、電子を共有する共有結合で結ばれている。このときの H-O-H の角度は 104.5° であるそうだ。そうすると、水素の電子は酸素の方に引き寄せられた形になり、酸素側が負の電荷を帯びてくる一方で、逆に水素側は電子を奪われた形となり、正の電荷を帯びてくる。これが水の極性(双極子)で、Oの方はーに、Hの方は+に荷電しているので、水分子は5~6個がお互いに水素結合により連結して、小さな水の分子集団(クラスター)を形成している。ただこのクラスターは長時間安定しているものではなく、動的なもので、その寿命は極めて短い。ということは、一度形成されてもすぐ別の高次構造に変わってしまう。またこの水の極性は他の物質に比べて非常に多くの物質を溶かしやすく、無機物はイオンの形になれば水に溶解するし、極性を持たない糖類も溶かしてしまう。
 水の状態:水は1気圧の下では、融点(氷点)は0℃、沸点は100℃である。そして圧力と温度の条件により、水(液体)、水蒸気(気体)、氷(気体)となる。氷に圧力をかけると融けるが、これは水の特性として知られている。氷上での滑走がその例である。個体の氷では水分子がお互いに水素結合でがっちり結合した結晶構造をとっていて、それぞれの分子が自由に動き回れない。液体の水では水素結合でクラスターを形成し、氷ほどではないが互いに束縛しあった動きをしている。一方気体の水蒸気では、分子が完全に1個1個バラバラで自由に動き回っている。ところで三重点(0.01℃で圧力が0.06気圧)では、水と氷と水蒸気が共存できる。またこの点以下の温度・圧力では液体の水は存在することができず、この条件では氷が直接水蒸気になる昇華が起きる一方で、水蒸気が直接氷として凝結する。
 水の性質:水は蒸発しにくく、凍結しにくく、温めるには大きな熱量を必要とするが、一旦温まると冷めにくく、またよく熱を伝える。また水は熱を出し入れする。濡れた体に風が当たると水が気化(蒸発)する際に熱が奪われることはよく経験することである。逆に水蒸気を凝縮(冷却)して水にするときは、逆に物を温めることになり、熱を出すことになる。すなわち水は蒸発熱(凝縮熱)が大きく、沸点にある液体1kgをすべて気体にするのに要する熱量(kcal)は、水539に対し、アンモニア327、エタノール200、メタン124と水の方が断然大きい。また水は凍りにくく、氷は融けにくい。スケートリンクでリンクを凍結させる折には副産物として大量の温水が出ることは目にすることで、凍結には熱が派生する。また氷を融解して水にするには、外から熱を奪って温める必要がある。水は融解熱(凝固熱)が大きく、融点にある固体1kgをすべて液体にするのに要する熱量(kcal)は、水80に対して、ナフタレン35、鉄64と、水の方が大きい。また水は比熱容量が大きく、水の比熱が1.0cal/g℃なのに対し、鉄は0.10、銅0.09、砂0.19、木材0.30と水より小さい。
(2)水には最大密度がある
 自然界の多くの物質は、液体から固体に移り変わることによって密度が大きくなる。しかし水の場合は固体の氷よりも液体の水の方が密度が大きいという変わった性質をもっている。水は凍ると膨張し、容積は9%、約1.1倍増加する。その氷の密度は0.9168g/立方cmである。ところで通常の液体は温度が上昇すると気体と同じように膨張して軽くなるが、水の場合は4℃(正確には3.98℃)で最も重く、最大密度0.9998g/立方cmとなる。したがって氷を水に浮かべると、水上に1、水面下に10の形で浮く。このようにして約4℃の水が最も重いので、淡水の池や湖では、表面の水は約4℃にまで冷やされるにつれて密度が大きくなり底の方に沈み、底の温かい水が表面に上がってくる。そこで再び冷やされ底に沈んでいく。これが繰り返されるとやがて水全体が約4℃になる。ここで表面の水が更に冷やされて4℃以下になると、その密度は4℃の水より逆に小さくなり、もはや沈まないで凍ることになる。水の表面をカバーした氷の密度は4℃の水より小さいので水上に浮かび、どんどん熱を放出してくれるので、内部はいつまでも液体の水の状態が保たれる。もしこれが逆で氷の方が4℃の水より重いと、逆に底の方から凍ることになるが、現実には水は氷の蓋で保護されている。
 次に温帯湖の夏季における水温と溶存酸素の鉛直分布をみてみる。深さ約30mの湖は水深5mまでは表水層といい、水温も溶存酸素も表層と同じである。ところが5~13mの水温躍層では、溶存酸素も水温も次第に減衰し、水深20mでは溶存酸素は0となる。また水温は水深13mより深い深水層では最も重い4℃の水で占められることになる。
