2009年9月1日火曜日

東北の秘湯:八幡平周辺の温泉

 八幡平は深田久弥日本百名山に入っていて、秋田と岩手に跨っている。標高は1613mで、頂上らしきものはなく、山頂と思しき場所に展望台が建てられている。ここには「八幡平頂上」というバス停や見返峠駐車場があり、標高は1541mで、岩手・秋田の県境、八幡平アスピーテラインと八幡平樹海ラインの交差点でもある。ここから八幡平の山頂までは1.3kmの距離である。一帯はなだらかな高原状で、地塘が散在している。この地域一帯は、昭和31年に八幡平、秋田駒ヶ岳(二百名山)、岩手山(百名山)の特別区域を含む八幡平地域が、十和田国立公園に追加指定され、十和田八幡平国立公園となった。またこの八幡平一帯には多くの温泉が点在していて、新玉川温泉への湯治の際には探訪することにしている。マイカーでなく路線バスを利用するので、1日に1湯しか巡れないから1年に1湯、3年かけてようやく3湯をゲットした。いずれも秘湯というのに相応しい温泉で、みな個性があって面白い。
1.後生掛(ごしょがけ)温泉 (秋田県鹿角市八幡平熊沢国有林内後生掛)                                
 後生掛温泉の場所は、玉川温泉との間にある焼山を挟んで丁度反対側に位置している。玉川温泉からは向かいの焼山へ登り、毛せん峠を経て行く登山道があり、歩いて5時間ほどで着ける。路線バスだと、焼山を大きく迂回して行くことになる。新玉川温泉からは八幡平頂上行きのバスに乗り、八幡平アスピーテラインのバス停「後生掛温泉」で降り、300mばかりの緩い坂道を下ると温泉宿に達する。右手に大きな湯治棟、左手に旅館棟がある。ここは標高1000mばかり、ここからは奥へ後生掛自然研究路という約2km/約40分のコースが延びていて、いろんな火山現象を見ることができるので、巡るとよい。
 舗装された道を暫く歩くと、右手川原に大きな熱湯が噴出している場所があって、「オナメ(妾)」だという。またその隣りには激しく水蒸気が噴出している「モトメ(本妻)」という場所があり、この温泉の名称の謂われとなっている。さらに進むと「紺屋地獄」があり、煮えたぎった黒青色の泥湯が溜まっている池が、そして次には「小坊主地獄」と呼ばれる、泥湯が泡立つ「マッドポッド」の光景が見られる。そして更に進むと、およそ1haはあるという大湯沼が現れ、展望台まで登るとこの沼の全貌を見ることができる。ここで左折して沢に沿った道を行くと、「中坊主地獄」と呼ばれる強酸性の湯が湧き出ている場所がある。さらに進むと、「泥火山」といって、水分を多量に含む粘土が火山が噴火しているように噴き上がっている泥池に達する。そして噴気孔、正に火山活動を間近に見ることができるコースである。途中の売店で、ここでしかないという黒いゆで卵を求めたが、後で宿へ帰ってから開けて見ると、色はかなり薄れていて、何か狐にばかされたような感じがした。
 入湯料400円を払って湯屋に入る。ここのお湯は、正に今見てきた泥湯そのもの、大きな箱型に入った泥湯に身を沈めると、何とも奇妙な感じである。泥は極めて肌理が細かく、身にまつわりついてくる。泥湯は裏の泥湯池から引いてくるとか、出るときはなるべく泥を落として上がって下さいとある。箱から出て、残りの泥を滝湯で流してから大浴場に入る。女性は美容のため、顔を含め体全体に塗布するとか。またここにはオンドル棟もあって、年中地熱で床が温まっていて、リウマチや神経痛の湯治に使われているという。
 湯から上がって食事をして、帰りのバスの時間を見計らって温泉を出る。バス停までは300mばかりの上り、急ぐと息が切れる。バス停に着くと、左手に大沼が見え、湖畔に大沼温泉が、ここにもバス停がある。また目を右に転ずると、八幡平温泉が見える。
2.蒸(ふけ)ノ湯温泉 (秋田県鹿角市八幡平熊沢国有林内蒸ノ湯)
