NHKの録画報道は約45分間、始めに松井選手が約15分間、現役引退に至った経緯を話した。言葉を選びながら、ゆっくりと反芻するような口調で話した。本人は野球が大好きでプレーの意欲はあったものの、最後のシーズンも(レイズで)チャンスをもらいながら結果は振るわなかった.これまで命懸けでプレーし、力を最大限発揮するという気持ちでやってきたけれど、結果が出なくなり、本日をもってプロ野球人生に区切りをつけたいと、引退を決意した理由を話した。そして20年を振り返って、「最高に素晴らしい日々だった」とも語った。その後、およそ30分間、一問一答があった。その一部を紹介する。
● 引退を決断した時期については、野球が好きで、プレーしたい気持ちがあったのも事実だが、でもいつかはそうなるという気持ちは常にあった。でも引退に傾いたのはつい最近だった。
● 最初に引退を報告した人は、いつも一緒にいるわけですから妻です。妻からは「お疲れさま」と言われた。僕が怪我をしてから結婚したので、心配をかける時間が多かったと思う。
● 日本球界復帰への選択肢については、おそらく日本のファンが期待しているのは、10年前の勇姿だろうけれど、正直その姿に戻れる自信は強く持てなかった。
● 20年間を振り返ると、特に巨人での10年とヤンキースでの7年には特別な想いがある。巨人はふるさとのようだし、憧れていたヤンキースでは家族の一員になれた気がする。
● 一番の思い出は、長嶋監督と二人で素振りをした時間、それが一番印象に残っている。選手としての心構え、練習の取組み方、すべてを学んだ。それがその後の私の野球人生の大きな礎となり、それがこの20年間を支えてくれた。感謝してもし尽くせない。
● 今後も野球に携わっていくのかについては、日米で10年ずつプレーした経験を、いい形で伝えていければと思うが、伝えられる土台をつくる期間が必要だと感じている。
● 悔いはないのかという問いには、これまでの決断に何一つ悔いはないと答えた。
● 日米通算507本塁打については、確かに僕の魅力の一つだとは思うが、僕が常に意識したのは、チームが勝つことで、そのために努力することしか考えていなかった。
● 今の心境はと聞かれて、寂しい気持ちと、ホッとした気持ちと、非常に複雑だと。まあ引退ということになるが、自分としては引退という言葉は使いたくない。まだ(報道陣などとの)草野球の予定もあるし、まだまだプレーしたい。
● もし自分に言葉をかけるとしたらと聞かれて、これに答えるのに随分時間がかかった。よくやったとか、頑張ったとか、という気持ちはない。努力はしてきたけれども、もう少しいい選手になれたかもと結んだ。人となりなのだろうか、本当に謙虚な人だ。
● 指導者への道はと聞かれて、現時点では考えていないと。ただ、もしかしたら将来そういう縁があるかも知れない。(恩師の山下星陵名誉監督には、以前プロより星陵の監督になりたいと話していたことがあるとかという記事が地元紙に載っていた。)
● 人生にとって野球とはという問いには、そんな哲学的な考えは持っていなくて、最も愛した、最も好きなものかなと答えた。
この松井の引退発表は、私が購読している地方紙の北國新聞では1面トップに、全国紙の朝日新聞でも1面と「天声人語」に掲載された。そして内外の大勢の球界関係者から、称賛やねぎらいの言葉が寄せられた。その賛辞は最大級の実に素晴らしいものばかりだった。次に彼が尊敬する長嶋茂雄・元巨人監督の松井の引退についてのコメントを朝日新聞から引用したい。
「大好きな野球を続けたいという本心よりも、ファンの抱く松井像を優先した決断だったように思う」。
「最後の2,3年は故障と闘う毎日で、本人も辛かっただろう。2000年の日本シリーズ、2009年のワールドシリーズで、チームを優勝に導いた大きなホームランが目に浮かぶ。個人的には、2人きりで毎日続けた素振りの音が耳に残っている。これまでは飛躍を妨げないよう、あえて称賛することを控えてきたつもりだが、ユニホームを脱いだ今は『現代で最高のホームランバッターだった』という言葉を贈りたい」。
また見事に散る桜の花をこよなく愛する長嶋元監督は、「松井の会見は、桜のような見事な散り際だった」とも語った。
今、私の手元に松井秀喜のサインの色紙が2枚ある。1枚は読売ジャイアンツに在籍していた2002年の正月に書かれたもの、もう1枚はニューヨーク・ヤンキースに移籍した後の2004年正月にしたためたもので、これは泉丘高校同期で星稜高校の校長を長年していた松田外男君から頂いたものである。松井秀喜は大変律儀で、正月には必ず山下監督と松田校長のところには年賀に訪れたという。その折には何枚かの色紙にサインをしたという。ただ渡米した後は、サインには球団名は書かずに、名前と背番号55のみを記した。
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