(3)海水の大循環
 海の主に中深層(数百m以深)で起きている地球規模の海水の大循環で、この密度の高い冷たい深層の流れはブロッカーのコンベア・ベルトと呼ばれている。北太平洋から北米大陸に沿って南下し中部太平洋を西進し、インド洋を横断し、大西洋を北上してメキシコ湾流となり、東進し北上した暖かい表層の流れは、グリーンランド沖で海水の沈み込みがスタートする。これは北大西洋深層水といわれる。この深層水は大西洋を南下し、主流はインド洋南部を南極大陸に沿って東進するが、一部はインド洋北部で湧き上がり、インド洋を西進する暖かい表層の流れに合流する。主流は太平洋に入って西部を北上し、太平洋北部で表層に湧き上がる。この深層水は海洋学上でいう深層水で、大洋の深層に分布する海水のことで、北大西洋グリーンランド沖で形成され、凡そ2千年をかけて世界の海洋を移動していて、千年単位の地球の気候にも重要な関わりをもっている。この深層水がグリーンランド沖で沈み込んだ後、四国沖に届くまでの年数を、有孔虫の殻(星砂)の成分の炭酸カルシウムで炭素の同位元素による年代測定で測ると、現在は到達に1800年を要していることが分かる。また氷期だった2.5万年前では2500年かかったと推測されている。
 これとは別に産業利用上の海洋深層水は、その分布や出自を問わず、深度200m以深の海水を一括りにしたもので、そうすると海水の95%が海洋深層水ということになる。これら海洋深層水は表層水とは異なった性質をもっていて、その特性は「清浄性」「無機塩類が豊富」「低温安定性」といわれる。「清浄性」とは、排水で汚染された河川水の影響を受けないので、化学物質による汚染がなく、また太陽光が届かないため、プランクトン等が発育せず、有害な雑菌等も表層水の1000分の1以下と少ないことを指す。「無機塩類が豊富」とは、表層水に比べて植物プランクトンの成長に必要な無機塩類が豊富であることで、これは海洋深層水では植物プランクトンが少ないために、表層から沈降してくる無数の死骸が分解されて生じた無機栄養塩類が消費されずに残っているためによる。「低温安定性」とは、水温をはじめ、含まれる成分が年間を通じて一定であり、水質が安定していることを指す。そして海洋深層水は表層水との混合が行われない限り、溶存酸素量は極めて少ない。ところが日本海で採取される深層水(日本海固有水)は太平洋側の海洋深層水とは成り立ちが異なり、溶存酸素量は表層水とほとんど同じであるのが特徴である。また深層水が特定の海域で表層へ上昇する(湧昇)ことがあるが、その場所では深層水の豊富な無機栄養塩類によりプランクトンが多く発生するため、非常に生産性の高い海域となり、好漁場となる。同じ発想で、海洋深層水を利用した魚介類の養殖も行われている。
(4)海水のデータ
 塩分濃度は ~34.7(g/l)、約3.5%。 ちなみに生体のそれは 約0.9%である。
 密度は 0℃で 1.028、20℃で 1.025。
 凝固点は -1.91℃。
 塩分の構成成分 塩化ナトリウム 77.9%、 塩化マグネシウム 9.6%、
             硫酸マグネシウム 6.1% 、 硫酸カルシウム 4.0% 、
             塩化カリウム 2.1%、   その他 0.3%

[挿話1] 寺田先生が水の分子の説明の折に、陽子と中性子を引き合いにして、湯川秀樹が中間子理論の提唱で昭和24年(1949)に日本人初のノーベル賞(物理学)を受賞されたことに触れられ、当時出生した子にヨウコなる名前がよく付けられたという話をされた。 2010.2.11
[挿話2] 2010.2.20 の天声人語の一文を引用しよう。 《氷がとけたら何になる? テストである子が「水になる」ではなく「春になる」と答えたという話を、先ごろの小欄で書いた。伝聞だったので「虚実はおいて」と断ったら、子ども時代を札幌で過ごしたという60代の女性から便りをいただいた。セピア色をした「りかのてすと」のカラーコピーが入っていた。「ゆきはとけたらなにになる」の問いに「つちがでてはるになります」と鉛筆で書かれている。残念ながらバツをもらい、全体の点数は85点。お母さんが取り置いていたのを、遺品の中から見つけたそうだ。(以下略) 》
 理科のテストの答案だから正答ではないが、私なら三重丸を付けたろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