 後生掛温泉から八幡平頂上へ向かって、バスでアスピーテラインを標高で200mばかり登ったところに「大深温泉」のバス停があるが、そこから急な枝道をおよそ100mばかりクネクネと下ると、そこに「ふけの湯」のバス停がある。途中にスキーのリフトがあったが、今は使われていない。以前にはもっと高いところまでリフトが延びていて、蒸ノ湯まで滑り込んだというが、今はリフトは残骸となっている。バス停からさらに徒歩で下ると蒸ノ湯がある。木造の校舎のような建物で、玄関を入ると正面に「ふけの湯神社」が鎮座していて、左右に大きな一対の「金勢(精)さま」があり、その間には沢山の金勢さまが所狭しと並べられている。何でも此処の湯は「子宝の湯」として知られていて、子宝が授かった湯治客がお礼に金勢さまを奉納するのだとか。建物の中にも内湯があるが、はるか向こうに湯煙が上がっている大きな露天風呂が見えていて、そこへ入ることに。入湯料500円を払い、荷物を預け、露天風呂へ向かう。大きなヒバの浴槽が2つ、聞くと、元はこの場所に建物があったが、土砂崩れで倒壊し、建物は現在地に移したが、浴槽はそのままにして露天風呂として使っているとかである。浴槽の周りにはスノコが敷かれていて、湯から上がったらそこで寛ぐこともでき、ここでビールを飲んだら最高だろうなと話す。でも本館とはかなり離れていて、それは叶わない。湯量は大変多く、掛け流しである。ここは標高1100m、見上げると、一帯はブナやダケカンバの緑一色、何でもマイナスイオンの含有量が日本で最大とか、ともかく実に素晴らしい環境である。お湯は淡い乳白色をしていて、目にも優しい。上がって本館に戻り、食堂で地ビールと地酒を飲み、山菜そばを食べる。
 ここは「日本秘湯を守る会」の一員。営業は4月中旬から11月上旬まで、冬季は休業となる。
3.藤七温泉「彩雲荘」 (岩手県八幡平市松尾寄木北の又)
 バス停「八幡平頂上」にある八幡平パークサービスセンターから南に目を向けると、下に藤七温泉「彩雲荘」の赤い屋根が見える。いつかは一度行きたいと思っていた温泉だ。この日は新玉川温泉からバスで終点の八幡平頂上まで上り、頂上のバス停まで藤七温泉のマイクロバスで迎えに来てくれるように予めお願いしておいた。昨年は都合で送迎して貰えず、行けなかった。もっとも車道を歩いても約2kmと150mばかりの下りだが、帰りはその逆で大変である。藤七温泉からは、天気が好ければ、岩手山や秋田駒ケ岳、それに八幡平の南半分を独り占めしたように眺めることができる。何でも東北では最も高所にある温泉とか、標高は1400mである。従って営業は4月末日から10月末日までで、冬季は休業である。
 宿は二階建ての木造、冬は雪に閉じ込められる山の宿とて、立派なものではない。しかし、ここの露天風呂は実に素晴らしい。混浴の露天風呂は5箇所、それに女性用が1箇所、本館には内湯に続く外湯が男女各1つ、私達は玄関右手の露天風呂群へ出かける。日帰り入湯は600円、木戸を通って脱衣場から露天風呂へ、一番目の露天風呂には夫婦の先客がいた。乳白色のお湯は湯温を調節してある。暫く間があってから、ご婦人が一番上の露天風呂に行ってごらんなさいと。何でもその風呂では湯床からブクブクと気泡が出ていて、ジャグジーみたいな感じで気持ちがいいですよと教えてくれた。早速50mばかり先にある風呂へ坂を登っていく。その露天風呂はそんなに大きくはないが、入ると底からそんなに激しくはないものの、しょっちゅう気泡がそこここから出ている。こんな経験は初めてだ。どうもこの一番上の露天風呂のみが特に激しいらしい。一番高みにあるので、露天風呂全体を見下ろすことができ、実によい眺めである。順に下の風呂へと入りながら下る。風呂の泉質は少しずつ違うような印象を受ける。一番下の右手に簾で囲って大きく「女」と書かれた女性専用の露天風呂がある。上がって昼食にする。食事はバイキング、そばも出た。客は20人ばかり、今日は天気がよくなく、ガスがかかっている。少憩の後、マイクロバスで八幡平頂上のバス停まで送ってもらう。天気が良かったら最高だったろうに。聞けば、この湯も「日本秘湯を守る会」のメンバーだった。

 以下に、温泉巡りをした三湯の[泉質]と[適応症]を挙げる。
1.後生掛温泉。[泉質]酸性単純硫黄泉。[適応症]神経痛、リウマチ、喘息、冷え性、婦人病、血行障害など。[泉温]94℃。
2.蒸ノ湯温泉。[泉質]単純酸性泉・低張性酸性高温泉。[適応症]神経痛、リウマチ、婦人病など。「子宝の湯」として知られる。[泉温]96~98℃。
3.藤七温泉。[泉質]単純硫黄泉。[適応症]神経痛、慢性消化器病、糖尿病、皮膚病、動脈硬化症、婦人病、冷え性など。[泉温]91℃。

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