2016年4月22日金曜日

久々に興奮した OEK 定期公演

 オーケストラ・アンサンブル金沢 (OEK) は金沢駅前にある石川県立音楽堂で年に14回の定期公演を行なっている。内訳はフィルハーモニー・シリーズが全8回、マイスター・シリーズが全5回、その外にファンタスティック・オーケストラコンサートというジャンルを超えた音楽を楽しむ企画が全4回ある。私がここで紹介するのは4月16日にあった第375回定期公演のマイスター・シリーズである。このシリーズは年毎にテーマを掲げていて、このシーズンのテーマは「ショパンと友人たち」で、5回ともショパンのオーケストラ作品が入っている。今回はその第3弾で、指揮者は現在 NHK 交響楽団正指揮者の尾高忠明さん、ピアノ奏者は江口玲(あきら) さんだった。現在 OEK の常任の奏者は35名、でも今回の演奏には指揮者の意向で27名の客演奏者を加え、総勢62名での演奏だった。
 今回のショパンの友人たちは、同じ19世紀生まれで1歳年下のリストと、ショパンと同じポーランド生まれで、百年後の20世紀生まれのパヌフニクとルトスワフスキである。
 冒頭にパヌフニクの「カティンの墓碑銘」とルトスワフスキの「小組曲」が演奏された。初めて聴く前衛的な現代曲、共に独創的で力強い感じで好感が持て、楽しかった。
 次いで今日の目玉、ピアノ奏者の江口玲さんの登場、略歴を見ると、東京芸大、ジュリアード音楽院を卒業し、現在は東京とニューヨークとを行き来し、国際的な活躍を続けているとある。私にとっては初めての方だ。黒のシャツに黒のズボン、ベルトには大きなバックル、一見前衛音楽の奏者のような出で立ちでの登場、演奏する曲はショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」。そして彼が弾くピアノは、あの巨匠のホロヴィッツが東京公演で専用に使用していたというアメリカ製のスタインウェイ。ところで、この音楽堂にある2台のピアノはいずれもドイツ製のスタインウェイだという。さて演奏が始まって、出だしのフレーズを聴くと、こちらの方がやや音が優美で柔らかい感じを受けた。この曲は15分弱の演奏なのだが、華やかなオーケストラをバックに、実に絢爛たる素晴らしい技巧での演奏、特に独奏パートは華麗で力強く、それでいて優美、久々に凄い指さばきの演奏を垣間見ることができた。(ちなみに私の座席からは、演奏者の指さばきをじっくり見ることができる位置にある。)
 休憩を挟んでの後半はリストの作品、最初は「ファウスト交響曲」から第3楽章の「メフィストフェレス」、これはグロテスクな悪魔メフィストフェレスを描写した音楽、おどろおどろしい表現が出ていた。これはピアノ曲にも編曲されているがs、今日はオーケストラでの演奏だった。次いでピアノとオーケストラによる「死の舞踏:怒りの日によるパラフレーズ」、主題はグレゴリオ聖歌に由来するとされ、この主題が様々に変形されて5つの変奏が続けられ、リストならではの超絶技巧が随所に駆使されており、それを実に息も継がせずに多彩な指さばきで披露してくれたのには感心してしまった。終わっても拍手が鳴り止まなかった。素晴らしい第一級の演奏に久々に感動した。
 そして最後は同じくリストの交響詩「前奏曲」、交響詩と前奏曲、一見違うジャンルの音楽なのにどうしてなのだろうと、いつも疑問に思っていた。リストは10曲以上の交響詩を作曲しているが、オーケストラ作品に交響詩というジャンルを確立したのはリストが最初だとされている。交響曲というのは原則として特定のストーリーを持たないのに対して、交響詩は表題に即した音楽だと言う。ところでこの交響詩の表題は「前奏曲」、でもこの不思議がやっとこの日の解説と文献からその謎が解けた。
 当初この曲はフランスの詩人オートランの詩による大地、北風、海の水、空を主題とした合唱曲「四元素」の前奏曲として作曲されたが、その後の改訂に当たって、ラ=マルティーヌの詩である「瞑想録」に、「人生とは死への前奏曲である」という、つまり「死の前段階としての生」があることに着目して標題とし、その後「前奏曲」という独立した交響詩として発表されたという。
 曲は「緩ー急ー緩ー急」の切れ目のない4つの部分から構成されていて、第1部は死へと向かう人生の始まりと愛、第2部は愛の破綻と嵐、第3部は平和な田園生活への希求、第4部は戦いと勝利、という内容になっている。今回指揮者はこの曲を演奏するに当たって、弦楽器、管楽器、打楽器の数を大幅に増やし、更にハープも動員して、鮮やかで壮大な音のドラマを現出した。これには本当に感動した。今回の演奏会には、通路を挟んだ隣の席に岩先生がいらっしゃっていたが、先生も大変素晴らしかったと述懐されていた。
 今回の演奏会では、久々に素晴らしいピアノとオーケストラのコラボを堪能できた。本当に素晴らしい午後の一時だった。

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