2010年12月15日水曜日

五嶋みどりーこの素晴らしい音楽伝道大使

 11月3日の文化の日に五嶋みどりと井上・OEKとの初共演が実現した。もっともこの企画は年度始めに公表されていて、私は一度もあの天才少女にお目見えしていないこともあって、この特別公演は是が非でも聴きたいと願っていた。前売券の発売は7月1日10時、真先に申し込んだ。石川県立音楽堂のコンサートホールは1~3階を合わせて1,560席あるが、程なく完売したと聞いた。SS席でも9,000円と格安だったことも影響したのだろう。共演の演奏曲目はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲ニ長調、聴きなれた曲なのも人気の一端を担っていたのかも知れない。でもこの曲、今でこそ聴く機会が非常に多いが、この曲をアウエルに献呈したときには「演奏不能」とされた代物、代わってブロズキーに献呈され3年後に演奏されたものの、「悪臭を放つ音楽」と酷評されたという。これは4年前に作曲されたピアノ協奏曲第1番のルービンシュタイン献呈の場合と全く同じパターンだった。
 五嶋みどり(英語表記では単にMidori、これは母が離婚したからだとか)は1,971年大阪の生まれ、母の節さんはヴァイオリニスト、みどり2歳のときに母が弾いた曲を口ずさんでいるのを聴き、3歳から英才教育、6歳でデビュー、8歳のとき演奏テープをジュリアード音楽院に送って認められ、母と渡米する。11歳のとき、ズビン・メータ指揮のニューヨーク・フィルハーモニックとの演奏会で「サプライズゲスト」としてパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番第1楽章を弾きデビュー、天才少女と評された。14歳のとき、タングルウッド音楽祭でレナード・バーンシュタイン指揮でバーンシュタイン作曲の「ヴァイオリンと弦楽オーケストラのためのセレナード」の最終第5楽章を演奏中、突然E弦が切れ、コンサートマスターのストラディヴァリウスを借りて演奏したが、またもE弦が切れ、今度はアシスタント・コンサートマスターのガダニーニを借りて演奏を続け、無事演奏を終えたという。14歳の少女が弾くヴァイオリンの大きさは3/4、コンサートマスターのは4/4、これには指揮者のバーンシュタインも感動し、驚嘆と尊敬の念で彼女を抱きしめたという。このことは翌日のニューヨークタイムズの1面トップに「14歳の少女タングルウッドをヴァイオリン3挺で征服」という見出しで報じられたという。そしてこの出来事は「タングルウッドの奇跡」として語り継がれ、アメリカの小学校の教科書にも載せられたという。
 現在彼女はアメリカを拠点に、年間70回以上の演奏活動に加えて、音楽を楽しく伝える非営利団体(NPO法人)「みどり教育財団」(Midori & Friends)を立ち上げ、特に開発途上国での地域密着型の社会貢献活動に取り組んでいる。またニューヨーク大学では心理学を専攻し、修士の称号を得ている。情操教育にも熱心で、特に子供のための活動が目立つ。現在南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校の弦楽学部の主任教授であり、また日本人初の国連大使(ピースメッセンジャー)に就任し活動している。
 さて文化の日の当日、前半はOEKの演奏で、チャイコフスキーの3大バレエ組曲から7曲が抜粋されて演奏された。馴染みの曲ながら格調が高く、素晴らしい演奏だった。休憩の後みどりさんとの共演、マエストロ井上はいつものおどけた表情は見せず、心なしか少し緊張しているようだった。みどりさんは細かい水玉模様の黒っぽいガウン様の服を着ての登場、若いみどりさんのイメージからすると老けたなあという印象、マエストロはスコアなしでの演奏、だからか、みどりさんの情感豊かな優雅な旋律とOEKの格調高いハーモニーとは正に一体となっての演奏、満員の聴衆を魅了した。演奏後の二人の満足そうな表情に爽やかさを感じた。拍手が鳴り止まず、いつもはアンコール曲は弾かないといわれるみどりさんが、ショーソンのポエム(詩曲)を弾きますと言われた。この曲はショーソンの代表曲で、本来はヴァイオリンと管弦楽のための曲なのだがソロでの演奏、その繊細な音の響きに何とも言えない緊張の高ぶりを感じた。14~15分かかる曲、異例の贈りもの、本当に心から感動してしまった。万雷の拍手、素晴らしい名演奏だった。

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